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星を抱くひと  作者: 飴目
第4章

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第93話 無防備

翌朝。

ナナセは、全身を包み込むような心地よい温もりのなかで、ゆっくりと目を覚ました。


まぶた越しに差し込む朝の柔らかな光に、ぼんやりと目を開ける。

視界いっぱいに広がったのは、すぐ目と鼻の先にあるセレンの胸元だった。

背中と腰に回された確かな腕が、自分をぴったりと抱き寄せている。


「……」


寝ぼけた頭で状況を整理しようとして――ハッと息をのんだ。


そうだ。昨日、自分から一緒に寝たいとセレンに言ったのだ。

その記憶が鮮明に蘇った瞬間、ナナセの頬が一気にじわりと熱くなっていく。

心臓がトクトクと跳ね始め、あまりの恥ずかしさに少しだけ身じろぎをした。


すると、その微かな動きを感じ取ったのだろうか。

頭上から聞こえるセレンの呼吸がわずかに変わり、うっすらと灰色の瞳が開かれた。


「……ん」

「あ……起こしました……?」


ナナセは息を潜めながら、そっと見上げる。


セレンはまだ完全に意識が戻っておらず、半分眠ったままのようだった。

尋ねた問いかけに対しても返事はなく、代わりに抱きかかえていた腕がゆっくりと動く。


セレンの大きくて温かな手が持ち上がり、ナナセの頬へと優しく触れた。


「……」


長い指先が、肌の滑らかさを確かめるようにそっと頬を撫でる。

ナナセはあまりの不意打ちに、全身の動きを一瞬で固まらせた。


「セレン、さん……?」


普段の冷徹なまでの鋭さはどこにもなく、寝起きのセレンはいつもよりずっと無防備だった。

開かれた灰色の瞳もどこか眠たげで、まだ焦点が合っていない。

そんな恍惚(こうこつ)とした状態のまま、セレンはナナセの頬を撫で続けている。

ナナセはどう反応すればいいのか全く分からなくなり、呼吸することすら忘れたように身動きひとつ取れなくなった。


やがて、セレンが満足そうに小さく目を細める。


そして――。


「……かわい」


掠れた、寝ぼけた低い声。


「……!」


言葉の意味を理解した瞬間、ナナセの顔が一気に火がついたように熱くなった。

頬どころか耳の先まで真っ赤に染まり、目を見開いたままセレンを見つめ返してしまう。


けれど言葉を発した本人は、言いたいことだけを言うと満足したように、そのまま再び静かに目を閉じてしまった。


「…………え」


突然の出来事に、ナナセだけが取り残される。


セレンの規則正しい寝息を聞きながら、ナナセはそっと自分の指先で頬に触れてみた。

熱い。火傷してしまいそうなほど、ものすごく熱くなっている。


「……」


どうして、朝のセレンはこんなにも無防備で、容赦がないのだろう。

ナナセは赤くなった顔を少しでも隠そうと、もう一度身じろぎをして離れようとした。

けれど、腰にしっかりと回されたセレンの腕が、びくともせず離してくれない。


「……」


結局、逃げ出すことすらできないのだ。


ナナセは完全に観念したように小さく息を吐くと、セレンの胸元へぽすんと顔を伏せた。

真っ赤に染まった耳まで隠すように、セレンの服の中に顔を埋める。


「……ずるいです」


胸の中で呟いたその小さな抗議は、再び深い眠りへと落っこちたセレンには、もちろん届いていなかった。

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