第86話 支配の資質
「セレンって、意外と妖精を使いこなすと思ってたんだけどな」
フィリスがふう、と笑いを収めながら言った。
「……」
セレンは何も言わず、外套の中へそっと意識を向けた。
するとソラトも面白そうに口を挟む。
「お守りにするタイプだったんだ」
「そういうことらしいね、おもしろ」
「うるさい」
「はははっ!似合わねぇー」
ヒヨリはまだ笑っている。
セレンは少し目を伏せた。
けれど、否定するほどでもない。
実際、その通りなのだから。
しばらく笑っていたナギが、目元に浮かんだ涙を拭いながら息を整える。
「まぁ……」
まだ少し笑いながら、ナギが続けた。
「ナナセとの魔法の相性は、かなり良いと思うけどなぁ」
セレンが顔を上げる。
「相性?」
「うん」
ナギは少し考えるように指先を顎へ当てた。
「俺が感じ取った範囲だけど、ナナセの魔法ってちょっと支配魔法に近いんだよね」
「支配魔法?」
「対象に直接干渉する感じ」
ナギはナナセに感じていたことの説明を続ける。
「だから、攻撃魔法もたぶん同じ系統だと思う。単純に火力で殴るタイプじゃなくて、相手そのものに干渉する感じ」
セレンは黙って聞いている。
「そういう魔法なら、セレンとの組み合わせは悪くないと思うよ」
「……」
「セレンが近距離で相手を制圧して、ナナセが魔法で動きを縛ったり、感覚を邪魔したりできるなら、かなり厄介な組み合わせになる」
ナギはそこで一度、セレンの外套を見る。
「まあ、本人が戦場に出る気があるかは別だけど」
「……出さない」
即答だった。
「ははっ」
ナギがまた笑う。
「そこだけは迷いないんだ」
「ない」
セレンは外套の右側へそっと手を添えた。
その中には、何も知らずに眠っているナナセがいる。
「ナナセがどれだけ強くても、俺はあそこに入れたくない」
「お守りだねぇ」
ソラトが笑う。
「……そうかも」
セレンは珍しく否定しなかった。
その返事に、今度は誰もからかわなかった。
ただナギだけが、少しだけ目を細めてセレンを見る。
ナナセの魔法とセレンの相性。
それだけなら、確かに良い。
けれど、今のセレンにとってナナセは、戦闘力を補うための存在ではないのだろう。
そんなことを考えながら、ナギは小さく笑った。
「まあ、本人が起きたら聞いてみれば?」
「起こさないで」
「はいはい」
休憩の終わりを告げるように、遠くから合図が響く。
セレンは静かに立ち上がった。
外套の中の小さな気配を一度だけ確かめてから、何事もなかったように歩き出す。
その足取りは、いつも通りだった。




