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星を抱くひと  作者: 飴目
第4章

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第95話 会場までの足音

セレンは手元の通知書をじっと眺めながら、自分たちの普段出ている集会の情景を思い浮かべ、ふと顔を上げた。


「待って。……これ、一人で行くってこと?」


セレンが不思議そうにナナセを見る。

ナナセも少し考えて、確かに、というような表情を浮かべた。


自分は現在、特別部隊に所属している。

けれど、その部隊には自分以外の使役妖精は存在しない。


「……そうなりますね」

少しだけ困ったように、ナナセは小さく笑った。

「この部隊の妖精は、私だけですから」


セレンは黙り込んだ。


他の一般的な部隊であれば、基本的には複数の使役妖精が所属している。

集会に向かう際も、同じ部隊の妖精たちで自然と集まり、まとまって会場へ向かうのが普通だろう。

主人の隊員たちが集会に付き添うわけではないのだ。

つまり、ナナセだけが、誰の隣にも並ばず一人きりで参加することになるのだった。


「……」

セレンの綺麗な眉が、不快そうに少し寄る。


「絶対、出なきゃダメ?」

「え?」

ナナセが思いがけない言葉に、不思議そうに顔を上げた。


「欠席する理由もないですし……」

「……そうだよね」


セレンは納得したように短く答えたものの、その視線は通知書へ落ちたまま、固く動かなかった。


ナナセも手元の書類へと視線を落とす。

一人で参加することになるのは、通知書を受け取った最初から分かっていたことだった。

会場へ行き、書類を提出して、連絡事項を聞いて、それで終わる。

ただそれだけのことだ――と、自分に言い聞かせる。


けれど。


他の妖精たちは、同じ部隊の顔馴染みの仲間たちと賑やかに集まっているのだろう。

その空間の中で、自分だけがぽつんと一人。

妖精だけでもかなりの人数が集まる場所なら、否応なしに周囲の目を引いてしまう。


自分がどこの部隊の所属なのか、誰の使役妖精なのか。

そういう好奇の視線も、当然のように向けられるはずだった。


「……」


ナナセは不安を押し殺すように、通知書の端を指先でそっとなぞった。

胸の奥が、ほんの少しだけ冷たく寒気立つ。


リビングに、しばらくの間静かな沈黙が流れた。

やがて、セレンが思い直したように静かに口を開いた。


「……とりあえず」


ナナセがゆっくりと顔を上げる。


「明日は送っていく」

「……」

ナナセの瞳が、驚きで少しだけ大きくなった。

「その集会場所まで」

「でも……」

「終わるまで待つのは、たぶん無理だけど」

セレンは少し困ったように苦笑する。

「場所くらい分かってた方が安心でしょ」

「……はい」


小さな、けれど確かな返事。


さっきまで胸の奥を重く占めていた暗い不安が、じわりと解けて薄くなっていく。

一人で集会に入らなければならないという事実は変わらない。

扉を潜って集会が始まれば、自分一人で立ち向かわなければならない。


けれど――会場の入口まで、一緒に歩いて行ってくれる人がいる。

それだけで、心強さがずいぶんと違っていた。


「ありがとうございます」


ナナセが柔らかく、小さく笑う。

セレンはそんなナナセの表情を見て、どこかホッとしたように笑った。


「うん」

そして、手元の通知書の日時を指差す。


「明日の午前ね」

「はい」


ナナセはもう一度、書類へ目を落とした。

今度は先ほどよりも、ずっと落ち着いた穏やかな気持ちで、その文字を見つめるのだった。

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