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カナメ -君はどう考える?-  作者: 旭月
第五章 守りたいもの
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答えられない質問

 2034年6月7日、水曜日。


 午後五時。


 大阪・本町。


 株式会社カナメの会議室で、金目はオンライン会議の参加者一覧を確認していた。


 画面には、社員たちの名前が並んでいる。


 開発部。


 営業部。


 業務部。


 普段はそれぞれの場所で仕事をしている社員たちが、今日は同じ会議に参加していた。


 業務の都合で参加できない社員には、あとから説明資料と質疑応答の記録を共有する予定になっている。


 金目は、マイクの状態を確認した。


「……聞こえていますか?」


 何人かの社員が、うなずいた。


「ありがとうございます」


 金目は、資料を開いた。


     *


「皆さん、お忙しいところ時間を取っていただき、ありがとうございます」


 金目が話し始めた。


「今日は、会社の経営に関わる重要な話があります」


 いつもの全社会議とは違い、冗談はなかった。


「今週の月曜日、主要取引先の一社が法的整理に入ったという情報を確認しました」


 画面の向こうで、何人かの社員が顔を上げた。


「すでに担当業務を通じてご存じの方もおると思いますが、今日は会社として確認できていることを説明します」


 金目は、少し間を置いた。


「ただ、まだわかっていないことも多いです」


「その点は、最初にお伝えしておきます」


     *


 金目は、次の資料を表示した。


 主要取引先の法的整理。


 現在の契約状況。


 そして、カナメへの影響。


「今回の取引先は、長年お付き合いしてきた会社です」


「うちの売上の、およそ半分を占めとりました」


 画面の向こうで、社員たちの表情が変わった。


 半分。


 それは、決して小さな数字ではなかった。


「今後、その売上をこれまでどおり見込むことはできません」


 金目は続けた。


「加えて、すでに請求している代金についても、どこまで回収できるか、まだわかっていません」


 しばらく、誰も発言しなかった。


     *


「ただし、現時点で売上がすべてなくなったと確定したわけではありません」


 金目が言った。


「契約ごとの扱いについては、現在確認しています」


「そのため、今後の売上見込みと、すでに発生している債権は、分けて考える必要があります」


 金目は、資料を切り替えた。


「会社としては、月曜日から対応を始めています」


 金融機関への相談。


 契約と債権についての専門家への確認。


 支出計画の見直し。


 そして、今後の事業計画の再作成。


「何もせずに待っとるわけではありません」


「ただ、まだ結果が出ていないこともあります」


     *


「金融機関には、運転資金について相談しています」


 金目が説明した。


「ただし、融資が決まったわけではありません」


「契約についても、専門家に確認していますが、正式な情報が揃っていない部分があります」


 社員たちは、静かに聞いていた。


「今の段階で、会社がどこまで影響を受けるか、正確にお伝えすることはできません」


 金目は、少し考えた。


「……ただ、これまでの事業計画を、そのまま続けることは難しいと考えています」


     *


「ここまでが、今わかっとることです」


 金目は、資料を閉じずに言った。


「このあと、皆さんから質問を受けたいと思います」


「答えられることは答えます」


「まだわからんことについては、そのままお伝えします」


 少し間を置いた。


「……遠慮せず聞いてください」


 画面の向こうは、静かだった。


 誰も、すぐには手を挙げなかった。


     *


 しばらくして、一人の社員が発言した。


「あの……給与について確認してもよろしいでしょうか」


「もちろんです」


 金目が答えた。


「今月のお給料は、予定どおり支払われるんでしょうか?」


「はい」


 金目は、うなずいた。


「直近の給与については、現在の資金残高で予定どおり支払える見込みです」


 社員は、少しだけ表情を緩めた。


「……ありがとうございます」


「ただし、その先については、今後の資金繰りを確認する必要があります」


 金目は、続けた。


「今後も絶対に問題ないとは、現時点ではお約束できません」


 社員は、静かにうなずいた。


     *


「……賞与についても、聞いていいですか?」


 別の社員が尋ねた。


「はい」


「今年度分として来年四月に支給予定の賞与は、どうなるんでしょうか?」


 金目は、少し考えた。


「……現時点では、まだ決めていません」


「減額される可能性はありますか?」


「あります」


 金目は、短く答えた。


「今後の収支と資金繰りを確認したうえで、判断することになります」


「……そうですか」


「決まり次第、皆さんへお伝えします」


 社員は、うなずいた。


 しかし、その表情から不安が消えたわけではなかった。


     *


「……もう一つ、質問してもいいでしょうか」


 開発部の社員が手を挙げた。


「どうぞ」


「売上の半分を、一社に依存していたというお話でしたよね」


「はい」


「それは、経営上のリスクとして把握されていたんですか?」


 金目は、うなずいた。


「把握していました」


「……では」


 社員は、少し言葉を選んだ。


「なぜ、対策できなかったんでしょうか?」


 会議室の空気が変わった。


 西田が、わずかに姿勢を変えた。


 何かを言おうとした、そのとき。


「……ご指摘のとおりです」


 金目が答えた。


     *


「特定のお客様への依存が大きいことは、以前から認識していました」


 金目は、続けた。


「ほかのお客様との取引も増やしてきましたし、売上の分散も進めようとしていました」


「ただ、結果として、十分ではありませんでした」


 社員は、静かに聞いていた。


「今回のような事態になったとき、会社が大きな影響を受ける状態を残してしまった」


 金目は、少し間を置いた。


「そこは、経営者である私の責任です」


     *


「……責任があるのは、わかりました」


 社員が言った。


「はい」


「でも、責任を認めるだけで、何か変わるんでしょうか?」


 金目は、すぐには答えなかった。


 画面の向こうで、社員たちが待っている。


「……いいえ」


 金目が答えた。


「それだけでは、何も変わりません」


 社員は、うなずいた。


「だから、今後の事業計画を作り直しています」


「資金調達についても相談していますし、支出の見直しも始めています」


「ただ、今日ここで、必ず立て直せるとお約束することはできません」


 金目は、続けた。


「……申し訳ありません」


     *


 しばらく、沈黙が続いた。


 西田は、金目の隣に座っていた。


 開発部の責任者として、説明できることはある。


 しかし、今問われているのは、会社の経営責任だった。


 西田は、それ以上口を挟まなかった。


     *


「……もう一つ、よろしいでしょうか」


 別の社員が発言した。


「はい」


「賞与が減るかもしれないというお話でしたが」


「はい」


「役員報酬は、どうなるんですか?」


 金目は、少しだけ目を上げた。


「……役員報酬ですか」


「はい」


 社員は、続けた。


「社員だけが、負担することになるんでしょうか?」


 金目は、少し考えた。


     *


「……社員だけに負担を求めるつもりはありません」


 金目が答えた。


「役員報酬についても、見直す必要があると考えています」


「ただし、具体的な内容は、まだ決めていません」


 社員は、少し黙った。


「……では、今は何も決まっていないということですか?」


「はい」


 金目は、うなずいた。


「現時点では、そうです」


「……そうですか」


「決まり次第、お伝えします」


 金目は、続けた。


「ただ、経営上の責任を、社員の皆さんだけに負わせるつもりはありません」


     *


 午後五時四十五分。


 説明会は、予定していた時間を超えようとしていた。


 しかし、まだ質問は残っていた。


 給与。


 賞与。


 経営責任。


 そして、役員報酬。


 社員たちの質問は、どれも会社の現状に直接関わるものだった。


 金目は、手元のメモを確認した。


 まだ、答えられていない質問がある。


 金目は、画面の向こうにいる社員たちへ目を向けた。


「……ほかにも、質問ありますか?」


 少しの沈黙のあと。


 新たに、一人の社員が手を挙げた。


     *


「……一つ、確認させてください」


 画面の向こうで、開発部の社員が手を挙げていた。


「はい。どうぞ」


 金目が答えた。


「現在担当している案件についてなんですが」


「はい」


「お客様の会社が倒産した場合、その仕事はどうなるんでしょうか?」


 金目は、西田へ目を向けた。


「西田、今の状況を説明してもらえる?」


「了解」


 西田が、マイクを入れた。


     *


「今、対象の案件については、契約ごとに確認しとる」


 西田が説明した。


「すでに動いとる仕事もあるし、これから着手する予定やった仕事もある」


「はい」


「必要な保守や運用は続けとるけど、新しい作業については確認が取れるまで待っとるものもある」


 社員がうなずいた。


「ほな、担当している人はどうなるんですか?」


「そこも、今調整しとるところや」


 西田は、少し考えた。


「ほかの案件へ移れる人もおると思う。ただ、全員分をすぐに用意できるとは限らん」


「……そうですか」


「状況がわかり次第、各課長からも説明するわ」


「わかりました」


     *


「……すみません。もう一つ、いいでしょうか」


 別の社員が発言した。


「もちろんです」


 金目が答えた。


「今後、人員削減はあるんでしょうか?」


 金目は、少し黙った。


 給与や賞与については、すでに質問が出ていた。


 しかし、今度は雇用そのものについてだった。


「……現時点では、決めていません」


 金目が答えた。


「ただ、今後も絶対にないとは、お約束できません」


 画面の向こうで、何人かの社員が視線を落とした。


     *


「……それは、つまり」


 社員が続けた。


「会社の状況によっては、辞めてもらう人が出るかもしれないということですか?」


「……その可能性まで、今ここで否定することはできません」


 金目は答えた。


「ただ、現時点で人員削減を決定した事実はありません」


「……わかりました」


 社員は、少し間を置いた。


「でも、私たちからすると、いつまで待てばいいのかわからないんです」


 金目は、うなずいた。


「……そうですよね」


     *


「会社が立て直せるかどうか、まだわからないというのは理解しました」


 社員が言った。


「はい」


「でも、私たちにも生活があります」


「はい」


「家族がいる人もいますし、住宅ローンを抱えている人もいます」


 金目は、黙って聞いていた。


「転職するかどうかも含めて、自分たちで判断しなければならないと思うんです」


「……おっしゃるとおりです」


「そのために、いつまでに何を教えてもらえるんでしょうか?」


 金目は、手元の資料を見た。


 資金繰りの見通し。


 今後の事業計画。


 金融機関への相談状況。


 どれも、まだ確定していない。


     *


「……正確な見通しを、いつまでに出せるかは、今の段階ではお約束できません」


 金目が答えた。


 社員は、少し眉を寄せた。


「……それでは、判断できません」


「……そうですよね」


 金目は、うなずいた。


「ただ、見通しが全部固まるまで、何もお伝えしないつもりはありません」


「はい」


「会社として確認できた情報は、定期的に共有します」


「……どのくらいの頻度でしょうか?」


 金目は、高瀬へ目を向けた。


「高瀬さん、週に一度、状況をまとめて共有することはできますか?」


「はい。可能です」


 高瀬が答えた。


「ただし、更新がない項目も出ると思います」


「それでええと思います」


 金目は、うなずいた。


     *


「では、毎週、現在の状況を共有するようにします」


 金目が言った。


「大きな変更があった場合は、それを待たずにお伝えします」


「……ありがとうございます」


 社員が答えた。


 しかし、少し考えてから続けた。


「……それでも、会社が続けられるかどうかは、まだわからないんですよね」


「はい」


 金目は答えた。


「そこは、まだわかりません」


 社員は、静かにうなずいた。


「……わかりました」


 それ以上の質問はなかった。


 ただ、その返事が納得を意味しているのかどうかは、わからなかった。


     *


 午後六時十分。


 説明会は、予定していた時間を大きく超えていた。


 それでも、金目は質問を打ち切ろうとはしなかった。


「……ほかにもありますか?」


 少しの沈黙。


 そして、一人の社員が口を開いた。


「……金目さん」


「はい」


「金目さんは、これからどうされるつもりなんですか?」


 金目は、少し考えた。


「……どうする、というと?」


「会社のことです」


「はい」


「今後、どうしていきたいと考えているんでしょうか?」


     *


「……会社を続けたいと思っています」


 金目が答えた。


「今ここで、何もせず諦めるつもりはありません」


 社員は、うなずいた。


「ただ、どこまでできるかは、まだわかりません」


「……そうですか」


 金目は、続けた。


「金融機関への相談も始めていますし、今後の仕事についても考えています」


「ただ、それで必ず元どおりになるとは言えません」


 社員は、少し黙った。


 そして、もう一つ尋ねた。


     *


「……それは、私たちが残ることを前提にした話ですか?」


 金目は、言葉を止めた。


「……というと?」


「会社を続けたいということは、今いる社員にも残って支えてほしいということなんでしょうか?」


 会議室が静かになった。


 西田も、高瀬も、何も言わなかった。


 社員は、続けた。


「もちろん、会社が続いてほしいとは思っています」


「はい」


「でも、私たちにも自分の人生があります」


「……そうですね」


「会社を守るために、私たちも何かを我慢しなければならないんでしょうか?」


     *


 金目は、すぐには答えなかった。


 会社を続けたい。


 それは、間違いなく自分の意思だった。


 しかし、そのために社員たちへ残ることを求めてよいのか。


 自分が守りたいと思っている会社と、社員たちが守りたいと思っている生活。


 それは、必ずしも同じではない。


「……いいえ」


 金目が答えた。


「会社を続ける責任は、経営者にあります」


 社員は、静かに聞いていた。


「皆さんに、その責任まで背負ってほしいとは思っていません」


     *


「もちろん、できることなら、これからも一緒に仕事をしてほしいと思っています」


 金目が続けた。


「ただ、それを理由に、皆さんの判断を縛るつもりはありません」


「……そうですか」


「皆さんにも、それぞれ生活がありますし、将来があります」


「はい」


「会社の状況を見て、別の道を考える人がおっても、それは当然やと思います」


 金目は、少し間を置いた。


「……ただ、会社としてできることは、最後まで考えたいと思っています」


     *


「……ありがとうございます」


 社員が言った。


 その声は、少し落ち着いていた。


 しかし、安心したようには聞こえなかった。


 金目も、それ以上の言葉を重ねなかった。


 何を言っても、今の状況が変わるわけではない。


 社員たちが求めているのは、言葉だけではなかった。


     *


 午後六時二十分。


 高瀬が、金目へ小さく声をかけた。


「金目さん、未回答の質問がいくつか残っています」


「ありがとうございます」


 金目は、うなずいた。


「ほかに、今この場で確認しておきたいことはありますか?」


 しばらく待った。


 新しい質問は出なかった。


「……では、今日はここまでにしたいと思います」


 金目が言った。


「今日いただいた質問のうち、回答できなかったものについては、確認してお伝えします」


「また、個別に相談したいことがあれば、各部長か業務部へ連絡してください」


     *


「……最後に」


 金目は、少し考えた。


「今日は、厳しい質問もいただきました」


 社員たちは、静かに聞いていた。


「でも、どれも当然の質問やと思っています」


「会社のことも、皆さん自身のことも、ちゃんと考えていただいているからこそやと思います」


 金目は、頭を下げた。


「今の段階で、十分な答えをお伝えできず、申し訳ありません」


「これからも、確認できたことはお伝えしていきます」


「本日は、ありがとうございました」


     *


 オンライン会議が終了した。


 画面に並んでいた社員たちの名前が、一つずつ消えていく。


 最後の参加者が退出し、会議室には金目、西田、高瀬が残った。


「……お疲れさまでした」


 高瀬が言った。


「ありがとうございます」


 金目が答えた。


「未回答の質問について、少し確認してもよろしいでしょうか」


「もちろんです」


 高瀬は、説明会の記録を開いた。


     *


「まず、給与についてです」


「はい」


「直近の支払いについてはご説明いただきましたが、その次の給与について、いつ頃までに見通しが立つのかという質問が残っています」


「……なるほど」


「それから、賞与の判断時期ですね。減額の可能性は説明しましたが、いつ決定するのかは回答できていません」


 金目は、うなずいた。


「せやな」


「もう一つ、雇用についてです」


 高瀬は、資料を切り替えた。


「人員削減を決定していないことは説明しました。ただ、今後その判断が必要になった場合、いつ、どのように社員へ知らせるのかという質問がありました」


「……それも、まだ決まってへんな」


「はい」


     *


「ほかには?」


 金目が尋ねた。


「担当案件がなくなった場合の配置についてです」


 高瀬が答えた。


「開発部の社員から、別の案件へ移れない場合はどうなるのか、という質問が寄せられています」


 西田が、顔を上げた。


「……そこは俺の方でも確認せなあかんな」


「頼むわ」


「各課の稼働は整理しとるけど、全員の次の仕事までは、まだ決められてへん」


「せやな」


 高瀬は、続けた。


「それから、社員が今後の進路を考える場合、会社としてどのような情報や相談の機会を用意できるのか、という質問もあります」


 金目は、少し考えた。


「……それは、ちゃんと考えなあかんな」


     *


 高瀬は、未回答事項を一覧にした。


 次回以降の給与支払いの見通し。


 賞与の判断時期。


 雇用に関する判断と通知の方法。


 担当案件がなくなった社員の配置。


 そして、社員自身が今後の進路を考えるための情報提供と相談体制。


 どれも、簡単には答えられない質問だった。


「……これ、回答期限も決めとこうか」


 金目が言った。


「はい」


「全部の結論を一週間で出すんは無理やと思うけど」


「そうですね」


「少なくとも、いつまでに何を確認するつもりなんかは、伝えたい」


 高瀬がうなずいた。


「では、各項目に担当者と次回報告日を設定します」


「お願いします」


     *


「……金目」


 西田が声をかけた。


「何や?」


「これ、社員に答えるためだけの話ちゃうな」


 金目は、資料を見た。


「……せやな」


「俺ら自身が、決めなあかんことや」


「ほんまやな」


 金目は、少し考えた。


「……説明会、終わったと思ったんやけどな」


 西田が、わずかに笑った。


「終わったんは、説明だけやろ」


「……せやな」


     *


「高瀬さん」


 金目が言った。


「はい」


「明日、この一覧をもとに、対応の順番を整理しましょう」


「承知しました」


「西田も、開発部の配置について確認をお願いします」


「了解」


「それと、個別に相談したい社員がおったら、話を聞けるようにしといてください」


「はい」


 高瀬がうなずいた。


「業務部で窓口を整理します」


「お願いします」


     *


 午後六時四十分。


 金目は、会議室を出た。


 事務所には、まだ何人かの社員が残っていた。


 普段と同じように、画面に向かって仕事をしている。


 金目は、その様子を少しだけ見た。


 さっきまで、同じ説明会に参加していた社員たちだった。


 今、何を考えているのか。


 説明を聞いて、どう感じたのか。


 それは、金目にはわからなかった。


     *


 2034年6月7日、水曜日。


 株式会社カナメでは、主要取引先の倒産について、初めて全社員へ直接説明が行われた。


 金目は、確認できた事実を伝えた。


 経営責任を認めた。


 そして、まだ答えられないことがあると説明した。


 説明会は終わった。


 しかし、社員たちの不安が消えたわけではない。


 給与は、いつまで支払えるのか。


 賞与は、どうなるのか。


 自分の仕事は、残るのか。


 そして、この会社に残るべきなのか。


 それぞれの社員が、それぞれの立場で考え始めていた。


 金目は、会社を続けたいと伝えた。


 ただし、そのために社員たちの人生を縛るつもりはないとも伝えた。


 その言葉が、どのように受け止められたのか。


 まだ、わからない。


 そして翌朝。


 金目たちは、社員から突きつけられた問いに、一つずつ向き合うことになる。


 今度は、説明するためではない。


 答えを出すために。

お読みいただきありがとうございます。旭月です。


今回は、カナメの全社員説明会をお届けしました。


給与、賞与、雇用、そして経営責任。


社員たちから寄せられた質問は、どれも厳しいものでした。


しかし、どれも自分や家族の生活を守るための、当然の問いでもあります。


金目は、答えられることには答え、わからないことはわからないと伝えました。


ただ、誠実に説明したからといって、不安がなくなるわけではありません。


特に印象的だったのは、会社を続けたいという金目の思いと、社員それぞれの人生が、必ずしも同じ方向を向いているとは限らないことです。


会社を守ること。


社員の生活を守ること。


その二つは、いつでも両立できるとは限りません。


そして説明会のあと、金目たちの手元には、いくつもの未回答の質問が残りました。


次に求められるのは、言葉だけではなく、具体的な判断です。


引き続き、お付き合いいただければ幸いです。

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