第89話 星屑を流す
多忙を極めていたセレンたちは、任務から次の任務へと移動するらしく、途中少し長めの休憩が取られていた。
「やっと忙しいのも終わりかー」
ナギが大きく背伸びをする。
「二週間くらいずっとこんな感じだったもんな」
ソラトも肩を回しながら頷く。
次の任務に備えて、五人はそれぞれ武器の手入れを始めていた。
セレンも腰を下ろし、銃を分解している。
ナナセはその間、セレンの肩の上でその様子を見ていた。
ふと、何かに気づく。
「……?」
小さな身体のまま、セレンの手元へ近づく。
「どうかした?」
セレンが顔を上げる。
ナナセは返事をする前に、机の上に置かれていた弾丸へ視線を向けた。
そのうちの一つ。
込められた魔力に、ほんのわずかな違和感がある。
不純物のようなチラつき。
「これ……」
弾丸へ手を伸ばす。
指先が触れた瞬間、淡い魔力が流れ込む。
ほんの数秒。
弾丸の中に混ざっていた余計な魔力が、静かにほどけていく。
「……」
セレンが黙って見ている。
ナナセは弾丸を両手に抱えたまま、もう一度確認した。
「大丈夫です」
そして、セレンへ差し出す。
「久しぶりに整えたので、確認して使って下さい」
「……え?」
セレンが弾丸を受け取る。
指先で転がしながら、魔力の状態を確認する。
「……」
一瞬、表情が止まった。
「これ……」
明らかに違う。
魔力の流れが整っていて綺麗になっていた。
余計なものが何もない。
整えたばかりどころか、かなり洗練されている。
「ありがとう」
「……いえ」
「よく気づいたね」
ナナセは少し照れたように目を伏せた。
「セレンさんの弾に混ざっているのは、珍しかったので」
「……なるほど」
セレンはもう一度、弾丸を見る。
「すごいな」
ぽつりと呟く。
ナナセは少しだけ驚いたようにセレンを見る。
「……?」
「いや」
セレンは弾丸を大切そうにケースへ戻した。
「久しぶりとは思えないくらい綺麗だったから」
ナナセの目が少しだけ揺れる。
昨日、キサから聞いた結果。
まだアルカに来た頃の半分程度。
その事実は、ずっと胸に残っていた。
だからこそ今、自分の魔法が誰かの役に立ったことが、少しだけ嬉しかった。
「……ありがとうございます」
「こっちこそ」
セレンが笑う。
その様子を少し離れたところから見ていたナギが、にやりと笑った。
「おっ。お手伝いしてるじゃん」
「ナギ」
「はいはい、何も言ってません」
ナナセは少しだけ照れたまま、机の隅に座った。
セレンはそんなナナセを横目に見てから、もう一度手元の銃へ視線を戻す。
けれど、その口元には小さな笑みが残っていた。
◇
「前の部隊でも、こういうことしてたの?」
ナギが何気なく尋ねる。
ナナセは少し考えるように瞬きをした。
「そうですね」
昔のことを思い出すように、視線を落とす。
「武器、弾、呪札……一通りできると思います」
「え」
ナギが目を丸くした。
「全部?」
「はい」
「すごいね」
純粋な驚きだった。
つまりそれは、カネルの分だけではない。
部隊にいた全員分の調整を任されていたということになる。
ナナセにとっては、それが特別なことではなかった。
他の妖精も居たし、必要だからやっていた。
少し離れたところで聞いていたセレンが、眉をひそめる。
「……働きすぎ」
「……そうですか?」
ナナセは本気で分かっていないようだった。
セレンはその反応に、困ったように笑う。
「うん。そう」
「でも……」
「今日はもう休んで」
「え……わっ」
セレンはナナセの返事を待たず、武器の隣に座っていた小さな身体をそっと手で持ち上げる。
「セレンさん?」
そのまま外套の内側へ運ぶ。
「ちょっと……」
「休憩中なんだから、休憩して」
外套の右側。
いつものポケットへ、ナナセをそっと入れる。
「……あの」
ナナセはポケットの中から顔だけを出す。
セレンは外套の上から軽く押さえた。
「武器の手入れは俺たちがやるから」
「……はい」
「もう何もしなくていい」
そう言われると、ナナセは少し困ったように目を伏せた。
「……分かりました」
小さく返事をして、ナナセは身体を丸めた。
ナギはその様子を見ながら、ふっと笑う。
「ほんとに気に入ってるんだね、そのポケット」
「うるさい」
セレンはそう返しながらも、外套の中のナナセが落ち着いたのを確認してから、再び銃の手入れへ戻った。
そして小さく呟く。
「……働くのは、元気になってからでいいよ」
その声は、ポケットの中までちゃんと届いていた。




