残された選択肢
2034年7月3日、月曜日。
大阪・本町。
株式会社カナメでは、七月最初の営業日を迎えていた。
主要取引先の法的整理が判明してから、四週間。
六月末の入出金は、予定から大きく外れることなく終わった。
しかし、七月の資金繰りについては、まだ見通しが立っていない。
七月二十五日。
社員への給与支払日。
その日までに、必要な資金を確保しなければならなかった。
*
午前九時。
業務部では、高瀬が三宅彩と資金繰り表を確認していた。
画面には、六月末時点の確定残高と、七月の入出金予定が表示されている。
「……三宅さん」
「はい」
「六月末の残高について、最終確認をお願いします」
「承知しました」
三宅は、銀行口座の入出金明細と、経理資料を照合した。
「……こちら、数字は一致しています」
「ありがとうございます」
高瀬は、資金繰り表を更新した。
*
「……今月からは、日付ごとの管理をもう少し細かくしたいと思っています」
高瀬が言った。
「日次管理ですね」
「はい」
「これまでも支払日ごとの確認はしていましたが、今後は毎営業日、残高と入出金予定を照合します」
「承知しました」
三宅は、資料を確認した。
「……そうですね。今月は支払日が近づくにつれて、判断が必要な場面も増えそうですから」
「はい」
*
高瀬は、資金繰り表に新しい項目を追加した。
前営業日末の残高。
当日の確定入金。
当日の確定支出。
翌営業日以降の入出金予定。
そして、今後の資金不足が見込まれる日付。
それぞれを、日付ごとに確認できるようにする。
「……これで、日々の変化を追えるようになりますね」
三宅が言った。
「はい」
「ただし、管理を細かくしたからといって、資金が増えるわけではありません」
高瀬は、静かに答えた。
「……そうですね」
*
午前十時。
金目が、業務部へやってきた。
「……おはようございます」
「おはようございます」
高瀬が答えた。
「資金繰りの方、どうですか?」
「六月末の残高を反映し、七月の日次管理へ切り替えました」
「ありがとうございます」
金目は、画面を確認した。
「……七月に入ったな」
「はい」
「もう、月末の話やなくなってきたな」
高瀬は、うなずいた。
「そうですね。日付ごとに判断する必要があります」
*
金目は、七月二十五日の欄を確認した。
給与支払日。
その前にも、外注費や固定費の支払いが並んでいる。
「……高瀬さん」
「はい」
「この表、どの時点で判断が必要になるかもわかるようにできますか?」
「はい。資金調達に必要な手続きの日数を踏まえて、判断期限を整理します」
「お願いします」
「七月二十日には、社員の皆さんへ給与支払いの見通しを報告する予定です」
「せやな」
金目は、うなずいた。
「……その日になって初めて考えるんでは、遅いですからね」
*
午後一時。
金目と高瀬は、資金調達の選択肢を整理していた。
既存の取引金融機関への追加融資相談。
別の金融機関への相談。
公的融資制度の利用。
既存顧客からの入金予定の確認。
そして、支払条件の見直し。
どれも、検討する余地はあった。
しかし、実際に資金を確保できるかどうかは別だった。
*
「……まず、既存の金融機関についてです」
高瀬が説明した。
「はい」
「先週の回答では、現時点で追加融資の実行を確約できないということでした」
「せやな」
「新しい契約の実績などが確認できれば、再検討の余地はあるとのことです」
「……なるほど」
「ただし、再度審査が必要になるため、七月二十五日までに実行できるかは不透明です」
金目は、うなずいた。
*
「……別の金融機関はどうですか?」
金目が尋ねた。
「相談自体は可能です」
「はい」
「ただ、初めて取引する金融機関の場合、会社の状況や事業計画を一から確認していただく必要があります」
「……せやな」
「今回のように主要取引先の売上が失われた直後では、審査にも慎重な判断が必要になると思います」
「なるほど」
金目は、資料を確認した。
*
「……公的な融資制度は?」
「こちらも確認しています」
高瀬が答えた。
「ただし、制度ごとに要件や審査があります」
「せやな」
「七月二十五日までに実行できるかどうかは、まだ判断できません」
金目は、うなずいた。
*
「……既存のお客様からの入金は?」
金目が尋ねた。
「現在、契約条件に基づく入金予定を確認しています」
「はい」
「一部については、請求や検収の手続きを早められる可能性がないか確認できます」
「なるほど」
「ただし、お客様に無理な支払いをお願いすることは避けるべきだと思います」
「もちろんです」
金目は、うなずいた。
「こちらの都合だけで、条件を変えてもらうわけにはいきませんから」
*
「……ほな、高瀬さん」
金目が言った。
「はい」
「これ、全部並行して進めましょうか」
高瀬が、顔を上げた。
「……すべて、ですか?」
「はい」
金目は、資金調達の一覧を指した。
「既存の銀行も、新しい銀行も、公的な融資制度も」
「はい」
「使える可能性があるもんは、全部確認したいんです」
高瀬は、少し考えた。
「……七月二十五日までに間に合わないものもありますが」
「それでもええんです」
金目が答えた。
「七月を乗り切ったら終わり、いう話ちゃうやろ」
「……そうですね」
「八月も九月も、会社は続けていかなあかん」
*
「……ただし」
金目が続けた。
「はい」
「何でも借りたらええとは思ってません」
「承知しました」
「金利も、返済条件も、ちゃんと比較してください」
「はい」
「それに、審査に必要な資料を何回も作るんは無駄やから、共通化できるところは共通化しましょう」
高瀬は、うなずいた。
「では、資金調達先ごとに必要な資料と手続きを整理します」
「お願いします」
*
「優先順位は、実行までの期間と条件で判断する形ですね」
高瀬が確認した。
「せやな」
金目は、少し考えた。
「……あと、返せる見込みのない金まで借りるつもりはないで」
「はい」
「会社を続けるための借入で、会社の将来を潰したら意味ないからな」
高瀬は、うなずいた。
「承知しました」
*
「……では、七月二十五日までの短期資金と、その先の運転資金を分けて整理します」
高瀬が言った。
「それでお願いします」
「金融機関への相談は、可能なところから順次始めます」
「はい」
「既存のお客様の入金条件についても、契約に沿って確認します」
「お願いします」
金目は、資料を見直した。
「……七月だけやなくて、その先も見据えて動きましょう」
高瀬は、うなずいた。
「承知しました」
*
2034年7月4日、火曜日。
午前九時半。
営業部では、大本恭平が受信したメールを確認していた。
先週、要件整理の工程について発注の意向を示していた顧客からの連絡だった。
契約条件について、社内での確認が終わったという。
大本は、添付された発注書を開いた。
作業範囲。
契約金額。
納期。
検収条件。
そして、支払条件。
これまで調整してきた内容が記載されていた。
*
「……松井さん!」
大本が声をかけた。
「はい?」
「先方から、発注書が届きました!」
松井慎吾が、画面を確認した。
「……なるほど」
「条件も、こちらで確認した内容になっています!」
「そうですね」
松井は、資料を見直した。
「……では、社内でも最終確認しましょう」
「はい!」
*
午前十時半。
小坂千尋も加わり、発注書と提案内容の照合が行われた。
「……作業範囲は一致していますね」
小坂が言った。
「はい」
大本が答えた。
「納期と成果物についても、確認済みです」
「ありがとうございます」
「支払条件については?」
「工程終了後の検収と請求です」
「承知しました」
小坂は、うなずいた。
*
「……では、こちらで受注として登録しましょう」
小坂が言った。
大本は、少し顔を上げた。
「……正式に、ですか?」
「はい」
「発注書も受領できていますし、条件も確認できました」
松井も、うなずいた。
「おめでとうございます」
大本は、思わず笑った。
「……ありがとうございます!」
*
大本は、商談管理表を開いた。
これまで「商談中」と表示されていた案件。
その状態を変更する。
――受注確定。
保存したあと、しばらく画面を見ていた。
主要取引先の法的整理が判明してから、初めて正式に受注できた新しい案件だった。
金額は大きくない。
それでも、確かな仕事が一つ増えた。
*
「……大本君」
松井が声をかけた。
「はい?」
「ようやく契約になりましたね」
「……はい!」
「では、次は納品ですね」
大本は、少し笑った。
「……そうですね(笑)」
「ここからが本番ですよ」
「……はい!(笑)」
*
午後一時。
小坂、西田、高瀬の三人が、新しく受注した案件について確認していた。
「……まず、要件整理の工程から進めます」
小坂が説明した。
「了解です」
西田が答えた。
「成果物と納期については、こちらの内容で合意しています」
「なるほど」
「開発部で、担当者をご検討いただけますか」
西田は、資料を確認した。
*
「……田村にも相談してみようか」
西田が言った。
「田村さんですか?」
小坂が尋ねた。
「うん」
「最近、開発の仕事にも少し入れるように調整しとるんよ」
「なるほど」
「今回の要件整理なら、今までの経験を生かせるかもしれん」
小坂は、うなずいた。
「それでしたら、ぜひ確認をお願いします」
*
「……高瀬さん」
小坂が尋ねた。
「はい」
「今回の案件、資金繰りへの反映はどうなりますか?」
高瀬は、資料を確認した。
「契約条件が確定しましたので、売上見込みと入金予定を更新できます」
「ありがとうございます」
「ただし、入金は検収後になります」
「……そうですね」
「そのため、七月二十五日の給与支払いには、直接間に合わない可能性があります」
西田が、少し考えた。
「……仕事は増えたんやけどな」
「はい」
高瀬が答えた。
*
「……ただ」
高瀬が続けた。
「はい?」
「今回の受注は、今後の事業見通しを説明する材料にはなります」
「なるほど」
「金融機関へ追加で提出する資料にも、反映できると思います」
小坂は、うなずいた。
「では、正式な契約情報を整理して共有します」
「お願いします」
*
午後三時。
金目は、新しい受注の報告を受けていた。
「……正式に契約になったんですね」
「はい」
小坂が答えた。
「ありがとうございます」
「ただし、入金はまだ先になります」
「せやな」
金目は、うなずいた。
「……でも、仕事が一つ増えたんは確かや」
「そうですね」
*
金目は、資料を確認した。
新しい契約。
新しい仕事。
そして、まだ先の入金予定。
会社を続けるための材料は、一つ増えた。
しかし、七月二十五日の支払予定は変わらない。
「……ほな、金融機関にも、この契約のことを共有しましょうか」
金目が言った。
「承知しました」
高瀬が答えた。
「ただし、これで融資が決まるわけではありません」
「わかっとります」
金目は、少し笑った。
「……それでも、できることは進めましょう」
*
その日の夕方。
高瀬は、更新した資金繰り表を保存した。
新しい契約が一件追加されている。
確定した仕事。
確定した契約金額。
そして、今後の入金予定。
それでも、七月二十五日の欄には、まだ不足の可能性が残っていた。
高瀬は、資料を閉じた。
会社が前へ進んでいることと、資金繰りが改善していることは、必ずしも同じではなかった。
*
2034年7月5日、水曜日。
午後七時。
尾崎達也は、自宅のパソコンの前に座っていた。
画面には、オンライン面談の開始を待つ表示が出ている。
六月二十四日に応募した企業から、面談の案内が届いたのは先週のことだった。
今日は、その最初の面談だった。
尾崎は、手元の職務経歴書を確認した。
開発経験。
チームの管理。
部下の育成。
そして、顧客との調整。
これまでカナメで担当してきた仕事だった。
*
画面が切り替わった。
「本日は、お時間をいただきありがとうございます」
先方の担当者が挨拶した。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
尾崎が答えた。
「まず、これまでのお仕事についてお聞かせいただけますか?」
「はい」
尾崎は、職務経歴書を開いた。
「現在は、開発部門の課長として、担当案件の進捗管理や人員配置、部下の育成などを担当しています」
「なるほど」
「以前は、自分自身も開発を担当していましたので、技術面の確認や調整にも関わっています」
担当者は、うなずいた。
*
「……人員配置について、もう少し詳しく教えていただけますか?」
「はい」
「案件ごとに必要な技術や経験を整理して、担当者の配置を検討しています」
「なるほど」
「ただ、単純に空いている人を割り当てるのではなく、本人の経験や今後の成長も考慮するようにしています」
担当者は、少し考えた。
「……それは、現在の会社でも継続して取り組まれているんですか?」
「はい」
尾崎は、うなずいた。
「今も、複数のチーム間で配置を調整しています」
*
「……今後は、どのようなお仕事を希望されていますか?」
担当者が尋ねた。
尾崎は、少し考えた。
「これまでの開発経験と、組織を管理してきた経験の両方を生かしたいと思っています」
「なるほど」
「現場から離れすぎず、開発組織を支えるような仕事ができればと考えています」
担当者は、うなずいた。
「ありがとうございます」
「弊社でも、開発組織の体制づくりや、チーム間の調整を担っていただく役割があります」
尾崎は、少し顔を上げた。
「……そうなんですね」
*
面談は、予定していた時間を少し過ぎて終了した。
尾崎は、パソコンを閉じた。
選考結果が出たわけではない。
内定をもらったわけでもない。
それでも、自分の経験に関心を持ってもらえたことは、少し意外だった。
カナメでは、当たり前のようにやってきた仕事だった。
部下の配置を考えること。
案件の進め方を調整すること。
問題が起きたとき、関係者と話し合うこと。
それらが、別の会社でも必要とされる仕事なのかもしれない。
*
「……どうやった?」
家族が声をかけた。
「……悪くなかったで」
尾崎が答えた。
「そうなんや」
「今までやってきた仕事のこと、結構聞かれたわ」
「……そら、そうやろ」
家族は、少し笑った。
「長いこと頑張ってきたんやから」
尾崎も、少し笑った。
「……まあな」
*
「……ほな、転職するん?」
家族が尋ねた。
「……まだ、わからん」
尾崎が答えた。
「そうやんな」
「向こうの条件も、まだ詳しく聞けてへんし」
「うん」
「それに、今の会社のこともある」
家族は、うなずいた。
「……せやな」
「でも、ほかにも仕事があるんやなって、少し思えたわ」
「……それは、よかったやん」
尾崎は、うなずいた。
*
2034年7月6日、木曜日。
午後二時。
開発一課では、田村洋介が小規模改修のレビューを進めていた。
先週から、久しぶりに開発の仕事へ参加している。
若手社員と相談しながら、変更内容を確認する。
課長としての仕事も続けているため、開発に使える時間は限られていた。
それでも、自分で手を動かす仕事には、以前とは違う楽しさがあった。
*
「……田村」
井上修一が声をかけた。
「何や?」
「ちょっと、運用の方で確認したいことがあるんやけど」
「ええで」
井上は、資料を開いた。
「来月から担当が変わるところ、引き継ぎの方法を相談したいんよ」
「なるほど」
二人は、担当者の経験と作業内容を確認した。
引き継ぎに必要な時間。
障害対応の連絡先。
そして、現在の担当者が抜けた場合の影響。
*
「……しかし、田村」
井上が言った。
「何や?」
「最近、開発にも入っとるんやな」
「せやで」
「……どうや?」
田村は、少し笑った。
「悪くないで」
「ほう」
「ただ、今のやり方を若い子に教えてもらっとるわ(笑)」
井上も、少し笑った。
「……ええことやん」
「せやな」
*
「……井上は、どうなん?」
田村が尋ねた。
「何が?」
「今後のことや」
井上は、少し考えた。
「……考えへんわけちゃうで」
「せやろな」
「でも、今はここでやる仕事があるからな」
「……せやな」
「残るいうても、何も考えてへんわけちゃうで」
田村は、うなずいた。
「……わかるわ」
*
「……ただ、田村」
井上が続けた。
「何や?」
「お前も、自分のことは考えときや」
田村は、少し笑った。
「……最近、そればっかり言われるわ」
「そら、そうやろ」
「部下のことばっかり考えとるからな」
「……まあな」
井上は、うなずいた。
「今の仕事を続けるんもええけど、それだけが選択肢ちゃうで」
田村は、少し考えた。
「……せやな」
*
午後五時。
株式会社カナメでは、定例の状況報告が始まった。
今回は、全社員説明会ほど長い時間を設けていない。
先週から変わったことと、まだ変わっていないことを共有するための短い報告だった。
「……皆さん、お疲れさまです」
金目が挨拶した。
「今日は、今週の状況についてご報告します」
高瀬が、資料を共有した。
*
「まず、営業状況についてです」
金目が言った。
「今週、新しい案件を一件、正式に受注しました」
画面の向こうで、何人かの社員が顔を上げた。
「金額としては大きくありませんが、営業部が進めてきた取り組みが、具体的な成果につながりました」
「ただし、実際の入金は、作業と検収を終えたあとになります」
金目は、少し間を置いた。
「ですので、直近の資金繰りが改善したわけではありません」
*
「金融機関との協議については、引き続き進めています」
高瀬が説明を引き継いだ。
「既存の取引金融機関に加えて、ほかの金融機関や公的な融資制度についても確認しています」
「ただし、現時点では、七月二十五日までに必要な資金を確保できるという見通しは立っていません」
社員たちは、静かに聞いていた。
「七月二十日までに給与支払いの見通しを報告するという約束は、変更ありません」
*
「……質問してもよろしいでしょうか」
一人の社員が手を挙げた。
「もちろんです」
金目が答えた。
「七月二十日までに判断するということでしたが」
「はい」
「もし、それより前に資金調達が間に合わないとわかった場合は、早めに知らせてもらえるんでしょうか?」
金目は、うなずいた。
「はい」
「判断に影響する事実が確認できた場合は、予定日を待たずにお伝えします」
「……わかりました」
*
「……ただし」
金目が続けた。
「はい」
「まだ決まっていないことを、決まったようにお伝えすることは避けたいと思っています」
「そうですね」
「確認できたことと、今後の見込みは、分けてお伝えします」
社員は、うなずいた。
「ありがとうございます」
金目は、少し頭を下げた。
「こちらこそ、ありがとうございます」
*
報告は、予定していた時間内に終了した。
社員たちは、それぞれの仕事へ戻っていった。
新しい仕事が一つ増えたことは、確かな成果だった。
しかし、七月二十五日の給与支払いについては、まだ答えが出ていない。
その事実も、変わらなかった。
*
2034年7月7日、金曜日。
午後五時半。
金目、高瀬、西田の三人が、会議室で資金調達の状況を確認していた。
高瀬は、今週更新した一覧を共有した。
既存の取引金融機関。
新しく相談を始めた金融機関。
公的な融資制度。
そして、既存顧客からの入金予定。
それぞれに、対応状況が記載されている。
*
「……まず、既存の金融機関についてです」
高瀬が説明した。
「はい」
金目が答えた。
「新しい契約の情報を追加で提出しました」
「ありがとうございます」
「現在、再度確認を進めていただいています」
「なるほど」
「ただし、七月二十五日までに実行できるかは、まだわかりません」
金目は、うなずいた。
*
「新しく相談している金融機関については、必要資料を提出しているところです」
高瀬が続けた。
「はい」
「こちらも、審査に時間が必要になる見込みです」
「……せやな」
「公的な融資制度については、利用条件を確認しています」
「なるほど」
「現時点では、いずれも七月二十五日までの実行を確約できる状況ではありません」
西田は、資料を見た。
*
「……今週動いた先も、まだ実行日は出てへんのやな」
西田が、一覧を見ながら言った。
「はい。資料の提出と条件の確認を進めていますが、現時点では確約できるものはありません」
高瀬が答えた。
金目は、七月二十五日までの短期資金と、その先の運転資金を分けた欄を確認した。
「ほな、来週も両方止めずにお願いします。実行までの期間と条件がわかったものから、判断していきましょう」
「承知しました」
並行して相談を進める方針は変わらない。けれど、月曜日には候補だった欄に、今は提出した資料と確認待ちの状況が記されていた。
西田は、未確定の実行日の欄へ目を戻した。
*
会議を終えたあと。
金目は、資金調達の一覧を見直していた。
相談先は、まだ残っている。
ただし、どこから、いつ、いくら調達できるのか。
確定した答えは、まだなかった。
金目は、対応状況を保存した。
七月二十五日までに間に合う方法。
その先の会社を支える方法。
どちらも、必要だった。
*
2034年7月7日、金曜日。
株式会社カナメでは、七月最初の一週間が終わろうとしていた。
営業部では、新しい契約が一つ成立した。
開発部では、今ある仕事を続けるための調整が進んでいる。
そして業務部では、資金調達の選択肢を一つずつ確認していた。
選択肢は、まだ残っている。
しかし、それを実行できるかどうかは、別の問題だった。
七月二十五日。
給与支払日まで、あと十八日。
時間は、選択肢が決まるのを待ってはくれなかった。
お読みいただきありがとうございます。旭月です。
今回は、七月に入ったカナメの様子をお届けしました。
大本が進めてきた案件は、ようやく正式な受注となりました。
小さな一件ではありますが、会社にとって確かな前進です。
一方、資金調達については、まだ厳しい状況が続いています。
金目たちは、既存の金融機関だけでなく、新しい金融機関や公的融資制度など、利用できる可能性のある手段を並行して進めることにしました。
七月の給与支払いに間に合う方法も、その先の会社を支える方法も、どちらも必要だからです。
そして尾崎は、初めて社外の企業との面談に臨みました。
田村や井上も、それぞれの立場で今後の働き方を考えています。
会社にも、社員にも、まだ選択肢は残っています。
ただし、選択肢があることと、それを実際に選べることは同じではありません。
七月二十五日の給与支払日が近づく中、金目たちは引き続き、会社を続けるための方法を探していきます。
引き続き、お付き合いいただければ幸いです。




