↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「無能だから追放」の証拠をご提出ください~その追放、冒険者ギルドが審査します~  作者: 他力本願寺


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
22/34

第22話 違う材質、同じ傷

「……全部、私が触りました」


 工房の空気が重くなった。リナは作業日報を見たまま、声を絞り出した。


「でも、壊すつもりで触ったんじゃありません。私、錬金術の腕が未熟で……だから、調合した防錆液や強化薬の配分を間違えちゃって……っ」


 リナは震える声で必死に弁解した。


「わざとじゃありません……! 本当に、私の不注意で……!」


 ミラは薬品の記録へ目を戻し、まだ確かめていない点を尋ねた。


「ノエル先輩。同じ酸性結晶がついていたとしても、故意とは限りませんよね。リナさんの言った通り、彼女が作った正規の薬に予期せぬ腐食性の副作用があって、リナさん本人も気づかないうちに装備を劣化させてしまった『過失』だったんじゃないですか?」


 ミラは過失で同じ跡がつく可能性を、質問票へ書き加えた。


 同じ薬を複数の装備に塗ったのなら、材質が違っても同じ副作用の結晶が残る可能性はある。それなら、彼女はただの不器用な錬金術師に過ぎない。


 剣士たちも、ミラの言葉に同調するように渋い顔をした。


「書記官の姉ちゃんの言う通りだ。リナは無能で足手まといだが、俺たちを殺そうとするような度胸があるわけねえ。ただのドジが重なっただけだろ」


「ええ……俺たちだって、こいつがわざとやってたなんて信じたくねえよ」


 彼らはリナに辛く当たっていたが、それは命を預け合う仲間としての最低限のライン――「まさか悪意を持って味方の装備を壊すはずがない」という信頼だけは、かろうじて残っていたからだった。


「なるほど。『正規の薬の副作用による過失』ですか」


 ノエルは少しも動揺することなく、バルトへと視線を向けた。


「バルトさん。専門家の見地から見て、その可能性はどうですか?」


「調べる必要はある。同じ手入れをした場所と、そうでない場所を分けてみよう」


 バルトは腕を組み、作業台の上に並べられた破損した装備を見下ろした。


「書記官の姉ちゃん。あんたの言う通り、同じ薬をぶっかけたなら、同じ結晶が出るのは道理だ。だがな、問題は『どこに』ぶっかけたかだ」


 バルトは革手袋の指先で、ひび割れた剣の柄をコンコンと叩いた。


「いいか。リナはこの一ヶ月、ポーションの調合だけじゃなく、お前ら前衛の装備のメンテナンスも手伝わされてたんだろ?」


「ああ。雑用としてな。剣を磨かせたり、鎧の汚れを落とさせたりした」


「つまり、彼女は装備の『全体』に触れることができたわけだ。もし彼女の作った防錆液や強化薬全体に腐食性の副作用があったのなら、『剣の刀身』や『鎧の胸当て』にも影響が出るか、材質別に比較する必要がある」


 バルトは次々に壊れた装備を指差していく。


「だが、見てみろ。刀身は無事だ。胸当ても傷一つない。劣化して酸の結晶がこびりついているのは、剣の刀身を固定する『柄の中の留め金』。弓の『弦を引っ掛ける固定具』。革鎧の『肩帯の裏側の金具』だけだ」


 その指摘に、剣士たちはハッとして自分たちの装備をのぞき込んだ。


「つまり、リナは主要部位にも触れることができたのに、酸性結晶は分解整備をしなければ触れないような『内側の補助部位』にだけ、ピンポイントで集中して付着しているんだよ」


 バルトの鋭い声が、工房の空気を凍らせる。


「ただし、液が隙間へ溜まった可能性はまだ残る。同じ部品の隣り合う面で、結晶が付いた所と付いてねえ所を試す。薬の現物も封をして預かるぞ」


「それに……」


 ノエルがバルトの言葉を引き継ぐように、淡々と付け加えた。


「外から見えない場所に偏っているのは、なぜでしょう。自然な劣化か、整備方法によるものか。それとも、場所を選んだ処理なのか」


 ノエルは問いを三つに分けた。


 リナは「分かりません」と繰り返す。剣士の一人が詰め寄ろうとしたが、ミラが間に入った。


「答えを急がせないでください。使った薬と作業の順番から確かめます」


 少女を守りたい気持ちは変わらない。それでも、ミラは調書の「故意」の欄にも「過失」の欄にも、まだ印を付けなかった。


「いま分かる範囲は記録しました」


 ノエルはリナの涙にも、剣士たちの怒りにも一切同調せず、ただ手元にある遠征簿と整備記録を開いた。


「薬の検査と並行して、整備記録と故障の時期を照合してください」


「おう」


 バルトが遠征簿をのぞき込み、指で日付を追っていく。


「……やっぱりな。剣の留め金がイカれた日も、弓の固定具が弾けた日も。見事に全部、リナが『整備を手伝った翌遠征』に集中してやがる。整備前後の受渡しと、保管中に誰が触れたかも調べねえとな」


 故障の時期と整備日は合っている。その間に何があったかを、次に確かめなければならない。


「あとは、使われた『酸』の出所ですね」


 ノエルはリナの作業台に並べられた薬品の棚を見渡した。


「正規の薬に含まれる成分なのか、別の薬が混じったのか。登録処方と購入記録を照合します」


 ノエルの言葉に、リナの肩がビクッと大きく跳ねた。


「ミラ。登録された薬種問屋への照会を手配してください。契約紛争時の照会同意の範囲も確かめてください」


 ノエルは冷徹な審査官の瞳で、リナを真っ直ぐに見下ろした。


「この酸が、正規の薬に含まれているのか。それとも別に用意されたのか。まず、その出所を確かめます」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。