約束の日に
一月十五日、月曜日。
上條は、今週の予定を開いた。
十九日の午後に、顧客との確認が入っている。
申請を選び、まとめて承認する。
昨年十二月に注文を受けた追加開発を、渡す日だった。
「柴崎さん、先週の続き、見てもええですか」
「はい。確認した結果、こちらにまとめてます」
柴崎が、画面を上條の方へ向けた。
実装した箇所と、それぞれの試験結果が並んでいる。
途中で見つかった不備には、修正した内容と、確かめ直した結果が付いていた。
上條は、順に目を通した。
今回渡す範囲について、作り終えていないものは残っていない。
「選んだあとに変更された分は?」
「承認されずに残ります。理由も、ここから見られます」
柴崎が、該当する例を開く。
上條は処理の結果を見てから、確認に使った申請をたどった。
「杉浦君が、途中で変える分も用意してくれてます」
「ああ。これか」
画面の端に、試験に使う番号が書き込まれていた。
変更前と変更後を、取り違えずに追えるようになっている。
上條が隣の席へ声をかけると、杉浦祐介が顔を上げた。
「この分、選んだあとで直してるんやな」
「はい。変更された分は、残ってます」
杉浦は二〇三二年の春に新卒で入社した、一課の社員だった。同じ課の坂口とは同期で、柴崎の一年後輩にあたる。
初めの頃は、指示された手順で動きを確かめる仕事が多かった。今は実装も担当し、その処理を確かめるために、どんなデータが必要かを自分で考えるようになっている。
細かい条件を一つずつ確かめることは、苦にしない。
ただ、説明は、確かめた本人にだけ通じる短さになることがあった。
「どのタイミングで変えた分ですか?」
柴崎が尋ねる。
杉浦は、自分の画面を見た。
「……選んでから、承認する前です」
「申請した人の画面で?」
「はい。こっちを開いて、内容を変えてます」
杉浦が、二つの画面を並べた。
承認する人が選んだ申請と、申請した人が変更した内容。
操作した順番も、記録に残っている。
「ありがとうございます。当日、その順番も説明できるようにしたいので」
「ああ、そういうことですか」
杉浦は、記録の上へ短い説明を足した。
柴崎がその画面を見て、うなずく。
上條は、手元の一覧へ目を戻した。
試験で使ったものを、先方に見てもらう順に並べ替える。
全部を一つずつ説明すれば、確かに詳しくはなる。
けれど、それでは先方が仕事で使う順番が、途中で見えなくなりそうだった。
「十九日は、普段どおりに承認できる分から、触ってもらいましょうか」
「はい。そのあと、変更されて残る分ですね」
「うん。最後に、残った分をどうするかまで」
柴崎が、説明する項目を動かした。
上條も、その横へ確認したいことを書き足した。
*
午後、柴崎は確認用の環境で、当日使う操作を通していた。
杉浦が用意した申請のうち、いくつかは同じように承認できる。
一つだけ、選んだあとに内容を変えておく。
まとめて承認すると、結果が分かれた。
承認できたものと、確認し直す必要があるもの。
それぞれの状態が、画面に残る。
「ここで、変更されているため承認できません、と出ます」
柴崎は、説明の言葉を口にした。
「その申請は、もう一度内容を確認していただいて……」
上條は、画面を見ていた。
柴崎が、該当する申請を開き直す。
変更された内容を見て、現在の状態で判断し直す。
先に合意した流れどおりだった。
「ここ、先方にも操作してもらえますね」
「はい。確認用の申請なので、触っていただけます」
「説明したら、いったん戻して、同じようにしてもらおうか」
柴崎は、説明用の資料へ目を移した。
処理結果の見方は書いてある。
そのあとに必要になる操作も、続けて載せていた。
「一回、こちらで全部見せてからですか?」
「……全部見せたあとやと、同じことを二回する感じになるかな」
上條は、少し考えた。
自分たちは、どこに何が出るかを知っている。
結果の見方も、残った申請への戻り方も、何度も確かめた。
初めて使う人が、説明を聞いたあと、同じ順に動けるかは別だった。
「最初の承認は、先方にしてもらって。途中で止まったら、こちらで説明する方がええかもしれませんね」
柴崎がうなずく。
「それでしたら、資料を読む順番も少し変えます」
「操作の説明は、そのまま使えると思います。最初に全部読まなくても、必要なところを見てもらえるように」
上條は、書きかけた確認順を見た。
少し離れたところで、上田が打ち合わせを終え、席へ戻ってきた。
*
「上田君、今、少し聞いてもええかな」
「はい。何ですか」
上條は、十九日に使う例と、考えている確認順を示した。
「動きの方は、試験を終えてる。変更された申請が承認されずに残るところも、予定どおりになってるんやけど」
残った申請を、自分で開き直してもらう。
その流れを、どの順番で説明すればよいか。
上條は、相談したいところを伝えた。
上田は、手元の予定を確かめてから、隣の椅子を引いた。
画面をのぞき込み、上條の説明を聞く。
「先方で使うのは、いつも承認されてる方ですよね」
「うん。その方と、課長にも見てもらう」
「ほな、一回、ご本人に触ってもらった方が、わかると思います」
上田は、画面の結果が出るところを指した。
「前に、二課の別の仕事で、説明してる間は皆さんうなずいてくれはったんですけど。実際に使うときに、次どこを押すんやったか、ってなったことがあって」
「ああ」
「こちらが操作すると、止まるところまで先に進めてしまうんですよね」
上條は、柴崎が開いていた画面を思い出した。
変更された申請の理由を見て、その申請を開き直す。
自分たちには、一続きの操作になっている。
「残ってるのを見つけてもらうところも、飛ばしてしまいそうやな」
「はい。実際に、どこを見はるか、こちらもわかりますし」
上條は、確認順の一部を書き直した。
最初に、何を確かめるための例かを伝える。
操作してもらう。
必要なところで説明し、最後に同じところへ戻れるかを見てもらう。
「これで、一回合わせてみる。ありがとう」
「いえ。十九日、もう今週ですもんね」
「うん。先方も、月末までに使い方を確かめたいって言うてはるから」
上田は、予定表の十九日を見た。
「そのあとの確認の時間も、置けてますね」
「はい。先方から連絡があったら、柴崎さんと見られるようにしてる」
「わかりました。もし他の確認と重なりそうなら、早めに教えてください」
上條は礼を言い、席へ戻った。
上田の予定に、新しい仕事を丸ごと置いてきたわけではなかった。
聞きたかったところの答えを、自分の担当へ持って帰る。
柴崎へ確認順を示すと、柴崎も、自分で書いた説明を動かした。
「ここは、最初にこちらから答えを言わない方がいいですね」
「うん。ただ、試すために黙ってる感じには、したくないので」
「はい。わからなければ、その場で聞いていただけるようにします」
話を合わせてから、上條は西田へ、試験結果と引渡しまでの予定を送った。
処理の確認を終えた範囲。
説明に使う例。
十九日と、そのあとの確認に必要な担当者の時間。
西田からは、結果の一箇所について質問が返ってきた。
上條は該当する記録を開き、柴崎と確かめて答えた。
「わかった。これで進めよう」
確認を終えた西田が言った。
「当日、先方で確かめる分が増えたら、残る時間も合わせてな」
「はい。今の範囲で終わる分と、別に相談する分は、分けておきます」
上條は、自分の予定へ戻った。
十九日の欄に、担当者と確認するものが揃っていた。
*
一月十八日、木曜日。
小坂から、先方の参加者と、当日使う例について連絡が入った。
窓口の担当者だけでなく、普段承認を行っている社員も参加する。
以前、変更された申請を終わったと思ってしまうと困る、と話していた課長も同席する予定だった。
「確認する内容は、こちらで合わせていたものから変更ありません」
小坂は、上條と柴崎へ資料を示した。
「先方の業務で確かめていただく分も、明日、改めてお願いします」
「はい。こちらでご説明したあと、触っていただけるように準備しています」
柴崎が答えた。
小坂はうなずき、引渡し後の連絡について確かめた。
上條は、今回の範囲を見た。
一括承認の追加開発。
以前相談された、絞り込み条件を保存する機能は含まれていない。
その点も、先方と同じ内容になっていた。
確認を終えると、杉浦が用意したデータを、もう一度、初めの状態へ戻した。
柴崎が操作し、杉浦がその順番を見ている。
「これ、先方が別のを選んでも大丈夫ですか」
杉浦が尋ねた。
「はい。こちらの説明に使う分は、この番号ですけど、ほかの確認用の分も使えます」
「わかりました。こっちの番号も、載せておきます」
杉浦は、当日使う一覧の横へ、別の例を書き足した。
柴崎が、結果の見方まで確かめる。
上條は、二人が確認するところを見ていた。
説明を自分の言葉に直したくなる箇所は、あった。
けれど、柴崎の説明でも、必要なことは伝わっている。
杉浦が気づいた点も、その場で確認できていた。
「あとは、最初の状態に戻しておいてもらえますか」
「はい」
柴崎が答えた。
上條は、終えた確認へ印を付けた。
夕方、金目が明日の予定を尋ねに来た。
上條が準備したものと、当日の分担を伝える。
「操作の説明は、柴崎さんにお願いするんですね」
「はい。処理の条件や、先方の確認については、僕から補足します」
「わかりました。お願いします」
金目は、柴崎にも声をかけた。
「明日、よろしくお願いします」
「はい。よろしくお願いします」
柴崎が答えてから、資料の最初を見直した。
上條は、その横で翌日の予定を開く。
準備は、終わっていた。
何か残っている気がして同じ一覧を見直すのをやめ、上條は画面を閉じた。
*
一月十九日、金曜日。
約束の時間になると、画面の向こうへ、顧客の会議室が映った。
小坂が挨拶をし、参加者を確かめる。
金目も頭を下げた。
上條は、手元の資料を開いていた。
横では、柴崎が確認用の画面を準備している。
「本日は、追加した承認操作について、ご確認をお願いします」
小坂が、今日の内容と、このあと先方で確かめてもらう予定を伝えた。
課長がうなずき、隣に座る社員へ顔を向ける。
「普段、実際に触ってるのは、こちらなので」
「よろしくお願いします」
担当の社員が、少し椅子を寄せた。
先方の画面にも、確認用の申請一覧が開いている。
柴崎は、自分の資料へ一度目を落とした。
「まず、いつも承認していただいている流れで、申請の内容をご確認いただけますか。今日は、確認用に用意したものを使っていただきます」
「はい」
担当者が、申請を開く。
項目へ目を通し、一覧へ戻る。
そのあと、次の申請を開いた。
上條は、相手が操作するところを見ていた。
自分たちが用意した順とは、少し違う。
担当者は、一覧の並びを確かめながら、普段の仕事と同じように進めているらしかった。
「内容を確認できたものを、選んでいただけます」
柴崎が伝える。
担当者が選び、表示を確かめる。
「これで、まとめて承認するんですね」
「はい。お願いします」
操作のあと、処理の結果が出た。
担当者が、少し顔を近づける。
「……あ、もう終わったんですね」
「はい。今回選んでいただいた分は、承認されています」
担当者は、一覧へ戻り、それぞれの状態を見た。
隣の課長にも、画面を示す。
「今までやったら、ここから、もう一件ずつ戻ってたんです」
「確認するのは、一件ずつ必要なんやな」
「そこは、今までどおりです。ただ、確認したあとに、また同じ操作を繰り返さなくてよくなるので」
担当者が、少し笑った。
「月末、これが続くと、結構あるんですよ」
金目は、画面の向こうの二人を見ていた。
十二月に、年内から使えないかと聞かれたことを思い出す。
そのとき、渡せる日として伝えたのが、今日だった。
柴崎が、次の確認へ進んだ。
「続いて、選んだあとに、申請の内容が変わった場合をお願いします」
先方は、指定した例を開いた。
内容を確認し、一覧で選択する。
柴崎が、申請した側の画面で、確認用の内容を変更した。
「こちらで、申請内容を変更しました。この状態で、承認をお願いできますか」
担当者が操作する。
今度は、すべてが同じ結果にはならなかった。
「一つ、残りましたね」
「はい。その申請は、選んでいただいたあとに、内容が変わっているためです」
柴崎が、表示されている理由を示した。
担当者は、その文字を読み、少し手を止める。
「これ、もう一回、まとめて押したらええんですか?」
柴崎は、すぐには画面を切り替えなかった。
「変更された内容を、先にご確認いただけますか。今、選んでいただいたときとは、内容が違っていますので」
「ああ、そうか。見てない方を、承認してしまうんですね」
「はい。そのまま通らないようにしています」
担当者が、残った申請を開く。
先ほど見た項目と、現在の内容を見比べた。
「ここが、変わったんですね」
「はい。今の内容をご確認いただいたうえで、改めてご判断いただく形になります」
担当者は、項目をもう一度読み、確認用の申請を承認した。
一覧へ戻る。
今度は、状態が変わっていた。
課長が、画面をのぞき込む。
「途中で直された分を、前の内容のまま通したと思わんで済むわけですね」
「はい。承認できたものと、確認が必要なものは、結果を分けて見ていただけます」
上條が答えた。
どの時点で確かめ、どういう場合に残すか。
先に合意した条件と、今見てもらった結果を、つないで説明する。
「これ、全部通らなかった場合も、同じように見られますか」
「はい。それぞれの申請について結果が出ます。今回、別の例も用意していますので、ご確認いただけます」
上條は、杉浦が一覧へ足した番号を示した。
柴崎が、その例で確かめる順を伝える。
担当者は、もう一度、自分で操作した。
今度は、結果が出てから、理由を見つけるまでが早かった。
そのまま申請を開こうとして、隣の課長へ顔を向ける。
「これなら、終わってない分を、終わったと思わずに済みますね」
課長がうなずいた。
「うん。残った分を、そのまま忘れんようにせなあかんな」
「はい。ここを見てから、次へ行くようにします」
柴崎は、手元の資料へ小さく印を付けた。
上條も、先方の言葉を書き留める。
確認項目に書かれた言葉を、順に読み上げてもらったわけではなかった。
相手が自分の仕事として、次にすることを話している。
上條は、次の項目へ進む前に、一度、顔を上げた。
「今の流れで、ほかに確かめておきたいところはありますか」
担当者が、自分の手元の紙を見た。
普段、どの順で処理しているか。
月末には、何をまとめて見ているか。
その中から、二つ、質問が出た。
上條は、柴崎と画面を確かめながら答えた。
どちらも、今回用意した範囲で確認できるものだった。
小坂が、先方で続けて使ってもらう際の連絡先を伝える。
確認した内容と、このあと先方で確かめることを分けて残した。
上條は、時計を見た。
予定していた時間の中で、必要な確認を終えられていた。
*
「前にお話しした、絞り込みを残しておく方なんですけど」
最後に、課長が言った。
小坂が顔を上げる。
「はい。今回の追加とは分けていた方ですね」
「ええ。まず、今日のを使ってみて。そのあとで、そちらも相談していいですか」
「もちろんです。使ってみて、どの条件をよく使われるかも、伺えればと思います」
担当者が、隣でうなずいた。
「今も、その都度選べば使えるので。しばらく、どれを使ったか見ておきます」
「ありがとうございます」
小坂は、先方の業務確認後に連絡する予定へ、その相談も書き足した。
今ここで、何日までに作るかを決める話にはならなかった。
顧客も、まず使ってみるものと、そのあとに相談するものを、自分たちで分けている。
金目は、そのやり取りを聞いていた。
また仕事を頼んでもらえるかもしれない。
そのことは、うれしかった。
それと同じくらい、今日渡したものを、これから使うものとして話してもらえたことが、うれしかった。
小坂が、このあとの確認日程を改めて合わせた。
先方で確かめた結果を受け、必要な対応を行い、正式な検収へ進む。
今日で、そのすべてが終わるわけではない。
「では、こちらでも確認を進めます」
課長が言った。
「十九日ということでお願いしてましたから、予定どおりで、助かりました」
上條は、背筋を伸ばした。
「ありがとうございます。引き続き、よろしくお願いいたします」
柴崎も、隣で頭を下げる。
挨拶を終え、画面が切れた。
少しの間、誰も話さなかった。
それから柴崎が、長く息を吐いた。
「……触っていただけて、よかったです」
上條が、柴崎の方を見る。
「うん。最初、もう一回押したらええか、って聞かれたところな」
「はい。こちらで操作していたら、そのまま開いてたと思います」
「自分で見てもらえたから、次の例は、迷わず進んではったね」
柴崎がうなずいた。
資料の端には、先方から出た質問が書かれていた。
自分が説明するつもりだった言葉とは、少し違う。
その違いも、次に使えるものになっていた。
金目が、二人へ顔を向けた。
「予定どおり渡してもらえて、助かりました。ありがとうございます」
「いえ。こちらこそ、ありがとうございました」
上條が答えた。
「操作してはるとき、だいぶ早くなったって、喜んではりましたね」
「はい」
柴崎が答える。
それから、少し笑った。
「あそこ、何回も確かめたので。そう言っていただけて、よかったです」
「ええ仕事をしてもらいました」
金目が言った。
柴崎はもう一度頭を下げ、開いていた画面へ目を戻した。
*
打ち合わせの記録をまとめてから、柴崎は杉浦へ声をかけた。
「今日の確認、終わりました」
「あ、お疲れさまです」
杉浦が顔を上げた。
「あの、別の例も用意してくれたじゃないですか。あれ、説明するときに役立ちました」
「全部残る方ですか」
「はい。先方から、全部承認できなかったらどうなるか、聞かれたので」
「ああ」
杉浦は、少し椅子を回した。
「あっちも、使ったんですね」
「はい。ご本人に操作していただきました」
「ほな、よかったです」
杉浦の表情が、少し緩んだ。
柴崎は、顧客がどこで手を止め、何を聞いたかを伝えた。
杉浦は自分の記録を開き、該当するところを見る。
「選ぶところから見せてないと、途中で変わったの、わかりにくいですよね」
「そうですね。杉浦君に、どの順番で変えたか、聞いておいてよかったです」
「……最初、説明、短かったですもんね」
杉浦が言うと、柴崎が笑った。
「記録は、ちゃんとあったので」
「次、そこも最初に書いときます」
杉浦が、試験に使った一覧へ短い説明を足した。
柴崎は、その横へ先方の質問を残す。
当日のために用意したものが、次に確かめる人にも使える形になっていった。
上條は、二人のやり取りを聞きながら、西田へ結果を送った。
予定どおり引き渡したこと。
当日の確認で、新たな不備は見つからなかったこと。
先方の業務確認が続くことと、その連絡を受ける予定。
返事を確かめてから、上田にも声をかけた。
「十九日の分、渡せました」
「お疲れさまです。先方に触ってもらう形で、いけました?」
「うん。先方から出た質問も、記録に残せた」
上田が、小さくうなずく。
「ありがとう。助かった」
「いえ。確認の続きも、予定どおりですね」
「はい。そこは残してます」
上條は自分の席へ戻った。
十九日の引渡しへ、完了の印を付ける。
その先には、顧客から連絡を受ける時間がある。
そこを消さずに、翌週の予定へ進んだ。
新しい大型案件の工程を開く。
実装を担う黒田と、担当する範囲や、その前に確かめておくことを合わせる予定が入っていた。
黒田誠司は、二〇三三年に中途で加わった一課の技術者だった。
カナメでの在籍は上條より短いが、業務システムの開発経験は長い。既存の処理を読み解き、複雑な条件を一つずつ実装へ落としていく仕事を得意としている。
新しい案件では、実装側の軸として力を借りることになっていた。
上條は、確認する項目を一つ足した。
今日、先方が自分で操作して初めて出てきた質問を思い出したのだった。
近くを通った金目が、声をかける。
「もう、次の分ですか」
「はい。来週、黒田さんと合わせるので。今のうちに、一つ書いとこうと思って」
「そうですか」
金目は、上條の画面を見た。
今日までの仕事と、そのあとに続く仕事が、同じ予定の中に並んでいる。
「今日は、お疲れさまでした」
「ありがとうございます」
金目が自分の席へ戻る途中で、柴崎と杉浦の声が聞こえた。
確認用のデータを、どこへ残しておくか。
先方から質問が来たら、どの記録と合わせるか。
少し話して、二人はそれぞれの仕事へ戻っていった。
金目も、椅子を引いて座った。
小坂から、引渡し後の連絡予定が届いている。
その日付を、自分の予定へ入れた。
十九日に渡す。
そう伝えた仕事を、今日、渡した。
予定表の中で、一つの仕事が終わっていた。
金目はその印を見てから、翌週の欄を開いた。
お読みいただきありがとうございます。旭月です。
今回は、約束していた日に、作ったものをお渡しするお話でした。
自分たちでは何度も確かめた操作でも、初めて使う方の手に渡ると、思っていなかった質問が出てきます。そのやり取りを経て、ようやく相手の仕事につながっていくのだと思います。
柴崎にとっては、目の前で喜んでもらえた時間。杉浦にとっては、自分の用意したものが役立ったと、あとから聞けた時間でした。
上條も、必要なところで相談しながら、一つの仕事をやり切りました。
大きな出来事ではなくても、予定表に一つ、完了の印を付けられる。その積み重ねを、少しうれしく感じていただけたら幸いです。
次回もよろしくお願いいたします。




