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星を抱くひと  作者: 飴目
第4章

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第92話 引き寄せられた夜

長かった連日の任務を終え、アルカの拠点へと無事に戻ってきた、その日の夜。


「おやすみ」

「おやすみなさい」


いつものように静かな挨拶を交わし、セレンは奥の寝室へと向かっていった。

一人残されたナナセは、リビングのソファの上で小さく身を丸める。

薄手の毛布を肩まで引き上げ、静かに目を閉じた。

いつもなら、心地よい疲れと共にこのまま深い眠りへと落ちていくはずだった。


けれど――。


「……」


どれだけ待っても、まぶたの裏に訪れるのは静寂だけで、意識は冴え冴えとしたままだった。

胸の奥がそわそわと落ち着かず、理由は分からないけれど、どうしても眠る気になれなかった。


ふと、少し開かれた寝室の扉の方へと視線を向ける。


暗がりの中に落ちる、かすかな光の影。

薄暗い部屋の中で、セレンはまだ起きているようだった。

ベッドの中から、一人ぼんやりと天井を見上げている気配が、空気の揺れを通して伝わってくる。


ナナセは毛布を握りしめたまま、しばらくの間、迷っていた。

自分のわがままで、セレンの邪魔をしてしまわないだろうか。

そんな遠慮と戸惑いが胸をかすめる。


けれど、セレンが言ってくれた言葉はそんな思いを消し去るようだった。


『もっと頼って欲しい』

『離れないで』


その温かな声に背中を押されるようにして、ナナセはそっと毛布を畳むと、ソファから床へと降り立った。


小さな足音を立てて寝室へと向かう。

開いた扉の隙間を通り抜け、セレンが横たわるベッドのすぐ横まで歩を進めた。


「……セレンさん」

「ん?」


名前を呼ぶと、セレンがゆっくりとこちらに顔を向けた。

暗闇に慣れた瞳が、じっとナナセを見つめる。


ナナセは急に照れくさくなり、少しだけ俯いた。


「あの……」

つかえた言葉が、うまく口から出てこない。

喉の奥がキュッと締まるような感覚に包まれながら、ほんの少しだけ迷って――。


「……一緒に」


勇気を振り絞り、最後まで言い終わるよりも前に。


「おいで」


セレンの手が、躊躇いなくスッと伸びてきた。

迷いなくナナセの手首を優しく掴む。


そのまま引き寄せられ、するりと大きな布団の中へと迎え入れられた。


「わっ……」


あっという間に身体が浮き、暖かな布団の中へと滑り込む。

すぐ目の前、呼吸が届くほど近い場所にセレンがいた。

ナナセは少し驚いたまま、身体を硬く強張らせてしまう。

セレンはそんなナナセの固直した様子を見て、くすりと小さく可笑しそうに笑った。


「寒くない?」

「……はい」


引きつった返事を返しながらも、ナナセの声は緊張で微かに震えていた。

セレンはそれ以上、何も追及しなかった。

ただ、静かに自分の身体を寄せ、ナナセの背中にそっと腕を回す。


息が詰まるほど強く抱きしめるわけではない。

けれど、自分が確かにここにいて、守られているのだと全身で理解できるような、絶妙で優しい抱き寄せ方。


「おやすみ」

「……おやすみなさい」


セレンの胸元のすぐ近くで、ナナセはゆっくりと目を閉じた。


じんわりと伝わってくる、セレンの体温。

服越しに感じる、確かな胸の鼓動。

とても暖かくて、全身の余計な力がほどけていくように安心できた。


昼間、自分が口にした言葉を思い出す。

『セレンさんと一緒なら、大丈夫だと思います』


あの時は、セレンを安心させたくて出た言葉だったのかもしれない。

けれど今、こうしてセレンの腕の中に包まれていると、その言葉の本当の意味が、身体の芯から理解できる気がした。


ナナセはそっと、強張っていた身体から完全に力を抜いた。


すぐ隣から聞こえてくる、安らかな呼吸の音。

セレンの体温と静かな音に包まれながら、ナナセは今度こそ、心地よいまどろみの中へとゆっくり沈んでいったのだった。

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