3.ヴィクトリア
ヴィクトリアの父は、入り婿である。
本来なら母の血筋が伯爵家の爵位を継承している。
祖父母も母もすでになく、執務嫌いの父がヴィクトリアの後見人だ。
母は一人娘だったので、頼りにできる親戚もいない。
家令とヴィクトリアで領地経営をするしかなかった。
父は、仕事を放りだし、遊び惚けている。
家にもあまり帰ってこない。
遊興費の請求だけはきっちり伯爵家に送ってくる。
「早くから実務に慣れていた方がよい。」
などともっともな言い訳をしているが、要は自分がしたくないので、娘に押し付けているだけだ。
おかげで子供らしく遊ぶこともできず、家令に教えてもらいながら仕事をこなしてきた。
学園に入っても友人と遊ぶこともできず、ひたすら書類の山と格闘している。
仕事量が多すぎる......。
自分はこのまま仕事に追われて一生を終えるのか、とわびしく思っていた。
しかし今度の夜会の招待状を見てひらめいた。
一緒に執務をしてくれる伴侶を得ればよいのではないか。
父のようなダメ人間ではなく、勤勉で真面目な人を。
学園では、すぐに帰宅するヴィクトリアは他人との交流がなかった。
それに同級生では、経験がないと執務を覚えるのに時間がかかる。
夜会ならすでに学園を卒業した、即戦力になる婿候補がいるのではないか?
ヴィクトリアは、夜会に期待を寄せた。
その矢先に家令がぎっくり腰になり、通常業務も少し滞りが出て、夜会どころではなくなった。
夜会に出られるよう、早めに仕事を片づけておく予定だったのに。
涙が出そうだ。
ぎっくり腰なら父がなればよかったのに!
なんとか時間を作って、フェリシアとクロエに屋敷に来てもらい、三人でドレス問題は解決した。
「今度は、ヴィクトリア様の番ですわ。ちょうどこちらにお邪魔しているのですから、三人で手分けして書類を片付けてしまいましょう。」
クロエとフェリシアは、今度はヴィクトリアの仕事を手伝ってくれるという。
家令以外だれにも手伝ってもらえなかったヴィクトリアは嬉しかった。
「ありがとう。内容は私が確認しなくてはならないから、フェリシアは、案件ごとに仕分けをしてくれる?
クロエは、その案件の優先順位を考えて渡してくれる?」
三人で書類を片付け始めると、一人で仕分け、優先順位をつけ、内容を吟味するより作業がスムーズになった。
フェリシアは書類の仕分けがうまく、クロエは仕事が早い。
資料の数字が間違っていることも気づいて指摘してくれる。
予想以上に優秀だ。
男だったら婿に来てもらうのだが。
いつもより早く仕事が進んだ。
明日も二人は帰りに来てくれるそうだ。
この分で進むと夜会にも出られるかもしれない。
希望が見えてきた。




