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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第五章 守りたいもの
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133/174

受け取ってもらうまで

 十一月二十日、月曜日。


「こちらは、まだ検収のご返答をいただけていません」


 三宅が示した一行に、金目は目を止めた。


 既存顧客へ納品した、申請を管理する仕組みだった。

 各事業所から上がってくる申請を入力し、責任者が内容を確認する。承認した結果も、そのまま残せるようにしている。


「納品は、済んどるんですよね」


「はい。確認に必要な書類もお送りしています。先週、小坂さんからも状況を確認していただきました」


 三宅は、先方からの返事を開いた。


 実際に使う部署から、追加の希望が出ている。

 その内容も整理してから、検収について返答したい。


「追加の方を待っとるんですか」


「窓口のご担当者は、そうお考えのようです。ただ、今の納品物について、どこまで確認していただけているかは、小坂さんから改めて伺います」


 金目は、資料の右側にある支払条件を見た。


 検収が済んだ月の末締め。

 翌月二十五日払い。


「今月のうちに確認が終われば、来月の予定になるんやな」


「はい。先方の受付も確認します」


 高瀬が答えた。


「翌月へずれると、支払いもその先になりますので」


「……そうですね」


 金目は、年末までの見通しへ目を移した。


 受注を見送った追加開発は、一覧から外れたままだった。

 今は、引き受けると決まっている仕事を進め、その契約から入るお金を確かめている。


 この一件が進んでも、今週の支払いに使えるわけではない。

 それでも、来月の予定を、これ以上後ろへ動かしたくなかった。


「小坂さん、打ち合わせは、いつです?」


「今日の午後です。窓口の方と、申請を確認される部署の課長さんに入っていただきます」


「僕も、一緒に聞いてええですか」


「はい。現在の確認項目と、追加のご希望をまとめたものをお送りします」


 小坂は、既に開発担当へ内容を確認していた。

 金目は届いた資料を開き、検収待ちの一行へ、午後の予定を書き添えた。


     *


 打ち合わせまで、少し時間があった。


 金目は、小坂が送ってくれた記録を読み直していた。

 今回作るものを相談したときの議事録と、合意した確認項目。それから、納品後に届いた質問がまとめられている。


「最初から、一件ずつ確認する話だったんですね」


「はい。申請書を集めて、誰が持っているかを探す時間を、まず減らしたいと伺っていました」


 小坂は、打ち合わせの記録を示した。


「各事業所から本部へ送って、そのあと責任者へ回していたそうです。確認した結果を戻すまで、申請した人には状況がわからなくなることがありまして」


「それで、電話が来るんやな」


「はい。確認する方も、届いたものを探してから返事をされていたようです」


 一覧で状況が見えれば、そのやり取りは減らせる。

 責任者が内容を開いて確かめる流れは残す。

 そこまでを、今回の範囲として相談していた。


「まとめて承認したいというのは、使ってから出た話ですか」


「そうです。申請が一覧に揃うようになったので、そこから続けて処理したいと」


 金目は画面案を見た。

 同じところに並んでいれば、そう考えるのもわかる。


「窓口の方は、何か困ってはるんですか」


「導入後の状況を、社内へ報告されるそうです。今回できたことと、今後のご希望をどう分けて説明するか、迷われているようでした」


 小坂は、先方から受けた質問を開いた。

 追加に当たるかどうかだけでなく、今後の対応予定も聞かれていた。


「こちらの書類を返してもらうだけ、という話でもないんですね」


「そうですね。今日は、実際に確認される方のお話も聞けますので」


 小坂は、午後に使う資料をそろえた。


 金目は、支払予定の画面を小さくした。

 検収待ちの一行の向こうで、先方にも仕事が続いていた。


     *


「入力する方は、前より楽になったと言っています」


 午後の打ち合わせで、先方の課長が言った。


「ただ、確認する側は、まだ一件ずつ開くんですよね」


 共有された画面には、申請が一覧で並んでいた。

 各事業所から、必要なものの購入申請が届く。

 責任者は一件ずつ内容を開き、理由や数量などを確かめて、承認する。


「午前中だけで、何件も来る日がありまして」


 課長が、一つの申請を開いた。

 内容を読み、承認の操作をする。

 一覧へ戻り、次の一件を開く。


「同じようなものが続くときは、一覧で選んで、まとめて処理できないでしょうか」


 話している途中で、課長が机の横へ目を向けた。


「すみません、少しだけ」


 誰かへ短く返事をしてから、こちらへ向き直る。


「急ぎのものが来ると、先に見てほしいと連絡があるんです。それで、ほかを確認している途中でも、戻ることがありまして」


「まとまった時間に、全部見るというわけではないんですね」


「そうできる日はいいんですが、打ち合わせもありますし、現場から呼ばれることもありますので」


 金目は、課長の開いている一覧を見た。

 処理を待つ申請だけが、その人の仕事ではなかった。


「こちらでお時間を取っている間にも、来るんですね」


「まあ、そうですね」


 課長は、少し笑った。


「一件ずつ確認すること自体は、必要だと思っています。ただ、見終わったものがいくつかあるなら、そのあとの操作は一度で済ませたいんです」


 小坂が、資料へ書き込んだ。


「選ぶ前に、内容はご覧になるということですか」


「はい。金額が大きいものや、理由を確認したいものまで、全部まとめたいわけではありません」


 課長は、一覧の一部を示した。


「こういう、毎月ほぼ同じものだけでも違うと思うんです」


 何も見ずに承認したいという話ではなかった。

 既に確かめたものについて、同じ操作を繰り返す時間を減らしたい。

 金目には、その方がよいように思えた。


 小坂は、課長が選んだ申請の画面を確かめた。


「まとめて処理したいものは、一覧でどこまで見分けられますか」


「品名と数量は出ています。ただ、申請の理由は、開かないと見えません」


「その理由によって、確認の仕方も変わりますか」


「変わるものもあります。金額を見てから決めることもありますし」


 小坂は、一覧に出ている項目と、開いてから見る項目を書き分けた。


 窓口の担当者も、うなずいた。


「社内では、申請の手間が減ると説明していましたので。確認する方からも、もう少し楽にできないかと聞かれていまして」


「そうでしたか」


「次にどこまで対応していただけるかも含めて、説明したいと思っていました」


 金目は、一覧へ戻った画面を見た。


 申請を探し、開き、確認し、また戻る。

 自分が毎日している仕事なら、同じことを言うかもしれない。


 ここに選ぶための印を付け、まとめて承認できるようにする。

 相手も、その方が使いやすい。

 追加の話がまとまれば、検収の返事も、もらえるかもしれない。


 先方が必要としていることと、自分たちが今進めたいこと。

 両方が、一つの返事で動くように見えた。


 金目は、手元の資料へ視線を落とした。

 来月の入金予定に、まだ置けていない一件。

 その横で、課長は次の申請を開いていた。


「そこだけ先に、こちらで――」


 言いかけて、金目は口を閉じた。


 選んだものの一つが、途中で変更されていたら。

 一部だけ、承認できないものが混じっていたら。

 どこまで終わったかを、どう知らせるか。


 操作を一つ増やすだけで、確認することまで一つになるわけではなかった。


 手元の予定には、田村と担当者が案件を確かめる時間が入っていた。岩田との確認もある。

 そこを残すために、受けたい仕事を見送った。


 先週は、二課から二時間の応援を出すために、上田たちが予定を組み替えていた。


 今ここで言ってしまえば、小坂は日程を聞かれる。

 西田は、担当を探すことになる。


「……すみません」


 金目は、画面から顔を上げた。


「いつ対応できるかは、一度持ち帰らせてください」


 課長が、金目を見た。


「今回は、難しいということでしょうか」


「今、この場でお約束はできないということです。まとめて確認したいというお話は、わかりました」


 金目は、言葉を継いだ。


「そのご相談と合わせて、今お約束しているところが使えるか、その確認も一緒にさせてもらえますか」


 窓口の担当者は、小坂から送られた資料を開いた。


「今回の確認項目ですね」


「はい。そちらで困っているところがあれば、先に伺いたいです。お約束した動きになっていないところは、こちらで確認します」


 小坂が、現在の画面と確認項目の対応を示した。


 申請する人が入力すること。

 責任者が内容を確認し、承認すること。

 その結果を、申請した側も確認できること。


 承認は、一件ずつ内容を開いて行う形だった。


「担当の者にも、実際に操作してもらった方がいいですね」


 課長が言った。


「明日の確認には、申請を入力している者も入れます」


「ありがとうございます」


 小坂が答えた。


「追加で伺った内容は、分けてお送りします。今のお話で、まだ確認したいこともありますので」


 打ち合わせを終え、共有が切れた。


 金目は、しばらく画面を見ていた。

 小坂が、先方へ送る資料を整理している。


「……さっき、できると言いそうになりました」


「はい」


「一緒に直したら、話も進むかなと思って」


 小坂は、追加希望を書いた箇所へ目を落とした。


「ご相談としては、進めたい内容だと思います」


「僕も、そう思います」


「ただ、いつできますかと聞かれても、今日はお返事できませんから」


「……そうですね」


 金目は、検収待ちの資料を閉じた。


 相手の手間を減らしたかった。

 早く請求へ進めたかった。


 さっきは、その二つを一緒にしていた。


 小坂は、打ち合わせの記録に、先方が見ていた項目を書き足していた。


「明日の確認で使うものは、揃っていますか」


 金目が尋ねた。


「はい。確認用のデータと手順は、担当にも見てもらっています。もし動きに違いがあれば、どこへ戻すかも決めています」


「お願いします。今お約束してるところまで、追加の相談にしてしまわんようにしたいんで」


「そこは、分けておきます」


 小坂は、現契約の確認項目を示した。

 その下に、今日初めて聞けた運用の事情がある。


「追加のご相談には、いつ頃お返事するかもお伝えしたいです」


 金目は、そこで少し黙った。


 持ち帰ると言った。

 けれど、こちらで日程を決めていないまま、先方だけ待たせ続けるわけにもいかない。


「金曜日までに、一度連絡しましょう」


「今週中ですね」


「はい。ただ、その日に、いつ作れるかまでお答えできるとは限りません。まず、追加の内容と、こちらで何を確かめる必要があるかを整理したいです」


「では、今週中に状況をご連絡するとお送りします」


「お願いします」


 小坂は、追加相談の記録へ次の連絡日を入れた。


 金目は、その資料を西田にも送った。

 先方が求めているのは、何も見ずに全部を承認することではない。

 確認済みのものを選び、残りの操作をまとめたいという話だ。


 西田から、しばらくして返事が届いた。


『見たで。処理の条件だけやなくて、誰がどの時点で選ぶかも聞いといた方がええな』


 金目は、打ち合わせの記録を読み返した。

 今ある欄を増やすだけなら、と考えたところで、まだ先方の仕事を十分に聞けていなかった。


『時期は約束してへん。確認する内容を、先に整理したい』


『うん。今週の予定は動かさずに見よう。足りんところがあったら、先方へ聞いてもらうことになると思う』


『わかった。小坂さんとも相談する』


 金目は、二つの記録を並べた。

 明日、今の成果物を確かめるためのもの。

 そのあと、次の相談を進めるためのもの。


 同じ顧客の仕事だった。

 どちらも、返事をしなくていいわけではなかった。


     *


 翌二十一日、火曜日。


 先方の担当者が、申請の画面を開いた。


 普段、その作業をしている人だった。

 窓口の担当者が、今日は検収のための確認として操作してもらうことを説明する。


「いつも入れているものと、同じ内容で大丈夫ですか」


「確認用に用意していただいた分でお願いします。実際の申請とは分けてありますので」


 小坂が答えた。


 担当者は、手元の資料を見ながら画面へ戻った。

 金目は、こちらから操作する順番を先回りして言わないようにしていた。

 使えると説明するためではなく、実際に使って確かめてもらう時間だった。

 事業所を選び、必要なものと数量、理由を入れる。

 送信すると、責任者側の一覧へ新しい一件が加わった。


「こちらですね」


 課長が、その内容を開いた。

 入力した担当者に、表示されている内容を確かめてもらう。


「はい。今入れたものです」


 課長が承認する。

 申請した側で開き直すと、確認済みの結果が残っていた。


「電話で確認しなくても、こちらでわかるようになったのは助かっています」


 担当者が言った。


「前は、申請したあと、どこまで進んでいるかわからなかったので」


 小坂は、その言葉を聞いてから、次の確認項目へ進んだ。


 修正して送り直した場合。

 承認した結果を、あとから確かめる場合。


 開発担当から事前に確認した内容を参照しながら、先方が実際に操作する。

 金目は、途中で答えを引き取らず、その画面を見ていた。


 一件ずつ、確認が済んでいった。


 最後に、課長が一覧へ戻った。


「今回お願いしたところは、これで確認できました」


 窓口の担当者がうなずいた。


「では、こちらの確認結果をまとめてお返しします」


「ありがとうございます」


 小坂が答えた。


「まとめて処理する方は、改めて相談させてください」


 課長が続けた。


「今月は、この形で確認します。ただ、月末に申請が増えるので、そのときの状況もお伝えしたいです」


「はい。どのようなものが増えるかも、伺えればと思います」


「わかりました」


 小坂は、次に聞くことを書き足した。

 その場で、追加の見積もりや日程を出すことはしなかった。


 金目は、課長が開いたままの一覧を見た。

 今日も、このあと届く申請を一つずつ確認するのだろう。


 その手間が、なくなったわけではなかった。


 窓口の担当者が、手元の説明資料を見た。


「社内には、今回の部分は確認できたことと、まとめて処理する方は別に相談していることを、分けて伝えます」


「はい。今日確認した内容も、その形でお送りします」


 小坂が答えた。


「そうしていただけると助かります。私も、どこまでを今回の返事に入れればよいか、整理できました」


 課長は、入力した担当者へ向き直った。


「そちらでは、前の申請もすぐ探せるんですか」


「はい。申請したものが残っているので、前の分も探しやすいです」


「わかりました」


 課長は、確認済みの項目へ印を付けた。

 今できることを受け取ったうえで、次に欲しいことを残す。

 窓口の担当者も、同じ資料へ書き込んでいた。


 金目は、その様子を見てから、頭を下げた。


「お時間いただいて、ありがとうございました」


     *


 午後、先方から検収完了の連絡と、必要な書類が届いた。


 三宅は、案件名、確認結果、請求条件を照合した。

 小坂にも、追加の相談とは別に、今回の検収が完了したことを確認する。


「請求書をお送りします」


「お願いします」


 金目が答えた。


 三宅から送付の報告が届いたあと、高瀬が入金予定を更新した。


「先方の受付も確認できました。契約どおり、十二月二十五日の支払予定とのことです」


「……わかりました。ありがとうございます」


 金目は、その日付を見た。


 来月の欄にある一件。

 今月の検収が終わらなければ、そこへ置けなかった予定だった。


「年末の見通しは、どうですか」


「引き続き確認が必要です。ほかの入金や、外注費の支払いもありますので」


「そうですね」


 高瀬は、今回確認できた条件を残し、次の案件へ移った。


 金目は、届いた請求書の控えを開いた。

 作ったものの説明ではなく、相手へ渡した仕事の名前と、金額が書かれている。


 入金されたときのことを、少し考えた。

 そのあと、同じ月に出ていく予定へ目を戻す。

 今回の分だけを取り出して、余ったお金のように見ることはできなかった。


 三宅からは、送付した書類と先方の受付結果が共有されていた。

 金目は、その連絡へ礼を返した。


 朝から、誰かが確認していた。

 書類をそろえ、相手へ尋ね、操作する人の予定を合わせていた。

 自分が打ち合わせへ入ったから、一件が突然進んだわけではなかった。


 金目は、三宅の連絡を閉じる前に、添付されていた検収結果も開いた。

 相手が確認した項目と、返事を受け取った日付が残っている。

 昨日までは、そこを埋めたいと思っていた。

 今は、誰が何を確かめて埋まったのかも、少しわかる気がした。


 金目は、小坂へ連絡した。


「確認の場を作ってくれて、ありがとうございました」


「こちらこそ、ご一緒いただいてありがとうございました」


「追加の方は、まだ返事できませんけど」


「はい。まず、月末にどんな申請が増えるのか、伺います」


「お願いします。内容を確かめてから、次の返事をしましょう」


「承知しました」


 小坂が共有した記録には、一括承認の相談が残っていた。

 希望する使い方。

 これから聞くこと。

 次に連絡する日は、今週の金曜日。

 開始時期の欄は、空いている。


 金目は、翌週の予定を開いた。


 田村と担当者の確認。

 岩田が入るレビュー。


 昨日、言いかけた作業を書き足すことはしなかった。


 先方から届いた検収の返答を、もう一度開く。

 その下には、三宅が送った請求書があった。


 一件、ここまで進んだ。


 金目は返答を保存し、追加相談の記録へ戻った。

 開始時期の欄には、まだ何も書かなかった。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


金目には、相手の手間を減らしたい気持ちがありました。同時に、早く請求へ進めたいという焦りもありました。


その二つが重なって出かけた「そこだけ先に」。言ってしまえば、誰かがその約束を持つことになります。


今回は、その言葉を止めたあとにも仕事が続くところを描きました。今の成果物を一緒に確かめること。次に連絡する日を決めること。そして、受け取ってもらった仕事を請求すること。


一件が進んでも、相手の手間も、会社の心配も残っています。それでも最後には、誰が何を確かめて進んだ一件なのか、金目にも少し見えるようになりました。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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