第28話 密会は本当だった
「追放が決まれば、明日の召喚を免れるわけではありません」
ノエルは召喚状を机の端に置いた。
「審問院は、接触した当時の関係を調べます。今日契約を切ったことだけで、過去に何を知っていたかは変わりません」
隊長が椅子の上で身じろぎした。
「違う! 俺たちは本当に裏切られたんだ! 密会は事実だ!」
魔法使いの女性が叫ぶように言った。
ミラは混乱しつつあった。白鷲のメンバーはレオを庇っているのか、それとも本当に切り捨てようとしているのか。
「写真の接触と、それが一回限りだったという説明は、別に確かめるんですね」
ミラが尋ねると、ノエルは静かに頷いた。
「ええ。接触自体は『本当』です」
ノエルの言葉に、レオがわずかに肩をビクつかせた。
「写真に写る人物は双方が確認しています。手紙も、巡回司祭を通じて差出人を照会しました。接触自体には、別々の裏付けがあります」
ノエルは鞄から、数枚の厚手の紙の束を取り出した。
「ミラ。事前に取り寄せておいた、中央ギルド倉庫の物資払出し記録と、国境付近の難民キャンプを管理する巡回司祭からの受領控えです。照合を」
「はい!」
ミラは書類を受け取り、二つの記録を見比べた。
「ええと……レオさんの個人名義で、ギルドの倉庫から大量の『傷薬』『保存食』『冬用の毛布』が引き出されています。そして、難民キャンプの司祭様が記録している、差出人不明の支援物資の到着日時と、数量が一致しています。司祭様の立会記録には、三回とも本人が運び、荷を開いて引き渡したとあります。キャンプの入退場記録でも同じ三日です」
ミラは驚きとともに顔を上げた。
「でも、日付が昨日だけじゃありません。過去六週間の間に、合計『三回』も物資が運ばれています!」
その事実が告げられた瞬間、白鷲の隊長がギリッと奥歯を噛み締める音が響いた。
「一回限り、ではなかったのですね」
ノエルはレオを見つめ、淡々と事実を突きつける。
「あなたは過去六週間にわたり、三回、悪魔族の難民キャンプへ足を運び、薬や食料といった物資を届けていた。……審問院が動くほどの事態になったのは、あなたがこの『反復する接触』を国境警備隊に目をつけられたからでしょう」
「……ああ、そうだ」
レオは観念したように、重い口を開いた。
「俺は三回、キャンプに行った。あいつらは、前の戦いで故郷を追われただけの、戦う力もない女子供だった。このままじゃ、冬を越せねえ。だから、俺の稼ぎで買える限りの薬と飯を届けてやった。……それが悪いことだって言うのかよ」
「国家の規律としては、禁制種族との無許可の接触は罰則の対象です」
ノエルは冷徹に言い放った後、書類の束をトンと机で揃えた。
「しかし、あなたが届けたのは『薬、食料、毛布』のみ。これは極めて重要な事実です。クララ上級審査官が言っていた通り、審問院が国家反逆の重罪である『組織内通』と定義するのは、作戦・経路情報や武器・軍需物資の提供、または敵対組織との協調行動です」
ノエルの視線が、白鷲のメンバーたちを貫いた。
「現時点で裏付けられたのは人道物資の運搬です。荷物がそうだったからといって、別に情報を渡していない証明にはなりません。司祭の立会証言と出入りの照会も含め、審問院へ渡します。内通と無許可接触を混同しないためです」
「だからどうしたって言うんだ!」
隊長が机を叩いて声を荒げた。
「無許可接触だろうが内通だろうが、ギルドの規律を破ったことに変わりはない! 俺たちはそんな危険な真似をする奴とは一緒にやれない! だから責任解除を申請した! これのどこが偽装だ!」
「おっしゃる通りです。規律違反を理由とした追放申請自体は、権利として認められています」
ノエルは少しも動じることなく、最後の一枚の書類を隊長の目の前に滑らせた。
「では、お聞きします。本当に彼を憎み、危険な裏切り者として縁を切りたいと考えているあなた方が……なぜ、責任解除を申請した直後である昨日の夕方に、ギルドの会計窓口を通じて、こんな支払いを行っているのですか?」
「なっ……」
書類を見た隊長の顔色が、今度こそ完全に蒼白になった。
ミラものぞき込み、その内容に息を呑む。
「これは……ギルド指定の鍛冶屋への『装備修理費』の全額前払いと、審問院での聴取に同席する『弁護人への依頼費用』……」
ミラは信じられない思いで、白鷲の三人を交互に見つめた。
「隊長さんたちの名義で、レオさんのために支払われています。しかも、申請を出した後の時間に……」
ミラは支払いの時刻を写した。憎んでいても、最後の援助はするかもしれない。この支払いだけでは、以前から知っていたとは言えない。
「その弁護費用を、誰が、いつ頼んだのですか」
ノエルの問いに、隊長は返事をしかけた。
レオも同時に口を開く。二人の視線がぶつかり、どちらも黙った。




