君はどうするん?
五月十一日、金曜日。
小坂千尋が通話へ入ると、金目と高瀬は、もうつながっていた。
開いている資料の版を確かめ、高瀬が画面を共有する。
小坂のところにも、昨日追記したものが出た。
「西田さん、前の通話が少し延びているそうです」
高瀬が言った。
「はい。先に見られるところ、見ときましょうか」
金目は、手元の資料へ目を移した。
小坂も、顧客と合わせている日程を開く。
四月末から利用を始めた二つの拠点では、その後の確認が続いている。
本部で確かめる記録と、先行利用中に出た問い合わせ。
検収へ進めるために残っている確認も、一覧へ入れてあった。
「こちらの結果が揃ったところで、先方の窓口と合わせます」
小坂が説明した。
金目は、先に届いていた報告と見比べ、確認する日を尋ねた。
西田が入ってきたのは、その途中だった。
「ごめん、遅くなりました」
「いえ。いま、大型の方を見てます」
高瀬が資料の位置を示した。
西田は、自分の方でも同じものを開いた。
「ここは、上條君たちの方で見てる分やね。残りの展開に使う時間も、こちらに入れてます」
六月までの予定を合わせる。
先行する二拠点で使い始めたことと、次の段階へ進めるための確認は、分けてあった。
ほかの顧客へ返す仕事も、その隣に並んでいる。
高瀬が、一つの日程を確かめた。
西田から返事があり、小坂が手元の予定へ書き足す。
金目は、次のページへ移った。
「ほな、新しくやってる方も、聞かせてもらえますか」
*
小坂は、卸会社の記録を開いた。
「こちらは、今回、見送りになりました」
「うん。松井さんからの記録も、見ました」
金目が頷いた。
「現場で困っているところは共有していただけたんですが、今回の提案へ予算を付けるところまでは、進みませんでした」
「時期を変えたら、という話でもないんやね」
「はい。次の検討時期も、決まっていません」
金目は、結果の欄へ目を落とした。
「そっか。残念やったね」
「はい」
小坂は、次の資料を出した。
今回までに使った時間と、次の開拓の進め方を並べている。
「このあとについては、二つで考えています」
一つは、声をかける先を絞ることだった。
同じような確認がある会社、というところから、もう少し確かめる。
今、何を変えようとしているのか。
その仕事について、誰が検討を進めているのか。
実際に話を聞ける相手を探し、具体的な確認へ進む先を選ぶ。
「もう一つは、入口を小さくして、声をかける先を増やす方です。最初から営業所まで聞くのではなくて、まず一か所の仕事に限って、お手伝いできるかを考えます」
金目は二つの欄を見た。
「広く聞く方やと、一社ごとには、今ほど入らへんのやね」
「はい。初めに伺うところを絞れば、接点は増やせます。ただ、それだけでは、今回のような途中の確認まで見えてこないこともあると思います」
西田も資料へ目を通していた。
「小さく受けたあとで、ほかも見なあかんと分かったら?」
「そこで、次の範囲を相談する必要があります。初めにお受けする分だけで、全体が変わるとはお伝えできません」
「うん。その分け方は、先に要るね」
小坂は頷いた。
広く声をかける方にも、今まで接点のなかった会社へ届くよさがある。
相手の仕事が合うかは、会ってみなければ分からないところもあった。
「絞る方は、最初の相手を探すところにも時間が入ります。ただ、今回聞けたことを使って、変える話が動いているところへ、もう少し近づければと」
説明した欄へ、マウスを戻した。
金目が口を開いた。
「で、君はどうするん?」
小坂は、画面の方へ目を上げた。
「対象を絞る方で、進めたいと思っています」
「うん」
「松井さんが今回伺ったところは、次にも使えると思っています。どういう資料で、どこを確かめて、どんな返事を待っているか。そこを聞けるようになったので」
小坂は、先方へ送った図を思い浮かべた。
本部だけで聞いたときには、まだつながっていなかったところがある。
営業所の説明を足すと、同じ図の見え方も変わった。
「ただ、同じように困っている、というだけで、毎回そこまで伺うのは難しいです。今その仕事を変えようとしているのかは、早いところで聞きたいと思っています」
「困ってはいるけど、今やる話にはなってへん、ということもあるしね」
「はい。それでも、聞いたら動くことはあると思います。初めから全部分かっている相手だけ、ということではなくて」
金目は頷き、資料の続きを見た。
「そちらで、最初の相手を探したいです。聞くところも松井さんと合わせて、次の一社に使う前に、いったん候補を見たいと思っています」
小坂が話し終えると、高瀬が予定の資料へ移った。
営業の欄には、既存の仕事が先に入っている。
*
「今ある仕事を動かさずに使うなら、この範囲になります」
高瀬が示した。
大型案件で、顧客と確認を合わせる日も、そこへ残してある。
「開拓の方で訪問が入ると、こちらは全部、同じ週には入れられません」
「はい。初めの候補を見て連絡するところと、訪問へ進むところを、一度分けたいです」
小坂が答えた。
「訪問に進めそうになったら、また枠を合わせる形ですね」
「そう考えています。相手から時間をいただけるなら、何でも先に入れる、とはしないように」
金目は、営業の予定を少し上へ戻した。
「大型の方も、今から顧客と合わせることがあるもんな」
「はい。こちらの窓口は、空けておく必要があります」
「そこは、開拓のために外されへんね」
「ええ」
小坂が頷いた。
高瀬が、使える範囲を記録へ付けた。
「まず、候補を見直して、初めの連絡をするところまで。この枠で見られますか」
「はい。松井さんの予定も、その範囲で合わせています」
「そのあとに伺うことになれば、別に確かめると」
「そうします。次の作業へ進むときに、使う時間と、伺いたい内容を合わせて出します」
金目は、机の横へ手を伸ばし、飲み物を取った。
一口飲んでから、また画面へ向いた。
「それで、いつ頃、一回見られそう?」
「月末に、候補と、初めに聞けたところを合わせたいです。連絡がつかなければ、つかなかったところも含めて」
「うん。返事を待ってる間に、同じ資料を作り続けんようにね」
「はい。具体的な業務の調査へ入る場合は、どこから有償の仕事にするかも、先に相談します」
その区切りは残し、もう少し手前で、確かめるところを増やす。
小坂は、次の案の横へ書き足した。
「ほな、その方で進めましょうか」
金目が言った。
高瀬が、月末に見るものを読み返す。
「候補を絞ることと、初めの連絡まで。訪問や、次の調査へ進める前には、範囲と時間を確認。これで合わせます」
「はい。お願いします」
小坂が答えた。
*
西田浩司が、運用の資料を開いた。
最初の一社と、四月から試した二社目。
減った手間と、続けるために必要だった作業を、別に記してある。
「こっちは、全部へ広げる話を、一回止めたいです」
西田が言った。
金目は、二社目の行を見た。
「保つ方にも、結構入るんやね」
「うん。最初に作れば、あとは同じように使えるところが、もう少し多いと思ってた。実際に足したら、会社ごとの違いを見るところが残ったわ」
藤井が記録した、表示する側の作業もある。
森川たちが点検する時間だけでは、見えなかった分だった。
「今の一社目は、使い続けたいと思ってます。二社目も、同じように使えるところだけ残す方で」
「あ、二社目は元に戻す方かと思ったわ」
金目が顔を上げた。
西田は、二社目の内訳を開いた。
「戻す方も見たんやけどな。ここは、今の表示で、確認先を探すところが減ってる。こっちへ出すために、その会社だけの予定をもう一つ持つ必要もない」
「ここは、一社目と同じように使える?」
「うん。元の結果を確かめる手順は残してるけど、そこへ行くまでが楽になってる」
西田は、隣の項目へ移った。
「こっちまで同じ表示で済ませようとすると、予定をこっちでも持たなあかん。変わったときに合わせる仕事も増える。それは、今は足さん方がええと思ってる」
金目は、二つを見比べた。
「そっちは、今までの方で見るんやね」
「そう。処理の予定と、元の結果を合わせて見る。その仕事は、今もしてる」
表示へ取り込んでいないことと、確認をしていないことは、違っていた。
井上たちは、その区別も付けて出していた。
「二社目を全部戻しても、この確認は残るわけか」
「うん。だから、使えてるところまで戻す必要は、ないと思ってる」
西田は、広げない部分の印を付けた。
その下に、残す場合の作業と担当があった。
「ただ、残す方も、何もせんでええわけではないです」
高瀬が、使い続ける時間の欄を示した。
「こちらの確認は、継続して入りますね」
「はい。そこは、井上君たちと合わせています。藤井君が、取り込む方を確かめる分も入ってます」
西田が答えた。
金目は、通常の運用の予定へ目を移した。
「それを入れたら、普段の方は?」
「点検と問い合わせを先にするのは、今と同じです。試す方を後ろへ回した日もあるので、そこは変えません」
「増やす方を止めたら、この分で見られる?」
「今の範囲なら。ただ、元の結果の形式が変わったときは、表示を直す時間が別に要ります。そのときは、表示を直して使い続けるか、元の点検だけに戻すかを、もう一回見たいです」
金目は、少し考えた。
「変わるたびに直してたら、元へ戻るより手が要ることもあるもんな」
「うん。それも含めて見たい。今、使えてるから、ずっと残すと決めるわけでもないんで」
高瀬が、次に確かめる欄へ書き込んだ。
金目は、西田が示した、残す範囲へ戻った。
「そっか。ほな、その範囲でやってみよか」
「うん」
「変わったときに、こっちへ持ち続けるためだけの仕事が増えるなら、そこはまた教えて」
「分かりました。普段の方を守れるところで見ます」
西田は、決まった範囲へ印を付けた。
藤井たちが出した案のうち、今回残すところが、そこで揃った。
*
高瀬は、二件の記録を続けて読んだ。
営業は、次に声をかける先を絞る。
運用は、広げる作業を止め、今使えている一部を残す。
「どちらも、今ある仕事の枠を動かさずに進める。入らない作業は、先に相談していただく形で合わせます」
「はい」
小坂が答えた。
「運用の方も、月末に一度、残したところの時間を見られますか」
「見られます。そこまでで、変更があった日も分けて出します」
西田の返事を受け、高瀬が時期を入れた。
「その前に、通常の返答が遅れるようなら、月末は待たないでください。使える枠を、こちらでも合わせ直します」
「はい。そこは先に返します」
西田が頷いた。
金目も、記録へ目を通す。
「ひとまず、それでお願いします」
資料が、次の議題へ切り替わった。
小坂は、自分が確かめていた別の予定を開いた。
新しい二つへ使った時間は、どこかへ消えたわけではなかった。
卸会社の提案は、受注しないまま区切ってある。
運用の方も、期待していた範囲まで手間が減ったわけではない。
小坂は、会議の記録の端へ、松井と合わせることを書いた。
候補を見直すところと、訪問に進める前に確かめるところ。
さっき説明した資料から、そのまま渡せるものを選ぶ。
高瀬が、残りの確認を進めた。
西田から一つ返事があり、金目が日付を手元へ控えた。
小坂も、自分が持つところについて答えた。
会議を終える時刻になると、高瀬が今日決まったことを共有すると伝えた。
「ほな、お願いします。ありがとうございました」
金目が言った。
挨拶が重なり、一人ずつ通話を離れる。
*
小坂は、閉じた通話の横で、松井と話すための資料を開いた。
次に声をかける候補は、まだ全部を見直したわけではなかった。
一覧の中には、仕事の説明だけでは分からない会社もある。
先に、今日決めた進め方を書いた。
対象を絞る。
その下へ、今回聞けた仕事を、次にも使いたいと足した。
書きかけてから、いったん手を止める。
これだけでは、松井と何を確かめるかが、まだ分からなかった。
候補の資料を横へ出す。
今、その仕事を変えようとしているか。
誰と、どこまで話ができそうか。
会議で説明したことを、最初の連絡で聞ける言葉へ直していく。
で、君はどうするん?
ふと、さっきの声を思い出した。
小坂は、書きかけの一行へ戻った。
対象を絞って、次の候補を選びたい。
その下に、松井と一緒に見たいところを並べた。
今日の会議で使った比較の資料も、後ろへ付ける。
広く声をかける方を選ばなかった理由も、話しておきたかった。
西田から、短い確認が届いた。
運用の方で残す範囲は、今日の記録で井上へ伝えるという。
小坂は、承知しました、と返した。
松井へ送る連絡には、候補を一緒に見直したいと書いた。
話せる時間を確かめる一文を添え、資料を付けた。
送る前に、最初の行をもう一度読む。
対象を絞って、次の候補を選びたい。
小坂は、そのまま送信した。
お読みいただきありがとうございます。旭月です。
今回は、いつもの経営会議で、二つの試みの続きを決める回でした。
「で、君はどうするん?」
金目にとっては、何気なく尋ねた一言です。小坂には、もともと考えていた案があります。自分が選びたい方と、その理由を返す。そのあとも、使える時間や次に確かめるところを、四人で合わせていきます。
西田の案は、金目が思っていたものと少し違いました。全部を元に戻すのではなく、使えている部分は残したい。理由を聞いた金目の「ほな、その範囲でやってみよか」までを、一緒に描きたい場面でした。
会議を終えた小坂は、松井へ伝える言葉を書き直します。選んだ理由も添えて、次の仕事につなげていく。何気ないやり取りのあとに残るものを、感じていただければ嬉しいです。
引き続き、よろしくお願いいたします。




