第90話 遮られた視界
「なんで俺たちがぁ?」
そんなソラトの声と共に、フィリスたちは休憩を終え出立していた。
「近くにいるのが俺らしか居ないんだよ」
そんなフィリスのなだめる声。
最後の任務は、任務というよりは、帰還途中の近辺の小拠点へ立ち寄り、数日常駐していた隊員たちの報告を受け取るというものだった。
二週間ほど続いた忙しさも、ようやく終わりが見えている。
拠点へ到着すると、いくつかの部隊がすでに揃っていた。
隊員たちが集まるまでの間、フィリスは受け取った名簿を確認していた。
「……あ」
小さな声が漏れる。
その声に、隣から覗き込んでいたナギも、名簿の一行を見つける。
「うわ」
そして、ゆっくりとセレンを見た。
「ん?」
セレンが顔を上げかけた、その時だった。
集まり始めた人々の中から、覚えのある不快な気配が混ざった。
そして、セレンもすぐに気づく。
「……カネルがいるな」
そして、カネルのいる第五部隊がこちらに歩みを進めた瞬間、ナギのが何かに気付き、表情が一瞬で変わった。
「やばっ」
次の瞬間、ふわりと周囲の魔力が揺らぐ。
ナギが反射的に結界魔法を展開した。
そして、セレンを中心に、内部の魔力や探知を遮断する薄い結界魔法が張られた。
「……ナギ」
セレンが驚いたように見る。
「ちゃんと狙え」
「ごめん、急だったから!」
ナギは小声で返しながら、細かく結界を調整する。
セレンはそう言いながらも、ナギのその意図を即座に察した。
外套の中にはナナセがいる。
そしてナナセは、人が集まる場所に来ると、時々ひっそりと遠視魔法を巡らせる癖があった。
周囲の様子や危険を確認するため。
おそらく今回も、この人の多さなら目を覚ました時にきっとそうする。
もし、ここにいる人間の中に、カネルを見つけたら――。
ナギの張った結界は、ナナセの遠視魔法がカネルを感知してしまわないための防壁だった。
「まあ、助かるけど」
ナギがちらりとセレンの外套を見る。
「気づかれたくないでしょ」
「……ああ」
セレンはそれ以上言わなかった。
ただ、外套の右側へそっと手を添える。
中ではナナセが眠っている。
まだ、外のことには気づいていない。
少なくとも、今は。
セレンは周囲へ視線を戻す。
集まる大勢の人々、その中に交ざる第五部隊の隊員たち。
そして――カネル。
「……」
セレンの目が僅かに細くなる。
けれど、声には出さない。
外套の中のナナセが起きないように。
そして、余計なものを見せないように。
ただ静かに、セレンはその場に立っていた。




