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星を抱くひと  作者: 飴目
第4章

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第94話 一通の通知

数日後の夕方。


その日の訓練を終えたセレンとともに部屋へ戻ったナナセは、いつものように落ち着くソファの上で本を開いていた。

セレンも傍らで、静かに一息ついている。


沈みかけた夕暮れの光が部屋を薄オレンジ色に染めていた、その時だった。


コンコン。


控えめなノックの音が、入口の扉から響いた。


「ん?」


セレンが立ち上がり、ゆっくりと扉を開ける。

そこには、アルカの公務を担う一匹の連絡妖精が扉の前で飛んでいた。


小さな身体で自分よりも大きな書類の束を大切そうに抱え、セレンの姿を認めると、事務的な口調で尋ねてくる。


「ナナセ様はいらっしゃいますか?」

「いるけど」

「では、こちらをご確認いただき、お伝えください」


差し出された公的な書簡を、セレンが手を受け取る。

連絡妖精は丁寧に一礼すると、用件は済んだとばかりにパタパタと翼を羽ばたかせ、そのまま廊下の奥へ飛び去っていった。


セレンは何気ない動作で、手渡された書類へ目を通す。

そして、その最上部に記された見出しを見つけた。


『使役妖精・全体集会通知』


その見出しのすぐ下には、ナナセの名前。


『特別部隊 所属下 ナナセ』


「……集会?」


セレンは眉をひそめ、さらに内容を読み進めていく。

どうやらアルカに籍を置くすべての使役妖精を対象とした、定例の全体集会らしい。

各自が日頃の業務報告書を提出し、所属部隊ごとの活動状況や健康状態を確認するための場なのだという。


日程は、明日の午前。


「使役妖精にも集会とかあるんだ」


少し意外そうに呟きながら、セレンは書類を持ったままリビングへと戻ってきた。


「ナナセー」

「はい」


セレンの呼び声に応え、ナナセは膝の上の本から顔を上げる。

セレンが手にした書類をそのまま差し出した。


「これ」

「……?」

受け取ったナナセは、何気なく書類へと目を落とした。

「あ」


整然と並ぶ見出しを目にした瞬間、ナナセは少しだけ目を丸くする。


「全体集会」

「そう。こんなのあるんだね」


セレンが隣に腰を下ろし、覗き込んでくる。

ナナセはそこに書かれた日程をしっかりと確認しながら答えた。

「そうですね。前の部隊の時もありました」

「へえ」

セレンは少し興味深そうに、ナナセの手元にある書類を見つめる。


「何するの?」

「簡単な説明があって、業務報告書を書いて……妖精同士で情報を共有したりとか、何か契約の確認があれば問い合わせたりしていた気がします」

「なるほど」

セレンは納得したように頷いた。

それから、ふと思いついたようにナナセの顔を見る。

「明日、行く?」

「……はい」

ナナセは迷うことなく、素直に首を縦に振った。


けれど――。


ほんの少しだけ、ナナセの細い指が書類の端を強く握りしめた。

薄い紙がかすかに歪むほどの、無意識の力。


セレンはその小さな指先の変化を、見逃さなかった。


「……どうかした?」

「いえ」

ナナセはいつものように、柔らかく微笑んでみせる。

「久しぶり、なので」


そう言って静かに目を伏せるナナセ。

その言葉の奥に隠された本当の意味を、セレンはこの時、まだ深く考えてはいなかった。


ただ、カネルたちがいたあの第五部隊の妖精たちも、明日の集会には参加するのだろうか。


そんな予感を、セレンは胸の片隅でぼんやりと考えていたのだった。

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