第79話 見つからない答え
医療室の扉を開け、外へ出ようとしたとき、背後からキサが声をかけた。
「今日はもう、絶対に無理しないでね。具合が悪くなったら、また来て」
「はい。キサさん、ありがとうございました」
小さく頭を下げ、ナナセは静かに医療室を後にした。
廊下をゆっくりと歩きながら、先ほどキサから聞いた話を静かに思い返す。
フィリスたちと、このアルカいうギルドとの本当の関係。
アスレイとの古い繋がり。
そして、セレンが自分をどこに置いてくれているのか。
深く考えれば考えるほど、胸の奥がじんわりと温かくなり、どこか少しだけ不思議な気持ちになった。
やがて、見慣れたセレンの自室へと戻ってくる。
窓の外はすっかり茜色に染まり、夕闇が迫っていたが、扉を開けても部屋の中にセレンの姿はまだなかった。
ナナセは、ほんの少しだけ胸をなでおろす。
今の顔を見られたら、きっとセレンに何か聞かれてしまう。
鼻血を出してしまったことも、魔力の測定をしに行ったことも、落ち込んでいることも。
鋭いセレンなら、きっとすぐに気づいて心配してしまうはずだ。
それに、なんで魔力を測りに行ったのかと聞かれたら。そう思うと今は少しだけ顔を合わせるのが気恥ずかしかった。
ナナセはいつものソファへと静かに向かう。
ふわりと身体の大きさを縮め、背もたれへ小さく身体を預けた。
「……ふう」
誰もいない静かな部屋に、ぽつりと小さな吐息が落ちる。
「……疲れた」
目を閉じると、じんわりとした疲労感が全身に押し寄せてきた。
ただ手のひらでシャボン玉を割っていただけだったはずなのに、思っていた以上に今の身体には響いていたらしい。
それでも、胸の奥の悔しさは、消えてくれなかった。
自分はもっと、セレンのそばで役に立てるようになっていると思っていた。
セレンの隣にいるなら、少しでも何かできるようにと思っていた。
けれど、索敵も戦闘も、強いセレンには自分のような存在の力など必要ない。
それなら、自分には一体、何ができるというのだろう。
「……どうしたら、いいんだろう」
小さく呟く。
どうすれば、自分はセレンの本当の力になれるだろうか。
ただ守られるだけの存在ではなく。
ただ隣で守られているだけでもなく。
セレンが自分を必要としてくれるような、そんな何かが欲しい。
けれど、どれだけ考えても明確な答えはすぐには浮かんできてくれなかった。
ナナセは小さな目を閉じたまま、ゆっくりと息を吐き出す。
思索を巡らせている間にも、魔力を消費した身体の疲労が少しずつ重く重なっていく。
ソファの上に畳んで置いてあった薄手の毛布へ、小さな手を伸ばした。
自分の身体をすっぽりと包み込むように、肩まで引き寄せて羽織る。
(……少し寝よう)
静まり返った夕暮れの部屋で、ナナセはたった一人。
セレンが自分のもとへ帰ってくるまでの静かな時間を、まとまらない答えを探しながら過ごしていたのだった。




