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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第五章 守りたいもの
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二時間の応援

 十一月十三日、月曜日。


「岡元さんの時間、少し相談できるか」


 西田から連絡を受け、上田は二課の予定を開いた。


 一課で進めている案件の確認だった。

 木曜日には、上條が岩田と一緒に処理を確かめることになっている。その前に、顧客から届いたデータと、試験の一覧を突き合わせておきたいという。


「田村と予定を見たんやけど、上條君はほかの確認も重なっとる。岡元さんに、一覧を整理するところを手伝ってもらえへんかと思ってな」


「どの辺りを見るんでしょうか」


「決まっとる使い方と、試験の内容が対応しとるか。処理の良し悪しまで、代わりに判断してもらう話やない」


 上田は、送られてきた資料を開いた。


 先月、自分が一課へ共有した、レビュー前に確かめる項目も使われていた。

 必要な資料は揃っているか。

 確認したいことは、どこか。

 誰に判断してもらう必要があるか。


 一覧の右側には、上條が書き足した欄があった。

 自分だけでは決められなかったところに、印が付いている。


「二時間くらい、取れるやろか」


 上田は、岡元の予定へ目を戻した。

 空欄に見えた水曜日の午後には、作業中の画面案を仕上げる予定があった。


「一度、本人と見てもいいですか」


「もちろん。今ここで埋めてほしいわけやない」


「今日のうちに、返事します」


 連絡を終えてから、上田は岡元へ声をかけた。


     *


「一課の確認ですか」


 岡元は資料に目を通した。


「私で見られるところなら、やってみたいです」


「今の作業は、どうなっとる?」


「こちらの画面案は、水曜日に一度見ていただく予定です。それを直して、金曜日にお客様へ出します」


 岡元が、二課の案件を開いた。

 入力する項目を増やす相談を受け、今の画面へどう収めるかを考えているところだった。


「水曜の午後、二時間抜けると?」


「直す時間が、少し厳しくなります。何もなければ間に合うと思いますけど」


 上田は、その言葉を聞いて予定表から手を離した。


 何もなければ。

 まだ見ていない画面案について、そう決めてしまうことはできなかった。


「今の案、どこまでできとる?」


「配置は、だいたい考えました。ただ、項目を全部入れると、確認する順番が前後するので」


 岡元が画面を見せた。


 上田は、顧客から届いた帳票と見比べた。

 右側へ移した項目を確認するには、途中で視線を戻す必要がある。

 見た目を収めるだけでは、使う順番が変わってしまいそうだった。


「ここは、先に一緒に見たいな」


「はい。そこが決まれば、残りを進められます」


 上田は、火曜日の予定を開いた。


 午前中に、西田への進捗共有を入れていた。

 前の週から、議題を先に送り、判断が必要なものを分ける形を試している。


「こっちの確認を、明日の午前へ動かせるかもしれん。西田さんへの共有を先にまとめるから、相談する」


「では、それまでに、今の案で迷っているところを整理しておきます」


「うん。一課へ入るかは、その確認をしてから決めよう」


 岡元はうなずいた。

 上田も、まだ応援の予定を書き込まなかった。


     *


 午後、上田は西田へ二課の状況を送った。


 進んだ作業。

 顧客からの回答待ち。

 今週中に確認するもの。


 そのあとに、岡元の画面案を火曜日の午前に確認したいと書いた。


『明日の共有は、こちらの資料で見てもらえますか。判断が必要な件は、今のところありません』


 西田から返事が届いた。


『見たで。回答待ちの分は、返ってきたら知らせてな。明日の打ち合わせは外そう』


 上田は、予定を変更した。

 西田と話すために空けていた時間へ、岡元との確認を入れる。


 一課に人を出すために、二課の確認をなくしたわけではなかった。

 先に見ておくことが決まった。


 続けて、上條へ連絡を送った。


『岡元さんにお願いする場合、確認する資料を先に送っていただけますか。処理を初めて見るので、二時間で全体を読んでもらうのは難しいと思います』


 少しして、返事が来た。


『使う資料を絞って送ります。判断に迷ったところは、私へ戻してもらう形でお願いしたいです』


 上田は、届いた一覧を岡元へ共有した。


 応援する時間より先に、読むものが決まった。


     *


 翌朝、岡元は二つの画面案を並べていた。


「こちらは、帳票に書いてある順番に合わせました」


 もう一つは、入力欄をまとめた案だった。

 上田は、顧客がどの資料を見て入力するのか、打ち合わせの記録を開いた。


「この帳票を見ながら入れるんやったね」


「はい。ただ、この項目だけは、別の資料を見るそうです」


「ほな、全部を同じ並びにせん方がええかもしれんな」


 二人は、入力する順番を確かめた。

 帳票から写す項目をまとめ、別の資料が必要なものは、そのあとへ置く。


「この形で、先方へ確認する案を作ります」


「お願いします。水曜の午前に、直した案を一度見せてもらえる?」


「はい。それなら、直す時間も取れます」


 岡元は予定を確かめた。


「一課の方は、水曜の午後に二時間で大丈夫です」


「わかった。上條さんにも、そう返す」


 上田は、二課の予定へ先に確認の時間を入れた。

 そのあとで、一課の応援を書き込んだ。


     *


 水曜日の午後。


 岡元は、上條から届いた資料と、顧客のデータを並べていた。


 決まっている使い方。

 そのとき、どんなデータを入れるか。

 何を確かめればよいか。


 上條が書いたものへ、対応する箇所を付けていく。


 途中で、手が止まった。


 試験の一覧には、登録した内容を取り消す場合も含まれていた。

 けれど、使うデータのどれが、その場合に当たるのかわからなかった。


「上條さん、ここは別のデータが来る予定ですか」


 岡元が尋ねると、上條は一覧を開いた。


「……いや。今回届いた分で、見られると思っとった」


「こちらは、登録してから内容を変えた分ですよね。全部取り消した場合は、どれを使うんでしょうか」


 上條は、顧客からの説明を読み直した。


「そうか。これは、取り消しやなくて変更やね」


 画面の上では、どちらも最初の内容が残っていない。

 しかし、確かめたいことは同じではなかった。


 上條は、一覧の一行へ印を付けた。


「ここは、用意するものを確認します。見つからんところに印を付けて、そのまま残してもらえる?」


「わかりました。試験から外さずに、データの方を未確認にしておきます」


 岡元は、次の項目へ進んだ。


 見つかったものには、どこにあるかを書く。

 わからないものは、わからないまま印を残す。


 一時間ほどして、上條が資料を見に来た。


「ここまで見てもらえたんやね」


「はい。こちらの二つは、使うデータがまだ対応していません」


 岡元が説明した。

 上條は、木曜日に岩田へ確認する内容を開いた。


 試験に使うものが揃っていない箇所と、処理の判断を聞きたい箇所。

 今までは、同じ一覧の中に並んでいた。


「先に、こっちは僕の方で確認できるな」


 上條は、顧客へ尋ねる内容を書き出した。


 岡元が見たところを、もう一度最初から読み直す必要はなかった。

 その分、判断を聞きたい箇所へ、先に目を通せた。


     *


 約束した時間になり、岡元は作業を止めた。


「まだ、最後のところが残っています」


 一覧を見せると、上條はうなずいた。


「大丈夫。見たところと、まだのところはわかるから」


「続きを、明日……」


 言いかけて、岡元は自分の予定を見た。

 金曜日に出す画面案が、まだ仕上がっていない。


「すみません。明日は、二課の修正があります」


「うん。そこは上田君からも聞いとる。残りは、こちらで見ます」


 岡元は、確認した範囲を送った。

 最後の行まで埋めてから渡したかったが、そのために残る時間は約束していなかった。


「助かりました」


 上條が言った。


「木曜に全部まとめて聞くつもりやったけど、先に自分で確かめられることが見えたんで」


「よかったです」


 岡元は、二課の画面案を開いた。

 朝、上田に見てもらったところを直し、まだ決めていない箇所へ印を付ける。


 さっきまで見ていた一覧と、同じように。


     *


 木曜日、上條は岩田との確認を終えてから、上田へ連絡した。


『昨日の整理、助かりました。データの確認と、岩田さんに判断してもらうところを分けて進められました』


 上田は、岡元にもその連絡を共有した。


「途中まででしたけど、よかったんでしょうか」


 岡元が尋ねた。


「上條さんは、その先を進められたって」


「はい」


「見ていないところを、見たことにせんかったからやと思う」


 岡元は少し笑った。


「実は、最後まで終わらせたくなりました」


「うん」


「でも、こちらの画面案も、今日直さないといけなかったので」


 上田は、その案を開いた。

 水曜日の確認で付けた印には、岡元の修正と、顧客へ尋ねたいことが書き添えられていた。


「ほな、今はこっちを見ようか」


「お願いします」


 二人は、翌日送る資料を並べた。


 上田は、岡元が直した画面へ目を向けた。


「この項目、別の資料を見るって、先方にもわかるように書いとこう」


「はい。説明の方にも入れます」


 岡元が、資料を引き寄せた。


 金曜日に顧客へ送るための確認が、続いていた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、二課の岡元が、一課の確認を二時間だけ手伝うお話でした。


仕事を渡す方にも、送り出す方にも、続いている仕事があります。上田は二課の確認を早め、岡元は見た範囲と残った範囲を分けて、一課へ返しました。


全部を終わらせなくても、その先を進められる渡し方がある。小さな応援が、両方の課の仕事につながった回になりました。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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