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星を抱くひと  作者: 飴目
第3章

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第70話 夜の警戒

ギルド間の護衛任務を終えた後は、そのままこのギルド周辺の警戒・警備補助へと回るスケジュールになっているらしい。

フィリスたちは客間で思い思いに体を休めて寛いではいるものの、何かあれば即座に動けるよう、武器や装備だけはそばに置いたままだ。


「じゃ、俺ちょっと寝るわ……」

ナギがソファへ身体を預け、短く息を吐く。

ソラトやヒヨリも、それぞれ適当な場所を見つけて静かに目を閉じている。


「みなさん、大変ですね……」

ナナセがセレンの膝の上で小さな声を漏らす。

セレンは組んでいた腕を解き、少しだけ口元を緩めた。


「まあね。でも、外で野営するよりは全然マシだよ」

「……そうなんですか?」

「うん。屋内で待機できるだけで、かなり楽」

そう言ってから、セレンは膝の上のナナセへ視線を落とした。

「ナナセも眠っていいんだよ」

「……はい」


ナナセは小さく頷いた。

けれど、見知らぬギルドの、慣れない建物。

それに、いつ何が起きるか分からない緊張感の中。

目を閉じてみても、なかなか眠気は訪れてくれなかった。


ナナセはセレンの膝の上で小さく身体を丸める。

透ける羽を背中にぴったりと寄せ、静かに瞼を閉じた。

眠れなくても、せめてセレンの邪魔をしないように。


そんなことを考えていると――。


「……眠れない?」

頭上から、セレンの低く優しい声が降ってきた。


ナナセがそっと顔を上げる。

「……少しだけ」

「まあ、そうだよね」

セレンは小さく笑うと、無理に眠らせようとはしなかった。

ただ、膝の上にいるナナセが少しでも安心できるように、大きな片手をそっとその近くに置いてくれる。


「じゃあ、横になって目をつむっているだけでもいいよ」

「……はい」


ナナセはその手に寄りかかるように、再び身体を丸めた。

静寂に包まれた客間。

遠くの廊下で誰かが歩くかすかな足音や、時折り通り過ぎる隊員たちの気配。


セレンの手がそばにあるだけで、胸の中の緊張が少しずつほぐれていく。

眠れなくてもいい。

今はただ、この人のそばにいていいのだから。

そう思いながら、ナナセは小さく羽を揺らした。


◇


明け方。

窓の外の空が、まだ薄い群青色に染まりきらない時間帯。


客間には、浅い眠りに落ちている仲間たちの静かな呼吸音だけが漂っていた。


その静寂の中で――。


「……?」

ナナセの背中の羽が、ピクッと微かに揺れた。

何かの違和感を感知したような、かすかな反応。


ほぼ同時に、セレンもすっと顔を上げた。

鋭い瞳で窓の外の暗がりを見つめ、しばらくじっと耳を澄ませる。


「……西に、四」


セレンの小さな呟き。

たったそれだけの言葉で、客間の空気が一変した。


フィリスが即座に目を開ける。

「見に行くか」


短く切り出すフィリスに、ナギたちが一斉に起き上がった。


「了解」


さっきまでの眠気など最初から存在しなかったかのように、全員が素早い動作で装備を身につけていく。


セレンも立ち上がり、ナナセへ向かって手を伸ばした。

「ナナセ、おいで」

「はい」

ナナセはすぐに小さな身体を浮かせた。


セレンの黒い外套が開かれる。


「……」

前回の言葉を思い出し、ナナセは迷うことなく右側のポケットへと向かった。

小さな身体が、滑り込むように外套の内側へと収まる。

「ちょっと揺れるよ」

「大丈夫です」

「よし」

外套が静かに閉じられた。


薄暗くなった視界の中で、ナナセは身体を小さく丸める。

外から聞こえる音が、刻一刻と変わっていく。

靴音。

防具や金属の擦れ合う音。

重い扉が勢いよく開く音。


そして、セレンが走り出した。

ぐんと身体が上下に揺れる。

けれど、セレンが言った通り。

胸の中のナナセに激しい衝撃がいかないよう、どこか身のこなしを意識しているのが伝わってきた。


ナナセは外套の内側で、小さく息を吐き出す。

右側のポケット。

そこは、今まで知らなかった場所だった。

それでも今は、セレンが「ここにいてほしい」と願って選んでくれた、温かな居場所だった。


ナナセは外套越しに伝わるセレンの気配を感じながら、静かにその身体を預けていた。

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