第84話 外套の中
翌朝。
任務へ向かう前、セレンはナナセを連れて医療室へ来ていた。
目を覚ました頃には、ナナセの顔色はすっかり戻っていた。
『任務、どうする?』
朝の支度をしながら尋ねるセレンに、ナナセは小さく頷いた。
『行きます』
ナナセはそう答えたが、昨夜のこともあり、念のためキサに診てもらうことにしたのだった。
「うん。大丈夫そうだね」
キサはナナセの様子を確認すると、安心させるように少し笑った。
「昨日の検査、ちょっと引きずっちゃったかもね」
「……検査?」
速攻でセレンが反応する。
キサは一瞬だけナナセを見る。
魔力の測定検査の一件をセレンに話していないのだろう、言わないでと顔に書いてあるような視線で見つめてくるナナセ。
そんな健気な様子に小さく笑う。
「魔力の経過観察を少しね」
それ以上は説明しなかった。ナナセも黙っている。
セレンは少し不思議そうにしていたが、深く追及することはなかった。
「任務に行って大丈夫だよ」
キサがナナセに笑いかける。
「……よかった」
ナナセが小さく息を吐く。
その表情を見て、セレンも少しだけ安心したようだった。
「でも、何かあったら、すぐ言って」
「はい」
「絶対」
「……はい」
念を押すように言ってから、セレンは外套を少しめくった。
「今日はずっとここにいて」
そう言って、手を差し出す。
ナナセは一瞬だけその手を見る。
それから、小さな姿へ変わると、ふわりと飛び上がり、セレンの手のひらへ乗る。
セレンはそのまま手を持ち上げると、外套の内側へ運んだ。
右側のポケット。
ナナセがすっぽり収まったのを確認してから、外套を閉じる。
「よし」
「はは、そこまでなんだ」
横で見ていたキサが少し驚いて吹き出した。
「過保護」
「なに」
セレンが少しむっとした声を返す。
「別に普通でしょ」
「普通ねぇ。いつの間にそんなになっちゃったの」
「……」
キサは楽しそうに笑う。
「それに昨日の今日で、絶対自分の近くに置いときたいんでしょ?」
「……」
セレンはもう答えないことにしたらしい。
ただ、外套の右側、自分の身体に近い位置にいる小さな存在を、無意識に確かめるように手で軽く押さえた。
「行ってくる」
「はいはい。気をつけてね。ちゃんと守ってね」
「……言われなくても」
医療室を出ていくセレン。
外套の中で、ナナセは小さく目を閉じた。
昨夜とは違う。今はもう、セレンの体温がすぐ近くにある。
そのことが、妙に安心できたのだった。




