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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第六章 問いが育つ場所
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ここまで、ここから

 五月十四日、月曜日。


 松井慎吾は、候補の一覧から一社を開いた。

 隣には、先週、小坂から届いた資料がある。

 声をかける先を絞り、最初に何を確かめるかを合わせることになっていた。


「こちらも、営業所がありますね」


 松井が言うと、通話の向こうで小坂千尋が頷いた。


「ええ。ただ、同じような確認をされているかは、これだけでは分かりませんね」


 松井は、会社の案内へ目を戻した。

 扱う品物と、拠点の場所が出ている。

 前に訪ねた会社と、似ているところはあった。

 その間を、どんな資料が行き来しているかは書かれていなかった。


「最初に、見積を変更したときのお話を聞きたいと思っていたんですが」


 松井は、用意したメモを出した。

 変更したものを、どこへ送るか。

 返事の済んだところを、どう確かめるか。

 二月に聞いて、初めて分かったことから書いていた。


「いきなりそこまで伺っても、ご説明いただける方か、分かりませんね」


「はい。まず、そういう仕事の見直しについて、どちらへ相談できるかを聞きたいです」


 小坂が言った。

 松井は、細かく書いた質問を下へ寄せた。

 その上へ、最初に確かめることを書く。


 営業所との確認や、見積の変更に伴う連絡。

 その進め方を見直す話について、相談できる相手はいるか。


 書いてから、声に出して読んだ。

 小坂が、少し短く言い直した。

 松井も、紙に目を落とさず言ってみる。


「最初は、このくらいで聞いてみます」


「はい。詳しく伺う時間をいただく前に、どんな話として受けてもらえるかを確かめましょう」


 もう一社の候補では、連絡先を決めるための情報が足りなかった。

 松井は、いま電話する先からはいったん外した。

 候補そのものを消す代わりに、何が分からなかったかを記した。


 残った一社の番号を確かめる。

 小坂との通話を終えると、机の紙を一枚だけ手前へ置いた。


     *


 電話に出た人へ、会社名と自分の名前を伝えた。

 続けて、相談したい仕事を短く説明する。


「見積の変更ですか」


 相手が尋ねた。


「はい。その際に、営業所との間で確認や連絡をされる業務についてです。進め方を見直すお話があれば、お手伝いできるか、一度ご相談したいと思ってお電話しました」


「営業の者、ということでしょうか」


「ご担当がそちらでしたら、お願いしたいんですが。今のお話は、どちらへ伺えばよろしいでしょうか」


 相手は少し考え、こちらでは分からないと答えた。

 松井は、はい、と返す。

 用意していた詳しい質問へは、進まなかった。


「担当する部署へ、相談の内容をお送りする方法はありますか」


「資料を送っていただくのは、できます。ただ、お返事できるかは、私の方では何とも」


「承知しました。お送りしてよい宛先を、教えていただけますか」


 案内された送り方を記した。

 宛先と、部署名を添えるところを復唱する。

 相手が確かめてくれたのを聞き、礼を伝えて電話を切った。


 訪問の予定は入らなかった。

 業務を変えようとしているかも、まだ分からない。

 松井は、その二つを空けたまま、送付先と、電話で聞いたことだけを入れた。


 小坂へ短く共有すると、送る内容を見ようと返ってきた。

 以前の提案書を、そのまま添付することはしなかった。

 相手の業務は、まだ聞けていない。


 何の仕事をしている会社か。

 どのような話を伺いたいのか。

 松井は、相談の入口になる文面を作った。

 先方の仕事が、前の会社と同じだと決めたところがないかを、読み直す。


 細かな質問を書いたメモは、机の端に残していた。

 その続きを聞く前に、確かめることがあった。


     *


 同じ日の午後、藤井直人は、試行の作業一覧を開いていた。

 二社目の処理予定を表示する案に、マウスを合わせる。


 予定そのものを取り込み、結果と一緒に見られるようにする。

 森川が、別のところを開く回数は減らせる。

 先週、話を聞いたあとで、どう作るかを少し書き足していた。


 その下に、作ったあとの確認も並んでいた。

 元の予定が変わったとき、どこで知るか。

 表示した予定と、元の内容が合っているか。

 表示する方だけを直して、点検の手順が前のままにならないか。


 藤井は、書き足した順に読んだ。

 上の方だけなら、自分が手を動かせば進む。

 下へ行くと、井上たちにも続けてもらう仕事があった。


 井上から連絡が来た。

 残すところを合わせるための通話だった。


 画面を共有すると、井上修一が、西田から届いた記録を開いた。

 森川と安藤も入っている。


「こちらの範囲で残すことになりました。三社目は、今は増やしません」


 井上が、項目を示した。

 藤井の手元にも、同じ印が付いていた。


「二社目の予定は、追加しない方ですね」


「はい。今までどおり、元の予定と結果を合わせて見ます」


 森川が、自分の手順を開いた。

 いま使っている表示の横に、従来から見るところがあった。


「ここへ出せたら、戻らずに済むと思ってたんやけど」


 藤井が、追加するつもりだった箇所を示した。


「はい。私が開くところは、減ると思います」


「うん。ただ、元の予定が変わったら、こっちも合わせなあかんからな」


 藤井は、下へ付けていた作業を出した。

 森川が、上から見ていく。


「私が元の方を見る仕事は、そちらへ移るんですね」


「そう。予定の取り方を変えたら、そこもまた確かめることになる」


 安藤が、普段使う確認先を開いた。


「ここは、いまの手順で残りますね。結果と日付だけ見て、今日の分が済んだとはしないところです」


「はい」


 森川が答えた。

 藤井も、今朝の記録へ目を通した。

 予定を表示へ持ってこない分は、元の方で確かめている。

 この案を進めなければ、見るべきものが無くなるわけではなかった。


「……じゃあ、これは、次にやる分から外します」


 藤井は、着手の予定を外した。

 一覧の中で、項目の位置が変わった。


 考えた内容は、残っている。

 すぐ作れそうなところも、あとで合わせる必要があるところも、そのままだった。

 理由を書く欄へ、二社目特有の予定は取り込まず、原本の確認を続ける、と入れた。


 井上が読み終えるのを待って、保存した。


「こっちの表示は、いまのまま残りますね」


 森川が、別の項目を示した。


「うん。そこは残します」


「分かりました。ここから見られるのは、助かっているので」


 藤井は、共有する画面を切り替えた。

 動いている方には、今朝取り込んだ時刻と、元の確認先がある。

 森川が、いつもの順に一つを開いた。


「これと、その下ですね」


「はい。その並びも、このままです」


 森川は頷き、残す範囲を、自分の記録にも合わせた。


     *


 西田が入ってきたのは、最後の確認のところだった。

 井上から、着手予定を変えたことと、普段の点検で見るところを合わせたと伝える。


「藤井君、追加で考えてた分も、記録には残ってる?」


「はい。今回やらない理由と一緒に、残しています」


「ありがとう。次に空いたから、そこへまた入れる、とはせんようにね」


「はい」


 藤井は、外した予定の欄を見た。

 今週の作業を終えたら、そこへ手を付けるつもりだった。

 内容が分からずに止まっていたものではない。

 始めれば、作っている間の進み方は見えたはずだった。


「見る方で、ここもあったらええな、というのは、また出ると思います」


 井上が言った。


「うん。出たら、残しといてください。その都度、作る予定にまでは入れずに」


 西田が答えた。

 藤井は、追加案を記録した場所を示した。


「そこへ合わせます。何の確認で使いたかったかも、付けておきます」


「お願いします」


 安藤が、異常や食い違いがあった場合の連絡先を確かめた。

 表示と元の結果が合わないときは、元へ戻って確認し、井上へ返す。

 直せば使えるかをその場で決めず、通常の対応と、試行の変更を分けることになった。


 森川も、該当するところへ印を付けた。

 もとの点検で何を確かめるかは、変わらない。

 試行の表示を使えなかった日も、同じ記録へ混ぜず、分けて残す。


 通話を終えると、藤井は、作業一覧をもう一度開いた。

 次に作るつもりだった箇所が、着手するものの中から外れている。


 少しだけ、そこを見ていた。

 画面を作って見せれば、森川には、すぐ分かってもらえると思った。

 便利になるところを、想像しやすい案だった。


 その下まで読んでから、一覧を閉じた。

 先に返す必要のある確認を開く。

 前に見たところへ戻り、続きを確かめ始めた。


     *


 翌十五日、森川は朝の点検を始めた。

 一社目の表示を開く。

 最初に確かめるものが、上にある。

 元の結果へ進み、必要な件数も見た。


 戻ると、次に見る項目が、その下に並んでいた。

 以前、下へ行ってから上へ戻っていたところだった。

 森川は、そのまま次を開いた。


 終えた結果を、自分の確認時刻と一緒に記録する。

 表示に出ている取込時刻も、合っているところへ印を付けた。


 二社目へ移ると、別に元の処理予定を開いた。

 今朝、確かめる対象になっているものを読む。

 その日付と、元の結果を合わせた。


 画面を一つ多く開くところは、残っていた。

 それを見終え、共通に使える項目へ戻る。

 次の確認先は、そこから開けた。


 点検を終えたところへ、安藤から、朝の確認で合わせる内容が届いた。

 森川は、自分が見た結果を返した。

 安藤も該当する記録を読み、確認できたと返す。


 時刻を残して、手順を閉じた。

 試行に使った分は、別に付ける。

 どこを表示から見て、どこで元へ戻ったかも、短く記した。


 藤井へ、残した範囲で今朝も使えたと送った。

 少しして、返事があった。


『ありがとうございます。予定のところも、今までの方で見られていますか』


『はい。元の予定と合わせて、確認しています。こちらは手順どおり進められました』


 森川は、問い合わせの一覧を開いた。

 昨日、先方から届いた内容について、確認するものがあった。

 点検をしている間は、まだ開いていなかった。


 必要な記録を見て、自分のところで確かめられた分を書く。

 返す前に安藤へ合わせたいところがあり、連絡を送った。

 返事を待つ間に、次に見る内容を手前へ出す。


 表示の方は、脇に開いたままだった。

 そこへ新しい項目が増えていなくても、今日使ったところは、今日の分で残っていた。


     *


 木曜日、小坂は、松井が送った文面と、その後の記録を確かめた。

 新たな卸会社には、案内された方法で連絡を入れている。

 担当者との詳しい話は、まだできていなかった。


「ここは、返事を待つところですね」


「はい。今のところ、こちらから追加する資料はありません」


 松井が答えた。

 相談したい業務を伝え、話を聞けるかを尋ねていた。

 相手の仕事に合わせた提案は、そのあとだった。


「候補の方は、こちらも見直しています」


 松井が別の資料へ移った。

 連絡を入れた一社と、もう少し確かめる必要のある先が分かれている。


「同じような仕事があるかは聞きたいんですが、それを全部、最初の電話で確かめるわけにはいかないので」


「ええ。まず、その相談を誰とできるかですね」


「はい。話せる相手が分からないまま、詳しい質問を増やさないようにしています」


 小坂は、最初に使ったメモと見比べた。

 相手の答えを書けていない欄は、空いていた。

 その前に確かめることが、上へ増えている。


「月末に見るときも、ここを分けて出しましょう。お話を聞けた先と、まだ入口を探している先と」


「分かりました」


 二人で、次に使う時間を確かめた。

 既存の仕事と合わせた枠の中へ、確認するものを戻す。

 相手から返事が来た場合も、訪問を約束する前に予定を合わせることになっていた。


 小坂は、今週進めたところを高瀬へ返した。

 新しい受注の欄へ、足すものはなかった。

 連絡した先と、次に確かめるところが、そこへ残った。


     *


 十八日、金曜日。

 井上は、今週の記録を西田へ送った。

 残した表示を使ったところと、元へ戻って確かめたところ。

 止めた追加作業も、同じ資料で見られるようにしてあった。


 西田は内容を確かめ、使った時間を高瀬へ共有した。

 月末には、もう少し続けた結果を合わせる。

 今週だけを見て、これなら全体へ広げられるとはしなかった。


 藤井にも、井上から、記録を送ったと連絡が届いた。

 開くと、森川と安藤が確かめた内容がある。

 表示を使った項目には、今週の日付が付いていた。


 藤井は、一社目の記録を開いた。

 森川から並びを相談された頃には、表示する項目を増やすことを考えていた。

 今は、その並びのまま、点検で使われた日が増えている。


 二社目にも、残した範囲で使えたという記録があった。

 予定を原本で見たところは、その隣へ書かれている。

 作業一覧へ戻る。

 追加するつもりだった項目には、着手の予定が入っていなかった。

 月曜日に記した理由が、そのまま残っている。


 藤井は、今週確かめた結果の記録を付け、井上へ返した。

 送信を終えると、別に開いていた作業へ移った。


 途中まで確かめていた変更箇所と、手元の結果を並べる。

 先ほど止めたところから読み直し、次に確かめる行へマウスを動かした。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、前回決めた方針が、それぞれの仕事へ戻っていく回でした。


藤井が予定から外したものは、作れないものではありません。作れば便利になるところも想像できていました。それでも、作ったあとに保つ仕事まで見て、今回は進めない。その少し惜しい気持ちも残したかった場面です。


一方、森川は、残った表示を使って今日の点検を終えています。増やすのを止めても、これまで作ったものが役立たなくなるわけではありません。


営業の方でも、松井の聞き方が少し変わりました。前に聞いた細かな話を、そのまま次の相手へ当てはめず、まず誰と何を相談できるかを確かめています。


新しく作るものや、受注した仕事だけでなく、次に使う時間の決め方にも、試した経験が残る。そんな変化を感じていただければ嬉しいです。


引き続き、よろしくお願いいたします。

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