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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第五章 守りたいもの
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残せる仕事

 2034年6月16日、金曜日。


 大阪・本町。


 株式会社カナメでは、前日の全社員説明会を受けて、今後の事業方針を整理する作業が始まっていた。


 次の木曜日、六月二十二日。


 金目は、その日までに今後の事業方針を一次報告すると社員たちへ約束している。


 会社として、どの仕事を続けていくのか。


 どの程度の売上が見込めるのか。


 そして、今いる社員たちに、どのような仕事を用意できるのか。


 どれも、会社の将来を考えるために必要なことだった。


 しかし、希望することと、実際にできることは違う。


 金目たちは、その違いを一つずつ確認しようとしていた。


     *


 午前九時。


 金目は、高瀬と会議室で資料を確認していた。


「……ほな、昨日の続きから始めましょうか」


「はい」


 高瀬が資料を共有した。


 画面には、今後の事業方針を整理するための一覧が表示されている。


 既存契約。


 継続見込み。


 新規商談。


 そして、今後の入金予定。


「……確定している売上と、まだ見込みの売上を分けたいんです」


 金目が言った。


「継続契約でも、今後の発注額が決まってへんものがありますよね。そこも、別にしてください」


「承知しました。資金繰り表の入金も、確定分と見込みを分けて反映しています」


 高瀬は、管理表に四つの区分を設けた。


 契約済みで、金額と支払条件が確認できているもの。


 契約は継続しているが、今後の発注額が確定していないもの。


 商談中で、まだ正式な受注に至っていないもの。


 主要取引先の法的整理によって、今後の売上を見込めなくなったもの。


「営業部が頑張ってくれとるんは、ようわかっとります。ただ、希望と計画は分けときましょう」


 金目は、四つの欄を見直した。


「六月二十二日には、この区分も社員に見せたいです。金額をどこまで開示できるかは、確認したうえで」


「承知しました」


「何が残っていて、何がまだ見込みなのか。まず、そこを正確に伝えたいんです」

     *


 午前十時半。


 営業部では、小坂千尋が松井慎吾と大本恭平を集めていた。


 画面には、既存契約と新規商談の一覧が表示されている。


「……では、確認しましょう」


 小坂が言った。


「はい」


 松井が答えた。


「まず、現在継続している契約についてです」


 小坂は、資料を切り替えた。


「こちらは、契約自体は継続していますが、今後の発注額が確定していません」


「そうですね」


「ですので、確定売上としては扱わないようにします」


「承知しました」


     *


「大本さんの方はいかがですか?」


 小坂が尋ねた。


「はい!」


 大本は、前日に整理した資料を開いた。


「以前ご相談いただいたお客様との打ち合わせが、来週月曜日に決まりました」


「ありがとうございます」


「追加開発について、改めてお話を伺う予定です」


「なるほど」


「ただ、まだ正式な発注ではありません」


 小坂が、うなずいた。


「そうですね」


「では、商談中として管理しましょう」


「承知しました」


     *


 松井は、追加開発の発注額が変わり得ることも確かめ、継続契約の一覧へ戻った。


「……大本さん」


 小坂が言った。


「はい」


「来週の商談では、まずお客様のご要望を確認してください」


「承知しました」


「こちらから急いで発注をお願いする必要はありません」


「はい」


「それから、対応できる時期については、開発部へ確認してからお伝えしましょう」


「了解です」


 大本は、資料に確認事項を追加した。


 顧客の要望。


 希望する時期。


 想定する作業範囲。


 そして、契約条件。


     *


「……それと、もう一つ」


 小坂が続けた。


「はい」


「今後は、入金時期も確認するようにしましょう」


 大本が、顔を上げた。


「入金時期、ですか?」


「はい」


「受注できたとしても、会社にお金が入るまで時間がかかる場合があります」


「……なるほど」


「もちろん、お客様に無理な条件をお願いするわけではありません」


「はい」


「ただ、着手金や段階的な請求が可能な案件であれば、その条件も検討したいと思っています」


 大本は、うなずいた。


「……わかりました」


     *


 会議を終えたあと。


 大本は、来週の商談資料を見直していた。


 以前なら、受注できるかどうかを一番に考えていた。


 今も、それは大切だった。


 しかし、受注した仕事を実際に進められるのか。


 いつ成果物を納品できるのか。


 そして、いつ会社へお金が入るのか。


 そこまで考えなければならない。


 大本は、資料の最後に新しい項目を追加した。


 ――想定入金時期。


 まだ、何も入力できなかった。


 それでも、次の商談で確認したいことは、一つ増えた。


     *


 午後一時。


 開発部では、西田が三人の課長を集めていた。


 開発一課の田村洋介。


 開発二課の尾崎達也。


 基盤運用課の井上修一。


 画面には、各課の稼働状況を統合した資料が表示されている。


「……ほな、始めようか」


 西田が言った。


「了解」


 田村が答えた。


「まず、一課から頼むわ」


     *


「一課の方は、別案件へ移れる可能性がある社員を整理したで」


 田村が資料を共有した。


「ありがとう」


「ただ、経験があるからいうて、すぐに担当できるとは限らん」


「……せやな」


「案件によっては、少し教育期間が必要やと思う」


 西田は、うなずいた。


「そこも含めて考えよう」


「了解」


     *


「尾崎のところは?」


 西田が尋ねた。


「二課も、配置候補を整理したで」


 尾崎が答えた。


「ほう」


「ただ、必要な技術と、担当者の経験が合わん案件もある」


「せやな」


「そこを無理に合わせても、現場が困るだけやと思う」


「……そのとおりやな」


 西田は、資料を確認した。


     *


「井上のところは?」


「運用の方は、最低限必要な体制を整理しとる」


 井上が答えた。


「ありがとう」


「ほかの案件へ回せる人もおるけど、障害対応の体制は残しといてほしい」


「もちろんや」


「運用が止まったら、残っとるお客様にも迷惑かかるからな」


「せやな」


 西田は、うなずいた。


「そこは、ちゃんと考える」


     *


 三人の資料を並べると、開発部全体の状況が見えてきた。


 別の案件へ移れる可能性がある社員。


 教育期間が必要な社員。


 そして、まだ担当できる仕事が見つかっていない社員。


 西田は、資料を見直した。


「……ほな、まずは課をまたいで調整しようか」


「せやな」


 田村が答えた。


「一課から出せる人は、候補を整理しとるで」


「ありがとう」


「二課も、必要な人があれば相談してくれたらええ」


 尾崎が続けた。


「了解」


     *


「……ただな」


 尾崎が言った。


「何や?」


 西田が尋ねた。


「人はおるんやけど、仕事が足らんのよな」


「……せやな」


 田村も、うなずいた。


「それに、仕事があっても、すぐに担当できるとは限らん」


「うん」


「仕事が足らんのと、仕事に合う人がおらんのは、別の問題やからな」


 西田は、資料を確認した。


「……ほんま、それやな」


     *


「……ほな、そこも分けようか」


 西田が言った。


「何を?」


 田村が尋ねた。


「仕事そのものが足らんところと、教育や調整で対応できるところや」


「なるほど」


「前者は営業部とも相談せなあかん」


「せやな」


「後者は、開発部でできることを進めよう」


 尾崎がうなずいた。


「了解」


     *


 西田は、資料に新しい区分を追加した。


 配置可能。


 教育・調整が必要。


 配置先未確定。


 そして、運用継続のために必要な人員。


 その一覧を見ても、すべての空欄が埋まるわけではなかった。


 しかし、何が原因で埋まっていないのかは、少しずつ明確になってきた。


     *


 午後三時。


 会議を終えたあと。


 田村は、西田のところへ戻ってきた。


「……西田、ちょっとええか?」


「何や?」


「俺の配置のことなんやけど」


 西田が、顔を上げた。


「うん」


「前に、自分の経験も一覧に入れたやろ」


「せやな」


「……俺も、開発の仕事に入れてくれへんか」


 西田は、少し考えた。


「……お前、今でも仕事しとるやろ(笑)」


 田村は、少し笑った。


「……まあ、そうなんやけどな(笑)」


     *


「いや、そういうことちゃうねん」


 田村が続けた。


「うん?」


「課長としての仕事は、もちろん続けるで」


「せやな」


「でも、今は開発の仕事が減っとるやろ」


「うん」


「ほな、俺も現場に入って、できることがあればやりたいんよ」


 西田は、うなずいた。


「……なるほどな」


     *


「ただ、田村」


 西田が言った。


「何や?」


「課長としての仕事も、なくなるわけちゃうで」


「わかっとる」


「部下の配置や育成、案件の調整も必要や」


「せやな」


「そこに開発まで全部乗せたら、今度はお前が困るやろ」


 田村は、少し考えた。


「……まあ、そうやな」


     *


「……ほな、こうしようか」


 西田が言った。


「何や?」


「まずは、今の課長業務を整理しよう」


「うん」


「そのうえで、開発に入れる時間がどれだけあるか確認する」


「なるほど」


「無理なく入れる案件があれば、そこから始めよう」


 田村は、うなずいた。


「……ありがとう」


     *


「……しかし、田村」


 西田が言った。


「何や?」


「お前、ほんまに開発好きやな」


 田村は、少し笑った。


「……まあな」


「昔から変わらんな」


「そら、そう簡単には変わらんやろ(笑)」


 西田も、少し笑った。


「……せやな(笑)」


     *


 田村が戻ったあと。


 西田は、開発部の配置一覧を見直した。


 田村の名前も、そこに加わっている。


 課長としての仕事を続けながら、開発にも参加する。


 それは、選択肢の一つだった。


 ただし、そのことで仕事の総量が増えるわけではない。


 西田は、資料を閉じた。


 今ある仕事を、できるだけ無理なく進める。


 そのための調整は、まだ続いていた。


     *


 2034年6月17日、土曜日。


 午前十時。


 金目は、自宅の机で資料を確認していた。


 前日に高瀬から受け取った、事業方針の整理表だった。


 確定している契約。


 今後も継続する可能性がある契約。


 そして、まだ受注していない案件。


 それぞれが、別の区分で整理されている。


 金目は、画面を見ながら考えていた。


 会社には、まだ仕事がある。


 ただし、その仕事だけで、今の社員全員の給与や会社の固定費を賄えるとは限らない。


 金目は、別の資料を開いた。


 開発部の稼働予定だった。


     *


 社員の名前が並んでいる。


 担当案件。


 今後の予定。


 そして、配置先がまだ決まっていない社員。


 金目は、資料を見比べた。


 営業部の受注見込み。


 開発部の稼働予定。


 業務部の資金繰り。


 それぞれの資料は、正確に整理されていた。


 しかし、並べて見ると、まだ埋まらない部分がある。


「……仕事、足らんな」


 小さくつぶやいた。


     *


 金目は、西田へ短い連絡を送った。


『昨日の資料、確認しとるで。月曜日に少し相談させてな』


 しばらくして、返信が届いた。


『了解。俺も配置案もう少し見とくわ』


 金目は、少し考えた。


『休みやし、無理せんといてな』


 西田から、すぐに返信が届いた。


『それ、お前が言うんか(笑)』


 金目は、思わず笑った。


『……お互い様やな(笑)』


 そこで、やり取りは終わった。


     *


 金目は、資料を閉じた。


 これ以上、今日考えても、新しい仕事が増えるわけではない。


 社員に休日作業を依頼するつもりもなかった。


 金目は、月曜日に確認したいことだけをメモした。


 ――確定契約で必要な人員。


 ――新規受注時に追加で必要となる人員。


 ――配置先が未確定の社員。


 そして、最後に一行を加えた。


 ――今の仕事で、会社をどこまで維持できるか。


     *


 6月18日、日曜日。


 夜。


 尾崎達也は、自宅でパソコンを開いていた。


 画面には、自分の職務経歴を整理するための文書が表示されている。


 これまで担当してきた案件。


 開発経験。


 チームの管理。


 部下の育成。


 そして、顧客との調整。


 尾崎は、一つずつ書き出していた。


 普段は、部下の経験や担当業務を整理することが多い。


 しかし、今日は自分自身について書いている。


「……意外と、いろいろやっとるな」


 尾崎は、小さくつぶやいた。


     *


「……何しとるん?」


 家族が声をかけた。


「職務経歴、ちょっと整理しとる」


「ほう」


「前に話したやろ。ほかにどんな仕事があるか調べてみようと思って」


「……そうなんや」


 家族は、画面をのぞいた。


「結構、いろいろやっとるんやね」


「……まあ、長いこと働いとるからな」


 尾崎は、少し笑った。


     *


「……ええところ、あった?」


 家族が尋ねた。


「まだ、わからん」


 尾崎が答えた。


「でも、思ったより仕事はありそうや」


「そうなんや」


「今の経験が、そのまま使えるかどうかはわからんけどな」


「……せやな」


 家族は、少し考えた。


「今すぐ決めんでもええと思うで」


「うん」


「でも、選択肢があるんやったら、知っといて損はないやろ」


 尾崎は、うなずいた。


「……そうやな」


     *


 尾崎は、求人情報をいくつか確認した。


 開発組織のマネジメント。


 技術リーダー。


 プロジェクト管理。


 これまでの経験と重なる仕事もあった。


 ただし、仕事内容だけでなく、勤務地や勤務条件も確認する必要がある。


 尾崎は、気になった求人を保存した。


 応募は、まだしなかった。


 来週の木曜日には、会社から事業方針の一次報告がある。


 それを聞いてから考えることもできる。


 しかし、それまで何もしない理由もなかった。


     *


 2034年6月19日、月曜日。


 午前十時。


 営業部の大本恭平は、松井慎吾とともに、以前相談を受けていた顧客とのオンライン商談に臨んでいた。


 追加開発について、改めて話を聞いてもらうことになった案件だった。


「本日は、お時間をいただきありがとうございます」


 大本が挨拶した。


「こちらこそ、よろしくお願いします」


 顧客の担当者が答えた。


「以前ご相談いただいていた件について、現在のご状況を伺えればと思っています」


「ありがとうございます」


 担当者は、資料を開いた。


     *


「実は、社内でもう一度検討していまして」


 担当者が言った。


「はい」


「以前よりも、必要な機能が少し増えています」


「なるほど」


「ただ、まだ予算の承認が取れていないんです」


「承知しました」


 大本は、うなずいた。


「では、まず必要な機能と、優先順位を整理させていただいてもよろしいでしょうか?」


「もちろんです」


     *


 大本は、顧客の要望を一つずつ確認した。


 追加したい機能。


 現在困っていること。


 希望する導入時期。


 そして、予算の検討状況。


「……ちなみに、導入時期については、いつ頃を想定されていますか?」


 大本が尋ねた。


「できれば、秋頃までには進めたいと思っています」


「承知しました」


「ただ、予算の都合もありますので」


「もちろんです」


 大本は、資料に記録した。


     *


「……一つ、ご相談なのですが」


 大本が言った。


「はい」


「今回の内容を、いくつかの工程に分けて進める方法も考えられると思っています」


「工程を分ける、ですか?」


「はい」


「例えば、最初に必要な機能や仕様を整理して、その後に開発を進める形です」


 担当者は、少し考えた。


「……それなら、社内でも検討しやすいかもしれません」


「ありがとうございます」


「ただ、具体的な進め方や費用については、開発部とも確認したうえでご提案します」


「承知しました」


     *


 商談を終えたあと。


 大本は、松井と内容を振り返っていた。


「……どうでした?」


 大本が尋ねた。


「よかったと思いますよ」


 松井が答えた。


「ありがとうございます」


「お客様が今何を必要としているか、きちんと確認できていました」


「はい」


「それに、無理に納期や金額を約束しませんでしたね」


 大本は、少し笑った。


「……そこは、気をつけました」


「よいと思います」


     *


「……ただ」


 松井が続けた。


「はい?」


「まだ受注が決まったわけではありません」


「……そうですね」


「まずは、開発部と対応可能な範囲を確認しましょう」


「了解です」


 大本は、商談記録を更新した。


 商談継続。


 要件整理の提案を検討。


 予算承認は未確定。


 入金時期も未定。


 受注見込みの区分は、まだ変更しなかった。


     *


 午後三時。


 金目、西田、高瀬、小坂の四人が、会議室に集まっていた。


 六月二十二日の事業方針一次報告に向けた確認だった。


 小坂が、営業部の資料を共有した。


 小坂の一覧では、金額と支払条件を確認できた契約、継続中でも発注額が未確定の契約、新規商談が分けられていた。


「本日、大本が以前のお客様と再度お話しできました。追加開発には関心を示していただいていますが、予算承認前ですので、確定売上には含めていません」


「それでええと思います」


 金目は、商談の欄を確認してうなずいた。


     *


「……西田、開発部はどうや?」


 金目が尋ねた。


「今の案件と、配置できる人員について整理したで」


 西田が資料を共有した。


「ありがとう」


「三課体制は維持したまま、課をまたいで調整しとる」


「せやな」


「ただ、全員分の仕事を確保できたわけちゃう」


 金目は、資料を確認した。


「……なるほど」


「教育や調整で対応できるところもあるけど、仕事そのものが足らんところもある」


「……せやな」


     *


「……高瀬さん、資金繰りはどうですか?」


 金目が尋ねた。


「現在の確定契約を前提にした試算を更新しています」


「ありがとうございます」


「ただし、売上が計上されても、入金までには時間があります」


「せやな」


「新規商談については、受注が確定するまでは資金繰りの前提に含めていません」


「了解です」


 金目は、三人の資料を見比べた。


     *


 営業部には、これから獲得できるかもしれない仕事がある。


 開発部には、その仕事を担当できる可能性のある社員がいる。


 業務部には、会社を続けるために必要な支払いが並んでいる。


 しかし、その三つが、まだ十分につながっていなかった。


「……ほな、六月二十二日の報告では」


 金目が言った。


 三人が、顔を上げた。


「今、確定している仕事と、まだ見込みの仕事を分けて説明しましょう」


「承知しました」


 小坂が答えた。


「それから、今の仕事でどこまで対応できるか」


「了解」


 西田がうなずいた。


「資金繰りについても、確定している部分と条件次第の部分を分けてください」


「承知しました」


 高瀬が答えた。


     *


「……ただ、金目さん」


 小坂が言った。


「はい」


「まだ確定していない商談についても、会社として進めていることはお伝えしたいと思っています」


「もちろんです」


「ただ、受注できると決まったわけではないことは、明確にしておきたいです」


「そうですね」


 金目は、うなずいた。


「期待していることと、決まっていることは、分けて伝えましょう」


     *


 会議を終えたあと。


 金目と西田は、会議室に残っていた。


「……金目」


 西田が言った。


「何や?」


「全部残したいんやろ」


 金目は、少し考えた。


「……そら、そうや」


「せやろな」


「今まで一緒にやってきた仲間やしな」


 西田は、うなずいた。


     *


「……でも、全部残せるとは限らんで」


 西田が言った。


「わかっとる。仕事がないからいうて、すぐ誰かを辞めさせるつもりはない。けど、今のままでは難しいんもわかっとる」


 金目は、配置先の決まっていない社員の欄を見た。


「まず今ある仕事を続ける。それから新しい仕事を増やす。そのうえで、どこまでできるか判断するしかないやろ」


 西田は、うなずいた。


     *


 午後六時。


 金目は、事業方針の一次報告資料を開いた。


 確定している契約。


 継続の可能性がある契約。


 まだ受注していない案件。


 そして、今後の人員配置と資金繰り。


 資料には、まだ空欄が残っている。


 それでも、前回の説明会から進んだことはあった。


 何が残っているのか。


 何が足りないのか。


 そして、何を増やさなければならないのか。


 少しずつ、見えてきていた。


     *


 社員全員を残したいという思いと、実際に残せる仕事の量。


 その間にある空欄を、希望だけで埋めるわけにはいかない。


 六月二十二日。社員たちへ事業方針を一次報告する日が、近づいていた。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、カナメに残っている仕事と、これから獲得できるかもしれない仕事を整理するお話でした。


契約が残っていても、今後の売上が確定しているとは限りません。


社員に経験や技術があっても、その力を生かせる仕事が十分にあるとは限りません。


そして、新しい仕事を受注できたとしても、すぐに会社へお金が入るわけではありません。


金目たちは、それぞれの違いを確認しながら、会社を続けるための方法を探しています。


一方、田村は自分自身も開発の仕事に参加しようと動き始めました。


尾崎は、家族と相談しながら、社外の仕事にも目を向けています。


二人とも、まだ今後の進路を決めたわけではありません。


ただ、自分にできることや、これからの選択肢を考え始めています。


金目は、できることなら今いる社員全員と仕事を続けたいと思っています。


しかし、その思いだけで仕事を増やすことはできません。


守りたいものがあるからこそ、今何が残っていて、何が足りないのかを正確に知る必要があるのでしょう。


次回は、六月二十二日の事業方針一次報告へ向けて、さらに具体的な判断が求められます。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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