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星を抱くひと  作者: 飴目
第4章

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第75話 秘めた決意

それから、数日の時が過ぎた。


連日のように任務と訓練所への往復を繰り返す日々。

セレンたち特別部隊は少し忙しい時期に入っているらしく、ナナセもその隣に常に付き添いながら、目まぐるしく過ぎ去っていく一日一日を過ごしていた。


そんなある日の朝――。


「今日は留守番してて」


「……分かりました」


セレンにそう言い残され、一人部屋に取り残された。

ナナセにとって、久しぶりの自由時間だった。


去っていくセレンの背中に寂しさを覚えつつも、ナナセはしばらく考えた末、一人で医療室へ向かうことにした。


向かう先はキサのもと。連日の任務で、キサに会うのも久しぶりだ。

そして、こうして拠点の中心部を自分一人で歩くのも、考えてみれば随分と久しぶりのことだった。


廊下を歩いていると、周りには何人もの隊員たちが連れ立って行き交っている。

二人、三人。あるいは、それ以上のグループ。

そんな中を、セレンの姿もなく一人でぽつんと歩く妖精のナナセは、少しだけ人目を引いた。

周囲からの視線を感じるたび、ナナセは無意識に身を縮め、足早に歩みを進める。


自分の居場所がどこにあるのか。

セレンのそばにいることで以前よりは分かるようになった今でも、こうして一人で開けた場所を歩くと、どうしても少しだけ心が落ち着かなかった。


やがて、目的地の医療室の前へと辿り着いて、静かに扉を開けた。


「おや」

書類をめくっていたキサが、顔を上げて柔らかく微笑んだ。

「珍しいね、ナナセ。いらっしゃい」

「……こんにちは、キサさん」

ナナセも小さくペコリと頭を下げた。


「久しぶりだね。どこか具合でも悪い?」

「いえ……」


ナナセはほんの少し間を置いてから、意を決して口を開いた。


「……魔法のことで、ご相談が……」

「魔法?」


キサがペンを置き、姿勢を正す。

ナナセは静かに頷いた。


かつてカネルから引き離され、この医療室で治療を受けていた頃。

ナナセはある程度以上の魔法を使うことを、キサからやめるように言われていた。

正確には、禁止されていたわけではない。自分の魔力が足りず、使えなかった。

強い魔法を使えば、その反動で身体に過大な負担がかかり、体調を大きく崩してしまう。

だから当時のナナセが使える魔法には、明確な限界が存在していた。


「私の魔力って……まだ、戻っていませんか……?」


ナナセの問いに、キサの表情がわずかに変わった。

想像していたよりも、ずっと真剣で切実な問いだったからだろう。

キサはしばらく考え込むように顎に手を当て、それから静かに尋ねた。


「……それを知りたい理由は?」

「……」


ナナセはそっと俯いた。

少しだけ胸の奥が揺れる。

けれど、誤魔化すことはしなかった。


「セレンさんは……」

その名前を口にしただけで、ナナセの声が少しだけ柔らかくなる。


「……本当に、私に何もさせてくれないんです」


キサは静かに耳を傾けている。


「実戦の時も、何も指示を出してくれません」

「うん」

「索敵も、自分で分かるからって……」


ナナセは胸の前で、自分の両手を小さく握りしめた。


「私がいなくても……セレンさんは、何の問題もなく戦えてしまって……」


その言葉を口にしながら、ナナセは自分でも胸の奥に小さな切なさを感じていた。


自分は必要とされていない――そう卑屈になりたいわけではない。

セレンがどれほど優しく、自分という存在を大切に扱ってくれているか。

それは、痛いほど理解している。

だからこそ、自分自身の不甲斐なさに、胸が痛むのだ。


「……それでも」

ナナセはまっすぐ顔を上げた。

「私……セレンさんの力になりたいんです」


キサはしばらくの間、まっすぐ自分を見つめてくるナナセの瞳をじっと見つめていた。

その温かな目には、驚きと、嬉しそうな色が滲んでいた。


「そっか」

キサは静かに笑みを深めた。


「ナナセは、セレンの役に立ちたいんだね」

「……はい」

小さな、けれど確かな返事。


「だから、自分の魔法がどこまで戻っているのか知りたい?」

「……はい」


キサは椅子から優しく立ち上がった。


「よし、じゃあ調べてみよっか」

「……! お願いします」

ナナセの瞳が、少しだけ明るくなった。

キサはその健気な表情を見て、ふっと優しく目を細めた。


「ただし」

「はい」

「無理はしないこと」

「……はい。分かりました」

「セレンが何もさせない理由も、たぶんそこにあるからね」


ナナセは小さく息を呑み、そっと目を伏せた。


キサのその優しい言葉が、胸の奥底にじんわりと静かに染み込んでいった。

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