いつもの五月
2034年5月。
大阪・本町。
大型連休が明け、株式会社カナメでは、いつもどおりの仕事が始まっていた。
四月に入社した新卒社員は、各部門での研修を続けている。
営業部では新しい案件の相談が進み、開発部では複数の案件が並行して動いていた。
業務部では、前月の実績確認と、今月の支払予定の整理が進められている。
金目は、朝から高瀬との打ち合わせを予定していた。
*
「金目さん、四月の月次実績をまとめました」
高瀬が資料を共有した。
「ありがとうございます」
「売上、利益ともに、おおむね計画どおりです」
「そらよかった」
「資金繰りについても、現在の見通しでは問題ありません」
「了解です」
金目は、資料を確認した。
「新卒の研修はどうですか?」
「こちらも予定どおり進んでいます」
「そらよかった」
「各部門からも、今のところ大きな問題は報告されていません」
「ありがとうございます」
金目は、うなずいた。
*
「……しかし、今年も五月やな」
金目が言った。
「そうですね」
高瀬が答えた。
「ついこの間、入社式やった気がするわ(笑)」
「まだ一か月ほどですからね(笑)」
「……そらそうか(笑)」
二人は笑った。
金目は、予定表を開いた。
午前中には、取引先との打ち合わせ。
午後には、契約条件の確認。
そして、週の後半には、営業部との案件相談が入っている。
「……ほな、今日もぼちぼちやっていこうか」
金目が言った。
「よろしくお願いします」
*
同じ頃。
営業部では、大本恭平が、一通の連絡を確認していた。
「……おお!」
思わず声が出た。
今年一月に、自分が主担当として提案した追加開発案件。
その後、顧客側での検討が続き、仕様や契約条件について何度か調整を重ねていた。
そして今日、正式に発注するとの連絡が届いた。
「……よっしゃ!」
大本は、すぐに松井へ連絡した。
*
「松井さん!」
「はい。どうしました?」
「例の案件、正式に決まりました!」
「……おお!」
松井慎吾が、少し笑った。
「よかったですね。おめでとうございます」
「ありがとうございます!」
「お客様からの発注書も届いていますか?」
「はい。確認できています!」
「それなら、契約条件との照合もしておきましょう」
「了解です!」
大本は、資料を開いた。
「……しかし、長かったですね」
「そうですね」
「一月に提案してから、もう四か月ですもんね」
松井が、少し笑った。
「お客様の社内調整もありましたからね」
「そうですね」
*
「……でも、よかったですわ」
大本が言った。
「はい」
「最初は、ほんまに自分でできるんかなと思っとったんですけど」
「そうでしたね」
「松井さんにも、田村さんにも、ようけ助けてもらいましたし」
「それは、仕事ですからね」
松井は、少し笑った。
「今回は、大本さんが主担当として、ちゃんと進められていましたよ」
「……ありがとうございます!」
*
その日の午後。
営業部では、小坂千尋が大本から報告を受けていた。
「小坂さん、例の追加開発案件ですが」
「はい」
「正式に受注できました!」
「おめでとうございます」
小坂が、少し笑った。
「ありがとうございます!」
「これまで、よく調整してくれましたね」
「いえ、松井さんにも助けてもらいましたし」
「そうですね」
「でも、今回は大本さんが主担当でしたから」
大本は、少し照れたように笑った。
*
「それでは、次は開発部への引き継ぎですね」
小坂が言った。
「はい!」
「契約条件と、今回の提案内容に違いがないか、最終確認をお願いします」
「了解です」
「それから、開発部との打ち合わせも設定してください」
「承知しました!」
大本は、うなずいた。
受注が決まったからといって、仕事が終わるわけではない。
これから、実際の開発が始まる。
顧客との約束を、開発部へ正確に伝える必要があった。
*
数日後。
金目は、営業部との別件の打ち合わせを終えたところだった。
「……そういえば、大本くん」
金目が声をかけた。
「はい?」
「例の案件、受注したんやって?」
「はい!」
大本は、少し笑った。
「おかげさまで、正式に決まりました!」
「おお、おめでとう」
「ありがとうございます!」
「開発部との引き継ぎも、頼むで」
「了解です!」
金目は、うなずいた。
「……しかし、よう頑張ったな」
「ありがとうございます!」
「ほな、引き続きよろしくお願いします」
「はい!」
*
五月中旬。
金目と小坂は、長年取引を続けている顧客との定例打ち合わせに参加していた。
カナメにとって、売上の大きな割合を占める主要取引先の一つだった。
普段の案件調整は営業部が担当しているが、金目も節目には打ち合わせへ参加している。
今回も、進行中の案件と今後の予定について確認するためのものだった。
*
「本日もよろしくお願いいたします」
小坂が挨拶した。
「こちらこそ、よろしくお願いします」
顧客担当者が答えた。
「まず、現在進めていただいている案件ですが」
「はい」
「予定どおり進めていただいて、助かっています」
「ありがとうございます」
小坂がうなずいた。
「開発部とも確認していますが、現在のところ大きな問題はありません」
「それはよかったです」
「今後の予定についても、資料のとおり進める見込みです」
「承知しました」
*
「金目さんにも、いつもお世話になっています」
顧客担当者が言った。
「いえいえ、こちらこそありがとうございます」
金目が答えた。
「以前から、いろいろ対応していただいていますので」
「そうですね」
金目は、少し笑った。
「最初の頃と比べると、うちも人が増えましたしな」
「そうですね」
「今は、営業部と開発部で分担して対応できるようになりました」
「助かっています」
「ありがとうございます」
*
「ちなみに、今後の案件についても、少しご相談したいことがありまして」
顧客担当者が続けた。
「もちろんです」
小坂が答えた。
「まだ具体的な内容は整理中なんですが」
「はい」
「いくつか追加でお願いしたいことが出てきそうです」
「なるほど」
小坂は、メモを取った。
「内容がまとまりましたら、ぜひお聞かせください」
「ありがとうございます」
金目も、少し笑った。
「対応できるかは確認させてもらいますけど、相談はいつでもどうぞ(笑)」
顧客担当者も笑った。
「ありがとうございます」
*
打ち合わせでは、その後も通常の案件確認が続いた。
進行中の作業。
今後の予定。
そして、必要な連絡事項。
特別な問題はなかった。
顧客との関係も、これまでどおり良好だった。
「では、本日はこのあたりで」
小坂が言った。
「ありがとうございました」
顧客担当者が答えた。
「こちらこそ、ありがとうございました」
金目も頭を下げた。
打ち合わせは、予定どおり終了した。
*
打ち合わせを終えたあと。
金目と小坂は、今後の案件見込みについて確認していた。
「……今のところ、問題なさそうですね」
金目が言った。
「そうですね」
小坂がうなずいた。
「現在の案件も、予定どおり進んでいます」
「そらよかった」
「今後の追加案件については、内容がまとまってから改めて確認します」
「お願いします」
金目は、少し考えた。
「……しかし、長い付き合いになったな」
「そうですね」
「最初は、もっと小さい仕事からやった気がするわ」
小坂が、少し笑った。
「今では、継続していろいろな案件をご相談いただいていますからね」
「ありがたいことやな」
「はい」
*
五月中旬。
カナメでは、今月もそれぞれの仕事が進んでいた。
営業部では、大本が受注した案件の引き継ぎを進めている。
開発部では、進行中の案件に対応しながら、夏以降の予定を確認していた。
業務部では、月次の実績と今後の支払予定を整理している。
そして金目は、顧客との打ち合わせや、会社全体の仕事について確認を続けていた。
いつもと変わらない五月。
それぞれが、自分の仕事を進めていた。
*
五月下旬。
株式会社カナメの営業部では、夏以降の案件見込みについて確認が行われていた。
営業部長の小坂千尋を中心に、松井慎吾と大本恭平が資料を確認している。
五月は、いくつかの新規案件が正式に決まり、既存顧客からの追加相談も続いていた。
大本が一月から担当していた追加開発案件も、その一つだった。
「……ほな、夏以降の予定を確認しましょうか」
小坂が言った。
「はい」
松井が答えた。
「よろしくお願いします!」
大本も、うなずいた。
*
「まず、こちらの案件ですが」
松井が資料を共有した。
「六月から開発を開始する予定です」
「そうですね」
小坂がうなずいた。
「開発部との引き継ぎは終わっていますか?」
「はい。必要な資料は共有済みです」
「ありがとうございます」
大本も、資料を確認した。
「俺の担当案件も、開発部との打ち合わせは終わりました」
「そうですか」
小坂が、少し笑った。
「何か確認事項は残っていますか?」
「いえ。今のところ、特にありません」
「では、予定どおり進めましょう」
「了解です!」
*
「……しかし、大本さん」
松井が言った。
「はい?」
「今回の案件、最初の提案から結構時間がかかりましたね」
「そうですね」
「一月に提案して、五月に受注ですから」
「ほんまですね」
大本は、少し笑った。
「でも、いろいろ勉強になりましたわ」
「そうですね」
「お客様の希望を確認して、開発部と相談して、契約条件も調整して」
「はい」
「……営業って、結構やること多いですね(笑)」
小坂が笑った。
「今頃気づいたの?(笑)」
「……いや、前から思っとったんですけど(笑)」
三人は笑った。
*
「それと、夏以降の新しい案件ですが」
小坂が続けた。
「現在、いくつかご相談をいただいています」
「はい」
松井がうなずいた。
「ただ、開発部の対応予定もありますので、すべて同じ時期に進めるわけにはいきません」
「そうですね」
「そこで、開始時期を調整できる案件については、お客様と相談しながら進めたいと思います」
「承知しました」
大本が、資料を確認した。
「……開始時期が重なる案件は、先に開発部へ確認しますね」
「そうね」
小坂が答えた。
「お客様との約束を守るためにも、対応できる時期を確認する必要があるわ」
「なるほど」
*
営業部では、案件ごとの希望時期と、開発部の対応見込みを整理した。
正式に受注した案件。
契約条件を調整している案件。
そして、まだ相談段階の案件。
それぞれを区別し、今後の予定を考えていく。
小坂は、資料を見直した。
「……では、この内容を経営会議で共有します」
「承知しました」
松井が答えた。
「開発部とも、引き続き確認を進めます」
「お願いします」
*
数日後。
カナメでは、五月の経営会議が開かれていた。
参加しているのは、金目、西田、高瀬、小坂の四人。
それぞれの部門から、現在の状況が共有されている。
「ほな、五月の状況を確認しようか」
金目が言った。
「はい」
高瀬が資料を共有した。
「まず、四月の実績と五月の見込みですが、おおむね計画どおりです」
「そらよかった」
「資金繰りについても、現在のところ問題ありません」
「了解です」
*
「開発部の方はどうや?」
金目が尋ねた。
「今のところ、予定どおり進んどるで」
西田が答えた。
「ほう」
「四月に入った新卒社員も、研修を続けとる」
「そらよかった」
「まだ実務を全部任せられるわけちゃうけど、少しずつ仕事を覚えてもろとるで」
「せやな」
金目は、うなずいた。
「焦らんと育てていこうか」
「もちろんや」
*
「営業部の方はどうですか?」
金目が尋ねた。
「五月は、新規案件の受注もありました」
小坂が答えた。
「なるほど」
「既存のお客様からの追加相談も続いています」
「そらありがたいな」
「ただ、夏以降の案件については、開始時期が重なる可能性があります」
「ほう」
小坂は、資料を共有した。
「こちらが、現在の案件見込みです」
金目は、資料を確認した。
*
「……なるほどな」
金目が言った。
「西田、開発部としてはどうや?」
「今の体制やったら、順番に進める分には対応できると思うで」
西田が答えた。
「ほう」
「ただ、同じ時期に集中すると、ちょっと厳しいな」
「せやな」
「新卒の育成もあるし、既存案件も進んどるからな」
「なるほど」
金目は、少し考えた。
「……ほな、開始時期を分けようか」
小坂がうなずいた。
「そうですね」
「お客様の希望時期を確認して、調整できる案件は少しずらしてもらおう」
「承知しました」
*
「ただ、受注そのものを止める必要はないと思うで」
金目が続けた。
「はい」
「対応できる時期をちゃんと伝えて、それでもお願いしたい言うてもらえるなら、ありがたい話やしな」
「そうですね」
小坂が答えた。
「ただ、無理な納期の約束は避けたいと思っています」
「もちろんです」
金目は、うなずいた。
「そこは、営業部と開発部で確認して進めてもろたらええと思う」
「了解」
西田が答えた。
「開発部の予定も整理しとくわ」
「お願いします」
*
「高瀬さん、費用の方はどうですか?」
金目が尋ねた。
「現在の人員計画と費用見込みでは、大きな変更は必要ありません」
高瀬が答えた。
「了解です」
「ただし、案件の開始時期が変われば、売上計上の時期も変わる可能性があります」
「せやな」
「その場合は、資金繰りの見通しも更新します」
「お願いします」
金目は、うなずいた。
*
会議では、夏以降の案件について、開始時期を分散させる方針が確認された。
新しい仕事を受けることは大切だった。
しかし、受けた仕事を予定どおり進められなければ、顧客との約束を守れない。
営業部が顧客の希望を確認する。
開発部が対応できる時期を整理する。
業務部が、その計画を収支見通しへ反映する。
それぞれの部門が、自分たちの役割を担っていた。
*
「……ほな、今月はこのくらいやな」
金目が言った。
「そうですね」
高瀬が答えた。
「来月も、予定どおり進められるように準備します」
「お願いします」
金目は、少し笑った。
「……しかし、仕事増えてきたな」
西田が笑った。
「ありがたいことやけどな(笑)」
「ほんまやな」
*
五月末。
金目は、新事務所で翌月の予定を確認していた。
顧客との打ち合わせ。
経営会議。
新入社員の研修状況の確認。
そして、各部門からの相談。
予定表には、いつもと変わらない仕事が並んでいた。
「……金目、まだおったんか」
西田が声をかけた。
「おお。もう帰るところやで」
「そうなんか」
西田は、少し笑った。
「……五月も終わりやな」
「せやな」
*
「今年も、もう半分近いで」
西田が言った。
「……早いな(笑)」
金目が答えた。
「来月も忙しそうやな」
「せやな」
「まあ、仕事あるんはありがたいことやしな」
西田がうなずいた。
「ほんまやな」
金目は、少し笑った。
「……ほな、来月もぼちぼちやっていこうか」
「せやな」
二人は、事務所を後にした。
*
2034年5月。
株式会社カナメでは、今月もそれぞれの仕事が進んでいた。
営業部では、新しい案件が決まり、夏以降の予定が整理された。
開発部では、進行中の案件に対応しながら、新卒社員の育成が続いている。
業務部では、収支と資金繰りの確認が進められていた。
そして金目は、各部門の状況を踏まえ、会社全体の仕事を調整していた。
特別な問題は、何も起きなかった。
それぞれが、自分の仕事を進める。
必要なことがあれば相談し、判断する。
そんな、いつもどおりの五月だった。
お読みいただきありがとうございます。旭月です。
今回は、カナメのいつもどおりの五月をお届けしました。
大本が初めて主担当として進めた案件を受注し、営業部では夏以降の仕事を調整。金目も、各部門の状況を確認しながら経営判断を進めています。
大きな事件はありませんでしたが、こうした日々の積み重ねも、カナメの物語の一部ですね。
さて、ここまで描いてきたのは、働く人たちの小さな判断の積み重ねでした。
ここまで長くお付き合いいただき、本当にありがとうございます。
金目たちは、相変わらず目の前の仕事を進めています(笑)。
これからも、カナメで働く人たちの日々を描いていきたいと思います。
次回も、引き続きお付き合いいただければ幸いです。




