十二の仕事
六月十八日、月曜日。
金目修平は、上條から届いた朝の共有を読んでいた。
今日は、最後の展開先を切り替える予定になっている。
六月十八日。
あの知らせから、一年が過ぎていた。
去年の今頃は、この先も会社を続けていけるかを考えていた。
今も一緒に働いている人と、もう会社にはいない人の顔が、少し浮かんだ。
金目は、今日の予定へ目を戻した。
一月から皆で進めてきた仕事が、最後の拠点へ届こうとしている。
まだ、渡し終えたわけではない。
『ありがとうございます。今日もお願いします』
返事を書き、送った。
*
石橋拓也は、最後に切り替える拠点の記録を開いていた。
先週までに確かめたものと、切り替える前に合わせた最後の更新。
顧客側から返ってきた結果を、対象の一覧へ戻す。
四月に先行した二拠点のあと、残る十拠点も順に移ってきた。
同じ案内で進められるところと、拠点ごとに確かめるところがあった。
今日は、その最後の展開分だった。
「こちらの分も、合っています」
石橋が伝えると、上條亮介が、担当者へ開始までの確認を返した。
黒田誠司からも、処理側を確認したと連絡が入る。
杉浦祐介が結果を残し、坂口直樹は、移した申請から元の記録をたどるところを確かめた。
担当者が、自分の画面を共有した。
金曜日に、途中まで進めていた申請がある。
内容を開き、手元の資料と見比べた。
「これ、今日、責任者に見てもらう分です」
「はい。移した未完了の対象に入っています」
石橋が答えた。
担当者は、その前に開いていた従来の表へ目を移した。
「ここから進めたら、前の表には、もう書かなくてええんですね」
「はい。今回切り替えた対象は、こちらで続きを扱います。元の表は、記録を確かめられるように残してください」
「分かりました」
担当者は、表を閉じた。
新しい方へ戻り、資料をもう一度読む。
その横で、責任者が画面を覗き込んだ。
「さっき言うてた分、これ?」
「そうです。こちらから、見てもらえます」
二人が内容を指して話し始めた。
石橋は、相手の読み終えるところを待った。
確認するものは、まだいくつか残っている。
その間に、月曜日の仕事が始まっていた。
最後の拠点との通話を終えると、上條が展開の一覧へ戻った。
先行の二つから、今日の分まで、日付が並んでいる。
「十二、入りましたね」
杉浦が言った。
画面を見てから、もう一度、上から数えた。
「はい。あとは、こちらで使っていただいた結果を合わせます」
上條が答えた。
石橋は、最後の拠点の記録へ、開始を確認した時刻を入れた。
*
二十二日、金曜日。
本部の担当者は、上條と大本が通話へ入ったとき、もう一覧を開いていた。
「すみません。先に、今日の分を見てまして」
「はい。そのまま進めていただければ」
上條が答えた。
画面の共有が始まる。
十二拠点の、いま扱っている申請と実績があった。
四月には、先行する二拠点の結果に、残る十拠点の表を合わせていた。
切り替わるたびに、その対象も変わった。
今朝、本部が開いた一覧には、合意した範囲の十二拠点が、同じ仕組みから並んでいる。
担当者は、いくつかの内訳を開いた。
終わった処理の実績を見てから、まだ残っている申請へ移る。
途中で、手元のメモへ短く書いた。
「この二か所は、まだ残ってるんですね」
「はい。そちらは、まだ処理完了にはなっていません」
上條が答える。
担当者は、承認された日付と、そのあとの状態を読んだ。
元の申請を開き、何の分かを確かめた。
「こちらで待っていたものと、合っています」
本部の中へ出す報告が、別に開いてあった。
担当者は、済んだ分と、確認する必要がある分を分けて書き込む。
「全部終わってから、とはしなくてよさそうです。こちらの分は、先に回せますので」
隣にいた本部の課長へ、画面を向けた。
「ここまでが済んでいて、残っているのは、こちらです。こことここには、このあと確認をお願いします」
課長が、示されたところを読んだ。
「この分は、昨日聞いてた件やね」
「はい。いまは、ここまで進んでいます」
「分かりました。こちらから声かけときます。済んでる方は、先に出してください」
担当者が頷いた。
上條は、説明のために開いていた手元の資料を、そのまま置いた。
大本も、次に確かめるつもりだった項目から顔を上げた。
顧客の二人は、こちらへ操作の仕方を尋ねているのではなかった。
今日、誰へ何を返すかを話していた。
「少しだけ、お待ちいただいてええですか」
担当者がこちらへ向き直った。
「はい。どうぞ」
大本が答えた。
担当者は宛先を確かめ、済んだ分の報告を送った。
課長も、確認を頼むための連絡を開いている。
キーボードを打つ音が、しばらく続いた。
上條と大本は、二人の仕事が進むのを待った。
「はい。送れました」
担当者が顔を上げた。
その横で、課長も連絡を終えた。
「今までやったら、この時間、まだ、表が来てへんところへ連絡してたんです」
担当者は、自分のメモを一度見た。
「来た分から合わせて、あとどこやったかなって。そこから、何が残ってるかを見てたので」
「先に、揃える時間があったんですね」
大本が言った。
「はい。今日は、もう、ここから話せましたね」
課長へ目を向ける。
課長も、画面に残った二つの拠点を見て頷いた。
「何を聞けばええかも、先に分かりましたしね」
担当者は、もう一度一覧へ戻った。
全部が終わった表示には、なっていなかった。
けれど、済んだ分の報告は送り終え、残るところへの連絡も始まっていた。
「では、こちらで伺いたかったところも、少しよろしいでしょうか」
大本が言った。
「はい。すみません、お待たせして」
「いえ。実際に使っていただいているところを見せていただけましたので」
担当者が、少し笑った。
「もう、使ってましたね」
上條も笑ってから、次の確認を開いた。
*
通話のあと、大本は小坂へ、本部でのやり取りを伝えた。
上條からは、実作業を担当した人たちにも、短い共有が届いた。
杉浦が開くと、本部が送った報告と、残っている拠点へ確認を頼めたことが書かれていた。
画面を自分で操作して確かめるための予定だったが、その途中で本部の仕事が進んだという。
坂口から、連絡が来た。
『十二、全部で見てはったんですね』
『そうみたいやね。残ってる分も、そこから分けて連絡できたって』
杉浦が返した。
自分たちが試験に使っていた一覧には、条件を変えて確かめるための記録が入っていた。
本部では、その場所に、いま拠点で進んでいる仕事がある。
石橋からも、黒田からも、共有へ返事が付いた。
杉浦は、上條が送ってきた文面を、もう一度読んだ。
*
翌週、本多美緒は、渡す案内の最後の部分を岡元と合わせていた。
実際に尋ねられたところへ、参照する箇所を残している。
画面へ出している言葉と、案内の見出しも揃っていた。
「本部の方、この辺りは、もう自分で見てはりましたね」
本多が言うと、岡元が頷いた。
「四月に、先に何を見たいかを聞けたところですね」
「はい。今回も、終わった分を見て、そのあと残ってる方へ進んではりました」
岡元は、案内を上から読み直した。
設計したときの、自分たちが説明する順番だけではなかった。
使う人が先に見たいものが、そこへ残っている。
「これで、上條さんへ返します」
本多は、二人で見たものを送った。
上條のところには、各担当から、渡す資料と結果が揃ってきていた。
大本は、顧客へ返すものと、最終の確認日を合わせる。
利用中に出た追加の要望は、小坂と、今回の範囲とは分けて返していた。
二十八日の確認へ進めるところまで揃ったと、顧客側からも返事が来た。
上條は、その連絡を、西田と上田にも共有した。
*
二十八日、木曜日。
顧客の責任者が、渡すものの一覧を開いた。
先行する二拠点と、残る十拠点。
本部で扱う結果と、その内訳。
利用して確かめたものに、担当者からの確認が戻っている。
小坂は、合意した範囲と、今回揃ったものを合わせた。
上條も、実際の利用で見たところと、最終の確認結果を返す。
大本は、先方が開いている資料と同じものへ、目を通していた。
「本部の方は、先週も、そのまま使えていました」
課長が言った。
隣の担当者も頷く。
「拠点で使う方も、それぞれ、今回の対象で確認しています」
責任者が、記録の最後まで読んだ。
「はい。では、こちらの内容で、全体の検収とします」
小坂は、一度、頭を下げた。
「ありがとうございます」
上條も、礼を伝えた。
大本は、記録へ日付を書いた。
一月に基本設計を確かめた日と、五月に中間段階を終えた日。
その先に、今日の日付が入った。
小坂が、このあと返す記録を確認した。
顧客側の返事を受け、上條も、引き渡す資料の位置を伝えた。
挨拶を終えかけたところで、本部の担当者が、少し顔を上げた。
「最初に見てもらった表、覚えてはりますか」
「はい」
小坂が答えた。
「あのとき、これと、こっちもあってって、机いっぱいになってたと思うんですけど」
「ええ。拠点ごとに、見せていただきました」
「あれを、こっちで合わせるところからやったので。今日は、何が残ってるかの話から始められました」
担当者は、開いた一覧へ目を向けた。
「助かってます。ありがとうございました」
小坂は、もう一度礼を返した。
大本も、画面へ向き直って頭を下げた。
「こちらこそ、何度もお時間をいただいて、ありがとうございました」
上條が言った。
担当者は、いえ、と笑った。
通話を閉じる挨拶が重なった。
*
小坂からの連絡を、金目は、届いてすぐ開いた。
全体の正式な検収を終えたと書かれている。
その下に、本部の担当者が話したことが添えられていた。
金目は、十二月の提案を開いた。
一月から六月までの工程がある。
当時は、これから作って渡す仕事として、そこへ置いていた。
今日の報告へ戻る。
十二拠点で使い、本部で仕事を進めた結果が届いている。
金目は、担当した人たちへ返事を書いた。
『全体の検収を終えたと聞きました。ここまで、ありがとうございます。本部の方が、残っている仕事の話から始められたというのが、うれしかったです』
少し手を止めてから、続けた。
『作るところも、移すところも、使ってもらって確かめるところも、それぞれ進めてもらった仕事が届いたと思います。お疲れさまでした』
送信したあと、金目は、もう一度、提案の工程へ目を戻した。
六月の欄へ、実際に終えた日を合わせた。
*
二十九日、金曜日。
三宅彩は、顧客から戻った検収の記録を、契約と合わせていた。
最後の四割に当たる、税抜千四百四十万円の請求を作る。
初回の二割、中間の四割、今回の四割。
請求の一覧には、三つの日付が並んだ。
三宅は、最後の分を発行してから、高瀬へ連絡した。
「最終分の請求を出しました。検収の記録も、こちらへ合わせています」
「ありがとうございます。開きます」
高瀬欣也が、対象を確かめた。
今回の請求額と、受け取る予定を分けて置く。
最後の入金を確かめる欄には、まだ日付を入れなかった。
小坂にも、発行したと連絡を返す。
三宅は、検収の記録を閉じる前に、全体を確認したという最後の一行へ目を向けた。
「六月に、渡せましたね」
高瀬が言った。
「はい」
三宅も、少し笑った。
年明けから、初回の請求を合わせ、入金を確かめ、その先の予定を置いてきた仕事だった。
今日は、最後に渡した分の請求が出た。
*
午後、上條は、実作業を担当した人たちと短く通話をつないだ。
黒田、石橋、杉浦、坂口が入っている。
昨日の検収と、今日、最終の請求を出したことを伝えた。
「西田さんと上田さんにも、全体を終えたと返しています。皆さん、お疲れさまでした」
「お疲れさまでした」
声が重なった。
杉浦は、いつも使っていた確認の一覧を開いた。
「このあと、こちらで返す分は――」
上から見て、手が止まった。
残っていると思っていたところにも、確認を終えた記録が付いている。
上條が、同じ一覧へ目を移した。
「今回渡す分は、昨日までで揃っています」
「……あ、はい」
杉浦は、もう一度見た。
坂口も、画面の端で少し笑っていた。
「まだ、何か探してます?」
「いや。いつも、ここから見てたから」
「僕も、朝、開きました」
坂口が言った。
杉浦は、マウスから手を離した。
「終わりましたね」
「うん。終わった」
黒田が答えた。
さっきまで資料へ向けていた顔を上げ、背もたれへ、ゆっくり体を預けた。
石橋も、机へ置いていた手を引いた。
「最後のところが移ったときも、まだ、こっちで合わせるものがあると思ってたんですけど」
「本部まで使ってもらえましたね」
上條が言った。
「はい。移した分の続きを、そのまま進めていただけたので」
石橋は、少し息を吐いた。
移行の一覧を見ていない時間にも、対象のことが頭へ戻ってくる日があった。
どの時点の記録を渡したか。
途中の分が、次の場所で続いているか。
最後の確認が返ってきたあとも、もう一度、見たくなっていた。
「あの、本部の方の話、もう一回聞いてもええですか」
坂口が言った。
上條は頷いた。
「表を揃えるところから始めていたのが、残っている仕事の話から始められた、と。先週も、こちらとつないでいる間に、報告を出して、確認の連絡もされていました」
「十二、全部を見てですよね」
「はい」
坂口は、画面へ向いたまま頷いた。
杉浦が、その横で言った。
「三月、僕らで通したときは、次に何を入れるかも分かってたんですよね」
「試験のやつですね」
「うん。今は、向こうで、別々に仕事してる分が、そこへ来てるんやなって」
黒田も頷いた。
表示するためにそろえた状態の区別が、本部の人の、どこへ連絡するかという話へ変わっていた。
「それで使ってもらえたなら、よかったですね」
黒田が言った。
短い言葉のあとで、また少し笑った。
上條は、金目から届いた連絡も伝えた。
作るところ、移すところ、使って確かめるところへの礼が書かれている。
西田と上田からも、担当した仕事を労う返事が来ていた。
「本多さんと岡元さんにも、本部で使っていただいたところは返しています。案内も、最後のものを揃えてもらいました」
「あの見出し、向こうの方、使ってはりましたもんね」
杉浦が言った。
上條は、そうですね、と答えた。
「大本さんも、先方の確認を合わせてくれていましたし。皆さんに、こちらからも返しておきます」
石橋が、自分の机へ一度目を落とした。
それから、画面へ戻る。
「今日は、何か言われても、もう一回確認しようと思ってしまいそうです」
「僕、さっき、まだある前提で聞きました」
杉浦が言うと、坂口が笑った。
「今日は、終わった方を、ちゃんと喜んどきましょうよ」
「そうですね」
上條も笑った。
次の資料を、すぐには開かなかった。
少しの間、誰も確認する項目を出さなかった。
画面の中で、黒田がカップを取る。
石橋は、椅子へ座り直した。
杉浦も、開いていた一覧を閉じた。
「ほんまに、お疲れさまでした」
上條が言った。
「お疲れさまでした」
今度は、さっきより少しゆっくり、声が返った。
通話を離れる挨拶の中にも、笑いが残っていた。
*
杉浦が通話を閉じると、画面には、案件の記録が残った。
全体の検収を終えた日付が入っている。
机の脇へ置いていた紙を揃えた。
途中で書き足したものが、何枚もあった。
今日、そこへ新しい確認は足さなかった。
坂口から、短い連絡が届いた。
『やっぱり、ちょっとうれしいですね』
杉浦は、読んで笑った。
『ちょっと、ではないかな』
送ると、すぐに返事があった。
『そうですね』
杉浦は、背もたれへ体を預けた。
画面の向こうでは、今日も、十二の拠点で仕事が進んでいた。
お読みいただきありがとうございます。旭月です。
昨年六月の知らせから、一年が過ぎました。金目の頭に浮かぶのは、今も働いている人と、もう会社にはいない人の顔です。その時間の先で、一月から進めてきた仕事を、十二拠点へ渡す回になりました。
本部では、表を揃えるところから始めていた仕事が、残っているものを見て、必要な相手へ連絡するところから進みます。作ったものが、使う人の手で普段の仕事になっていく姿を描きたかった場面です。
そして、渡し終えた人たちにも、喜ぶ時間を置きました。終わったと聞いても、つい残る確認を探してしまう。そのあとで、ようやく肩の力が抜けることもあると思います。
「ちょっと、ではないかな」
杉浦と坂口の短いやり取りに、ここまで進めてきた仕事の手応えが残っていれば嬉しいです。
引き続き、よろしくお願いいたします。




