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星を抱くひと  作者: 飴目
第4章

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第87話 許されたまどろみ

ナナセは、ゆっくりと目を覚ました。


暗いけれど、完全な暗闇ではない。

薄い外套の布越しに、わずかに外の明るさが伝わってくる。


身体を少し動かしてみると、セレンが歩いているのだと分かった。

一定のリズムを刻む揺れ、少し早い呼吸音、地面を蹴る規則正しい足音。

どうやら今は移動中らしい。


ぼんやりした頭のまま、ナナセはパチパチと目を閉じたり開いたりする。


ふと、昔のことを思い出した。

任務で主人が移動するときは、いつも移動魔法を使っていた。

使役妖精として主人の移動を補助するのも、遅れることなく伴走するのも、ごく当たり前のことだった。


それが今や外套の中、セレンの身体のすぐそばで静かに眠っていた。

しかも、緊張感をもつべき任務の最中だというのに。


ナナセは小さな胸の内で、少しだけ戸惑った。

自分は、本当にこれでいいのだろうか。

魔力測定をして、昨夜のことも思い出した。

自分の中の疑問や申し訳なさは、まだ完全には消えてくれない。


けれど、セレンの外套の中は、驚くほど安心できた。

セレンのほのかな香り、暖かい体温。

一歩進むたびに優しく伝わってくる揺れ。

時折、外側からそっと押さえられる感覚。


そこに自分がいることを静かに確かめるような、セレンのほんの小さな動き。

それが、たまらなく心地よかった。


気付けば、それらのぬくもりに包まれて眠ってしまっていたのだ。


「……」

ナナセは少しだけ身体を丸める。


以前の環境なら、任務中に眠ることすら許されなかった。

ましてや主人の服の中で休むなんて、考えたこともなかった。


けれど、何も役に立たたなくても、責められることも、何も言われることもない。

むしろ、セレンは嬉しそうにさえしてくれる。

その優しさが、不思議だった。


そんなことをぼんやりと考えていると、そっと外套の隙間がめくられた。

急に差し込んできた眩しい光に、ナナセは目を細める。


「おはよ」

セレンが外套の隙間から、優しくこちらを覗き込んでいた。


「……おはようございます」

まだ少し残る寝起きの声で返す。

セレンはナナセの無事な顔を見ると、ほんの少しだけ愛おしそうに口元を緩めた。


「よく寝てたね」

「……すみません」


無意識の習性で、反射的に謝ってしまう。


「なんで?」

「任務中なのに……」

「いいよ」

あまりにもあっさりと、迷いのない声で言われる。

「眠れるなら寝てて」

「……」


ナナセは目を伏せた。

「でも……」

「昨日も具合悪かったし」

セレンはそう言いながら、外套の隙間からナナセの様子を確認する。

「もうちょっとかかるから。休んでね」


その優しい言葉に、ナナセは小さく頷いた。

「はい」


セレンは満足そうに笑うと、めくっていた外套を静かに元に戻した。


再び周囲が暗くなり、またしてもセレンの温かな体温に包まれる。


ナナセはそっと目を閉じた。


やっぱり、ここは一番落ち着く。

どうしても、安心してしまう。

無防備に甘えてしまう。


そのことに少しだけ罪悪感と戸惑いを覚えながらも。


ナナセはもう一度、セレンの外套の中で小さく身体を丸めたのだった。

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