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星を抱くひと  作者: 飴目
第4章

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85/181

第85話 うたた寝を抱いて

任務の合間の休憩。

セレンは壁際に腰を下ろし、外套(がいとう)の内側へそっと意識を向けた。


今日の任務は、いつもより身体を動かした。

走ることも多かったし、戦闘も長かった。

外套の中にいるナナセが、さすがに酔ったり体調を崩したりしていないだろうかと気になっていた。


けれど――その心配は杞憂に終わった。


「……寝てる」


右側のポケットから伝わる、小さな気配。

規則正しい、穏やかな呼吸。

どうやらナナセは、こんな状況の中でもすっかり眠っているらしい。


セレンは少しだけ目を瞬いた。

これだけ激しく揺らされても、戦闘の緊迫した気配があっても眠れるものなのか。

妖精の環境適応力の高さに少し驚くが、同時にナナセがそれだけ自分に気を許し、安心しきっているという事実にどこか胸が温かくなる。


ふと、別部隊のいる方へ目を向ける。

隊員の側に漂う小さな気配を静かに見つめる。


ナナセが自分のところへ来てからというもの、セレンは以前よりも他の部隊の使役妖精を見るようになっていた。

それまでは、視界に入っても気にも留めていなかったが、今はどうしても目についてしまう。


激しい戦闘の最中でも、主人のすぐそばを飛んでいる妖精。

主人の武器にはり付くようにして、魔法で補助する妖精。

敵との距離がほとんどない場所まで入り込み、主人の戦闘を支えている姿。


五部隊にいた頃のナナセも、きっとそういうことができるのだろう。

攻撃も、防御も、補助も。

魔法の種類や精度だけで言えば、むしろかなり優秀な妖精のようだ。


なのに――。


「……無理だな」

ぽつりと呟く。


ナナセを戦場に出すこと。

どうしても、その気になれない。


もし怪我をしたら。

もし目の前で傷ついたら。

そう考えるだけで、胸の奥がひやりと冷え込む。


視線の先では、別の妖精が主人の武器の上に座り、羽を休めて休憩していた。

その姿を眺めながら、セレンはぼんやりと考えていた。


「セレン、何考え事してるの?」

フィリスの声に、セレンが顔を上げる。

「……」

少し考えてから、視線を遠くの妖精たちへ向けた。


「ナナセにあんなこと、俺無理」

「……は?」

フィリスが一瞬固まる。


隣にいたナギが吹き出した。

「急に何の話?」

「いや……」

セレンは武器の上で休んでいる妖精を見る。

「ああいうの」


その言葉に、フィリスたちは顔を見合わせる。

そして――。


「ははっ」

ソラトまで楽しそうに笑い始めた。


「セレン、完全に保護者じゃん」

「うるさい」

「だって、今まで妖精のことなんて気にしてなかったじゃん」


「……」

返す言葉がない。


ナギも笑いながら、少し離れた場所にいる妖精を見る。

「でも、妖精ってすごいよね」

「何が?」

「小さくてすばしっこいとはいえ、敵とゼロ距離になる時もあるわけだし」

ナギの言葉に、セレンの視線が止まった。


ゼロ距離。

敵の刃が容易に届く場所、魔法が激しく飛び交う最前線。

そこにナナセがいることを想像する。


「……やっぱ無理」

「まだ言ってる」

フィリスが笑う。


セレンは外套の上から、右側のポケットへそっと手を添えた。

その中で、ナナセは何も知らずに心地よさそうに眠っている。


「……今寝てるし」

「それが?」


「……安心する」

小さく漏れた本音。


今度こそ、フィリスたちは一斉に爆笑したのだった。

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