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星を抱くひと  作者: 飴目
第4章

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第80話 月明かりの帰還

セレンが自室へと戻ってきたのは、すっかり日が落ちて夜の静寂が包み込んだ頃だった。


「ただいま。……?」


鍵を外して扉を開ける。けれど、返事は返ってこない。


部屋の照明は落とされており、窓から差し込む薄青い月明かりだけが、暗がりの中で室内の輪郭をぼんやりと浮かび上がらせていた。

セレンはリビングへ行き、自然といつものソファへと視線を向ける。


そこに、ナナセがいた。

小さく身体を縮め、毛布にくるまるようにして丸くなって眠っている。


「……寝てるのか」


セレンは足音を殺して静かに近づいた。

ソファの前に膝をついてしゃがみ込み、ナナセの穏やかな寝顔をじっと覗き込む。


「ナナセ」

名前を呼んでみるが、返事はない。


セレンはくすりと小さく微笑むと、額にかかった白い髪を指先でそっと優しく撫で上げた。

けれど、それでも目を覚ます気配は一切なかった。


「……随分と熟睡してるな」


もう一度、愛おしそうに頭を撫でる。

普段なら、部屋で待たせると寝ていていいと言っておかないと起きて待っているナナセ。

それなのに今日のナナセは、全く起きる気配を見せなかった。


「……?」


セレンはほんの少しだけ眉を寄せた。

胸の奥に、言葉にできない小さな違和感が引っかかる。

部屋の明かりもつけずに眠っていたということは、かなり早い時間からここで横になっていたのだろうか。


そう思考を巡らせていたが、セレンはすぐに思い直すように息を吐いた。


ここ数日、自分たちの特別部隊はかなり忙しいスケジュールが続いていた。

この時期は組織の再編成や新規任務が重なり、自分たちもあちこちの補助や警戒で走り回っていたのだ。

ナナセもその隣にずっと付き添っていた。


任務に出れば、激しい戦闘はなくても移動や長時間の待機が多い。それにナナセは、庭園にいると夢中になって時間を忘れて過ごしてしまうことがある。


――昼間、一人で庭園にでも行って長居していたのかな。


きっと久しぶりの自由時間に連日の疲れが一気に出てしまったのだろう。

そう考えれば、こうして深く眠りこくっているのも決して不思議なことではなかった。


セレンはそのまま立ち上がろうとする。

そのとき、ナナセの小さな肩から毛布がずり落ち、冷たい空気に晒されていることに気づいた。


「……冷える」


小さく呟き、落ちかけた毛布を手で優しく拾い上げる。

冷気から守るように、肩の上までそっと丁寧に掛け直してやった。


ナナセは小さく「ん……」と身じろぎしたものの、それでも深く心地よさそうな眠りから覚めることはなかった。

セレンはその無防備な寝顔を、しばらくの間無言で見つめ続けた。


「……おやすみ」

低く優しい声で小さく呟き、セレンはようやくその場を離れる。


部屋の奥へ向かいながらも、セレンは気になって一度だけ振り返った。

月明かりの下で、静かに規則正しい息を吐くナナセ。


いつもより深いその眠り。

セレンの胸の奥には、小さな違和感だけが、静かに残り続けていたのだった。

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