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4.クロエ

クロエの婚約は本人の意思を無視して、父や兄たちが決めたものだ。

クロエに一言の相談もなしに。

格上の伯爵家との縁談なら、男爵家令嬢にとっては、この上もない良縁だろうと勝手に決めてしまった。

婚約相手のリチャードは、見た目や学業成績などはよいが、性格には難があった。

高圧的で、モラハラタイプなのだ。


「男爵家の君が伯爵家に嫁げるのだから、感謝してほしいね。

もっと上位の貴族とも婚約できたのに、君を選んであげたんだ。

せいぜい努力して私に恥をかかせないようになってくれ。」


最初の顔合わせで言われたことである。

きっとこの性格を嫌われて、男爵家まで家格を落とさないと婚約できなかったのだろう。

リチャードと会うたびに、精神が削られていく。

出しゃばらず、聞き分けが良い婚約者を演じ、文句をつけられぬよう成績も上位に入るようにする。

それでもリチャードの暴言は止まらない。


「君は、容姿に華がない。フェリシア嬢とまではいわないが、もう少し華やかにできないものか。」


自分が控えめにと言ったくせに!

不満は吐き出せず、どんどん積み重なっていく。

家族に婚約解消するよう求めても、


「冗談じゃない!あちらは伯爵家だぞ!

浮気されたとか、不貞があったわけでもないのに、こちらから申し入れることはない!」


不貞があればよいのか......。

クロエは考える。

リチャードに不貞をさせるよい策はないかと。


今までは一人だった。

でも今は相談できる仲間がいる。


「夜会までにリチャードに不貞をさせ、婚約を解消にもっていく。

なかなか難問ね。」


ヴィクトリアが言う。


「異母妹のロザリアと引き合わせたらどうかしら?

あの子、我が家より格上の貴族を狙っているから。」


フェリシアの提案に異存はない。


クロエは、フェリシアに確認する。


「妹さんをあんなモラハラ男とくっつけてしまっていいの?」


「ロザリアも意地悪で性格悪いから、お似合いじゃない?」


三人で相談した結果、クロエの家にフェリシアがロザリアを連れて行くことになった。

クロエは、リチャードを誘う。

フェリシアが来ると聞けば、美人が好きなリチャードは来るだろう。

以前もクロエと比べて、フェリシアの美貌を褒めていたし。

計画では、リチャードとロザリアを二人きりにする。

フェリシアとクロエは適当なところで席を外す。

庭側の窓から様子を見て、決定的な瞬間が来たら騒いで、クロエの家族を呼ぶというものだ。

残念だが、ヴィクトリアは、まだ仕事が残っているので参加できない。

フェリシアとクロエの手腕に成否がかかっている。


計画決行当日となった。

フェリシアが誘うとロザリアは乗り気で、クロエから婚約者を奪ってやろうという魂胆が伝わってきた。

リチャードもいつもならしぶしぶやってくるのだが、フェリシア姉妹が来ると聞き、ご機嫌でやってきた。


「ご紹介します。こちらが私の婚約者、リチャード様です。」


「どうぞよろしくお願いいたします。」


「リチャード様のような素敵な婚約者がいて、クロエ様がうらやましいです!」


「リチャード様、こちらが姉のフェリシア様、こちらが妹のロザリア様です。

最近、フェリシア様と仲良くしていただいているので、リチャード様にご紹介しようと、今日は来ていただきました。」


「どうぞよろしく。クロエはフェリシア嬢を見習ってもう少し華やかな雰囲気を身につけてほしい。いろいろとクロエに教えてやってほしい。」


何様のつもりだといいたいのを我慢して、三人に席を勧める。

ロザリアの目は、リチャードに完全にロックオンされた。

褒めて褒めて、褒めまくっている。

リチャードもまんざらではなさそうだ。

フェリシアは庭に興味があるふりをして、クロエに案内してもらおうとする。

ロザリアは、


「私はここでリチャード様のお話を聞いているわ。とっても興味深いのですもの。お庭はお姉さまとクロエ様でご覧になって。」


予想通りの展開に、クロエはほくそ笑んだ。

フェリシアと一緒に庭に出る。

二人はこっそり隠れて、部屋の様子をうかがう。

しばらくすると、いちゃいちゃと、いけない雰囲気になってきた。

フェリシアもクロエもびっくりである。

他人の家の応接間で......。

二人は目の毒だと思いつつ、決定的瞬間まで待った。

リチャードがロザリアに口づけをし、服を脱がせ始めた。

ロザリアもリチャードに抱きついている。

さあ、今だ。


「きゃーっ!!」

「いやーっ!!」


フェリシアのソプラノとクロエのアルトが、響き渡る。

クロエの家族や使用人も駆けつけてきた。


「これは......なんという......。」

「令嬢が......はしたない......。」

「婚約者の家で不貞?信じられない。」


「これは......暑くて......服を緩めていたら......」


いつも偉そうなリチャードが青い顔をして、言うこともしどろもどろである。


「クロエ様より、美人な私の方がいいって、リチャード様は言ったわ!」


クロエの父や兄もさすがに怒っている。


修羅場となった。

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