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星を抱くひと  作者: 飴目
第4章

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第77話 未完成

「今の段階はね――」

キサは手元の測定結果を見つめながら、正直に、ただ少し悲しそうに告げた。

「ナナセが最初にアルカへ来た時の記録……そのちょうど半分くらいだね」


「……半分」


ナナセは小さく、掠れた声で呟いた。

その「半分」という短く客観的な言葉が、思っていた以上にズシリと重く胸の奥へ落とし込まれていく。


カネルのもとにいた時間は、過酷で長かった。

けれど、この医療室で治療を受けていた時間だって、決して短くはなかったはずだ。

少しずつ体力を戻して、削られた魔力も戻して。

自分では、もっと昔の状態へ戻っているものだとばかり思っていたのだ。


「だからやっぱり、大きな回復魔法とか、広範囲に展開するような負担の大きい魔法はまだ控えてね」

キサが優しく語りかける。


「はい……」

ナナセの返事は、どこまでも弱々しく小さかった。


「でもさ」

キサは屈《かが》み込み、下を向いたナナセの顔を覗き込んだ。


「今のナナセの半分の魔力だって、この拠点にいる使役妖精の中じゃトップクラスに入るくらいだから」

「……はい」

「だから、そんなに自分を卑下して落ち込まなくても大丈夫だよ」

「はい……」

慰められても、ナナセの声は明らかに沈み込んでいた。


キサは少し困ったように眉を下げた。

思った以上だった。ナナセがこれほどまでに自分の数値に落ち込むとは思っていなかったのだ。


ふと、キサは昔の記憶を呼び起こす。


初めてナナセと出会ったのは、カネルから保護された直後のことだった。

あの頃のナナセは、自分の魔力がどれほどかということに関して、まるで他人事のように気にしていなかった。

魔力測定を行っても、治療を施しても、その結果を伝えても。


『そうですか』

ただ、それだけ。

元通り良くなりたいとも、強くなりたいとも、以前の姿に戻りたいとも一度だって口にしなかった。

感情を殺し、ただ無気力に、人形のように淡々と治療を受けていた。


アルカに引き取られた時も同じような様子だったと、後から他の医療班から耳にしたことがある。

もともと人間と共存するには十分すぎるほどの魔力を保有している子だ。

だからキサ自身も、ナナセはそういう冷めた性分なのだろうと納得していた。

自分の魔力や力に対して一切の執着を持たない妖精、そう思い込んでいたのだ。


けれど、いま目の前にいるナナセは、まるで違う。

自分の魔力の数値に、これほどまでに落ち込んでいる。

その理由も、なんとなく分かる。


「……セレンか」

キサがぽつりと、その名を口にする。

ナナセの小さな肩が、ぴくっと揺れた。


やっぱりか。

キサは優しく息を吐き出した。


「セレンに、何かしてあげたいんだね」

ナナセはしばらく固まったまま黙っていた。


やがて――。


「……はい」

消え入るような、小さな声。


「セレンさんは……私に『何もしなくていい』って言います」

「うん」

「でも……」


ナナセは自分の手を見つめた。

「私も……セレンさんのために、何かできるようになりたいんです」


そのまっすぐな言葉に、キサは目元を緩めた。

かつてのナナセなら。

こんなに健気な言葉は絶対に口にしなかっただろう。

自分の力がどうなろうと、きっと気にも留めなかったはずだ。


それが今は、大切な誰かの役に立ちたいから、その人の隣に立つために、自分の強さを取り戻したいと願っている。


「……そっか」

キサは柔らかな笑みを浮かべ、ナナセの頭をそっと撫でた。


「じゃあ、そんなに焦らなくていいんだよ」

「……え?」

「まだ完全に戻っていないなら、これから時間をかけて戻していけばいい。どんなに時間がかかったとしてもね」


ナナセは少しだけ顔を上げた。

「……時間がかかっても、ですか……?」

「かかっても、だよ」

「……」


「それに、セレンだって急かさないでしょ」

その言葉に、ナナセは胸を突かれたようにそっと目を伏せた。


「……はい」


キサはそんなナナセの横顔を見つめながら、ふと実感する。

ナナセはただ魔力が戻っていないことに落ち込んでいるのではないのだ。

きっと、初めて、自分の力を誰かのために使いたいと願ったから。

だからこそ、半分という数字が、こんなにも悔しいのだ。


「よし、今日の検査はもうおしまい」

キサがパンと手を叩いて立ち上がる。


「鼻血も出たし、これ以上やったらセレンに怒られちゃうからね」

「……セレンさん、怒りますか?」

「怒ると思うよ。セレン怒ると怖いんだから」

「……」

ナナセは少しだけ困ったように眉を寄せた。


それを見て、キサは楽しそうに笑う。

「ほら、そんな顔しないの」

「はい……」

「大丈夫。ちゃんと戻ってきてるから」


ナナセは小さく頷いた。


それでも――愛おしい悔しさと落ち込みは、すぐには消えてくれそうになかったのだった。

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