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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第五章 守りたいもの
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143/174

最初の成果

 一月二十二日、月曜日。


 上條が打ち合わせの机へ着くと、黒田は、すでに資料を開いていた。

 印刷した工程表の横に、細かな書き込みのある紙が置かれている。


「おはようございます」


「おはようございます。先週の分、予定どおり渡せたんですね」


「はい。今は、先方の確認を待ってるところです」


 上條は、自分の予定も開いた。

 十九日に渡した追加開発について、連絡があれば対応する時間を残している。

 その横に、新しい大型案件の仕事が並んでいた。


「今日は、こちらの基本設計を合わせたいです」


 年明けから集めてきた顧客の回答。

 岡元がまとめた画面の案。

 申請を受け、承認し、実際に処理した結果を本部で見るまでの流れ。


 上條は、確認を終えたところと、まだ返事が必要なところを示した。


「月末に、最初の検収ですね」


「はい。先方の責任者にも、その予定で時間を取ってもらってます。今週中に、こちらから資料を出したいです」


 黒田がうなずく。

 そのまま説明を聞くのかと思ったが、黒田は一枚、別の紙を引き寄せた。


「実際の表も、一緒に見せてもらえますか」


「はい。こちらです」


 上條は、顧客から受け取った例を開いた。


 黒田は、顧客と何を合意しているかを上條へ確かめる。

 そのうえで、作る側として気になるところを、一つずつ拾っていく。


「先行する二拠点は、新しい方へ移る。残る十拠点は、その間、この表を使うんですね」


「はい。本部では、両方を合わせて見てもらう形です」


「元の表を、こっちに合わせて全部作り直してもらう話には、してませんね」


「そこは、しないということで合わせてます。同じ内容を、二回入れてもらうこともありません」


 黒田は、表の見出しを追った。

 それから、上條が用意した基本設計の該当する箇所を見る。


「ほな、受け取ったものを、どこまでそのまま追えるかですね」


 上條はうなずいた。

 黒田が紙の端へ、確認したいことを書き足した。


     *


「例の分は、読めるところまでできてます」


 石橋拓也が、確認用に作った画面を示した。

 元の表に入っていた内容が、いくつか並んでいる。


 石橋は二〇三二年に中途で加わった、一課の社員だった。

 データの連携や移行を得意とし、資料だけを見続けるより、小さく動かして確かめる方が早い。

 手が動き始めると、周りが思うより先まで進んでいることもある。


 上條は、元の表と、石橋が表示した結果を見比べた。


「今、どの分が入ってるんですか」


「こちらの二つです。まだ、確認用に借りた例だけですけど。項目の対応は、ここで分けてます」


 石橋は、資料の該当箇所も開いた。

 黒田が、元の表の一列を指す。


「この番号、拠点ごとに振ってるんですか」


「申請番号ですか?」


「はい。こっちにも、同じ番号がありますよね」


 石橋が、もう一方の表を開いた。

 同じ番号がある。

 内容は違っていた。


「……ほんまですね」


「同じ申請を、両方へ載せてるんかもしれませんし。拠点の中だけで番号を付けてるんかもしれません」


 黒田が言った。

 石橋は、作りかけの処理へ戻ろうとして、いったん手を止めた。


「先に聞いた方がええですね」


「うん。あとで本部の人が見て、元のどれかわからんようには、したくないので」


 上條は、同じ番号が載っている例を控えた。

 大本へ聞いてもらいたいことをまとめる。


 同じ番号が、何を意味しているのか。

 元の申請を探すとき、先方は何を手がかりにしているのか。


 石橋が、画面の端へ拠点の欄を出した。


「番号だけで、ひとまとめにするのはやめときます。元の分は、残したまま見られるようにします」


「はい。先方の返事が来たら、ここも設計へ合わせましょう」


 上條が答えた。

 黒田は、別の例を一つ開く。


「石橋さん、ここ、もう読めてるんですね」


「はい。その形式は、同じように受けられました」


「ほな、そこは使えますね。番号のところが決まれば、次の確認もできそうです」


 石橋が、少し身を起こした。


「わかりました。例、もう一つ足しときます」


 上條は、自分の一覧へ結果を書き込んだ。

 止めたところと、進んだところが、別々に残った。


     *


 大本のもとには、本部の取りまとめ担当者から、回答が届いていた。

 一月十日に窓口と返答の予定を合わせ、それから順に、各拠点へ確かめてもらっていたものだった。


 大本は、上條から届いた質問を、その一覧へ加えた。

 以前に返事をもらった内容で分かるところはないか、先に確かめる。


 承認した数と、実際に処理を終えた数は分ける。

 本部で見る実績には、処理を終えた分を使う。

 そこは、十二月に合わせた内容のまま、資料へ反映されていた。


 今回確かめたいのは、その数字の元になった申請を、どう見つけるかだった。


「この返事が来たら、次はどこまで進められますか」


 大本が上條へ尋ねると、上條は、設計資料の該当する箇所を示した。


「元の申請と、こちらで受け取った分の対応を決められます。ここが曖昧やと、本部から、どの申請ですかって聞かれたときに、追い直すことになるので」


「先方で、新しく番号を付け直してもらう必要はありますか」


「今のところ、その必要がない形で考えてます。まず、今の番号が、どこまで同じものを指すかを知りたいです」


 大本は、質問文を短く直した。

 表の全体を、もう一度説明してもらう依頼にはしない。

 確認したい二つの例を添え、同じ番号の意味と、普段の探し方を尋ねる。


 小坂に見てもらってから、本部へ送った。


 翌日、回答が戻った。

 申請番号は、各拠点の中で付けている。

 本部から確かめるときは、拠点を指定して、その番号を伝えていた。

 例に挙げた二件は、それぞれ別の申請だった。


 大本は、その回答を上條へ送った。

 ただ転送する前に、先方が添えた一文へ印を付ける。


『今の番号で問い合わせができるようにしておきたいです』


 上條が返事を見て、うなずいた。


「これで、合わせられます」


「設計の確認で見ていただくときも、この二件を例にしてよいか、確かめています」


「ありがとうございます。石橋さんと、結果を見られるようにします」


 上條が、石橋の席へ向かった。

 大本は、回答の一覧へ確認済みの印を付ける。


 返事が来た。

 そのことだけでなく、返事によって、次の仕事が進んだ。

 大本は、基本設計の確認日程へ目を移した。


     *


 坂口直樹は、元の表と、作りかけの確認用の処理を交互に見ていた。

 拠点と申請番号を使って、表示した結果から元の申請をたどる。

 自分が担当する部分について、いくつか調べたいことが残っていた。


 坂口は、杉浦と同じ二〇三二年の新卒だった。

 入社したときは、柴崎から社内の仕事や確認の進め方を教わった。

 今は、既存の処理を調べ、自分の担当するところを実装する機会も増えている。


 分からないことが出ると、まず自分で探す。

 その姿勢は、調査を任せるうえでは助かる一方、聞けば済むことまで長く抱える原因にもなっていた。


「坂口君、どこまでは分かりました?」


 黒田に声をかけられ、坂口は顔を上げた。


「あ、はい。こちらの例は追えるんですけど。別の表やと、同じ番号のところがあって」


「うん。それ、先方から返事が来ました」


 黒田が、上條から共有された回答を開いた。

 坂口は、拠点ごとに番号を付けているという説明を読む。


「ほな、別の拠点の分は、分けて見ていいんですね」


「はい。そこは、これで決まりました。今、調べてくれた方は、どうですか」


 坂口は、自分の記録を開いた。

 どの項目を使えば、元の表のどこに対応するか。

 表示した結果から戻るために、何を残しておく必要があるか。


 黒田は、途中で口を挟まずに聞いた。


「ここまで、追えてるんですね」


「はい。ただ、こっちの意味が、まだ分からなくて」


「それは、表を見続けても、決められへんところかもしれませんね」


 黒田は、上條へ確かめる項目を一つ挙げた。

 そのうえで、坂口が調べた部分へ戻る。


「今、分かってるところで、ここは作れますか」


「はい。ここまでなら、できます」


「ほな、そこをお願いします。残ってる質問は、こちらで合わせましょう」


 坂口は、手元へ戻った。

 調べていたものが無駄になったわけではなかった。

 答えが出ていない一箇所を横へ置くと、自分が進められる範囲が見えた。


 近くでは、杉浦が照合に使う例を並べていた。

 石橋が取り込んだ結果と、元の表を見比べる。

 坂口が用意した画面から、該当する申請を開き直す。


「これ、同じ番号の方も入れてます?」


 杉浦が聞くと、坂口がうなずいた。


「うん。こっちは別拠点の分」


「ほな、両方見ます」


 杉浦が、確認するところへ印を付けた。

 坂口も、自分の担当へ戻る。


 上條は、四人の結果を設計資料へ合わせていった。

 作る予定のものと、今、動きを確かめるために用意したものは分けて記す。

 岡元へは表示の案に関わる点を返し、中野にも、予定していた確認の時間で、試験に使う例を見てもらう。


 十九日に渡した仕事の確認について、小坂から連絡が入ると、杉浦がいったん席を離れた。

 柴崎へ記録の場所を伝え、戻ってくる。

 その間に、石橋は自分の担当を進めていた。


 全員が、同じ仕事だけをしているわけではなかった。

 それぞれの予定を合わせたところで、少しずつ、同じ成果物へ集まっていった。


     *


 一月二十六日、金曜日。


 小坂と大本が、先方へ送る資料を確かめていた。

 上條は、確認項目と成果物の対応を示す。


 各拠点の申請を、誰が、どの段階で確かめるか。

 承認した結果と、実際に処理を終えた結果を、どう分けて扱うか。

 先行する二拠点が移ったあと、残る十拠点の表を、本部でどう合わせるか。


 画面の案だけではなく、その前後の仕事も、資料の中でつながっていた。


「先方から残っていた質問は、こちらで回答しています」


 大本が、一覧を示した。

 小坂は、その内容を読んでから、上條へ顔を向ける。


「三十日は、この内容で最終の確認をお願いする形ですね」


「はい。事前に見ていただいて、気になるところがあれば、先に返していただきたいです」


 西田も、資料へ目を通していた。


「次に実装へ入る範囲は、ここで合わせられるな」


「はい。今、確認用に動かしたところは、そのための例として見てもらいます」


「わかった。例だけ見て、全部できたと思われへんようにな」


「そこは、最初に説明します」


 上條が答えた。

 上田は、二課から返した設計の箇所を見ている。

 岡元と確認した内容について、一点補足し、上條と資料を合わせた。


 小坂が、先方へ送るものを揃えた。

 大本は、確認責任者と、当日参加する実務担当者へ届くことを確かめる。


 送信を終えると、上條は椅子へ座り直した。

 まだ、検収を受けたわけではない。

 けれど、出せるものは、揃った。


 黒田が、自分の紙へ短く書き込んだ。


「坂口君のところ、当日も見せられますね」


「はい。本人にも、出てもらおうと思ってます」


「そうですね。自分で説明してもらいましょうか」


 上條は、坂口へ当日の予定を送った。


     *


 一月三十日、火曜日。


 打ち合わせが始まる前、坂口は、自分の担当する箇所を開き直していた。

 資料と、確認用の画面。

 説明する順に並べておく。


「さっきも見てたやん」


 杉浦に言われ、坂口は少し笑った。


「見てたけど」


「同じとこ?」


「同じとこ」


 杉浦が、横から画面を見た。


「番号の違う方も、残してるで」


「うん。ありがとう」


 坂口は、最後に一つ、開けることを確かめた。

 上條から声がかかり、会議室へ向かう。


 顧客側には、本部の確認責任者と、実際に集計を行っている担当者が入っていた。

 事前に資料へ目を通してもらい、月曜日に届いた質問への回答も送っている。


 小坂が、今日の確認範囲を伝えた。


「基本設計の成果物について、こちらの項目に沿って、最終のご確認をお願いします」


 先方の責任者がうなずく。

 大本は、顧客側で確認してもらった業務上の条件を示した。


 十二月に合意したことが、年明けの回答でどこまで具体的になったか。

 本部で集約してもらった返事が、設計のどこへ反映されたか。


 実務担当者が、自分の手元の資料にも印を付けた。


「こちらからお返しした分は、これで入っていますね」


「はい。拠点ごとの確認結果は、こちらへ対応を残しています」


 大本が答えた。

 上條は、その先の処理の流れへ説明をつないだ。


 申請を受け、承認するところ。

 実際に処理を終えた結果を記録し、本部で見るところ。

 途中で確認が必要になった場合、誰がどの情報を見られるか。


 顧客の仕事をたどる順に、資料を開いていった。


 先行する二拠点と、従来の表を使う十拠点についての説明へ入ると、実務担当者が口を開いた。


「この数字、どこの何を足したか、見られます?」


 上條は、担当者が示した欄を確かめた。


「はい。元の申請まで確認できる形で設計しています。こちらは、その対応を確かめるために用意したものです」


 黒田が、隣へ顔を向ける。


「坂口君、そこ、お願いします」


「はい」


 坂口が、画面を切り替えた。

 用意していた結果が開く。


「こちらは、確認用にお借りした表の一部を取り込んだものです。まず、拠点ごとの内訳を見ていただけます」


 声が、少し硬かった。

 坂口は、開くところへ指を置き直す。


「ここから、その結果の元になった申請を見られます」


 一覧が開いた。

 同じ番号が、二つ並んでいる。

 それぞれに、違う拠点が付いていた。


「こちらは、番号が同じですが、別の拠点の申請です。本部の方からいただいた回答に合わせて、元の拠点と番号を残しています」


 実務担当者が、手元の表を見た。


「ああ、この二件ですね」


「はい。一方を開くと、こちらの申請です」


 坂口が開いた内容と、担当者が見ている表が一致する。

 もう一方を開く。

 番号は同じでも、内容は違った。


「問い合わせるときは、今までと同じ番号でよいわけですね」


「はい。拠点と、この番号で確かめていただけます」


 坂口は、自分の資料を一度見た。

 説明するつもりだったことのうち、すでに相手が確かめたところへ印を付ける。


「表の中で、どの項目を受け取ったかも、こちらの対応で確認できます」


 担当者は、別の欄を指した。


「では、ここに出ている分も、同じように戻れるんですね」


「はい。そちらも、例を用意しています」


 坂口が切り替える。

 杉浦と確かめた別の例が出た。

 元の申請をたどり、対応する項目を示す。


 担当者は、しばらく手元の資料と見比べていた。

 坂口は、次の言葉を待った。


「今、合わないところが出たら、表を一枚ずつ開いて探してるんです」


「はい」


「これなら、問い合わせる前に、こちらでどこまで見ればいいか、分かりますね」


 担当者が、隣の責任者へ顔を向けた。


「確認する人にも、同じところを見てもらえます」


 責任者は、画面を見ていた。


「二拠点が先に移ったあとも、このたどり方を使えるということですね」


「はい」


 上條が答えた。

 確認用の画面から、基本設計の資料へ戻す。


「新しい方へ移った拠点と、表を使っている拠点について、それぞれ元になる情報を追えるようにします。今ご覧いただいたのは、その対応の一部を確かめたものです」


 黒田が、次の工程で実装する範囲を補足した。

 石橋が用意した取込みの結果と、坂口が説明した部分が、資料のどこにあたるかを示す。


 担当者は、今見た動きと、これから作るものを照らし合わせていた。


「わかりました。こちらが受け持つ確認も、この予定で進めます」


 小坂が、次の段階の確認日程へ印を付ける。

 大本も、相手の答えを記録した。


 坂口は、画面の共有を上條へ戻した。

 椅子へ座り直すと、膝の上で握っていた手に気づいた。

 ゆっくり開き、手元の資料をそろえた。


     *


 確認は、そのあとも続いた。

 画面の案について、岡元がまとめた内容を上條が説明する。

 処理の結果をどう見分けるか、どの段階で確かめるかについても、資料を合わせる。


 先方から事前に出ていた質問には、回答した内容を添えていた。

 その場で確認できたものから、双方で印を付ける。


 最後の項目を終えると、小坂が確認結果を読み上げた。

 今回、基本設計として渡す成果物。

 合意した業務の流れと、対象の範囲。

 次の工程で実装し、先行する二拠点と本部で確かめること。


 顧客の責任者は、実務担当者へ顔を向けた。


「こちらから出した確認は、揃っていますか」


「はい。資料で回答いただいた分も含めて、確認できました」


 責任者が、自分の資料へ目を落とした。

 上條は、口を開かずに待った。

 黒田も、紙を机へ置いている。


 大本の手が、記録の最後の欄で止まっていた。


「では、この内容で、基本設計は検収とします」


 責任者が言った。


「次の工程をお願いします」


 上條は、顔を上げた。

 小坂が、礼を伝える。


「ありがとうございます。検収の記録については、このあとお送りする内容をご確認いただく形でよろしいでしょうか」


「はい。こちらでも、今日の日付で進めます」


 対象の成果物と日付を、もう一度合わせた。

 次の連絡と、先方で必要になる準備も確かめる。


 終了の挨拶をし、画面が切れた。


 大本が、記録の最後へ文字を入れた。

 小坂は、先方へ送る検収の記録を開く。


 上條は、工程表を見ていた。

 最初の区切りまで、来た。

 年末に注文を受けたとき、紙の上に引かれていた線が、実際に終えた仕事へ変わっていた。


「……お疲れさまでした」


 坂口が言った。

 少し遅れて、自分でも声が出たことに気づいたような顔をする。


 上條が笑った。


「お疲れさま。説明、ありがとう」


「いえ。途中、代わってもらおうかと思いました」


 坂口が、黒田へ顔を向ける。


「自分で確かめたところやろ」


 黒田が言った。


「ちゃんと答えられてたやん」


「……はい」


「こっちも見られますか、って聞かれたところも、出せてたし」


「あれは、杉浦が別の例も残してくれてたので」


「ほな、あとで言うときましょう」


 坂口はうなずいた。

 机の上の資料を閉じるとき、ようやく少し笑った。


 大本が、上條へ記録を示した。


「番号のところ、先方の回答と、今日見ていただいた例を、こちらで合わせて残します」


「ありがとうございます。次の確認でも使えると思うので」


「はい。今日の説明で、何を見ていただくか、僕もよく分かりました」


 大本は、坂口にも礼を言った。

 坂口は、また少し背筋を伸ばした。


     *


 一月三十一日、水曜日。


 三宅は、顧客から戻った検収の記録を、契約書と照らし合わせていた。

 対象となる成果物と、確認した日付。

 基本設計を終えた段階の、請求条件。


 小坂と内容を確かめてから、最初の請求を作る。


 税抜きで、七百二十万円。

 三千六百万円の契約の、最初の二割だった。


 金目は、三宅から届いた連絡を開いた。


『基本設計の検収を確認しました。契約条件に沿って、初回の請求を発行します』


 添付された記録を読む。

 顧客が確認した成果物が、並んでいた。


 年末、受注したという連絡をもらったときも、うれしかった。

 ただ、その時点では、これから引き受ける仕事があった。

 その仕事の最初の区切りを、社員たちが形にした。


 金目は、机から立ち上がった。

 三宅へ、記録を確認したと伝える。

 請求を出したあとに確かめる予定も、合わせた。


 それから、上條たちのいる方へ向かった。


「昨日の確認、ありがとうございました」


 上條が顔を上げる。


「はい。こちらこそ、ありがとうございました」


「検収の記録も、戻ってきたんですね」


「はい。先方の確認した日付と、対象も合っています」


 小坂が答えた。

 金目はうなずいた。


「三宅さんにも、最初の請求を進めてもらってます」


 石橋が、近くの席から顔を上げた。

 杉浦も、坂口の方を見た。


「この仕事を、ここまで持ってきてもらえて、うれしいです」


 金目が言った。

 言いながら、昨日の打ち合わせに出た人だけを見ないように、少し顔を動かした。


「ありがとうございました」


 上條が、手元の資料を置いた。


「黒田さんに、実際の表から見てもらえたのが、大きかったです。石橋さんが動かした分で、確かめられたところもありましたし」


「元の例が、先に揃ってたので」


 石橋が答えた。


「返事も、早くもらえましたから」


 大本が、少し頭を下げる。


「本部の方で、まとめていただけたので。確認したいところも、例を出してもらえて助かりました」


 杉浦が、坂口へ顔を向けた。


「昨日、あっちの例も使ったんやろ」


「うん。助かった。聞かれたところ、そのまま出せたから」


「ほな、よかった」


 杉浦は、少し笑った。

 坂口も、昨日開いた画面へ目を向ける。


 金目は、そのやり取りを聞いていた。

 誰か一人が、全部を知っていたわけではなかった。

 確かめる人がいて、返事をもらう人がいて、作って見せる人がいた。

 自分のところへ届いた検収の記録には、その仕事が重なっていた。


 黒田が、上條の工程表を指した。


「次の分、こちらの確認からでええですね」


「はい。設計で合わせたところから、担当を分けて進めます」


「わかりました」


 黒田は紙へ短く書き込み、それから金目へ顔を向けた。


「次の分も、きっちり仕上げましょう」


 少し笑っていた。

 特別に力の入った言い方ではなかった。

 けれど、金目は、その言葉を聞いてから、一度うなずいた。


「はい。お願いします」


 上條が、次の工程を開いた。

 大本は、小坂と顧客へ送る連絡を合わせている。

 石橋が坂口へ声をかけ、杉浦も自分の記録を持って椅子を寄せた。


 金目は、そこから少し離れた。

 席へ戻る途中で、西田と目が合った。


「最初、通ったな」


「うん」


 金目は答えた。

 それから、もう一度、上條たちの方を見た。


「……うれしいな」


「せやな」


 西田も、同じ方を見た。

 少しして、上田を呼び、翌日からの担当について話し始める。


 金目は、自分の席へ戻った。

 三宅から、請求を発行したという連絡が届いていた。

 まだ、入金ではない。

 その予定を確認する仕事も、このあとに続いている。


 それでも、今日、請求できた仕事は、確かにあった。


 金目は、検収の記録を閉じた。

 次に開いた二月の予定には、社員たちが合わせた仕事が並んでいた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


大型案件が、最初の検収を迎えました。


黒田が気づき、石橋が動かし、坂口と杉浦が確かめる。その仕事を上條がつなぎ、大本と小坂が顧客との合意へ結びつけました。一人ずつの仕事が、会社として受け取ってもらえる成果になった回です。


坂口にとっては、自分の担当を、自分の言葉で説明できた日でもありました。終わってから、ようやく笑えた時間を、大事に描きたいと思いました。


そして、金目と西田の「うれしいな」「せやな」。社員たちの働きを見ながら、二人がそう言えるところまで来られたことが、私もうれしかったです。


次回で、第五章「守りたいもの」を締めくくります。

引き続き、よろしくお願いいたします。

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