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星を抱くひと  作者: 飴目
第4章

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第78話 届いていた背中

「でもさ」

キサは少し考えるようにナナセを見た。


「なんで急に、そんなこと思うようになったの?」

「……?」

「セレンを助けたいって思った理由」


ナナセは黙った。

すぐには答えられない。

けれど、しばらくしてから、小さな声でぽつりぽつりと話し始めた。


「……この間の、護衛任務で」

「うん」

「アスレイ様と話しているセレンさんたちを見て……」

ナナセは少しだけ視線を落とす。

「思っていたより、ずっと遠いところにいる人たちなんだって……思いました」


「……あいつ、あの人の前にナナセ連れていったんだ」

キサが少し意外そうな顔をする。


「あ、いえ、外套の中にいたので……直接お会いしたわけではないです」

「……ああ」


一瞬、キサが固まった。


それから――。

「なるほどね」

ふっと吹き出す。


「……?」

ナナセは不思議そうに首を傾げた。

キサは可笑しさを抑えながら、ナナセを見る。


「いや、セレンらしいなって」

「……え?」

「そんなに心配しなくていいと思うよ」

「でも……」

「ナナセ、セレンに相当信頼されてるから」


ナナセが目を瞬かせる。

キサは椅子に座り直すと、少し説明するように続けた。


「フィリスが特別部隊の部隊長なのは知ってるよね」

「はい、ギルドに五人で入ったって……」

「うん。セレンたち他の四人は、フィリスに従ってる」

そこまではナナセも知っていた。


けれど――。


「ただ、厳密にはあの五人、アルカのギルド隊員として契約してるわけじゃないんだよ」

「……え?」

「いわば同盟みたいなものかな」


ナナセは目を見開く。


「アスレイとは、フィリスとかセレンたちがもっと若い時からの知り合いだからね。そういう縁もあって、今はアルカにいるって感じ」

「……」


ナナセは、これまでのことを思い返す。


セレンが語っていた過去。

アスレイと再会した時の、フィリスたちの遠慮のない距離感。

ナギのいつも通りの軽い口調。

そして、アスレイがセレンに向けていた、どこか気安い笑顔。

バラバラだったピースが、少しずつ繋がっていく。


「……だから」

ナナセがぽつりと呟く。

「アスレイ様が隊長だから、セレンさんたちが特別部隊にいる……というわけではないんですね」

「そういうこと」

キサが頷く。


「もちろん、アスレイに従っているという側面はあるだろうけど、あいつら自身が一つの組織として成立してるからね」

「……」

「だから、アスレイに会わせる必要も、セレンはあんまり感じてなかったんじゃない?」

「……?」


「ナナセの使役妖精の契約がどうなってるかまでは、俺も知らないけど」

キサは少し考えてから続ける。

「たぶんセレンの中では、ナナセの隊長はフィリスって認識なんだと思うよ」


「……フィリスさん」


今まで、何となく。

自分はただセレンに引き取られ、連れられているだけだと思っていた。

けれど、セレンの所属する部隊に、自分がいる。

その部隊を束ねているのはフィリス。

そしてセレン自身は、そのフィリスと共に戦っている。


そう考えると、あの日、セレンがアスレイの前で自分を外套の中に隠したことも。

アスレイから「大切にしてるな」と言われていたことも。


そして、あの夜のことも。

少しだけ違って見えてくる。


「……」


ナナセはそっと俯いた。

セレンは、最初から。

自分を、自分が生きている当たり前の場所へ連れて行ってくれていただけなのかもしれない。


無理に権力者の前へ引き立てるでもなく。

誰かに道具として見せびらかすでもなく。

ただ、自分の隣に置いて。


胸の奥が、じんわりと温かくなっていく。


それと同時に――自分がセレンを守りたいと思った本当の理由も、少しだけ分かった気がした。


遠いと思った。

自分とは違う、眩しい場所にいると思った。

だからこそ――その背中に追いつきたかったのだ。


「……ありがとうございます」

「ん?」

「少し、分かった気がします」


ナナセが小さく笑う。

キサも、それを見て優しく目元を緩めた。


「ならよかった」


そして、ナナセの鼻元に残っていたかすかな赤みを確認すると――。


「……でも今日はもう魔法は禁止ね」

「……はい」


そこだけは、少しだけ残念そうな返事だった。

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