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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第五章 守りたいもの
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今、変えるところ

 十一月二十七日、月曜日。


「上條さん、こちらを一緒に見ていただけますか」


 柴崎の画面には、二つの結果が並んでいた。


 一つは、入力した内容を確認する一覧。

 もう一つは、同じ内容から出した確認用の出力だった。


「この一件を取り消しました」


 柴崎が、操作の記録を示した。

 一覧からは、その一件が外れている。

 残っているのは四件だった。


「出力し直しても、こちらは五件のままなんです」


 上條は、表示された数字を見比べた。


「取消前に出したものやなくて、もう一回出した方やね」


「はい。同じ条件で、もう一度試しました」


 柴崎は、新しく登録した確認用のデータを開いた。

 五件あるうちの一件を取り消す。

 画面を開き直すと、一覧は四件になっている。

 そのまま出力すると、件数は五件のままだった。


 上條は、試験の一覧へ目を移した。

 取消した分が結果に含まれないこと。

 そこには、まだ確認済みの印が付いていなかった。


「ありがとう。処理を見ます」


「お願いします。使ったデータは、このまま残しておきますね」


 柴崎は、確認した結果を保存した。

 その横で、次に使うデータの準備を始める。


 以前、岡元に整理してもらった一覧が、手元にあった。

 変更と取消を分け、足りなかったものを確かめてから、実際の操作を進めていた。

 今度は、使うデータが見つからないわけではない。

 試せたところで、動きの違いが出た。


 上條は、自分の席で処理を開いた。


 取消した状態を、画面側へ残すところは通っている。

 出力に使う記録は、別の箇所で更新していた。

 そこに、取消した場合の反映が足りなかった。


 登録する。

 変更する。

 取り消す。


 似た内容が、少しずつ違う形で書かれている。

 上條は、一つずつ追った。


 今回足りなかったところへ、同じ更新を加えることはできそうだった。

 ただ、それでは次も、別々の箇所を見て直すことになる。


 更新する部分を、同じ処理へまとめる。

 登録でも変更でも取消でも、そこを通してから結果を返す。


 上條は、別の作業版を開いた。

 今使っているものを残し、まとめ直す案を試し始める。


 顧客へ返す連絡の通知が、一件届いた。

 内容を読み、確認できている範囲を返信する。

 それから、実装の画面へ戻った。


 窓口を持ちたい。

 実装も、続けたい。


 西田へそう話して、仕事の持ち方を変えていた。

 柴崎が進めている表示部分には、既に確認を返している。

 今は、自分が直したものを渡す番だった。


     *


 昼前、上條は柴崎を呼んだ。


「試した方やけど、これで取消を見てもらえる?」


「はい。こちらの作業版ですね」


「うん。更新するところを、まとめてみた」


 柴崎が、先ほどと同じ操作をした。

 登録して、一覧を確認する。

 一件を取り消し、画面を開き直す。


 一覧は四件。

 出力も四件になった。


「こちらは、そろっています」


 柴崎が、取消した一件の内容も確かめた。

 残る四件に紛れ込んでいないことを見て、結果を保存する。


 上條は、少し息を吐いた。


「ほかに、今わかるところはあるかな」


「変更した範囲を、もう一度見せていただけますか」


 上條は、処理の違いを開いた。

 共通にした部分と、それを呼ぶ側を示す。


 柴崎は、試験の一覧と照らした。


「登録と、入力内容を変更する場合も、ここを通るんですね」


「そう。今まで別に持っとった更新を、こちらへ寄せた」


「では、こちらも、この作業版で確認します」


 柴崎が、以前の確認結果へ印を付けた。


「取消は、この形で確かめられました。ただ、こちらは前の処理で見た結果です」


 登録したあとに内容を変えるもの。

 入力を戻して、もう一度進むもの。

 途中で処理が終わらなかったもの。


 上條は、並んだ項目を見た。


 変更したところを、確かめ直す必要があるのはわかっていた。

 その一つずつに、使うデータと操作があった。


「今、予定してる確認は、どこまでやった?」


「こちらの出力の照合と、表示部分の残りです。今日はこちらを進めるつもりでした」


「追加でこちらを見ると、その分、後ろへ動くね」


「はい。順番は相談できますが、今までの結果を移すだけでは済まないので」


「うん。それは、そうやね」


 上條は、自分の作業版へ目を戻した。

 重なっていた処理は、すっきりして見えた。

 その分、変更した線も広がっている。


「岩田さんと、この案を一度見ます。今の確認は、決まっていたところを先に進めてもらえる?」


「わかりました。試した方の結果は、分けて置いておきます」


 柴崎が席へ戻った。


 上條は、自分が直した取消の結果を開いた。

 四件と書かれた出力の横へ、まだ確かめていない操作の一覧を置いた。


     *


 午後、岩田と一緒に処理を見た。


 先に送ったものには、元の動きと、まとめ直した案の違いを入れていた。

 柴崎が再現した不整合も、そのまま残している。


「出力側だけ、取消した内容が反映されていなかったんですね」


「はい。更新するところが別になっていたので、同じ処理へ通す形にしました」


 上條は、共通にした部分を示した。


「今後ここを変えるときも、一か所を見れば済むようにしたいと思っています」


 岩田は、呼び出す側から順に追った。

 登録のときに渡す内容。

 変更したときに残す内容。

 取消したときの扱い。


 上條も、隣で同じ箇所を見ていた。

 岩田の目が止まると、自分がどう考えたかを説明する。


「まとめたい理由は、わかります」


 岩田が言った。


「今のままだと、次も両方を直す必要がありますから」


「はい。今回みたいに、片方だけ残るのを減らしたくて」


「こちらは、変更した途中で戻った場合も呼びますか」


「そこは、保存が終わったあとだけにしています」


 上條は、入口を開いた。

 岩田が、その前後を確かめる。


「では、保存できなかった場合は、ここへ来ない形ですね」


「はい。ただ、呼ぶ側は変えているので、その場合も確認が要ります」


「そうですね」


 岩田は、柴崎が付けた印を見た。


 処理を追えば、間違いがないかを考えることはできる。

 実際に操作したとき、元の動きが保たれているか。

 出てくる結果まで同じか。

 それは、今見ている画面だけでは終わらなかった。


「今回の取消だけを直すなら、どうなりますか」


 岩田が尋ねた。


 上條は、変更前の処理へ戻した。


「こちらの取消が終わるところで、出力用の記録も更新します。画面側だけ終わる形にしないように、両方を同じ成否で返す必要があります」


「そこを見ましょうか」


 二人で、取消の入口から追い直した。

 対象の一件を確かめるところ。

 変更を残すところ。

 処理を終えたと返すところ。


 上條が、狭い方の修正案を書き出す。

 岩田は、その案でほかの通常操作へ変更が及ばないかを確かめた。


「これなら、登録と変更の入口は、そのままにできますね」


「はい。ただ、似た更新は別々に残ります」


「残りますね」


 岩田は、そこを否定しなかった。


「まとめ直す必要がなくなるわけではないと思います」


 上條は、小さい修正案を見た。

 足りなかったところは埋められる。

 最初に気になった重複は、画面の中に残っている。


「……今のうちに、そこまで直しておきたかったんです」


 言ってから、岩田を見た。


「岩田さんに見ていただけるうちに」


 岩田は、少し間を置いた。


「広い方も、確認することはできます。ただ、私がここを見たことだけでは、ほかの確認まで終わったことにはならないです」


「はい」


 上條は、柴崎が示した項目へ目を落とした。

 岩田の説明を聞きながら、自分が少し急いでいたことに気付いた。


 取消の不整合を直す。

 似た処理をまとめる。

 岩田がいなくなったあと、自分たちが触るところを減らす。


 その三つを、一度に済ませたくなっていた。


     *


 田村が来たときも、二つの案は開いたままだった。


「柴崎さんから、確認する範囲が増えるかもしれんと聞いたんやけど」


「はい。取消の修正で、こちらまでまとめる案を試しました」


 上條は、動きがそろわなかった結果を見せた。

 それから、広く直した方と、取消に絞った方を並べる。


「まとめる方が、次に変更するときは見やすくなると思います。ただ、通常の登録や変更も、もう一度確認する必要があります」


「今まで見たところを、もっかいやるんやな」


「はい。呼ぶところを変えているので」


「絞った方は?」


「取消だけ直します。登録と変更は、今のままです」


 田村は、顧客との確認事項を開いた。

 通常処理を先に使い始めてもらうために、今進めている範囲だった。

 月末側の追加処理は、その中に入っていない。


「今回、使い始めてもらうために、どこまで揃える?」


 上條は、出力に残った五件という数字を見た。


「この取消の不整合を直すところまでにします」


「うん」


「まとめ直す方は、今回から外したいです」


 言葉にすると、自分が朝から触っていた部分が、少し遠くなった。


「取消の修正に絞って、柴崎さんに確認してもらいます。ほかへ影響しないところまで、こちらでも見ます」


 岩田が、狭い方の案を示した。


「今見た範囲では、その形で進められると思います。更新が途中で終わる場合と、取消したあとに確認し直す場合は、残しておきたいです」


「はい。そこは試験へ入れます」


「柴崎さんの今の確認と、順番はどうする?」


 田村が尋ねた。


「今日進めている出力の照合は続けてもらって、こちらは明日渡します。追加する確認も、先に送ります」


「それで、今の枠に入るか、本人と見ようか」


 田村が柴崎を呼んだ。

 柴崎は、自分の一覧を持ってきた。


「取消の修正に絞るなら、こちらの確認を残して進められます。登録と変更は、今回変えないということでいいですか」


「うん。試した方を、そのまま少し戻す形やなくて、元の状態から取消だけ直します」


「わかりました。それなら、どちらで確認するか、揃えておきます」


 柴崎は、試しに使った作業版の名前を示した。

 今回の確認へ使うものとは、別に残す。


「こちらの取消の確認が予定よりかかる場合は、すぐ相談します」


「お願いします」


 上條が答えた。


「ほな、今回はその形で進めよう」


 田村が言った。


「まとめ直す方は、どう残す?」


 上條は、最初の案を開いた。


「取消だけ直しても、こちらを変えるときは両方を見る必要があります。今、別になっているところと、まとめた場合に確かめる操作を残します」


「十二月の仕事と合わせて、西田さんに見てもらおうか」


「はい。僕から説明します」


 上條は、その案を閉じなかった。

 今日直す方の隣へ置いた。


     *


 夕方、西田へ説明する時間を取った。


 田村も同席し、上條が今回の不整合と、修正を絞る理由を話した。

 柴崎の確認にかかる範囲も示す。


「ほかの担当を入れる話には、今のところなってへんのやな」


「はい。今の作業の中で、進める予定です。確認が長引くようなら、その時点で相談します」


「顧客との予定が動くときも、先に上げてな」


「わかりました」


 西田は、残した共通化の案を読んだ。


「こっちは、来月すぐやると決められるわけやないで」


「はい。まだ日程は置いていません」


「ただ、直さんままでええと決めたわけでもないんやな」


「そうです。今回はここまでにして、次に触るときに何が要るかを残したいです」


「わかった。十二月の案件を並べるとき、一緒に見る」


 西田は、上條の案を整理する資料へ加えた。

 実装する人の欄も、着手する日の欄も、まだ空いていた。


 説明を終え、上條は席へ戻った。


 岩田は、別の担当者へ確認を返しているところだった。

 手元に開かれた処理を見て、短く言葉を交わしている。


 上條は、共通化を試した自分の画面を見た。

 明日、ここから進めるつもりで書いた箇所がある。

 その先で岩田に尋ねたいことも、脇に残していた。


 岩田が、確認を終えてこちらを向いた。


「西田さんには、説明できましたか」


「はい。残す方も、十二月の案件整理へ入れていただきました」


「そうですか」


 岩田が、自分の席へ戻りかけた。


「……まとめ直すところまで、一緒に見ていただきたかったです」


 上條が言うと、岩田は立ち止まった。

 画面に残っている案を見る。


「どう直すかは、私も見たかったです」


 少し笑って、そう答えた。


 上條は、朝、その案を作り始めたときのことを思い出した。

 今なら聞ける。

 今なら、理由を確かめながら直せる。

 同じように隣で見る時間が、十二月にはない。


「ここ、登録と変更で渡すものが違うので、まとめたあとも分けて残すか、迷っていました」


「全部を同じ形にする必要はないと思います。ただ、どこを共通にしたいかは、次に見るときもわかる方がいいですね」


「はい。狙っていたところは残しておきます」


 岩田は、隣に開かれた取消の修正案へ目を移した。


「明日使うのは、こちらですね」


「はい。元の処理から直します」


「出力を作り直したときの結果も、見せてもらえますか」


「お願いします」


 上條は、確認する箇所を開いた。

 岩田が、いま必要な一行を指す。


 上條は、自分のメモへ書き込んだ。

 その先の話を、来月また聞くとは言わなかった。


     *


 十一月二十八日、火曜日。


 上條は、共通化を試す前の状態を開いた。

 昨日まとめた処理が、変更に含まれていないことを確かめる。


 登録側は、前のままだった。

 内容を変える側も、動かしていない。

 取消の処理だけを開く。


 出力用の記録を更新する箇所を書き加えた。

 片方だけが終わった場合に、取消できたと返さないことを確かめる。

 取消したあとの内容を、もう一度画面と出力で見る。


 画面には、昨日まとめ直した案より、似た処理が多く残っていた。


 まとめ直した方なら、そこは短くなっていた。

 上條は、一度その作業版を開いた。

 名前を変えて保存してある。昨日の案も、確認してもらった内容も消えてはいない。


 それを閉じ、今回直している方へ戻った。


 取消に使うデータをそろえる。

 直した範囲を確認し、柴崎へ送る。


「こちらでお願いします。昨日、試した方とは別です」


「はい。使うものを切り替えます」


 柴崎が、上條の隣へ椅子を寄せた。

 結果を見るための画面と、試験の一覧を並べる。


 登録した五件から、一件を取り消す。

 画面を開き直す。

 四件になっていた。


 出力を作り直す。

 こちらも四件だった。


「取り消したのは、この一件ですね」


 柴崎が、元の入力内容を示した。


「うん」


 残っている四件を、一つずつ照合する。

 件数だけではなく、取消したものが抜け、残すものがそのまま出ていることを確かめた。


「では、次はこちらを見ます」


 途中で更新を終えられなかった場合を試す。

 画面だけが取消済みにならず、出力とも食い違わないことを確認する。

 条件を戻してやり直すと、両方の結果がそろった。


 柴崎は、そのたびに使ったものと結果を残した。

 上條は、隣で処理が通った箇所を確かめる。


 午前の確認が一度終わると、柴崎は自分の席へ戻った。

 既に予定していた表示部分も、続けて見る必要があった。


 上條は、送られてきた結果を開いた。

 昨日、共通化した方で確認した結果は、そのまま写されていない。

 今回直したものを使った記録が、新しく付いていた。


 岩田にも、変更と結果を見てもらった。


「取消したあと、もう一度表示した結果も揃っていますね」


「はい。出力を作り直した分も、こちらです」


 岩田は、変更した処理と、試した内容を行き来した。


「登録と変更の方は、変えていないんですね」


「はい。こちらが、前との差です」


 上條が示すと、岩田は順に確かめた。

 今回動かしていない箇所と、動かした箇所。

 実際に返った結果。


「こちらの確認は、私から返します。柴崎さんが続けている分の結果も、合わせて田村さんへ見せてください」


「わかりました」


 上條は、岩田の返事を受け取った。

 取消の欄へ確認結果を付ける。

 その下には、ほかの項目が続いていた。


     *


 午後、柴崎から残りの結果が届いた。

 上條は、今回の変更で見ると決めたところが揃っているかを確かめた。

 岩田から戻った確認と合わせ、田村へ報告する。


「取消した分が出力へ残るところは、修正と確認が終わりました」


「こちらで見た結果は、これやな」


「はい。次に先方へ確認していただくものにも、反映します」


 田村は、顧客と確かめる項目へ目を移した。


「ほな、出すものへ入れよう。取り違えんよう、使うものも揃えてな」


「わかりました」


 上條は、送る資料へ確認結果を添えた。

 これで顧客の確認まで終わったわけではない。

 自分たちで確かめて、次へ渡す準備が一つ進んだ。


 共通化の案は、別のところに残っている。

 上條は、そこで気になっていた呼び出し方について、短く追記した。

 十二月に誰が触るかは決まっていない。

 自分が続けられるかも、ほかの仕事と合わせて考えることになる。


 書き終えると、柴崎が近くへ来た。


「上條さん、こちらも同じ形に変えていいですか」


 表示部分の、別の箇所だった。

 昨日から確認を進めていた画面に、似た処理があるという。


 上條は、柴崎が示した箇所を開いた。

 岩田に見てもらった取消の処理と、並べてみる。


 変えたい部分は似ていた。

 その前に通る条件は、同じだろうか。


「まず、こっちも同じ条件か見ようか」


「はい」


 柴崎が、自分の確認した内容を示した。


「ここまでは、同じでした。ただ、この先が少し違っています」


「ほな、そこから見せてもらえる?」


 上條は椅子を引き寄せた。

 柴崎が、次の画面を開く。


 向こうの席では、田村が顧客へ連絡していた。

 岩田は、別の担当者と資料を見ている。


 上條は、柴崎の画面へ目を戻した。


「この場合、戻ったときには、どの内容が残る?」


「こちらです。実際に操作したものを出しますね」


 柴崎が、記録を開いた。

 上條は、その横で今回変えなかった処理を追い始めた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、上條が自分で考えた修正案を、選び直すお話でした。


岩田がいるうちに、先の不安まで減らしておきたい。その気持ちには、仕事をよくしたい思いと、一緒に確かめられる時間が終わる寂しさが重なっていたのだと思います。


柴崎の試験結果を見て、田村や岩田と話し、上條は今回直すところを絞りました。最初の案を消してしまうのではなく、続きの仕事として残しておく。その選択も、自分の言葉で説明しています。


「どう直すかは、私も見たかったです」


岩田にも残る関心と、上條がまだ聞きたかったこと。そのそばで、柴崎との次の確認が始まります。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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