待ってくれないもの
2034年6月7日、水曜日。
大阪・本町。
株式会社カナメでは、主要取引先の法的整理が判明してから三日目の朝を迎えていた。
昨日の経営会議では、会社として当面の対応方針を決めた。
既存顧客との仕事を続けること。
不要不急の支出を見直すこと。
資金調達の選択肢を調べること。
そして、社員へ現在の状況を説明すること。
金目は、午前九時から高瀬との打ち合わせを予定していた。
*
「金目さん、おはようございます」
高瀬が、資料を持って会議室へ入ってきた。
「おはようございます」
金目が答えた。
「昨日の支出見直しの件、確認できたものから整理しました」
「ありがとうございます」
高瀬は、資料を共有した。
設備の更新予定。
新しい備品の購入。
そして、今後予定されている外部サービスの契約。
それぞれについて、延期できるかどうかが記載されていた。
*
「こちらの設備更新については、担当部門へ確認しました」
高瀬が説明した。
「現時点では、延期しても業務への影響はありません」
「なるほど」
「では、こちらは延期する方向で進めてよろしいでしょうか?」
「ええと思います」
金目は、うなずいた。
「ただ、必要になったら改めて判断しましょう」
「承知しました」
「ほかの項目はどうですか?」
「こちらは、業務に必要な契約ですので、継続した方がよいと考えています」
「せやな」
金目は、資料を確認した。
「仕事できんようになったら意味ないしな」
「そうですね」
*
「……ちなみに、全部でどのくらい減らせそうですか?」
金目が尋ねた。
「現在、確認できた範囲では、一定の支出を先送りできます」
「なるほど」
「ただし、毎月の固定費が大きく減るわけではありません」
「せやな」
高瀬は、うなずいた。
「給与や社会保険料、事務所賃料などは、引き続き発生しますので」
「了解です」
金目は、少し考えた。
「……まあ、今できることからやるしかないな」
「そうですね」
*
午前十時。
金目と高瀬は、既存の取引金融機関との打ち合わせに臨んでいた。
今回の相談は、今後の運転資金についてだった。
現時点で、直近の支払いに問題はない。
しかし、主要取引先からの入金が途絶え、今後の案件も失われた場合、会社の資金繰りは大きく変わる。
そのため、資金調達の選択肢を早めに確認しておく必要があった。
*
「本日は、お時間をいただきありがとうございます」
金目が挨拶した。
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」
金融機関の担当者が答えた。
「本日は、運転資金についてのご相談と伺っています」
「はい」
金目は、資料を共有した。
「実は、主要取引先の一社が法的整理に入りまして」
「……そうでしたか」
「現在、契約や売掛金への影響を確認しているところです」
「承知しました」
「直近の支払いは問題ないんですが、今後の資金繰りについて、早めに相談しておきたいと思っています」
*
「まず、現在の財務状況を確認させていただけますか?」
担当者が尋ねた。
「もちろんです」
高瀬が、資料を共有した。
「こちらが直近の決算書と試算表です」
「ありがとうございます」
「それから、現在の資金繰り表と、対象取引先に関する債権一覧を整理しています」
「承知しました」
担当者は、資料を確認した。
「……なるほど」
少し考えたあと、口を開いた。
「今後の事業見通しについても、確認させていただきたいと思います」
「はい」
金目が答えた。
「現在、主要取引先の案件を除いた場合の事業計画を作り直しているところです」
「そうですか」
「そちらも、まとまり次第お送りします」
*
「ちなみに、追加の運転資金については、ご相談可能でしょうか?」
金目が尋ねた。
「もちろん、ご相談は可能です」
担当者が答えた。
「ただし、実際のお借り入れについては、資料を確認したうえで審査が必要になります」
「承知しています」
「金額や条件についても、現時点ではお約束できません」
「もちろんです」
金目は、うなずいた。
「今すぐ結論が出るとは思っていませんので」
「ありがとうございます」
「まず、どのような選択肢があるのか確認したかったんです」
*
「それでしたら、まずは必要資料を揃えていただければと思います」
担当者が言った。
「承知しました」
「決算書、直近の試算表、資金繰り表、債権一覧、それから今後の事業計画ですね」
「はい」
高瀬が答えた。
「準備できたものからお送りします」
「よろしくお願いいたします」
金目も頭を下げた。
「ありがとうございます」
*
打ち合わせを終えたあと。
金目は、高瀬と資料を確認していた。
「……まあ、すぐには決まらんわな」
金目が言った。
「そうですね」
高瀬が答えた。
「ただ、必要な資料は確認できました」
「せやな」
「今後の事業計画については、営業部と開発部の見通しも反映する必要があります」
「お願いします」
金目は、うなずいた。
「……しかし、こういうときほど、普段の数字がちゃんと整理できとって助かるな」
「そうですね」
「一から全部調べ直すんやったら、もっと時間かかっとったやろうし」
「はい」
高瀬は、少し笑った。
「では、準備できた資料から進めていきます」
「よろしくお願いします」
*
午前十一時。
金目は、営業部長の小坂とともに、外部の専門家へ相談していた。
確認したいのは、倒産した取引先との契約の扱いだった。
開発中の案件。
まだ着手していない案件。
そして、運用中のシステム。
それぞれについて、カナメがどのように対応するべきかを確認する必要があった。
*
「まず、現在の状況を確認させてください」
専門家が言った。
「はい」
小坂が、資料を共有した。
「こちらが、現在確認できている企業情報です」
「ありがとうございます」
「先方からの正式な通知については、まだ届いていません」
「承知しました」
専門家は、資料を確認した。
「……なるほど」
「現時点では、法的整理に入ったという情報は確認できていますね」
「はい」
「ただし、具体的な手続きの内容については、正式な資料を確認する必要があります」
「……ちなみに、今動いとる仕事はどうしたらええんでしょうか?」
金目が尋ねた。
「契約ごとに確認する必要があります」
専門家が答えた。
「一律に継続、あるいは停止と判断することは避けた方がよいでしょう」
「なるほど」
「契約条件や、現在の履行状況によっても扱いが変わる可能性があります」
「承知しました」
金目は、うなずいた。
「では、契約書と案件状況を整理してお送りします」
「お願いします」
「それと、未入金の請求についてなんですが」
小坂が続けた。
「はい」
「今後、どのような手続きが必要になるのでしょうか?」
「まず、正式な手続きの種類と、債権届出の要否を確認する必要があります」
「なるほど」
「届出が必要な場合には、期限が設けられることがあります」
「そうなんですね」
「ですので、今後届く通知や公表情報は、速やかに確認してください」
「承知しました」
小坂は、メモを取った。
「運用中のシステムについても、確認したいことがあります」
金目が言った。
「はい」
「現在、監視や障害対応を続けているものがあるんですが」
「なるほど」
「それも、契約を確認したうえで判断する必要がありますか?」
「そうですね」
専門家が答えた。
「継続的な役務提供に関する契約については、手続きの種類や契約条件を踏まえて検討する必要があります」
「承知しました」
「現時点では、独断で契約を終了したり、サービスを停止したりすることは避けてください」
「わかりました」
*
相談を終えたあと。
金目は、小坂と確認事項を整理していた。
「……結局、正式な情報がないと判断できへんことが多いな」
金目が言った。
「そうですね」
小坂が答えた。
「ただ、確認すべき事項は整理できました」
「せやな」
「契約書と案件状況については、営業部で引き続き整理します」
「お願いします」
金目は、うなずいた。
「先方から何か連絡があったら、すぐ共有してください」
「承知しました」
*
正午過ぎ。
営業部では、松井が取引先への連絡状況を確認していた。
これまでやり取りしていた担当者へ、確認の連絡を送っている。
しかし、まだ返事は届いていなかった。
「……小坂さん」
松井が声をかけた。
「はい?」
「先方から、まだ返事がありません」
「そうですか」
「もう一度、連絡した方がよいでしょうか?」
小坂は、少し考えた。
「まずは、先ほど専門家へ確認した方法で進めましょう」
「承知しました」
*
「連絡した日時と内容は、記録していますか?」
小坂が尋ねた。
「はい。すべて残しています」
「ありがとうございます」
「ただ、いつ返事が来るかは、わかりませんね」
「そうですね」
小坂は、少し間を置いた。
「……今は、先方も通常どおり対応できる状況ではないのかもしれません」
「そうですね」
「こちらでできる確認を進めましょう」
「承知しました」
*
2034年6月7日、水曜日。午後一時。
金融機関への相談も、契約と債権の確認も始まった。しかし、融資や契約の扱いは未確定で、主要取引先からの返事も届いていない。
会社の外にある問題が動くのを待つ間にも、この日の夕方は近づいていた。
金目は、社員たちに伝える資料を開いた。
*
午後一時。
株式会社カナメの開発部では、西田が三人の課長を集めていた。
開発一課の田村洋介。
開発二課の尾崎達也。
基盤運用課の井上修一。
主要取引先の法的整理が判明してから、三日目。
各課では、対象取引先に関わる案件の確認が進められていた。
「……ほな、昨日の続きから確認しようか」
西田が言った。
「了解」
田村が資料を開いた。
「一課の方は、進行中の案件と、今後の予定を整理したで」
「ありがとう」
「契約の確認が必要な分は、いったん新しい作業を保留しとる」
「せやな」
「ただ、今動いとる分については、必要な対応を続けとるで」
「了解」
*
「尾崎のところは?」
西田が尋ねた。
「二課も、だいたい整理できたで」
尾崎が答えた。
「今週から着手する予定やった案件は、まだ始めてへん」
「了解」
「ほかの案件に回せる人もおるけど、全部は難しいな」
「……せやな」
西田は、資料を確認した。
開発部では、複数の案件が並行して進んでいる。
しかし、主要取引先の仕事がなくなれば、担当していた社員の稼働にも影響が出る。
ほかの顧客の案件へ移せる人もいる。
ただし、必要な技術や経験、案件の開始時期が一致するとは限らなかった。
*
「井上のところはどうや?」
「基盤運用課は、今のところ監視を続けとるで」
井上が答えた。
「契約の扱いについては、営業部と確認中や」
「了解」
「ただ、今後どうなるかによっては、運用体制も見直さなあかんな」
「せやな」
西田は、うなずいた。
「ほな、当面は必要な対応を続けてくれ」
「了解」
「新しい変更作業については、確認が取れてからにしよう」
「わかった」
*
「……しかし、西田」
田村が口を開いた。
「何や?」
「このまま案件がなくなったら、結構な人数の予定が空くで」
「……せやな」
「ほかの案件へ移せるところはあるけど、全部は埋まらんと思う」
尾崎もうなずいた。
「二課も同じやな」
西田は、少し考えた。
「……ほな、まずは空く可能性のある稼働を整理しようか」
「了解」
「ただ、まだ案件が全部なくなると決まったわけちゃう」
「せやな」
「確定しとることと、そうなるかもしれんことは分けておこう」
三人がうなずいた。
*
「……社員には、どう説明するん?」
尾崎が尋ねた。
「今日の夕方、金目から全社員向けに説明する予定や」
西田が答えた。
「そうなんか」
「せや」
「俺らも参加するんやな?」
「もちろんや」
西田は、少し間を置いた。
「……今は、わからんことも多いけどな」
「せやな」
田村が答えた。
「まあ、何も説明せんよりはええやろ」
「ほんま、それやな」
*
午後二時。
金目は、高瀬から届いた資料を確認していた。
金融機関へ提出する予定の資料。
現在の資金繰り表。
そして、支出見直しの一覧。
昨日の経営会議で決めた対応が、少しずつ具体的な作業になっていた。
ただし、資金繰りの見通しは依然として厳しい。
主要取引先からの入金が途絶えた場合、これまでの支出を維持し続けることは難しくなる。
金目は、資料を見直した。
*
「……高瀬さん、ちょっとええですか?」
金目が連絡した。
「はい。大丈夫です」
「資金繰りの資料、確認しました」
「ありがとうございます」
「金融機関への提出は、いつ頃になりそうですか?」
「準備できた資料から、本日中に送付する予定です」
「了解です」
「ただし、今後の事業計画については、営業部の受注見込みを反映する必要があります」
「せやな」
金目は、うなずいた。
「そこは、小坂さんとも確認しましょう」
「承知しました」
*
「……ちなみに」
金目が尋ねた。
「はい」
「資金調達ができるとして、実際に入金されるまでには時間かかりますよね」
「そうですね」
高瀬が答えた。
「審査や契約の手続きがありますので、現時点では時期を見込めません」
「……せやな」
「また、希望する金額を調達できるかどうかも、まだわかりません」
「了解です」
金目は、少し考えた。
「……ほな、借りられる前提で資金繰りを組むんは危ないな」
「はい」
「現時点では、調達できない場合も含めて試算しています」
「ありがとうございます」
*
「それと、もう一つ確認したいんです」
金目が言った。
「はい」
「今後の給与支払いについて、どの時点で資金が不足する可能性があるか、確認できますか?」
高瀬は、少し間を置いた。
「はい。現在の資金繰り表から、支払日ごとの残高を確認できます」
「お願いします」
「ただし、今後の入金や支出によって変動しますので、複数の条件で整理します」
「それで大丈夫です」
金目は、うなずいた。
「……支払日になってから足らんとわかるんは、避けたいんで」
「承知しました」
*
通話を終えたあと。
金目は、予定表を開いた。
金融機関への資料提出。
契約対応の確認。
事業計画の見直し。
そして、午後五時からの全社員説明会。
どれも、先延ばしにできる仕事ではなかった。
金目は、説明会の資料を開いた。
*
午後三時。
金目、西田、高瀬、小坂の四人は、説明会の最終確認を行っていた。
業務部が準備した資料には、現時点で確認できている事実がまとめられている。
主要取引先が法的整理に入ったこと。
カナメの売上や案件に影響が出る見込みであること。
現在、金融機関や専門家へ相談していること。
そして、まだ確定していない事項があること。
「……ほな、内容を確認しようか」
金目が言った。
三人がうなずいた。
*
「まず、取引先の件は、確認できている事実だけを説明します」
金目が言った。
「はい」
小坂が答えた。
「現在の契約や債権の扱いについては、まだ確認中です」
「せやな」
「そこは、未確定と説明しましょう」
「承知しました」
金目は、次の資料を開いた。
「会社への影響については?」
高瀬が答えた。
「売上見込みの大幅な見直しが必要になることは説明できます」
「はい」
「ただし、具体的な損失額や回収可能額については、まだ確定していません」
「せやな」
*
「……給与のことは、どう話しましょうか」
金目が尋ねた。
高瀬は、資料を確認した。
「直近の給与については、予定どおり支払える見込みです」
「せやな」
「ただし、その先については、今後の資金繰りによって変わる可能性があります」
「……なるほど」
金目は、少し考えた。
「ほな、直近の支払いは予定どおり進めると説明しようか」
「承知しました」
「ただ、今後も絶対大丈夫とは言わんようにしたい」
「そうですね」
西田がうなずいた。
「まだ、そこまで言える状況ちゃうしな」
*
「雇用については?」
小坂が尋ねた。
金目は、少し黙った。
社員の雇用を維持したい。
それは、当然の思いだった。
しかし、今の時点で、すべての社員の雇用を今後も維持できると断言することはできない。
「……まだ、何も決めてへん」
金目が答えた。
「せやな」
西田がうなずいた。
「でも、全員を絶対守る言うんは、今は約束できへんな」
金目は、資料を見直した。
「……そうやな」
*
「……ほな、雇用については、現時点で人員削減を決定していないことを説明しようか」
金目が言った。
「はい」
高瀬が答えた。
「ただし、今後の事業計画によっては、判断が必要になる可能性があることも伝えますか?」
金目は、少し考えた。
「……伝えよう」
西田が、金目へ目を向けた。
「ええんか?」
「隠してもしゃあないやろ」
金目が答えた。
「今の段階で、絶対ないとは言えへんし」
「……せやな」
「ただ、決まってへんことを、決まったように言うんも違う」
「そうですね」
高瀬がうなずいた。
*
「……社員からしたら、結構きつい話になるで」
西田が言った。
「せやな。質問も出るやろうけど、聞かれたことには、ちゃんと答えたい」
金目は、雇用についての項目を見た。
「答えられへんことは、そう言うしかない。それでも、何も言わんままにはしたくない」
西田は、うなずいた。
*
午後四時。
説明会の資料が完成した。
業務部では、全社員へ案内が送られている。
午後五時開始。
オンライン参加を基本とし、業務上参加できない社員には、説明資料と質疑応答の記録を共有する。
質問は、説明会の中でも受け付ける。
その場で答えられないものについては、後日回答する。
高瀬は、案内の送信状況を確認した。
*
「……福原さん、参加案内は届いていますか?」
高瀬が尋ねた。
「はい。送信状況は確認できています」
「ありがとうございます」
「業務の都合で参加できない方についても、後ほど資料を共有する予定です」
「承知しました」
福原は、少し考えた。
「……高瀬さん」
「はい?」
「皆さん、驚かれるでしょうね」
高瀬は、少し黙った。
「……そうですね」
「私も、まだ少し実感がありません」
「そうですね」
高瀬は、資料を見直した。
「ただ、今わかっていることを、きちんと伝えるしかありません」
「……はい」
*
午後四時三十分。
金目は、新事務所の会議室に入った。
机の上には、説明資料を表示したノートパソコン。
オンライン会議用の機材。
そして、手元には確認事項をまとめたメモが置かれている。
金目は、資料を最初から見直した。
主要取引先の法的整理。
会社への影響。
現在の対応。
未確定事項。
そして、今後の情報共有について。
どれも、必要な説明だった。
しかし、資料を読めば社員たちが安心できるというものではなかった。
*
「……金目」
西田が、会議室へ入ってきた。
「おお」
「準備できたか?」
「まあ、できる範囲ではな」
西田は、隣の席に座った。
「……緊張しとる?」
金目は、少し考えた。
「……そら、多少はな」
「珍しいな」
「……何言われるかわからんしな」
西田は、うなずいた。
「まあ、わかることだけ答えたらええやろ」
「せやな」
*
「……でもな、西田」
金目が言った。
「何や?」
「昨日までは、会社として何をするか考えとったやろ」
「せやな」
「今日は、それを社員に説明せなあかん」
「うん」
「……考えるんと、伝えるんは、また違うな」
西田は、少し考えた。
「……せやな」
金目は、手元のメモを見た。
「……まあ、ちゃんと話すしかないわな」
「せやな」
*
午後四時五十五分。
オンライン会議の参加者が、少しずつ増え始めた。
開発部の社員。
営業部の社員。
業務部の社員。
普段は、それぞれの場所で仕事をしている人たちだった。
画面には、見慣れた名前が並んでいく。
金目は、参加者一覧を確認した。
そして、手元の資料を開いた。
*
午後五時。
開始時刻になった。
金目は、マイクの状態を確認した。
西田が、隣で小さくうなずいた。
画面の向こうには、社員たちが待っている。
金目は、少しだけ息を整えた。
そして、口を開こうとした。
2034年6月7日、水曜日。
株式会社カナメにとって、初めての全社員向け緊急説明会が始まろうとしていた。
お読みいただきありがとうございます。旭月です。
今回は、金目たちが会社の外へ向けて動き始めるお話でした。
金融機関への資金調達の相談、専門家への契約確認、そして取引先への連絡。
できることから進めているものの、すぐに答えが返ってくるわけではありません。
一方で、会社の支払日や、社員たちの生活は待ってくれません。
これまで金目は、仕事の進め方を工夫し、無駄を減らすことで会社を成長させてきました。
しかし、どれだけ効率化しても、自分たちだけでは動かせないものがあります。
そして、いよいよ全社員への説明会。
金目自身も、まだ会社の先行きを完全には見通せていません。
それでも、社員たちに向き合うことから逃げるわけにはいかない。
次回は、金目が社員たちへ直接、現在の状況を伝えます。
引き続き、お付き合いいただければ幸いです。




