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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第五章 守りたいもの
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年を越す

 十二月二十五日、月曜日。


「入金を確認できました」


 高瀬が、金目へ記録を示した。

 先月、検収を終えた申請管理の案件だった。


 金目は、予定として見てきた日付と、その横に付いた確認を見た。

 請求書を送り、先方の受付も確かめた。

 それから、今日まで、入る予定のお金として置いていた。


「こちらの分ですね」


「はい。請求した内容と照合しています」


「……ありがとうございます」


 金目は、椅子の背から体を起こした。

 三宅からも、確認したと連絡が届いている。


「給与の方も、支払いを確認しています」


 高瀬が、別の記録を開いた。

 今日は、通常の給与日だった。


 金目は、日付を見た。

 入ったお金と、支払ったお金が、それぞれの記録にある。

 先週受注した大きな仕事は、これから始めるものだった。

 その金額が、今日の口座へ入ったわけではない。


 それでも、今月の給与を払えた。

 先月作って渡した仕事の対価も、受け取れた。


「三宅さんにも、お礼を伝えてきます」


「はい。年内の残る支払いも、このあと確認します」


 高瀬は、次の期日を開いた。

 金目も、年末までの予定を確かめる。


 あと何日かで、多くの社員が仕事納めを迎える。

 その手前に、入金済みと支払済みの記録が残った。


     *


 十二月二十九日、金曜日。


 午前中、三宅が、年末の手続きを金目と確認した。


「三名とも、退職日は三十一日付で合意しています」


 金目は、並んだ日付を読んだ。

 最終出勤日は、それぞれの予定で調整している。

 すでに挨拶を交わした人もいた。


 金目は、一人ずつ話したときの顔を思い出した。

 年内に渡す仕事と、そのあとに残る確認を聞いた。

 これまでの仕事への礼も伝えた。


「こちらから必要な連絡は、揃っているんですね」


「はい。退職後の手続きについても、引き続き確認します」


「お願いします」


 三宅は、現在の在籍と、年明けの見込みを並べた。


 二十八名。

 二十五名。


 金目はうなずいた。

 今日いる人数と、来年始める体制は、まだ別の欄にあった。


 高瀬からも、確認結果が届いた。

 今日までに期日を迎える年内の支払いは、終えている。

 退職に伴う精算など、これから期日が来るものは、その先へ残されていた。


「こちらも、午後にお伝えします」


 金目は、報告資料へ確認した内容を入れた。


 出ていくお金が減り、既存の仕事から入るものがある。

 手元の資金も使いながら、支払いを続けてきた。

 その間に、頼ってきた人たちが会社を離れた。


 今年の最後の報告へ、どこまでを入れるか。

 金目は、資料を最初から読み直した。


     *


 基盤運用課では、井上が年末年始の連絡先を確かめていた。

 金目も、当番と連絡経路を見せてもらう。


「こちらから、必要な場合に連絡します」


 井上が、確認したところを示した。

 当番の人が見るものと、判断が要るときに連絡する先がある。


「お願いします。交代の方とも、合わせてもらってるんですね」


「はい。確認しています」


 井上が答えた。


 去年も、年末年始の監視は続いた。

 今日の夕方に挨拶をしても、すべての仕事が止まるわけではなかった。


「納会の方は、入れるところで来てください」


「はい。こちらを合わせてから、顔を出します」


 金目はうなずき、自分の席へ戻った。

 社員へ送ってある案内を開く。

 午後の全社報告と、そのあとの納会は、別に書かれていた。


 納会は、参加できる人で。

 報告へ入れない社員には、資料と質疑の記録を共有する。


 金目は、開始時刻を確かめてから、机の上を片付けた。


     *


 午後、画面に社員たちが並んだ。

 事務所で一緒に聞いている人も、別の場所から入っている人もいる。


「今年最後の状況報告を始めます」


 金目は、資料を開いた。


「まず、十二月の給与と、本日までに期日を迎えた年内の支払いは、終えています」


 確認した日付を示す。

 十一月に検収を終えた案件の入金も、二十五日に受け取れたと伝えた。


 次に、人員の見込みへ移る。


「現在の在籍は、二十八名です。退職を申し出た三名について、十二月三十一日付での退職となります。年明けは、二十五名で始める見込みです」


 個人の事情を、資料へ並べることはしなかった。

 引き継ぐ仕事については、関係する担当者と確認を続けている。

 その状況を伝え、金目は来年の工程を開いた。


 先週受注した、十二拠点の業務をまとめる仕組み。

 一月から六月までの開発が入っている。


「こちらは、開始に向けた確認を進めています。先に持っている仕事も含めて、担当する方の予定を合わせています」


 一月十九日に渡す予定の追加開発も、別に残っていた。

 金目は、今決まっているところまでを示した。


 社内の仕事の見直しについても、短く報告する。

 やめた内部の転記は、そのまま止めている。

 ほかの対象を見直すところと、確認を受けられる時間ができたかを確かめるところは、続けている。


「役割の移し方についても、今の仕事を持ったまま足すことにならないよう、本人と合わせて進めます。正式に決まった内容は、関係する方へお伝えします」


 西田の暫定兼務と、今の各課の体制を確認した。

 役員報酬の返上は継続しており、再開の時期はまだ決めていないことも伝える。


 画面の向こうで、資料を読む人がいた。

 金目は、質問を受ける時間を取った。


 年明け、最初に誰と何を確かめるか。

 先方から返事が来た場合、どこへ連絡するか。

 西田と小坂も、必要なところへ答えた。


 確認の済んだ項目を、三宅が記録へ残す。

 金目は、最後の質問へ返してから、資料を閉じた。


「今年は、何度も、まだ決められていないとお伝えしてきました」


 金目は、画面へ顔を向けた。


「今も、来年へ残っているものがあります。その中で、今月の支払いを終え、新しく頼んでいただける仕事も決まりました」


 少し間を置く。


「日々の仕事を続け、確認し、引き継いでくださって、ありがとうございました」


 画面の中で、何人かが顔を上げた。


「一年、ありがとうございました。業務でこのあとも入ってくださる方には、引き続きお願いします。それぞれの予定に合わせて、年末年始を過ごしてください」


 金目は頭を下げた。

 挨拶が返り、参加者が一人ずつ画面から抜けていく。


 報告用の資料を閉じると、少し離れたところから、箱を動かす音が聞こえた。


     *


「金目さん、そちらの飲み物、お願いできますか」


 福原が、オープンスペースから声をかけた。


「はい。こっちですね」


 金目は、机の下へ置かれた箱を持ち上げた。

 テーブルの端へ運ぶと、福原が空けていた場所を示す。


「ありがとうございます。残りは、こちらで大丈夫です」


 紙の皿と、箸が並んでいた。

 軽く食べられるものが置かれ、飲み物を取れる場所もある。

 椅子を少し動かすと、普段は通り道になっているところへ、人が集まり始めた。


 金目は、空になった箱を畳んだ。


「金目さんも、先に何か取ってください」


「はい。福原さんは?」


「こちらを置いたら、いただきます」


 福原が、最後の皿をテーブルへ置いた。

 金目は、自分の分と一緒に、取り皿を一枚渡す。


「ほな、一緒に取りましょう」


「ありがとうございます」


 福原が笑った。


 報告を聞いていた社員が、鞄を持って通りかかった。


「今日は、このまま失礼します」


「はい。お疲れさまでした」


 金目は、箱を脇へ寄せた。


「よいお年を」


「よいお年を」


 その人が出ていくと、別の社員がテーブルへ来た。

 飲み物を選び、隣にいる人へ皿を渡している。


 普段は画面越しに話すことの多い相手へ、顔を見て声をかける人もいた。

 去年も使った場所だった。

 集まっている顔ぶれは、同じではなかった。


「金目さん、一言、お願いします」


 声をかけられ、金目は飲み物を持った。

 集まった人たちが、こちらを向く。

 さっき画面越しに挨拶した顔も、近くにあった。


「皆さん、今年一年、ほんまにお疲れさまでした」


 金目は、ゆっくり見回した。


「今年は、皆さんに苦労をかけました。仕事の予定を変えてもらったことも、なかなか返事を出せずに、待ってもらったこともありました」


 紙の皿を持ったまま、聞いている人がいた。

 金目は、自分の手元へ一度目を落とした。


「今日、こうして顔を見て、一年のお礼を言えるところまで来られました」


 続けようとして、少し言葉を探した。

 用意した資料は、もう閉じている。


「……ありがとうございました。皆さん、ほんまに、お疲れさまでした」


「金目さんも」


 近くから声がした。


「お疲れさまでした」


 別の声も返った。

 金目は顔を上げ、小さくうなずいた。


「はい。ありがとうございます。ほな、乾杯しましょうか」


「乾杯」


 飲み物を持った手が上がった。

 近くの人と軽く合わせる音と、お疲れさま、という声が重なる。


 金目も、西田と飲み物を合わせた。

 西田が、少しだけ笑う。


 最初の一口を飲むと、誰かが、ああ、と長く息を吐いた。


「今年、長かったですね」


「ほんまやな」


 金目は、その返事を聞きながら、自分も息をついた。

 皿を取る音がして、話し声が戻ってくる。

 もう一つ食べるかと尋ねられた人が、うなずいていた。


     *


 藤井が、井上と話していた。

 金目が近くへ行くと、二人が少し場所を空けてくれる。


「金目さん、こちら、どうぞ」


「ありがとうございます」


 金目は、皿を持ち替えた。

 藤井が、机の方へ目を向ける。


「小川さんがいた頃の記録、今も開くんです」


「はい」


「前に誰へ、どんな返事をしたか。自分も一緒に見ていたはずなんですけど、読み直すところがあります」


 金目はうなずいた。

 十一月、小川が渡してきた仕事が、今も続いている。


「本人がおったら、先に聞いてしまいそうやな」


 井上が言った。


「そうですね。聞けば、どこに置いたかもわかりますから」


 藤井は、少し笑った。


「今は、こちらで探して、続きを残しています」


 金目は、小川と挨拶を交わした日の顔を思い出した。

 次へ進む用意をしながら、最後までこちらの仕事を確認していた。


「向こうでやりたい仕事があると、話してましたね」


「はい」


 井上が答えた。


「そっちへ進みたいという話は、聞きました」


 藤井が、手元の飲み物へ目を落とした。


「こちらも、渡してもらった分を続けています、と言えるようにしたいです」


「……そうですね」


 金目は答えた。

 今どうしているかは、ここで確かめられることではなかった。

 次に話す機会があれば、聞きたいと思った。


 井上が、テーブルに残っている唐揚げへ箸を伸ばした。


「これ、先に食べといた方がええで。なくなりそうや」


 藤井も皿を出した。

 金目は、残っているところから自分の分を取る。


 少し向こうで、上條と柴崎が話していた。

 岩田の名前が聞こえ、金目は顔を向けた。


「前に見てもらったところ、確認の記録を先にそろえるようになりました」


 柴崎が言った。


「変更したところだけやなくて、どう確かめたかも、やな」


 上條が答えた。

 金目が声をかけると、二人が顔を上げる。


「岩田さんとのレビューの話ですか」


「はい。十一月に見ていただいた分です」


 柴崎が答えた。


「自分が説明するときも、あの順番で出そうと思って」


「そうですか」


 金目は、二人が普段開いている資料を思い浮かべた。

 書いた人がいなくなったあとも、読まれているものがある。

 教えてもらったやり方を、次の仕事で使っている人がいる。


「また、どこかで話せたらええですね」


 金目が言うと、上條がうなずいた。


「はい。今度はこちらから、進めたところも話したいです」


 柴崎も、少し笑った。

 そのあと、食べるものを取りに行こうと、二人でテーブルの方へ向かった。


     *


 小坂のところには、何人かが集まっていた。

 大本も、隣で皿を持っている。


「発注の連絡が来た日、金目さん、すぐ小坂さんのところへ行ってましたね」


 近くにいた社員が言った。

 金目は、輪のそばで足を止めた。


「見られてましたか」


「はい。何か決まったんかなと思いました」


「書類は開いたんですけど、顔を見て聞きたくなりまして」


「決まったんですね、って」


 大本が言った。

 小坂が、金目を見る。


「はい。そのあと、取れましたね、と」


「同じこと、聞いてますね」


 金目が言うと、大本が笑った。


「僕も、連絡を何回か読みました。全体の発注なんやな、と思って」


「私もです」


 小坂も笑った。

 金目は、机の前に立って話した日のことを思い出した。

 書類に同じ案件名があるとわかっていても、もう一度確かめたくなった。


「ほんまに、うれしかったんです」


 金目は言った。


「小坂さんも、大本さんも、お疲れさまでした。何度も先方と話してもらって」


「ありがとうございました」


 小坂が頭を下げた。

 大本も、少し照れたように礼を返す。


「開発で見てくださった皆さんも、お疲れさまでした」


 小坂が、近くの上田たちへ顔を向けた。

 上田がうなずく。


「こちらこそ。決まって、よかったです」


「来年は、いよいよ作る方ですね」


 大本が言うと、横から西田が入ってきた。


「その前に、今日は食べる方やろ」


 大本が、自分の空いた皿を見た。


「あ、ほんまですね」


「話してる間に、なくなるで」


 西田がテーブルを示した。

 小坂も、皿を持ち直す。


「では、いただきます」


 大本が、何を取るか、小坂へ尋ねている。

 上田も、その後ろへ続いた。

 金目は、来年の確認を始めずに、その背中を見送った。


     *


 テーブルの端で、松井が西田と話していた。

 金目も、飲み物を置いて隣へ立つ。


「お二人も、正月は少し休めますか」


 松井が尋ねた。


「用事がなかったら、休むつもりやで」


 西田が答える。

 それから金目を見る。


「こっちは、どうやろな」


「僕も、休みますよ」


「ほんまか」


 西田が言い、松井が少し笑った。

 金目も、口元を緩めた。


「予定だけ見直して、ずっと開いてるようにはせんつもりです」


「そうしていただけると」


 松井が言った。


「報酬のこともありますし、普段の仕事もありますので。お二人とも、休めるときには休んでいただきたいです」


 金目は、すぐには返さなかった。

 報告のときには、返上を続けていると伝えた。

 今は、その資料を誰も開いていない。


「……ありがとうございます」


 金目は答えた。

 西田も、短く礼を言う。


「皆さんも、予定どおり休んでください」


「はい。私は、そのつもりです」


 松井が答えた。

 西田が、うなずいて飲み物を取る。


 少し離れたところで、帰る時刻を相談する声が聞こえた。

 もう少しして出る人と、先に帰る人がいる。

 金目は、壁の時計へ目を向けた。


「何時まで、おられるんですか」


 松井が尋ねた。


「片付いたところで、帰ろうと思ってます」


「では、先に食べておいた方がいいですね」


「そうですね」


 金目は、皿に残っていたものを口へ運んだ。

 まだ温かさの残る味がした。


「金目さん、こちら空いてますよ」


 福原が、椅子を少し引いた。


「ずっと立っておられますから。いったん座って食べてください」


「ああ、ありがとうございます」


 金目は、皿をテーブルへ置いて腰を下ろした。

 背もたれへ体を預けると、思っていたより深く息が出た。


 福原も、自分の皿を持って座る。


「準備、ありがとうございました。福原さんも、お疲れさまでした」


「はい。お疲れさまでした」


 福原が答え、箸を取った。

 金目も、残っていた一口を食べた。

 隣では、松井が休みの間にしたいことを話している。

 金目は、それを聞きながら、飲み物を両手で持った。


     *


 しばらくすると、帰り支度をした社員が増え始めた。

 皿を片付け、鞄を持って、近くにいる人へ挨拶する。


「お先に失礼します。よいお年を」


「よいお年を」


 金目も、その声へ顔を上げた。


「お疲れさまでした」


 帰る社員が、少し立ち止まった。


「今年も、お世話になりました」


「こちらこそ。ありがとうございました」


 金目は答えた。

 ほかにも言いたいことがある気がした。

 けれど、その人は鞄を持ち、これから向かう先があった。


 金目は、よいお年を、ともう一度返した。


 井上が、途中で一度、自分の席へ戻っていた。

 戻ってくると、藤井へ短く声をかける。

 二人は確認を終えてから、残っていた食べ物を取った。


 金目が近づくと、井上が顔を上げた。


「連絡の確認だけ、してきました」


「ありがとうございます」


 金目は答えた。

 大丈夫かと同じことをもう一度尋ねる代わりに、井上が取ろうとしていた皿を渡した。


「こちら、まだありますよ」


「ああ。ありがとうございます」


 井上が受け取った。

 藤井も、飲み物を選び直した。


 人が集まっていたところから、少しずつ隙間ができていく。

 それは、今日帰っていく人がいるからだった。


 金目は、空いた皿を重ねた。

 福原が、残すものと片付けるものを分けている。


「こちら、僕も運びます」


「ありがとうございます。そちらの袋へお願いします」


 金目は、言われた方へ皿を持っていった。


     *


 納会が終わり、テーブルの上から食べ物が片付いた。

 飲み物を置いていた場所を拭き、動かした椅子を戻す。


 三宅が、自分の机へ戻る途中で声をかけた。


「金目さん、今日の報告資料と質疑の記録は、共有しています」


「ありがとうございます。お疲れさまでした」


「お疲れさまでした」


 三宅は、机の上を確かめてから鞄を持った。

 金目も、自分の席へ戻る。


 年明けの予定を、一度だけ開いた。

 最初に顧客と合わせることと、社内で確かめることが入っている。

 新しい大型案件も、一月十九日に渡す仕事もあった。


 金目は、予定を閉じた。

 会社の資料を、共有している場所へ戻す。

 手元へ出していた紙も、机の中へしまった。


「そろそろ帰るか」


 西田が、鞄を持って立っていた。


「うん」


「年明けの件、また予定のところで合わせよう」


「そうしよう」


 金目は、自分の鞄を手に取った。

 西田は、すぐには歩き出さなかった。


「……今年、長かったな」


「ほんまやな」


 金目は、西田の顔を見た。

 六月に、最初の知らせを確かめたときも、この人と話した。

 そのあと、何度も同じ机で、次にどうするかを考えた。


「お疲れさま。いろいろ、持ってもらったな」


「お前も、お疲れさま」


 西田が答えた。

 金目はうなずいた。

 すぐに次の話を探さず、鞄の持ち手を握り直した。

 さっきまで人がいたオープンスペースに、普段の通り道が戻っている。


 窓の外は、もう暗かった。

 金目は上着を着て、襟元を直した。


 今月の給与を払い、待っていた入金も確認できた。

 来年に作って渡す仕事がある。

 そのことを社員へ伝え、食べるものを囲んで話せた。


 金目は、机の端に手を置いた。

 それから手を離し、通路へ出る。


「お疲れさまでした。よいお年を」


 まだ残っている人へ声をかけると、挨拶が返った。


 西田と一緒に、事務所の出口へ向かう。

 金目は扉を開け、外へ出た。


 廊下の空気が、頬に少し冷たかった。

 鞄を持ち直し、家へ帰る方へ歩き始めた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


カナメも、仕事納めを迎えました。


辞めた仲間の話をしたり、取れた仕事を喜んだり、食べるものを勧め合ったり。厳しい一年を過ごしてきた人たちが、同じ場所で少し息をつく時間を描きました。


金目は皆へお礼を伝えますが、金目自身にも「お疲れさま」が返ってきます。福原に勧められて座るところや、西田と短い言葉を交わすところには、ようやく一年を終えた実感を置きたいと思いました。


来年へ持ち越す仕事も、判断も残っています。それでも今日は、互いを労い、「よいお年を」と言って帰る。


その挨拶ができたことを、大切にして閉じました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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