次の半年
十二月十八日、月曜日。
「こちら、最終のご提案に進めたいです」
小坂が、金目の机へ資料を持ってきた。
大本も、確認用の一覧を持って隣へ立っている。
表紙には、十二拠点の業務をまとめる仕組みの開発と書かれている。
金目は、営業の一覧から同じ案件を開いた。
以前から付き合いのある顧客の担当者を通じて、紹介された会社だった。
小坂が訪ね、実際に使っている表や、本部での確認の仕方を聞いてきた。
見積もりを出したあとにも、何度か返事をもらっている。
そのたびに、開発側へ確かめることと、先方で決めてもらうことを合わせてきた。
「先方の予算の確認も、進んだんですね」
「はい。今週、最後の条件を合わせて、決裁へ回したいと伺っています」
小坂が、変更した箇所を示した。
金目は、その横の金額へ目を止めた。
三千六百万円。
消費税を含める前の、開発全体の金額だった。
期間は、来年一月から六月まで。
金目は、表紙へ一度戻った。
それから、作るものと工程を順に読んだ。
「まだ、気にされてるところは、どこです?」
「先行して使う二拠点と、ほかの十拠点の結果を、本部でどうまとめるかという点です」
小坂が、先方から届いた質問を開いた。
各拠点では、必要な申請を表へ入れ、責任者が内容を確かめていた。
承認した結果と、そのあとに実際に行った分を、本部へ送る。
本部では十二拠点の表を開き、同じ項目を並べ直していた。
項目の呼び方が違う。
数字を入れる欄も、少しずつ違う。
届いたあとで、何の数字なのかを尋ね直すことがある。
「二拠点から始める形は、先方でも考えていただいています。ただ、その間の本部の仕事が、かえって増えないかと」
金目は、先行する拠点と、後から移る拠点を見比べた。
先に二つが変わる。
残る十の仕事も、その間、続いている。
「ここは、こちらも案を見てもらってましたね」
「はい。元の表から受け取る項目と、確認が必要な違いを、担当の方にも見ていただいています」
「ほな、今回は、本部の方にも、そこまで見てもらいたいですね」
「その予定です。実際に集計されている方にも、入っていただけます」
小坂が答えた。
大本が、持ってきた一覧を開く。
「それと、こちらも先方に確かめたいです」
同じ実績という名前の欄が、二つ並んでいた。
大本は、それぞれの表に添えられた説明を示した。
「こちらは承認した月で数えています。こっちは、実際に処理を終えた月です。このまま同じ欄へ入れると、合計は出ても、同じものを数えたことにはならないと思います」
金目は、二つの説明を読んだ。
数字の形だけを合わせれば、並べることはできそうだった。
「これ、先方には聞いてもらってますか」
「小坂さんと合わせて、確認をお願いしています。本部で必要なのは、どちらの分かと。ただ、拠点ごとの説明だけでは、まだ全部を揃えられていません」
大本が、確認済みのところを示した。
空いているところも残っている。
「呼び方が違うものだけまとめていましたが、大本さんに、数える時期も並べてもらいました」
小坂が言った。
「当日は、この一覧で本部の方にも確かめます。大本さんも、一緒に説明してください」
「はい」
大本がうなずいた。
金目は、本部で集計する流れへ目を戻した。
「一緒に出せるだけやなくて、何を足してるかがわからなあきませんね。ここも、お願いします」
大本は、確認する欄へ印を付けた。
金目は、三人で入る打ち合わせの予定を開いた。
*
西田と上田が、開発の工程を並べていた。
金目と小坂も、隣へ資料を出した。
最初に要件を確認し、基本の設計をまとめる。
作ったものを先行する二拠点と本部で使ってもらい、結果を確かめる。
そのあと、残る十拠点へ広げる。
一月に始めて、六月に全体を渡す。
線を一本引けば、その間が埋まるわけではなかった。
「一月は、先にこちらの確認から入るんやな」
金目が尋ねると、西田がうなずいた。
「うん。最初から四人で同じ作業をする形やない。先方と確認する人と、設計を進める人を先に置く。実装へ入るところで、こっちの担当を合わせる」
中心になる四人の欄には、それまでに終える仕事と、残す確認が入っていた。
上田も、二課の予定を隣へ出す。
「こちらは、今の案件の確認が済んでから入れます。その前に必要な資料は、別の担当と分けて準備します」
「十九日に渡す分は、そのまま進められるんやな」
金目は、先日受注した一括承認の追加開発を示した。
「はい。そちらの作業と確認の枠は、残しています」
西田が答えた。
金目は、二つの予定が同じ人のところへ重なっていないか、順に確かめた。
年末に退職を希望している三人は、来年の実施体制へ入れていない。
まだ在籍している人数と、来年の仕事に置ける人は、同じ欄にはなかった。
「試験と、移すときの確認は、どこに入る?」
「こちらです。中心の四人だけで、全部を持つ計算にはしていません」
上田が、工程の下を示した。
確認する内容と、そのために入る人の時間がある。
西田が見るところも、期間を区切って置かれていた。
金目は、必要な費用の見積もりも開いた。
作る時間のほかに、試験、移行、本部と拠点での確認が入っている。
「先行してる間に、ほかの拠点の分を合わせるところも、こちらですね」
「はい。今使われている表を受け取り、必要な項目を合わせるところまで見ています」
小坂が、提供してもらった資料の一覧を示した。
大本がまとめた、項目ごとに何を数えているかの確認も、その中にある。
受け取り方がまだ決まっていないものは、最終打ち合わせで確認することになっている。
「全部の表を、何でもそのまま読める、という約束にはしてないな」
「はい。対象の形式と項目は、こちらで合わせます。そこから変更される場合の扱いも、確認事項に入れています」
金目はうなずいた。
各拠点の事情が違うことを、聞いたまま全部引き受ける見積もりではなかった。
同じところへそろえるものと、そのために相手にも決めてもらうものを分けている。
「この形なら、先方と話せますね」
小坂が言った。
西田と上田が、残る確認事項へ目を通した。
金目は、最終提案の資料を開いた。
どこまで減らせるかを探すために、その金額を見ているのではなかった。
この仕事を、取る。
作って渡せる形で、頼んでもらう。
金目は、先方へ尋ねることを、小坂ともう一度合わせた。
*
十二月十九日、火曜日。
顧客の本部へ入ると、小坂が窓口の担当者へ挨拶した。
金目も、その隣で頭を下げる。
大本が続いて挨拶し、確認用の資料を机へ出した。
会議室には、現場を取りまとめる課長と、実際に集計している担当者も来ていた。
机の上に、拠点ごとの表が並んでいる。
「前回のお話を踏まえまして、導入の順番と、本部で確認していただくところをご説明します」
小坂が資料を開いた。
先行する二拠点は、同じ使い方のところだけを選んでいなかった。
申請するものが多いところと、確認の仕方に違いがあるところ。
先方と相談し、最初に確かめたい運用がある拠点を選んでいた。
「この二つを見れば、全部が同じと考えていいんでしょうか」
課長が尋ねた。
「いえ。残る拠点の違いも、こちらで先に整理します。先行では、実際に入力し、承認して、本部で結果を見る流れを確認していただきます」
小坂が、確認する範囲を示した。
後から展開する拠点の担当者にも、早い段階で確かめてもらう項目がある。
課長はうなずき、本部の担当者へ目を向けた。
「私が気になっているのは、こちらなんです」
担当者が、自分の表を開いた。
「二拠点は新しい方から出る。残り十拠点は、今の表で来る。その間、本部では、両方を開いて、またまとめるんでしょうか」
金目は、担当者が示した欄を見た。
十二拠点の結果が、一つに並んでいる。
先行する二つだけを、ここから外すことはできなかった。
「毎月、締める日がありますので。二拠点だけ新しくなっても、こちらで見るのは、十二拠点全部なんです」
「はい」
金目がうなずいた。
「先に使い始めるのは二拠点ですが、本部では、十二拠点分を見られる形で進めます」
小坂が、用意した案へ切り替えた。
新しい仕組みから出る結果と、未移行の拠点から受け取る表が並んでいる。
「残りの拠点では、移るまでは今の入力を続けていただきます。その結果も、本部で合わせて確認できるようにします」
担当者が、図の中の十拠点の部分を見た。
「今の表を、こちらへ入れるということですか」
「はい。そのために、受け取る項目と形式を、先に合わせたいです」
小坂が、既に受け取っていた例を開いた。
拠点ごとに違う呼び方をしている項目に、対応する欄を示してある。
大本が、二つの説明を並べた資料を示した。
「先日伺ったこちらの実績は、承認した数ではなく、実際に処理を終えた分でよろしかったでしょうか」
「そうです。承認されても、翌月へ持ち越すものがあります」
担当者が答えた。
「そこが混ざると、また各拠点へ聞くことになるので」
「ありがとうございます。では、こちらの表で承認した分を数えているところとは、分けて扱う必要がありますね」
大本が答えた。
担当者が、二つの説明を読み比べる。
「この分は、承認した数も別に見たいです。ただ、実績の合計には入れません」
「はい。承認の状況と、終えた分を分けて、ほかの拠点にも確認します」
大本が、回答を一覧へ残した。
それから、課長へ目を向ける。
「先に使っていただくときも、本部でこの二つを分けて見られることを、確認の項目に入れたいです。新しい画面へ入力できたというだけでは、今の締めの作業を変えられるか、判断できませんので」
課長が、先行導入の説明を見直した。
「本部でも、今の月次集計と照らして確認するということですね」
「はい。どの数字を確かめれば、今のやり方から移れると判断できるかを、先に合わせたいです」
大本が、実績の欄を示した。
「その結果まで見られるなら、二拠点から始める理由も説明できますね」
課長が言った。
小坂がうなずき、本部で確認する項目を資料へ合わせた。
ただ欄の名前を同じにする話ではなかった。
その欄へ、どの時点の何を入れているかを合わせる。
担当者は、自分が使っている表と並べて読んだ。
「これなら、今こちらで聞き直しているところも、先に確認できますね」
「はい。ほかの拠点にも、同じところを伺います」
金目は、課長へ目を向けた。
「拠点ごとに確認する方を、こちらと合わせてもらえますか。本部の方だけで、全部答えていただく形にはしたくないんです」
「それは、こちらから依頼できます」
課長が答えた。
「最初に、何を準備すればよいかも、出していただけますか」
「はい。今回の資料に、お願いしたいものと、確認したい時期を入れています」
小坂が、次の一枚を示した。
*
「では、残りが移るまで、本部で全部まとめ直す必要はないんですね」
担当者が、もう一度尋ねた。
「はい。対象を合わせた表の結果を、先行する拠点の分と、一緒に確認できるように作ります」
金目が答えた。
「そのための準備と確認も、今回の範囲に入れています」
「こちらで新しい方へ、もう一度全部入れるのかと思っていました」
「同じ内容を、拠点の方に二回入れてもらう形も、考えていません」
小坂が付け加えた。
課長が、担当者と短く話した。
先行する拠点の切り替えと、本部が月を締める手順を確かめている。
「この形なら、途中でも使い始められそうです」
担当者が言った。
「ただ、表の方を、途中で変えることはあると思います。今も、必要な項目が増えることがありますので」
「その場合は、変更の内容を合わせてから対応する形にしたいです。受け取る側も変わることがありますので」
小坂が、変更を相談する手順を示した。
範囲を定めたまま進めるために、先方にも窓口を置いてもらう。
「各拠点から、直接違う依頼が来る形にはしない方がいいですね」
課長が言った。
「本部で一度まとめます」
「ありがとうございます」
金目が礼を返した。
相手にも、引き受けてもらう仕事があった。
次に、工程を確認した。
最初に基本の設計をまとめ、どんな動きと結果を確認するかを合意する。
開発してから、先行する二拠点と本部で実際に使う。
そこで確かめた内容を反映し、六月までに残りへ展開する。
先行して使う時期も、資料の提供と確認の時間を置いた工程で合わせた。
年明け、すぐ全員が使えるという話ではなかった。
説明の途中、課長が金額のページを開いた。
「三千六百万円で、ここまでということですね」
「はい。税抜きで、その金額です。対象とする開発、移行、操作のご説明の範囲は、こちらにまとめています」
小坂が、見積もりの内訳を示した。
追加する場合には、改めて相談する項目もある。
課長は、隣の担当者と費用の欄を見た。
金目は、説明を足さずに待った。
この金額なら、やってもらえるか。
その言葉が来るかもしれないと思った。
けれど、課長が次に開いたのは、段階ごとの確認事項だった。
「基本設計を確認したところで二割。先行で使えるところまで確認して四割。全体を終えて残り四割ですね」
「はい。それぞれの成果物を確認いただいてから、ご請求する条件です」
「確認する担当は、こちらで決めておきます」
課長が、予定の一部へ印を付けた。
「本部の扱いが、今日のお話で整理できました。この内容で、決裁へ回します」
金目は、課長の手元を見た。
今説明した資料が、次に社内で使うものへ移っていた。
「ありがとうございます」
小坂が頭を下げた。
金目も、礼を伝えた。
*
会社を出ると、小坂が鞄から予定を取り出した。
大本も、先ほどの回答を書いた一覧を開く。
先方へ送り直す資料と、回答が必要な項目を確かめる。
「最後の確認、こちらで合わせます」
小坂が言うと、大本が尋ねた。
「今日決まった数え方で、残っている拠点の確認も進めてよいですか。回答をいただく方は、本部でまとめてもらう形で」
「お願いします。先方への確認事項は、一度こちらにも見せてください」
「はい。使い方が決まっていないところは、分けて残します」
金目も、二人へ声をかけた。
「お願いします。今日の、本部の方のお話も入れておきたいですね」
「はい。最初に伺ったときは、拠点ごとの入力をそろえる方から話していましたので」
金目は、小坂を見た。
「何度も、足を運んでもらいましたね」
「先方にも、使っている表を出していただきました。お話だけでは、わからなかったところがあります」
小坂は、手元の資料へ目を落とした。
確認した日付と、先方から届いた返事が並んでいた。
紹介してもらえた。
会って、話を聞いた。
見積もりを出し、もう一度尋ねた。
金目が今日座った席へ来るまでに、小坂が重ねた仕事があった。
「今日、一緒に説明できてよかったです」
金目が言うと、小坂は顔を上げた。
「こちらこそ、ありがとうございました」
三人は、駅へ向かった。
金目は、帰ってから連絡する相手を確かめた。
西田へ、先方で確認できたことを伝える。
高瀬と三宅にも、決裁へ進んだ状況を返す。
まだ、頼んでもらえたわけではない。
それでも、先方がこの仕事を始めるための話へ、進めた。
金目は、歩きながら一度だけ、六月までの工程を思い浮かべた。
*
翌日、先方から、契約書類の確認が届いた。
小坂が、開発の対象と、段階ごとに渡すものを照合する。
三宅も、請求と支払いの条件を確かめた。
金目は、指摘された箇所を一緒に読んだ。
同じ言葉でも、相手が想定している範囲が違えば、そのままにはできなかった。
拠点へ展開するとき、どこまで立ち会うか。
担当者への説明を、どのように行うか。
先方の確認に使う資料を、いつ用意するか。
新しい希望を、説明なしに費用へ含めることはしなかった。
既に見積もった範囲を、書類でも同じように読める形へ合わせる。
小坂が西田へ確かめ、三宅が先方へ返す。
先方の担当者からも、社内で確認した内容が届く。
金目は、そのやり取りを追った。
最後の一つを返してからも、何度か受信を確かめた。
自分の机には、年末に向けた仕事が残っている。
金目は、開いていた連絡をいったん閉じ、次の確認へ移った。
*
十二月二十二日、金曜日。
小坂から、短い連絡が届いた。
『先方から、正式な発注をいただきました』
金目は、その文を読んだ。
添えられた書類を開く。
案件名。
全体の開発範囲。
三千六百万円という金額。
一月から六月までの期間。
最初の調査だけを頼む書類ではなかった。
先行する二拠点と本部で確かめ、残る十拠点へ展開する。
相談してきた全体の仕事が、そこに入っていた。
金目は、椅子から立った。
小坂の席へ向かう。
小坂も、同じ書類を開いていた。
金目を見ると、顔を上げる。
「……決まったんですね」
「はい。全体の開発をご発注いただきました」
小坂が答えた。
金目は、机の端へ手を置いた。
何か言おうとして、少し笑った。
「取れましたね」
「はい」
小坂も笑った。
普段、先方へ返事をするときの表情より、口元が緩んでいた。
「ありがとうございます。ここまで、よう進めてくれました」
「開発の方にも、何度も確認していただきましたので」
「はい。その分も、ちゃんと伝えたいです。でも、まず、小坂さんに」
金目は、もう一度、礼を言った。
小坂が、小さく頭を下げる。
隣の席から、大本も顔を上げていた。
「大本さんも、ありがとうございます。あの一覧、本部の方に話してもらうとき、助かりました」
「いえ。先方に聞いたら、承認した分も必要と言われたので、まだ確かめることは増えましたけど」
「増えたところが、先にわかってよかったです。合計してから違うとわかったら、また聞き直すところでした」
大本が、少し笑った。
「ほんまに、決まったんですね」
「はい。決まりました」
金目が答えると、大本は、自分の画面で発注の連絡を開いた。
読み終えてから、小坂の方を見る。
小坂もうなずいた。
金目は、二人と一緒に、もう一度書類へ目を落とした。
小坂が、商談の記録を開く。
「最初の打ち合わせのときは、ここまでの範囲になるか、まだわかりませんでした」
「そうでしたね」
「本部の方にも入っていただけて、決めていただくところが揃いました」
小坂が、先方の担当者から届いた文面を開いた。
社内決裁を終え、発注すること。
来年の開始に向けて、担当者を合わせたいこと。
金目は、最後まで読んだ。
来年の仕事を、頼んでもらえた。
半年をかけて、一緒に進める相手ができた。
「年明けの最初の確認、僕も入ります」
「はい。先方と日程を合わせます」
金目はうなずいた。
手を離す前に、机の上の書類へ、もう一度目を向けた。
*
西田へ知らせると、すぐに返事が来た。
そのあと、工程を開いたまま、金目のところへ来た。
「決まったんやな」
「うん」
「よかったな」
西田が言った。
金目は、その短い言葉を聞いて、また笑った。
「ほんまに。六月までの分、頼んでもらえた」
「ほな、今度は、こっちが進める番やな」
「うん。頼む」
西田はうなずいた。
工程の最初へ目を落とし、確認する担当を見た。
上田にも、小坂から連絡が届いていた。
金目が声をかけると、既に資料を開いている。
「受注できたんですね」
「はい。準備してもらった条件で、お願いしたいと」
「わかりました。こちらも、予定していたところから進められるように合わせます」
上田が答えた。
金目は、工程を見ている上田の隣へ立った。
「先に持ってる仕事も、見てもらいながらになります。そこは、西田と一緒に続けてください」
「はい」
金目は、自分の席へ戻る前に、社員へ送る連絡を開いた。
*
受注が正式に決まったこと。
十二拠点の申請と実績を、本部で合わせて確認する仕組みを作ること。
来年一月から六月まで、段階を分けて進めること。
金目は、伝える内容を書いた。
担当者の仕事は、これまで確認してきた予定をもとに、個別にも合わせていく。
小坂と西田に見てもらってから、全体へ送る。
社内の打ち合わせに入っていなかった社員にも、頼んでもらえた仕事の内容が届く。
少しして、近くの席から声がした。
「六月まで、ですか」
金目が顔を向けると、連絡を読んだ社員が画面を見ていた。
「はい。全体の開発を、その期間で進めます」
「大きいですね」
「そうですね」
金目は答えた。
社員が、もう一度、文面を読む。
「決まったのは、よかったです」
「はい。僕も、そう思っています」
金目が言うと、社員は少し笑った。
担当する作業のことを、隣の人へ尋ねている。
別のところからも、小坂へ声がかかった。
どんなものを作るのか。
いつから顧客と確認を始めるのか。
小坂は、資料を示しながら答えていた。
金目は、そのやり取りを聞いた。
先週の質問がなくなったわけではない。
これからの働き方について、まだ決めなければならないこともある。
けれど、今日は、新しく決まった仕事の話ができる。
金目は、自分の送った連絡を開き直した。
*
午後、三宅と高瀬が、合意した条件を確認した。
基本設計を確認してもらったところで、二割。
先行する二拠点と本部での導入を確認してもらって、四割。
全体の展開を終え、残る四割。
七百二十万円。
千四百四十万円。
千四百四十万円。
三宅が、税抜きの内訳と請求の条件を照合した。
高瀬は、それぞれの検収予定と、契約で定めた支払いの条件をもとに、先の見通しへ置いた。
「こちらの予定が、新たに入ります」
高瀬が、金目へ示した。
今月二十五日に入る予定の分とは、別の契約だった。
金目は、その一行を確かめてから、新しい工程へ目を移した。
まだ作っていない仕事がある。
これから相手に受け取ってもらうものがある。
その順番に沿って、請求する予定が並んだ。
「ありがとうございます」
金目は、高瀬と三宅へ礼を伝えた。
「最初にお送りする案内は、小坂さんと合わせて進めます」
三宅が言った。
「お願いします」
金目は、受け取った資料を保存した。
そのあと、取引先へ返す文面を小坂と確かめる。
大本が、開始までに必要な資料と、先方の確認担当をまとめて持ってきた。
「こちらは、私の方で返事を確認していきます。資料が揃わない場合に、どこの作業へ影響するかは、開発の担当の方にも確かめたいです」
小坂が一覧を見た。
「その確認までお願いします。先方へ日程の変更をお返しする必要があれば、こちらへ上げてください」
「はい。それと、資料が遅れた場合は、基本設計を確認してもらう時期にも関わりますよね」
大本が、段階ごとの工程を見た。
「そこが後ろへ動くと、最初の請求も変わると思うので。作業の遅れだけでなく、どこまで影響するかを、一緒にお伝えしたいです」
金目は、大本が開いた箇所へ目を向けた。
顧客から返事をもらう欄の先に、設計の確認と請求の予定がある。
「お願いします。影響するところを、開発の方と三宅さんにも確かめてから、見せてもらえますか」
「わかりました」
大本が、担当する欄へ自分の名前を入れた。
金目は、発注への礼と、来年の最初の確認に向けて準備することを、小坂と文面へそろえた。
*
夕方、西田が金目へ声をかけた。
「一課の方、上田と話す時間を取りたい」
「兼務を渡していく話やな」
「うん。二課の今の仕事を、どう持ってもらうかも含めて、本人と合わせたい」
西田は、上田が持っている仕事を開いた。
新しい案件の欄へ名前を足すだけで、上田の時間が増えるわけではなかった。
「本人がどうしたいか、そこから聞いてくれ」
「そうする」
「二課を回してもらってるところは、そのまま大事にしたい。二つ見るから、両方とも何とかして、とは頼めん」
「うん。渡す実作業と、本人が見るところを、先に合わせる」
金目はうなずいた。
この場で、上田の一課長就任を決めることはしなかった。
西田が、本人と話す予定を入れる。
金目も、次に確認することへ、その時間を書き添えた。
西田が席を離れると、小坂から連絡が届いた。
年明けの初回打ち合わせについて、先方へ候補を送ったという。
金目は、六月までの工程を開いた。
既に進めている仕事の横へ、新しい案件が入っている。
一月の確認。
設計。
先行する拠点と、本部で使う時間。
残る拠点への展開。
その途中に、小坂が送った最初の候補日を置いた。
金目は、先方の返事を確認する予定も入れた。
支払日を確かめるためだけに、その先の月を開いたのではなかった。
作って渡す仕事が、六月まで入った。
金目は、小坂へ返事を送った。
『年明けの確認、一緒にお願いします』
すぐに、承知しました、と返ってきた。
お読みいただきありがとうございます。旭月です。
今回は、カナメに大きな仕事が決まるお話でした。
小坂が足を運び、顧客の話を聞き、開発側と確かめながら重ねてきた提案。その先に正式な発注が届き、金目たちも、ようやく一緒に喜ぶことができました。
大本も、表の中の違いに気付くだけでなく、相手が導入を決めるための提案へつなげています。受注したあとには、資料の遅れが、その先の確認や請求にどう関わるかまで目を向け始めました。
仕事を取れた喜びと、自分たちがこれから作って渡す時間。金目が開いた半年先の予定に、その両方が入りました。
今回は、その手応えを残して閉じたいと思いました。
最後までお読みいただき、ありがとうございました。




