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「無能だから追放」の証拠をご提出ください~その追放、冒険者ギルドが審査します~  作者: 他力本願寺


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第45話 守ったもの、壊したもの

「……そうだ。俺は……ギルドから、取引を持ちかけられたんだ」


 薄暗い応接室に、エリアンの枯れた声が落ちた。


 彼は両手で顔を覆い、七年間抱え続けてきた重い泥を吐き出すように、当時の真実を語り始めた。


「事故の翌日……俺は救護所のベッドの上で、死んだ二人の家族が泣き叫ぶ声を聞いていた。俺自身も脚の骨が砕けて、もう二度とまともに歩けないと医者に宣告された。絶望の中だった」


 エリアンの肩が小刻みに震えている。


「そこに、ギルドの保険部門の担当者がやって来たんだ。そいつは冷たい顔で、俺にこう言った。『今回の事故は装備の異常ではなく、現場の安全確認不足が疑われている。もし、この事故の直接的な原因が特定の個人の過失であると証明できなければ、パーティ全体の連帯責任として、遺族やあなたへの給付金は一切支払われない』……ってな」


 ミラの背筋に、氷を当てられたような悪寒が走った。


 つい先日、ケイル副隊長が語ったのと同じ手口だ。事故の原因が装備の欠陥であると疑われた時、ギルドの調達局と保険部門は、補償の支払いを盾にして生き残った者に『誰か一人をスケープゴートにしろ』と暗に強要するのだ。


「俺は反論した。ノエルは確かに警笛を鳴らしたし、俺たちは規定通りに動いていたって。……でも、担当者は俺の言葉を鼻で笑った」


 エリアンはギリッと奥歯を噛み締めた。


「『装備は規格内であることが証明されている。証拠もないのにギルドの責任を追及するなら、裁判でも何でも起こせばいい。だが、結審するまでの数年間、給付金は一銭も下りないぞ。明日のパンも買えない遺族が、それまで生きていられるかな?』……そう、囁かれたんだ」


 それは、弱者に対する完璧な脅迫だった。


 死んだ仲間の家族が路頭に迷う姿を、想像させられたのだ。


「……それで、あなたは受け入れたのですね」


 クララが、痛ましい事実を確認するように言った。


「ノエルのせいにして、彼が警告なしで逃げ出したという証拠をでっち上げれば、すぐに給付金を出すと言われて」


「ああ……っ」


 エリアンは嗚咽を漏らした。


「俺は、臨時隊長としてノエルの『責任解除申請書』にサインをした。そして、ギルドが用意した『警笛は一切聞こえなかった』という陳述書に、自分の名前を書いた。……あいつにすべての罪を被せれば、隊長の奥さんも、俺の治療費も守られると分かっていたから!」


 応接室に、エリアンのすすり泣く声だけが響いた。


 彼は仲間を売った。だが、それは私欲のためではない。残された者たちの命を繋ぐために、自分たちの盾となってくれたノエルを、冷酷な組織の生け贄として差し出すことを選んだのだ。


「……手紙は、受け取っています」


 ノエルは机の隅に残した封筒を思い出した。


「差出人の名前を見て、開けられませんでした」


「最初に送った一通だな」


 エリアンは顔を上げなかった。


「あれには、会って話したいとしか書けなかった。それから何度も、全部書いて謝ろうとした。……封筒に宛名を書いては、送れずにしまった。家に残ってる」


「届いていない手紙のことは、私には分かりません」


「そうだな。お前には、何も伝えていないのと同じだ」


「……すまなかった、ノエル」


 エリアンは顔を上げた。ノエルはしばらく答えず、机に置いた自分の手を見ていた。


「今、許すとは言えません。それでも、事実を話してほしい」


 その声を記録した後、ミラはエリアンに向き直った。


「聞き取りを続けられますか。必要なら、休憩を取ります」


「……続けてくれ」


「では、担当者の言葉と、あなたがそう受け取った理由を分けて確認します。署名する前に、どの書面を渡されましたか」


 クララも頷き、ミラに聞き取りの続行を促した。謝罪への返答と、証言の確認は別のことだった。


 ミラは差し出された書類の順序を一つずつ聞き直し、分からない日付は空欄のまま残した。読み返した内容をエリアンが確認してから、ノエルは発言の許可を求めた。


「クララ上級審査官。エリアン氏の原メモと今の告白により、私が七年前に警笛を一回鳴らしたことは、当事者間の事実として確認されました。……しかし、これだけではまだ足りません」


「そうね」


 クララもまた、法務官としての厳しい顔で頷く。


「証言が覆っただけでは、ルーファスは『当時のエリアンが嘘をついており、今の証言もノエルと口裏を合わせたでっち上げだ』と主張して逃げ切るわ。彼を、そしてギルドの隠蔽を完全に追い詰めるには、別の管理系統に残る記録が必要よ」


 ノエルは、すでにその答えを持っていた。


「当時、私が異常を察知して向かったのは、非常用の『巻上機』です」


 ノエルは七年前の記憶の糸を、正確に手繰り寄せていく。


「非常巻上機はギルドの設備ではなく、ダンジョンを管轄する領主系の組織である『施設管理局』が管理・保守を行っています。そして、当時のギルドの安全規則によれば、『固定具の異常を認識した装備係は、直ちに警笛を二回鳴らし、その後に非常巻上機へ向かうこと』と定められていました」


 ノエルの目が、鋭い光を放った。


「私は一回鳴らしたところで、先に巻上機を動かすべきだと思って走りました。二回目を省いたのは、私の判断です。巻上機の起動時刻は機械が打刻し、事後に管理人が点検札へ転記します。救助後、私もその札へ署名しました」


「あっ……!」


 ミラはレオンの件で、施設管理局の点検札がギルド外部の独立した記録として機能したことを思い出した。


「別の系統に残っていますね。原簿と控え、保守履歴を一緒に照合できます」


「当時の事故調査では、事故が早期に『現場の過失』として処理されたため、外部系統である施設管理局への記録照会は行われませんでした。その判断の経緯も調べてください」


 ノエルは、机の端に置いた証拠指定書を引き寄せ、当事者としての宣言を行った。


「当事者ノエル・ヴァイスとして、正式な証拠指定権を行使します。……七年前の事故発生当日、施設管理局が保管している『非常巻上機点検札』の控え、および施設側の『警笛作動記録』の請求を求めます」

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