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星を抱くひと  作者: 飴目
第4章

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第88話 静かな呼吸

外套の中で、ナナセは目を閉じてセレンの動きを感じていた。


歩くときの揺れや、身体の向きが変わる感覚。

そして――戦闘に入った瞬間の空気の変化。


セレンの近接戦で使われるのは、主にナイフだった。

腰から抜いた刃をそのまま手に馴染ませるように扱い、相手との距離が近づけば近づくほど、動きが静かになる。

そして時々、遠くにいる相手や、ナイフでは届かない位置を狙うときには銃を抜く。


けれど、見ている限りでは、セレン自身は銃よりナイフの方を好んでいるようだった。

ナイフを手にしたときのほうが、身体の動きが自然だった。

まるで武器を持っていることすら忘れてしまうほど、身体の一部のように扱っている。


ナナセは外套の中から、その緻密で無駄のない動きを感じ取っていた。

足の運びから身体の重心まで、すべてが一つにつながっている。


本当に、隙がない。

しかも、胸の中に自分がいるというのに、セレンは自分ごと気配を消していた。

自分がここに存在することすら、周囲には悟らせない。


ナナセは少し驚いていた。

自分がいることで、セレンの動きが変わると思っていたのだ。

少なくとも、多少は動きづらくなるのではないか、と。


最初に外套に入れらた時こそ意識されていたものの、今はまるで、最初からこの状態で戦うことを知っていたかのように自然に動く。


その姿を感じながら、ナナセは以前キサから聞いた言葉を思い出した。


フィリスたちは、一つの組織だった。

アルカに所属する普通の部隊ではない。

五人で一つの組織として動いてきた。


五人という数は、アルカのギルドの大きさから考えれば、驚くほど少ない人数だった。

それでも、それぞれが自分の役割を完全に理解している。

誰かが大きく指示を出さなくても、互いの動きを読んでいる。


それはきっと、長い時間をかけて、あの五人で磨き上げてきたものなのだろう。

少数だからこそ、一人ひとりが自分の判断で動けなければならない。

誰かに守ってもらうのではなく、互いに背中を預ける。


「……」


ナナセは外套の中で、ほんの少し身体を動かした。


セレンの呼吸の音が近い。

激しい戦闘の中でも、どこか静けさと落ち着きを放っている。


この人は、本当に強い。


そして、そんな人が今、自分を外套の中に入れている。

ナナセはそのことを、改めて不思議に思った。


自分が何か戦力を発揮しているわけではない。

それでもセレンは、自分を連れている。


それが少しだけ、嬉しかったのだった。

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