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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第五章 守りたいもの
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次の半年

 十二月十八日、月曜日。


「こちら、最終のご提案に進めたいです」


 小坂が、金目の机へ資料を持ってきた。

 大本も、確認用の一覧を持って隣へ立っている。

 表紙には、十二拠点の業務をまとめる仕組みの開発と書かれている。


 金目は、営業の一覧から同じ案件を開いた。

 以前から付き合いのある顧客の担当者を通じて、紹介された会社だった。

 小坂が訪ね、実際に使っている表や、本部での確認の仕方を聞いてきた。


 見積もりを出したあとにも、何度か返事をもらっている。

 そのたびに、開発側へ確かめることと、先方で決めてもらうことを合わせてきた。


「先方の予算の確認も、進んだんですね」


「はい。今週、最後の条件を合わせて、決裁へ回したいと伺っています」


 小坂が、変更した箇所を示した。

 金目は、その横の金額へ目を止めた。


 三千六百万円。

 消費税を含める前の、開発全体の金額だった。


 期間は、来年一月から六月まで。


 金目は、表紙へ一度戻った。

 それから、作るものと工程を順に読んだ。


「まだ、気にされてるところは、どこです?」


「先行して使う二拠点と、ほかの十拠点の結果を、本部でどうまとめるかという点です」


 小坂が、先方から届いた質問を開いた。


 各拠点では、必要な申請を表へ入れ、責任者が内容を確かめていた。

 承認した結果と、そのあとに実際に行った分を、本部へ送る。

 本部では十二拠点の表を開き、同じ項目を並べ直していた。


 項目の呼び方が違う。

 数字を入れる欄も、少しずつ違う。

 届いたあとで、何の数字なのかを尋ね直すことがある。


「二拠点から始める形は、先方でも考えていただいています。ただ、その間の本部の仕事が、かえって増えないかと」


 金目は、先行する拠点と、後から移る拠点を見比べた。

 先に二つが変わる。

 残る十の仕事も、その間、続いている。


「ここは、こちらも案を見てもらってましたね」


「はい。元の表から受け取る項目と、確認が必要な違いを、担当の方にも見ていただいています」


「ほな、今回は、本部の方にも、そこまで見てもらいたいですね」


「その予定です。実際に集計されている方にも、入っていただけます」


 小坂が答えた。

 大本が、持ってきた一覧を開く。


「それと、こちらも先方に確かめたいです」


 同じ実績という名前の欄が、二つ並んでいた。

 大本は、それぞれの表に添えられた説明を示した。


「こちらは承認した月で数えています。こっちは、実際に処理を終えた月です。このまま同じ欄へ入れると、合計は出ても、同じものを数えたことにはならないと思います」


 金目は、二つの説明を読んだ。

 数字の形だけを合わせれば、並べることはできそうだった。


「これ、先方には聞いてもらってますか」


「小坂さんと合わせて、確認をお願いしています。本部で必要なのは、どちらの分かと。ただ、拠点ごとの説明だけでは、まだ全部を揃えられていません」


 大本が、確認済みのところを示した。

 空いているところも残っている。


「呼び方が違うものだけまとめていましたが、大本さんに、数える時期も並べてもらいました」


 小坂が言った。


「当日は、この一覧で本部の方にも確かめます。大本さんも、一緒に説明してください」


「はい」


 大本がうなずいた。

 金目は、本部で集計する流れへ目を戻した。


「一緒に出せるだけやなくて、何を足してるかがわからなあきませんね。ここも、お願いします」


 大本は、確認する欄へ印を付けた。

 金目は、三人で入る打ち合わせの予定を開いた。


     *


 西田と上田が、開発の工程を並べていた。

 金目と小坂も、隣へ資料を出した。


 最初に要件を確認し、基本の設計をまとめる。

 作ったものを先行する二拠点と本部で使ってもらい、結果を確かめる。

 そのあと、残る十拠点へ広げる。


 一月に始めて、六月に全体を渡す。

 線を一本引けば、その間が埋まるわけではなかった。


「一月は、先にこちらの確認から入るんやな」


 金目が尋ねると、西田がうなずいた。


「うん。最初から四人で同じ作業をする形やない。先方と確認する人と、設計を進める人を先に置く。実装へ入るところで、こっちの担当を合わせる」


 中心になる四人の欄には、それまでに終える仕事と、残す確認が入っていた。

 上田も、二課の予定を隣へ出す。


「こちらは、今の案件の確認が済んでから入れます。その前に必要な資料は、別の担当と分けて準備します」


「十九日に渡す分は、そのまま進められるんやな」


 金目は、先日受注した一括承認の追加開発を示した。


「はい。そちらの作業と確認の枠は、残しています」


 西田が答えた。

 金目は、二つの予定が同じ人のところへ重なっていないか、順に確かめた。


 年末に退職を希望している三人は、来年の実施体制へ入れていない。

 まだ在籍している人数と、来年の仕事に置ける人は、同じ欄にはなかった。


「試験と、移すときの確認は、どこに入る?」


「こちらです。中心の四人だけで、全部を持つ計算にはしていません」


 上田が、工程の下を示した。

 確認する内容と、そのために入る人の時間がある。

 西田が見るところも、期間を区切って置かれていた。


 金目は、必要な費用の見積もりも開いた。

 作る時間のほかに、試験、移行、本部と拠点での確認が入っている。


「先行してる間に、ほかの拠点の分を合わせるところも、こちらですね」


「はい。今使われている表を受け取り、必要な項目を合わせるところまで見ています」


 小坂が、提供してもらった資料の一覧を示した。

 大本がまとめた、項目ごとに何を数えているかの確認も、その中にある。

 受け取り方がまだ決まっていないものは、最終打ち合わせで確認することになっている。


「全部の表を、何でもそのまま読める、という約束にはしてないな」


「はい。対象の形式と項目は、こちらで合わせます。そこから変更される場合の扱いも、確認事項に入れています」


 金目はうなずいた。

 各拠点の事情が違うことを、聞いたまま全部引き受ける見積もりではなかった。

 同じところへそろえるものと、そのために相手にも決めてもらうものを分けている。


「この形なら、先方と話せますね」


 小坂が言った。

 西田と上田が、残る確認事項へ目を通した。


 金目は、最終提案の資料を開いた。

 どこまで減らせるかを探すために、その金額を見ているのではなかった。


 この仕事を、取る。

 作って渡せる形で、頼んでもらう。


 金目は、先方へ尋ねることを、小坂ともう一度合わせた。


     *


 十二月十九日、火曜日。


 顧客の本部へ入ると、小坂が窓口の担当者へ挨拶した。

 金目も、その隣で頭を下げる。

 大本が続いて挨拶し、確認用の資料を机へ出した。


 会議室には、現場を取りまとめる課長と、実際に集計している担当者も来ていた。

 机の上に、拠点ごとの表が並んでいる。


「前回のお話を踏まえまして、導入の順番と、本部で確認していただくところをご説明します」


 小坂が資料を開いた。


 先行する二拠点は、同じ使い方のところだけを選んでいなかった。

 申請するものが多いところと、確認の仕方に違いがあるところ。

 先方と相談し、最初に確かめたい運用がある拠点を選んでいた。


「この二つを見れば、全部が同じと考えていいんでしょうか」


 課長が尋ねた。


「いえ。残る拠点の違いも、こちらで先に整理します。先行では、実際に入力し、承認して、本部で結果を見る流れを確認していただきます」


 小坂が、確認する範囲を示した。

 後から展開する拠点の担当者にも、早い段階で確かめてもらう項目がある。


 課長はうなずき、本部の担当者へ目を向けた。


「私が気になっているのは、こちらなんです」


 担当者が、自分の表を開いた。


「二拠点は新しい方から出る。残り十拠点は、今の表で来る。その間、本部では、両方を開いて、またまとめるんでしょうか」


 金目は、担当者が示した欄を見た。

 十二拠点の結果が、一つに並んでいる。

 先行する二つだけを、ここから外すことはできなかった。


「毎月、締める日がありますので。二拠点だけ新しくなっても、こちらで見るのは、十二拠点全部なんです」


「はい」


 金目がうなずいた。


「先に使い始めるのは二拠点ですが、本部では、十二拠点分を見られる形で進めます」


 小坂が、用意した案へ切り替えた。

 新しい仕組みから出る結果と、未移行の拠点から受け取る表が並んでいる。


「残りの拠点では、移るまでは今の入力を続けていただきます。その結果も、本部で合わせて確認できるようにします」


 担当者が、図の中の十拠点の部分を見た。


「今の表を、こちらへ入れるということですか」


「はい。そのために、受け取る項目と形式を、先に合わせたいです」


 小坂が、既に受け取っていた例を開いた。

 拠点ごとに違う呼び方をしている項目に、対応する欄を示してある。


 大本が、二つの説明を並べた資料を示した。


「先日伺ったこちらの実績は、承認した数ではなく、実際に処理を終えた分でよろしかったでしょうか」


「そうです。承認されても、翌月へ持ち越すものがあります」


 担当者が答えた。


「そこが混ざると、また各拠点へ聞くことになるので」


「ありがとうございます。では、こちらの表で承認した分を数えているところとは、分けて扱う必要がありますね」


 大本が答えた。

 担当者が、二つの説明を読み比べる。


「この分は、承認した数も別に見たいです。ただ、実績の合計には入れません」


「はい。承認の状況と、終えた分を分けて、ほかの拠点にも確認します」


 大本が、回答を一覧へ残した。

 それから、課長へ目を向ける。


「先に使っていただくときも、本部でこの二つを分けて見られることを、確認の項目に入れたいです。新しい画面へ入力できたというだけでは、今の締めの作業を変えられるか、判断できませんので」


 課長が、先行導入の説明を見直した。


「本部でも、今の月次集計と照らして確認するということですね」


「はい。どの数字を確かめれば、今のやり方から移れると判断できるかを、先に合わせたいです」


 大本が、実績の欄を示した。


「その結果まで見られるなら、二拠点から始める理由も説明できますね」


 課長が言った。

 小坂がうなずき、本部で確認する項目を資料へ合わせた。

 ただ欄の名前を同じにする話ではなかった。

 その欄へ、どの時点の何を入れているかを合わせる。


 担当者は、自分が使っている表と並べて読んだ。


「これなら、今こちらで聞き直しているところも、先に確認できますね」


「はい。ほかの拠点にも、同じところを伺います」


 金目は、課長へ目を向けた。


「拠点ごとに確認する方を、こちらと合わせてもらえますか。本部の方だけで、全部答えていただく形にはしたくないんです」


「それは、こちらから依頼できます」


 課長が答えた。


「最初に、何を準備すればよいかも、出していただけますか」


「はい。今回の資料に、お願いしたいものと、確認したい時期を入れています」


 小坂が、次の一枚を示した。


     *


「では、残りが移るまで、本部で全部まとめ直す必要はないんですね」


 担当者が、もう一度尋ねた。


「はい。対象を合わせた表の結果を、先行する拠点の分と、一緒に確認できるように作ります」


 金目が答えた。


「そのための準備と確認も、今回の範囲に入れています」


「こちらで新しい方へ、もう一度全部入れるのかと思っていました」


「同じ内容を、拠点の方に二回入れてもらう形も、考えていません」


 小坂が付け加えた。


 課長が、担当者と短く話した。

 先行する拠点の切り替えと、本部が月を締める手順を確かめている。


「この形なら、途中でも使い始められそうです」


 担当者が言った。


「ただ、表の方を、途中で変えることはあると思います。今も、必要な項目が増えることがありますので」


「その場合は、変更の内容を合わせてから対応する形にしたいです。受け取る側も変わることがありますので」


 小坂が、変更を相談する手順を示した。

 範囲を定めたまま進めるために、先方にも窓口を置いてもらう。


「各拠点から、直接違う依頼が来る形にはしない方がいいですね」


 課長が言った。


「本部で一度まとめます」


「ありがとうございます」


 金目が礼を返した。

 相手にも、引き受けてもらう仕事があった。


 次に、工程を確認した。

 最初に基本の設計をまとめ、どんな動きと結果を確認するかを合意する。

 開発してから、先行する二拠点と本部で実際に使う。

 そこで確かめた内容を反映し、六月までに残りへ展開する。


 先行して使う時期も、資料の提供と確認の時間を置いた工程で合わせた。

 年明け、すぐ全員が使えるという話ではなかった。


 説明の途中、課長が金額のページを開いた。


「三千六百万円で、ここまでということですね」


「はい。税抜きで、その金額です。対象とする開発、移行、操作のご説明の範囲は、こちらにまとめています」


 小坂が、見積もりの内訳を示した。

 追加する場合には、改めて相談する項目もある。


 課長は、隣の担当者と費用の欄を見た。

 金目は、説明を足さずに待った。


 この金額なら、やってもらえるか。

 その言葉が来るかもしれないと思った。

 けれど、課長が次に開いたのは、段階ごとの確認事項だった。


「基本設計を確認したところで二割。先行で使えるところまで確認して四割。全体を終えて残り四割ですね」


「はい。それぞれの成果物を確認いただいてから、ご請求する条件です」


「確認する担当は、こちらで決めておきます」


 課長が、予定の一部へ印を付けた。


「本部の扱いが、今日のお話で整理できました。この内容で、決裁へ回します」


 金目は、課長の手元を見た。

 今説明した資料が、次に社内で使うものへ移っていた。


「ありがとうございます」


 小坂が頭を下げた。

 金目も、礼を伝えた。


     *


 会社を出ると、小坂が鞄から予定を取り出した。

 大本も、先ほどの回答を書いた一覧を開く。

 先方へ送り直す資料と、回答が必要な項目を確かめる。


「最後の確認、こちらで合わせます」


 小坂が言うと、大本が尋ねた。


「今日決まった数え方で、残っている拠点の確認も進めてよいですか。回答をいただく方は、本部でまとめてもらう形で」


「お願いします。先方への確認事項は、一度こちらにも見せてください」


「はい。使い方が決まっていないところは、分けて残します」


 金目も、二人へ声をかけた。


「お願いします。今日の、本部の方のお話も入れておきたいですね」


「はい。最初に伺ったときは、拠点ごとの入力をそろえる方から話していましたので」


 金目は、小坂を見た。


「何度も、足を運んでもらいましたね」


「先方にも、使っている表を出していただきました。お話だけでは、わからなかったところがあります」


 小坂は、手元の資料へ目を落とした。

 確認した日付と、先方から届いた返事が並んでいた。


 紹介してもらえた。

 会って、話を聞いた。

 見積もりを出し、もう一度尋ねた。


 金目が今日座った席へ来るまでに、小坂が重ねた仕事があった。


「今日、一緒に説明できてよかったです」


 金目が言うと、小坂は顔を上げた。


「こちらこそ、ありがとうございました」


 三人は、駅へ向かった。

 金目は、帰ってから連絡する相手を確かめた。

 西田へ、先方で確認できたことを伝える。

 高瀬と三宅にも、決裁へ進んだ状況を返す。


 まだ、頼んでもらえたわけではない。

 それでも、先方がこの仕事を始めるための話へ、進めた。


 金目は、歩きながら一度だけ、六月までの工程を思い浮かべた。


     *


 翌日、先方から、契約書類の確認が届いた。

 小坂が、開発の対象と、段階ごとに渡すものを照合する。

 三宅も、請求と支払いの条件を確かめた。


 金目は、指摘された箇所を一緒に読んだ。

 同じ言葉でも、相手が想定している範囲が違えば、そのままにはできなかった。


 拠点へ展開するとき、どこまで立ち会うか。

 担当者への説明を、どのように行うか。

 先方の確認に使う資料を、いつ用意するか。


 新しい希望を、説明なしに費用へ含めることはしなかった。

 既に見積もった範囲を、書類でも同じように読める形へ合わせる。


 小坂が西田へ確かめ、三宅が先方へ返す。

 先方の担当者からも、社内で確認した内容が届く。


 金目は、そのやり取りを追った。

 最後の一つを返してからも、何度か受信を確かめた。


 自分の机には、年末に向けた仕事が残っている。

 金目は、開いていた連絡をいったん閉じ、次の確認へ移った。


     *


 十二月二十二日、金曜日。


 小坂から、短い連絡が届いた。


『先方から、正式な発注をいただきました』


 金目は、その文を読んだ。

 添えられた書類を開く。


 案件名。

 全体の開発範囲。

 三千六百万円という金額。

 一月から六月までの期間。


 最初の調査だけを頼む書類ではなかった。

 先行する二拠点と本部で確かめ、残る十拠点へ展開する。

 相談してきた全体の仕事が、そこに入っていた。


 金目は、椅子から立った。

 小坂の席へ向かう。


 小坂も、同じ書類を開いていた。

 金目を見ると、顔を上げる。


「……決まったんですね」


「はい。全体の開発をご発注いただきました」


 小坂が答えた。


 金目は、机の端へ手を置いた。

 何か言おうとして、少し笑った。


「取れましたね」


「はい」


 小坂も笑った。

 普段、先方へ返事をするときの表情より、口元が緩んでいた。


「ありがとうございます。ここまで、よう進めてくれました」


「開発の方にも、何度も確認していただきましたので」


「はい。その分も、ちゃんと伝えたいです。でも、まず、小坂さんに」


 金目は、もう一度、礼を言った。


 小坂が、小さく頭を下げる。

 隣の席から、大本も顔を上げていた。


「大本さんも、ありがとうございます。あの一覧、本部の方に話してもらうとき、助かりました」


「いえ。先方に聞いたら、承認した分も必要と言われたので、まだ確かめることは増えましたけど」


「増えたところが、先にわかってよかったです。合計してから違うとわかったら、また聞き直すところでした」


 大本が、少し笑った。


「ほんまに、決まったんですね」


「はい。決まりました」


 金目が答えると、大本は、自分の画面で発注の連絡を開いた。

 読み終えてから、小坂の方を見る。

 小坂もうなずいた。


 金目は、二人と一緒に、もう一度書類へ目を落とした。

 小坂が、商談の記録を開く。


「最初の打ち合わせのときは、ここまでの範囲になるか、まだわかりませんでした」


「そうでしたね」


「本部の方にも入っていただけて、決めていただくところが揃いました」


 小坂が、先方の担当者から届いた文面を開いた。

 社内決裁を終え、発注すること。

 来年の開始に向けて、担当者を合わせたいこと。


 金目は、最後まで読んだ。


 来年の仕事を、頼んでもらえた。

 半年をかけて、一緒に進める相手ができた。


「年明けの最初の確認、僕も入ります」


「はい。先方と日程を合わせます」


 金目はうなずいた。

 手を離す前に、机の上の書類へ、もう一度目を向けた。


     *


 西田へ知らせると、すぐに返事が来た。

 そのあと、工程を開いたまま、金目のところへ来た。


「決まったんやな」


「うん」


「よかったな」


 西田が言った。

 金目は、その短い言葉を聞いて、また笑った。


「ほんまに。六月までの分、頼んでもらえた」


「ほな、今度は、こっちが進める番やな」


「うん。頼む」


 西田はうなずいた。

 工程の最初へ目を落とし、確認する担当を見た。


 上田にも、小坂から連絡が届いていた。

 金目が声をかけると、既に資料を開いている。


「受注できたんですね」


「はい。準備してもらった条件で、お願いしたいと」


「わかりました。こちらも、予定していたところから進められるように合わせます」


 上田が答えた。

 金目は、工程を見ている上田の隣へ立った。


「先に持ってる仕事も、見てもらいながらになります。そこは、西田と一緒に続けてください」


「はい」


 金目は、自分の席へ戻る前に、社員へ送る連絡を開いた。


     *


 受注が正式に決まったこと。

 十二拠点の申請と実績を、本部で合わせて確認する仕組みを作ること。

 来年一月から六月まで、段階を分けて進めること。


 金目は、伝える内容を書いた。

 担当者の仕事は、これまで確認してきた予定をもとに、個別にも合わせていく。


 小坂と西田に見てもらってから、全体へ送る。

 社内の打ち合わせに入っていなかった社員にも、頼んでもらえた仕事の内容が届く。


 少しして、近くの席から声がした。


「六月まで、ですか」


 金目が顔を向けると、連絡を読んだ社員が画面を見ていた。


「はい。全体の開発を、その期間で進めます」


「大きいですね」


「そうですね」


 金目は答えた。

 社員が、もう一度、文面を読む。


「決まったのは、よかったです」


「はい。僕も、そう思っています」


 金目が言うと、社員は少し笑った。

 担当する作業のことを、隣の人へ尋ねている。


 別のところからも、小坂へ声がかかった。

 どんなものを作るのか。

 いつから顧客と確認を始めるのか。


 小坂は、資料を示しながら答えていた。


 金目は、そのやり取りを聞いた。

 先週の質問がなくなったわけではない。

 これからの働き方について、まだ決めなければならないこともある。


 けれど、今日は、新しく決まった仕事の話ができる。

 金目は、自分の送った連絡を開き直した。


     *


 午後、三宅と高瀬が、合意した条件を確認した。


 基本設計を確認してもらったところで、二割。

 先行する二拠点と本部での導入を確認してもらって、四割。

 全体の展開を終え、残る四割。


 七百二十万円。

 千四百四十万円。

 千四百四十万円。


 三宅が、税抜きの内訳と請求の条件を照合した。

 高瀬は、それぞれの検収予定と、契約で定めた支払いの条件をもとに、先の見通しへ置いた。


「こちらの予定が、新たに入ります」


 高瀬が、金目へ示した。


 今月二十五日に入る予定の分とは、別の契約だった。

 金目は、その一行を確かめてから、新しい工程へ目を移した。


 まだ作っていない仕事がある。

 これから相手に受け取ってもらうものがある。

 その順番に沿って、請求する予定が並んだ。


「ありがとうございます」


 金目は、高瀬と三宅へ礼を伝えた。


「最初にお送りする案内は、小坂さんと合わせて進めます」


 三宅が言った。


「お願いします」


 金目は、受け取った資料を保存した。

 そのあと、取引先へ返す文面を小坂と確かめる。

 大本が、開始までに必要な資料と、先方の確認担当をまとめて持ってきた。


「こちらは、私の方で返事を確認していきます。資料が揃わない場合に、どこの作業へ影響するかは、開発の担当の方にも確かめたいです」


 小坂が一覧を見た。


「その確認までお願いします。先方へ日程の変更をお返しする必要があれば、こちらへ上げてください」


「はい。それと、資料が遅れた場合は、基本設計を確認してもらう時期にも関わりますよね」


 大本が、段階ごとの工程を見た。


「そこが後ろへ動くと、最初の請求も変わると思うので。作業の遅れだけでなく、どこまで影響するかを、一緒にお伝えしたいです」


 金目は、大本が開いた箇所へ目を向けた。

 顧客から返事をもらう欄の先に、設計の確認と請求の予定がある。


「お願いします。影響するところを、開発の方と三宅さんにも確かめてから、見せてもらえますか」


「わかりました」


 大本が、担当する欄へ自分の名前を入れた。

 金目は、発注への礼と、来年の最初の確認に向けて準備することを、小坂と文面へそろえた。


     *


 夕方、西田が金目へ声をかけた。


「一課の方、上田と話す時間を取りたい」


「兼務を渡していく話やな」


「うん。二課の今の仕事を、どう持ってもらうかも含めて、本人と合わせたい」


 西田は、上田が持っている仕事を開いた。

 新しい案件の欄へ名前を足すだけで、上田の時間が増えるわけではなかった。


「本人がどうしたいか、そこから聞いてくれ」


「そうする」


「二課を回してもらってるところは、そのまま大事にしたい。二つ見るから、両方とも何とかして、とは頼めん」


「うん。渡す実作業と、本人が見るところを、先に合わせる」


 金目はうなずいた。

 この場で、上田の一課長就任を決めることはしなかった。


 西田が、本人と話す予定を入れる。

 金目も、次に確認することへ、その時間を書き添えた。


 西田が席を離れると、小坂から連絡が届いた。

 年明けの初回打ち合わせについて、先方へ候補を送ったという。


 金目は、六月までの工程を開いた。

 既に進めている仕事の横へ、新しい案件が入っている。


 一月の確認。

 設計。

 先行する拠点と、本部で使う時間。

 残る拠点への展開。


 その途中に、小坂が送った最初の候補日を置いた。

 金目は、先方の返事を確認する予定も入れた。


 支払日を確かめるためだけに、その先の月を開いたのではなかった。

 作って渡す仕事が、六月まで入った。


 金目は、小坂へ返事を送った。


『年明けの確認、一緒にお願いします』


 すぐに、承知しました、と返ってきた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、カナメに大きな仕事が決まるお話でした。


小坂が足を運び、顧客の話を聞き、開発側と確かめながら重ねてきた提案。その先に正式な発注が届き、金目たちも、ようやく一緒に喜ぶことができました。


大本も、表の中の違いに気付くだけでなく、相手が導入を決めるための提案へつなげています。受注したあとには、資料の遅れが、その先の確認や請求にどう関わるかまで目を向け始めました。


仕事を取れた喜びと、自分たちがこれから作って渡す時間。金目が開いた半年先の予定に、その両方が入りました。


今回は、その手応えを残して閉じたいと思いました。


最後までお読みいただき、ありがとうございました。

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