続きを任せる
六月四日、月曜日。
上田拓海は、週明けの予定を開く前に、五月末の共有へ目を通した。
大型案件は、先行する二拠点と本部での確認が揃い、三十日に中間段階の正式な検収を終えていた。
翌三十一日には、税抜千四百四十万円を請求したと、小坂から報告が届いている。
入金の確認は、まだだった。
残る十拠点への展開と、全体の引き渡しも、この先にある。
上田は、自分のところで判断を返すものを予定へ合わせた。
一課の確認を一つ終え、二課から届いた連絡を開く。
水野智也からだった。
『改修した検索で、別の画面にも影響しているところがありました。確認した結果を、一度見ていただけますか』
添付には、条件と、変更前後の結果があった。
上田は、話せる時刻を返した。
*
水野が画面を共有すると、二つの一覧が並んでいた。
一方には、今回追加した絞り込みの項目がある。
もう一方は、以前から使っている別の画面だった。
「こちらが、今回変えた方です」
水野が、新しい項目を選んだ。
指定した区分のものが、一覧へ出る。
「ここは、確認したとおりに出ています。ただ、同じ検索の処理を使っている、こちらの方で」
隣の画面へ移った。
同じ試験用の記録を使い、変更前に確かめた結果を見せる。
変更後の方では、件数が少なかった。
「この画面では、今回の区分を選ぶところがありません。指定しないまま使うはずなんですが、そのときの結果が変わっています」
「元の条件も、同じにしてる?」
「はい。こちらへ残しています」
水野が、記録を開いた。
日付と、もとの絞り込みに使う項目が並んでいる。
上田は、それぞれを見比べた。
水野は、二〇三三年の春に新卒で入った。
いまは二課で、画面の変更と、その先で動く処理を合わせて改修する仕事を受け持っている。
宮原の一年先輩で、自分の作業だけでなく、周りから頼まれる確認も引き受けることがあった。
今回も、担当した画面が動いたところで終えず、共通の処理を使う別の画面まで見ていた。
まだ、社内で試している段階だった。
「変えたところ、見せてもらってええ?」
「はい」
水野が、検索の条件を組み立てる箇所を開いた。
上田は、手元でも同じところへ移った。
追加した区分の値を受け取り、検索へ渡すところがある。
指定がない場合の扱いを、先に見た方がよさそうだった。
それから、ほかの画面から渡すものも合わせる。
上田は、時計へ目を向けた。
次の確認までは、少し時間があった。
「一回、僕の方で――」
水野が、同じところを開いたまま顔を上げた。
「ここからは、上田さんにお願いした方が早いでしょうか」
上田は、言いかけた口を閉じた。
自分で見ようと思った箇所は、もう手元へ出していた。
「次の予定、気になってる?」
「はい。このあと、次の画面の改修も進めるつもりだったので。こちらにどれくらいかかるか、まだ分からなくて」
水野の記録には、変更前と変更後の結果があった。
その下へ、まだ確かめていない使い方が書かれている。
何も分からずに、返してきたものではなかった。
「僕が見た方が、直し始めるのは早いかもしれんね」
上田は言った。
水野が、小さく頷く。
マウスを動かせば、そのまま処理をたどれた。
上田は、手を離した。
「で、水野君は、どう進めたい?」
水野は、画面へ目を戻した。
「……原因は、自分で見たいです」
「うん」
「変更したところを戻せば、件数は合うので。まず、この二つから渡している条件を比べたいです。それで、同じ処理を使う画面も、条件を入れない場合を見ようと思っています」
上田は、まだ見ていない使い方の一覧を読んだ。
「今ここにある分で、全部?」
「拾えたのは、ここまでです。ほかも、全部見た方がええと思って」
「全部、の中は、長谷川さんにも聞いてみようか。使ってる先だけ拾っても、どう使うかで見るところが変わるから」
「はい」
上田は、二課の作業予定を開いた。
水野が次に進めようとしていた改修がある。
そのあとに社内で見る時間と、先方へ返す予定を、順に確かめた。
「次の画面に入るのは、明日にずらそう。今日のうちに、そちらも進んでいる前提で確認するところは、僕から合わせ直す」
「大丈夫でしょうか」
「うん。先に、こっちの範囲を出してもらいたい。ただ、分からんまま夕方まで持たずに、一度ここで返して」
予定の途中へ、結果を合わせる時間を入れた。
水野の今日の作業から、次の改修が一つ外れる。
「そこで原因と直す範囲を見よう。広がりそうなら、その時点で分けるから」
「分かりました。まず、そこまで進めます」
水野は、戻す時刻を書いた。
上田も、予定を保存する。
「長谷川さんには、僕からも、今から相談に行くことを伝えとく」
「ありがとうございます」
通話を終えると、上田は、社内の確認予定を合わせ直す連絡を送った。
手元には、まだ、検索の処理が開いていた。
そこへ戻りかけ、閉じた。
*
長谷川真理は、水野が出した一覧を見て、一つの画面を示した。
「ここは、初めに開いたときと、検索し直したあとを、分けて見てもらえますか」
「最初に開いたとき、ですか」
「はい。条件を変える前にも、一覧が出るので」
水野は、その画面を開いた。
長谷川に使い方を確かめながら進め、いったん閉じる。
今度は、何も触らず、最初に出てきた一覧を見た。
日付の欄には、初めから入っている期間が残っていた。
「あ……こちらでも、減っています」
長谷川は、変更前の記録へ目を移した。
「条件を選んだあとだけなら、見えなかったところですね」
水野は、確認する欄を二つに分けた。
同じ画面でも、まだ確かめていなかった使い方があった。
長谷川は、小規模な業務システムの設計と実装を経験して、二〇三三年に中途で入った人だった。
顧客が実際にどう使うかを整理するところで、上田も意見を求めている。
水野の一覧にも、呼び出す画面の名前だけでは分からない使い方が足された。
「ここを先に、同じ記録で比べてみます。ほかは、この一覧の範囲でよさそうですか」
水野が尋ねた。
二人で使う箇所を合わせ、長谷川は自分の作業へ戻った。
水野は、初めに一覧が出るところから処理をたどった。
水野は、原因を記録へ書いた。
それから、二つの結果に共通するところを、上田へ説明できる形に並べ直した。
約束の時刻に、原因と直す範囲を返した。
上田からは、その範囲で進め、翌日、修正後の結果を見せてほしいと返事が来た。
水野は、直す箇所をもう一度読み、作業へ入った。
*
翌五日、水野から連絡が入った。
『分かりました。昨日のところ、結果も合わせられました』
上田は、約束の時刻に通話をつないだ。
画面が出ると、水野が、先に一つの一覧を開いた。
「ここでした」
昨日、二人で見た画面とは違っていた。
上田は、手元へ届いている資料を開く。
「先に、こちらから見ていただいてええですか」
「うん。お願いします」
「この画面、開いただけで、最初の一覧が出るんです。僕、条件を選んで検索した方しか見ていませんでした」
水野は、一度画面を閉じ、もう一度開いた。
マウスを動かさないうちに、一覧が出る。
「こちらも、同じ検索へ渡っていました」
「ああ、最初の表示でも、使ってたんや」
「はい。長谷川さんに使い方を教えていただいて、ここから見直しました。区分を選ぶところがなくても、指定なしの値は渡ってきていて」
水野は、変更前と、最初に改修したときの結果を並べた。
表示されなくなった記録に、印があった。
「この分が、外れていました。僕が足した処理で、空の値も、絞り込みに使ってしまっていました」
上田は、印の付いた行を読んだ。
前日、指定がない場合を先に見ようとは思っていた。
けれど、この画面を開いただけで同じ処理へ入るところまでは、頭に浮かんでいなかった。
「それで、昨日の方も?」
「同じでした。なので、画面ごとに直すのではなくて、共通のところで、指定しない場合の扱いを直しました」
水野が、修正した箇所を示した。
区分を指定しない場合には、追加の絞り込みをしない。
指定したときには、その条件を使う。
その説明を終えると、最初に相談した画面へ戻った。
区分を使わない方では、前と同じ記録が並んでいた。
新しく項目を足した画面でも、指定のある場合と、ない場合を見せる。
「こちらは、選ぶとこの分だけ出ます。何も指定しなければ、前と同じです」
上田は頷いた。
水野が、確認した結果へ戻る。
画面を行き来するたびに、どの結果と比べたかが、その横にあった。
「最初、件数が合わない、というところまでしか見ていなかったんですけど。何が外れたかを合わせたら、こっちと同じやと分かりました」
「うん。なるほど」
上田は、手元の資料をめくるのを止めた。
先に読み進めようとしていた箇所へ、水野が、自分の説明で戻ってきていた。
水野が、少し顔を上げた。
「……先に、直したところを見ていただいた方がよかったですか」
「いや。いまの順で分かった。続き、お願いします」
「はい」
水野は、確認した使い方の一覧を開いた。
長谷川と合わせた項目にも、結果が付いている。
「ここまでが、同じ処理を使うところです。今回変えていない方も、変更前と比べています」
上田は、一覧へ目を通した。
水野が、見たところを説明する。
一区切りしたところで、上田は一つの行を示した。
「日付も区分も、両方指定しない場合は、ここへ入ってる?」
水野が記録を開き直した。
上から読み、手を止める。
「……ここは、日付を入れていますね。両方ないのは、まだでした」
「うん。そこも、同じ記録で比べておこうか」
「はい。足します」
水野は、未確認の欄へ書いた。
上田も、修正した範囲をもう一度確かめる。
顧客の使う環境へ入れる前に残す確認と、その次に渡すものを合わせた。
「これで、続きを進めてもらえる?」
「はい。そちらを見て、結果を返します」
水野が答えた。
昨日、任せた方が早いかと尋ねたときには、語尾が少し下がっていた。
今は、次に開くものを手元へ出していた。
「お願いします」
上田が言うと、水野は頷き、共有を終えた。
*
水野は、追加した確認を開いた。
日付も、区分も指定しない。
ほかの条件も揃え、変更前の結果と比べた。
件数と、並んでいる記録を合わせる。
上田へ返すものへ、その結果を付けた。
長谷川にも、教えてもらった使い方と、修正後の結果を送った。
『最初に開くところ、助かりました。僕が見ていた方だけでは、抜けていました』
長谷川から、確認したと返事があった。
水野は礼を送り、作業の一覧へ戻った。
次の画面の改修がある。
上田が、前日の確認予定を合わせ直してくれていた。
引き受けたまま、両方を同時に終えようとしなくてよくなった仕事だった。
今回変えた共通の箇所と、次の画面で使うところを開いた。
まず、どんな条件で呼んでいるかを見る。
最初に出る一覧も、確かめる方へ書き足した。
*
六日、水曜日。
上田は、水野から届いた追加の結果を読み、残した確認が済んだことを返した。
次の作業も、水野が進めている。
一課へ返す確認を開く前に、二課の予定へ目を向けた。
水野と、次の結果を合わせる時間が入っている。
昨日と同じように、向こうから画面を出してもらう予定だった。
机の横のカップを取り、ひと口飲んだ。
もう、ぬるくなっていた。
昨日、水野が最初に見せた一覧を思い出した。
ここでした、と言って、自分が調べたところから話し始めた。
上田は、カップを戻した。
二課の予定を閉じ、一課へ返す資料を開く。
水野の実装を直すための画面は、手元にはなかった。
お読みいただきありがとうございます。旭月です。
今回は、上田と水野が、仕事の続きを誰が進めるかを話す回でした。
「原因は、自分で見たいです」
水野には調べたい気持ちも、次の予定への不安もあります。上田はその両方を聞き、作業を一つずらして、途中で結果を見る時間を作りました。任せるために上田自身が動くところも、描きたかった場面です。
翌日の「ここでした」には、長谷川の助けを借りながら、自分でたどった手応えがあります。上田がすぐ直していたら、聞くことのなかった説明かもしれません。
もちろん、確認が足りないところは残っています。そこは一緒に確かめ、続きを進めるのは水野のまま。次の画面でも、最初に一覧が出るところを自分から見る。その小さな変化を、感じていただければ嬉しいです。
引き続き、よろしくお願いいたします。




