次の予定
二月五日、月曜日。
森川紗季は、朝の確認を終えた画面を、もう一度開いた。
結果の欄へ入れた時刻を見て、手元の記録と照らし合わせる。
夜の処理が終わったのは、日付が変わってからだった。
月曜日には、週末の分もある。
同じところを見ていても、いつの結果なのかを確かめてから、次へ進む。
森川は二〇三三年の春に新卒で入社した、基盤運用課の社員だった。
井上や藤井と顧客のシステムを確かめながら、何を見て、どこまで分かったと言えるのかを覚えてきた。
手順に書かれた場所と、実際に表示される場所が違えば、一度止まって尋ねる。画面が変わったときには、手順の方も残したままにしない。
通話をつなぐと、井上の声がした。
「おはようございます。そっち、どうですか」
「おはようございます。夜間の処理は、週末分も終わっています。バックアップの方も、今朝の確認は済みました」
「はい。あと、問い合わせの返事を合わせたいところが一件あります」
「こちらも開きます」
井上から示された記録へ移る。
先週送った確認に、顧客から返答が来ていた。
森川は該当する手順を開き、どの処理についての返事なのかを合わせた。
藤井直人も通話に入ってきた。
自分の担当分を伝えてから、森川が共有している画面を見る。
「今の結果、もう一回見せてもらってええ?」
「はい。少し待ってください」
開いていた手順の後ろへ、別の画面が隠れていた。
森川は切り替え、見ていた日付を選び直した。
「こちらです」
「ありがとう。こっちは、この時間に終わってるんやね」
「はい。別の方は、ここの履歴から見るので」
次の確認先を開く。
同じように結果を見る仕事でも、表示される場所は同じではなかった。
森川が履歴をたどる間、藤井は黙って待っていた。
「……これ、見に行く前に、結果だけ並んでたらどうやろ」
藤井が言った。
「結果だけ、ですか」
「うん。今朝の分が出てるところを、先に一か所で見られたら。確かめたいところは、そこから元の場所へ戻れるようにして」
森川は、二つの確認先を並べて見た。
「どこの結果か、分かるようになってたら助かります。あと、いつの分かも」
「そうやね。昨日の結果を、今朝のつもりで見たら困るし」
井上が、共有画面の一か所を指した。
「ここは、結果だけでは終わらないですね。件数も見ていますから」
「はい。そこは、元の方で見る形でもええと思います。まず、今取れるものを並べてみたいです」
藤井は、顧客ごとの確認先を手元へ書き出した。
開発環境を整えたり、繰り返す作業を自動化したりする仕事を重ねてきた。今も、点検そのもののほかに、そこへたどり着くまでの手の動きを見ていた。
「西田さんに、使える時間を相談します。試すなら、一社からにしましょう」
井上が言った。
「お願いします」
森川は、先ほどの結果を閉じる前に、確認時刻をもう一度見た。
「さっき、開くまでに少しかかりましたね」
「あちこちにあるからなあ」
藤井が答える。
「今日見たところは、すぐ開けるようにしてたつもりなんですけど」
「それでも、別のもの開いたら、また探すやろ。僕もやる」
森川は少し笑った。
次の確認先は、手順の下の方にあった。
そこを開き、残っている点検へ戻った。
*
午前の打ち合わせには、金目、西田、高瀬、小坂の四人が入った。
高瀬が共有した表には、今月の支払いと、確認する日が並んでいた。
「こちらは、三宅さんの方でも確認できています。先方への照会が必要なものは、今日中に連絡します」
「はい。お願いします」
「一月十九日にお渡しした、一括承認の追加分ですが、正式な検収と請求を終えています。代金も契約の期日どおりに入っていて、三宅さんの方で請求額と照合済みです」
高瀬が、完了した一件を示した。
「ありがとうございます。小坂さんも、お疲れさまでした」
「はい。ありがとうございます」
金目は、自分が確認する欄へ印を付けた。
一月末に発行した大型案件の初回請求も、入金予定の方に残っている。
七百二十万円という数字の横には、確認する相手と、次に連絡する予定があった。
受け取った仕事の対価と、これから受け取る予定のもの。
高瀬と三宅が合わせている表では、その場所が分かれていた。
「開発の方は、基本設計を終えた分から、順に実装へ入ってる」
西田が工程を開いた。
「上條君と黒田さんのところで、確認先を合わせとる。先行する二拠点の準備も、既存の仕事と並べて見てるところや」
「上田君の方も?」
「うん。一課の相談が来る時間と、二課で自分が持ってた分を合わせながら進めてる。今週も、一度確認する」
「わかった」
金目は、六月までの工程を見た。
今週の打ち合わせの先にも、作って確かめる仕事が続いている。
「この仕事を、きちんと渡せるように進めたいですね。そのあとも、今までの経験が役に立つ相手を、少しずつ増やしていけたらと思ってます」
「はい。松井さんとも、そのあたりを見ています」
小坂が資料を切り替えた。
候補にしている会社と、分かっている事業の内容が、短く並んでいる。
「今の取引先以外でも、複数の営業所で仕事をしている会社を見ています。最初にお話を聞いてみたいのは、こちらの資材卸の会社です」
小坂は、会社の案内に載っている営業所を示した。
「受注や在庫の管理は、すでに仕組みを持たれていると思います。ただ、見積の確認や、変更した内容を営業所へ回すところで、別のやり取りが残っていることがありますので」
「そこを、まず聞いてみるんですね」
「はい。外から見ただけでは、どこに手間がかかっているかは分かりません。仕組みを替える話を持っていく前に、普段の仕事を伺いたいと思っています」
「ええと思います。今の仕事で分かったことも、使っていけたらええですね」
「松井さんと、最初の連絡を進めます。大本さんには、引き続き大型案件の確認を持ってもらいます」
「お願いします」
金目は、小坂の候補一覧へ目を戻した。
それぞれの会社に、まだ話したことのない人がいる。
何に困っているかも、今は分かっていなかった。
「運用の方でも、一つ試したいことがあるんや」
西田が言った。
「朝の点検で、結果を見に行く先が分かれとるやろ。あれを、一か所へ集めて見られんか、藤井君から話が出てる」
「全部の点検を、そこで済ませるん?」
「まずは、取れる結果を並べるところからやな。今の確認と照らし合わせて、どこまで使えるか見たい。井上さんとは、一社で試す話をしてる」
「今ある仕事をしながら、時間は取れそうなんか」
「そこは、井上さんと合わせる。ほかの確認を誰が持つかも見て、試せるところを決める」
高瀬が、両方の予定を開いた。
「営業の準備と運用の試行は、それぞれ使う時間を残していただけますか。今の仕事と、次に向けた分を分けて見たいので」
「はい。訪問することになれば、その時間も入れます」
小坂が答えた。
西田も、井上たちと合わせた分を共有すると返す。
金目は、次の確認日を入れた。
役員報酬の欄は、まだ変わっていなかった。
それも含めて先の見通しを合わせる予定は残したまま、今日進める仕事へ目を移した。
*
「この会社から、聞いてみましょうか」
小坂が言うと、松井は候補の資料を開いた。
資材卸会社の案内には、取り扱う品目と営業所の住所が載っていた。
どんな相手に、何を届けているのか。
二人で見ていても、分かることには限りがあった。
「受注の仕組みそのものより、その前後でしょうね」
松井が言った。
「はい。ただ、困っていると決めつけて聞かないようにしたいです」
「今、どう進めてるかから聞きます。うまく回ってるところもあるでしょうし」
松井は、最初に伝える内容を書いた。
株式会社カナメで、業務改善やシステムの開発、運用を手伝っていること。
今回、営業所間の確認や、書類を回す仕事について話を聞きたいこと。
小坂が、文面の一か所を見た。
「ここ、見積の承認って書くと、担当を絞りすぎるかもしれませんね」
「そうですね。取りまとめてる方に、まず見てもらいたいので」
松井が、少し書き直した。
何でもできるという案内にするつもりはなかった。
かといって、こちらが想像した一つの仕事しか聞けないようにもしたくない。
「このくらいで、どうでしょう」
「はい。これでお願いします」
公開されている問い合わせ先へ、内容を送った。
送信した日付を残し、次に連絡を確かめるところへ入れる。
「返事がなければ、こちらからもう一度確認します」
「お願いします。ほかの候補も、事業の内容を見ておきますね」
小坂は、次の会社の案内を開いた。
松井の画面には、既存顧客への返答が一件届いていた。
「こちら、先に返します」
「はい」
松井は送ったばかりの文面を閉じ、今来た連絡を読んだ。
相手から頼まれている資料の範囲を確かめる。
今日、返すと伝えていた仕事だった。
*
翌六日、井上は藤井たちと試す対象を合わせた。
画面には、一社分の点検項目が並んでいる。
結果を取れるもの、元の場所で読む必要があるものを、順に確かめた。
「こちらは、今ある結果を使えます」
藤井が一つ示す。
「見るときに、毎回ここから開いてます」
森川が、いつもの順番でたどった。
藤井はその動きを見て、手元に残した確認先と合わせる。
「これが先に出てたら、開くまでの分は減らせそうやね」
「はい。この後、件数を見る方へ移ります」
「その結果と、こっちで見た分が同じ日かも、分かるようにしたいですね」
安藤和彦が言った。
二〇三三年に中途で加わった、運用の経験が長い社員だった。
障害が起きたとき、何が分かっていて、どこから先がまだ分からないのかを分け、復旧までの確認を進める仕事に強い。
森川が、元の表示へ戻る。
「ここですね」
「そうです。うまく終わった分なら、結果だけ見て次へ行けるかもしれません。でも、途中で止まってたら、そこを見直しますから」
「元を開くところも、残しときます」
藤井が答えた。
安藤はうなずいてから、森川が記録した時刻を見た。
「この確認時刻は、こっちへ集めた時刻とは分けた方がええですね」
「取ってきただけで、確認したことにはならないので」
森川が言う。
「はい。そこが分かれば、あとで見るときにも助かります」
井上は、今回試す項目へ印を付けた。
結果の表示を作るだけでは、普段の点検へ置き換えられない。
まず同じものを見られるかを確かめるところまで、藤井に頼む。
そのあと、西田を交えて今週の予定を開いた。
藤井が持つ確認と、顧客へ返すもの。
井上と安藤が合わせられる時間。
森川が日々の点検で見るところ。
「この日の午後なら、一度、手をつけられます」
藤井が示した。
「こっちの確認は、安藤さんと合わせてもらえる?」
西田が井上へ聞いた。
「はい。先方へ返す内容も、こちらで見られます」
「じゃあ、そこを使おう。できたところまでで、一回見せて」
「わかりました」
藤井が予定へ書き込む。
別の仕事をする人の名前も、隣に入った。
通話を終えたあと、藤井は対象の結果を開いた。
受け取ったものを読み、日時と結果の置かれた場所を確かめる。
必要な項目を、試しの表示へ一つずつ並べていった。
夕方、藤井から短い連絡が届いた。
森川が通話をつなぐと、一社分の結果の一つが、共有された画面に出ていた。
「まだ、これだけやけど」
「あ、出ましたね」
「同じものか、元と見てもらってええ?」
森川はいつもの確認先を開いた。
日付、処理の名前、終わった時刻。
片方ずつ指して、見比べる。
「ここまでは、同じです」
藤井が、表示の端に置いた確認先を開く。
森川が見ていたものと、同じ場所が出た。
「ここから戻れるようにしてみた」
「これやと、どこを開けばいいか探さなくて済みますね」
「うん。明日も、今までの方と合わせて見ようか」
「はい」
森川は、明日の点検で確かめるところを書いた。
藤井の画面では、ほかの項目はまだ空いたままだった。
そこへ何を出すかも、一緒に見ながら決めていくことになった。
*
七日、松井のところへ、卸売会社から返事が届いた。
業務を取りまとめている担当者へ、問い合わせの内容が渡っていた。
電話でなら、少し話ができるという。
松井は指定された時間を確かめ、小坂にも共有した。
それから、最初に送った文面と、会社の案内を開き直す。
約束の時間に電話をかけると、相手は問い合わせを読んだと話した。
「全部を新しくするという話ではないんですよね」
「はい。今使われているものも含めて、普段どう進めていらっしゃるかを伺えればと思っています」
「受注と在庫は、もう使ってるものがあるんです」
「はい」
「ただ、見積を直したときなんかに、どこまで連絡したかが、分からなくなることはあります」
松井は、書きかけていた手を止めた。
「営業所ごとに、確認されるんでしょうか」
「そうです。最初に送ったものがあって、そのあと数量が変わったり、品物が一つ変わったりするでしょう」
「はい」
「変更したものを送るんですけど、その前の分で返事が来ることもあるので」
相手の声の向こうで、紙を動かす音がした。
「ああ、ちょうど、こういうやつですね」
「何か、お手元にありますか」
「先週の分が。こっちで確認が済んで、もう一か所の返事を待ってたんですけど、その間にまた変わって」
松井は、話された順番を書いた。
最初の見積。
修正したもの。
返事を待っている営業所。
そのあとに来た変更。
「先にお返事をいただいたところにも、もう一度確認されるんですね」
「はい。変更したところだけでいいときと、もう一回見てもらわないといけないときがあるんです」
「その分け方は、そちらで確かめてから回されるんでしょうか」
「こちらで見てます。分からなければ営業の担当に聞いて。それから、確認先へ回してます」
松井は、送付先だけを書いていた欄へ、間に入る仕事を足した。
同じものを順番に回しているだけではなかった。
「問い合わせにあった話を読んで、ああ、こういうところかなと思ったんです」
「ありがとうございます。今のお話ですと、実際に使われているものを見ながら伺えた方が、こちらも、順番を合わせやすいと思います」
「そうですね。口だけやと、ちょっと」
「はい。どこで何を確かめているかも、一緒に伺えれば」
相手は少し間を置いた。
また、紙を動かす音がした。
「一度、実際のものを見てもらえますか」
松井は、開いていた会社案内の隣へ、予定表を出した。
「はい。ぜひ、お願いします」
「これ、毎回、同じように手間がかかるので。何かできるんやったら、聞いてみたいです」
「まずは今の進め方を見せていただいて、こちらでお手伝いできそうなところを考えたいと思っています。弊社の小坂も一緒に伺って、よろしいでしょうか」
「はい。こちらも、実際に回してるものを用意しておきます」
松井は、訪問に使える時間帯を聞いた。
相手は来週の予定を確かめ、候補を二つ挙げた。
こちらも予定を合わせて返すと伝えてから、電話を終えた。
書き込んだ紙には、矢印が何本か増えていた。
送った先から返事が来て、その途中で別の変更が入る。
話を聞く前には、書いていなかった線だった。
*
「返事の済んだものを、もう一度開くんですね」
小坂が、松井の共有した記録を見た。
「はい。確認する内容によって、回す先も違うようです。そこは、実物を見ながら聞いた方がよさそうです」
小坂は、持っていくつもりだった資料を見直した。
会社の案内と、これまで手伝ってきた仕事を説明するもの。
その後ろへ、聞きたいことを書いた一枚を置く。
「まず、お話を聞く時間を、しっかり取りましょうか」
「はい。こちらの説明を先に長くしてしまうと、今の仕事を見る時間がなくなりますので」
二人で予定を開いた。
候補の一つには、小坂が別の顧客と合わせている時間が重なっていた。
もう一つなら、松井も訪問できる。
「この日で、お願いしましょう」
「先方へ返します」
松井が連絡を書いた。
会って、仕事を見せてもらう。
その日付と、伺う二人の名前を確かめて送った。
金目にも、簡潔な共有が届いた。
候補にしていた会社の担当者と話ができ、来週、小坂と松井で訪問することになったという。
確認する仕事のあらましも、短く添えられていた。
金目は、見積が直ったあとに回る確認の話を読んだ。
営業所がいくつあるかを見ていたときには、その間のやり取りまでは見えていなかった。
『ありがとうございます。聞けたことを、また教えてください』
返事を送り、開いていた資料へ戻る。
西田から共有された運用の試行にも、次に結果を合わせる時間が入っていた。
藤井が作ったものを、井上たちが普段の点検と並べて見ている。
金目は、自分が返す連絡を一つ確かめた。
今日のうちに返事をすると伝えていた相手だった。
内容を読み直して送り、次の予定を開いた。
小坂と松井の訪問は、その来週の欄にあった。
松井のところには、先方から返事が来ていた。
提案した日で都合がつくことと、当日、受付で伝える連絡先が書かれている。
「日程、確定できました」
小坂へ伝えると、すぐに返事が戻った。
「ありがとうございます。来週、聞いてきましょう」
松井は、予定の時刻を確定した。
その下へ、電話で聞いた確認事項を入れる。
最初に送った案内だけでは分からなかった相手の仕事が、何行か並んだ。
来週は、その続きを見せてもらえる。
松井は訪問先の住所を確かめてから、今日の残る仕事へ戻った。
お読みいただきありがとうございます。旭月です。
今回から、第六章が始まります。
五章の最後に皆で食べて笑ったあとも、それぞれの持ち場には、いつもの仕事が待っています。今回はその日常の中から、営業と運用で新しい取り組みが動き始めました。
森川や安藤も、普段どんな仕事をしているのかが少し見える回になりました。藤井の工夫と、それを使う人の声が、同じ画面の前で合わさっていきます。
松井と小坂には、新しい相手の仕事を見せてもらう約束ができました。電話で話を聞いたことで、候補一覧だけでは分からなかった仕事の流れも見えてきています。
画面に結果が一つ並び、来週の予定が一つ決まる。そんな小さな前進を、嬉しく思いながら書きました。
引き続き、よろしくお願いいたします。




