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星を抱くひと  作者: 飴目
第3章

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第66話 譲れない理由

それ以降、セレンからそれ以上質問が重ねられることはなかった。

ナナセも、セレンがもう納得してくれたのだと思い、それ以上は何も言わなかった。


セレンの胸の中では、さっきナナセが口にした言葉がずっと重く引っかかっていた。


使役妖精にとっては、それが当たり前の常識なのだろう。

主人を守るためなら、疑問も抱かず自分の命を投げ出す。

主人が死ねば、自分もまた死ぬ。

それを「そういうもの」として淡々と受け入れている。


セレンには、それがどこまでも異常で、残酷な呪いのように思えた。


ふと、自分の外套の内側に視線を落とす。


左胸のポケット。

ナナセは最初から当たり前のように、そこにすっぽりと収まっていた。


セレンは深く眉を寄せる。

今まで意識すらしていなかった。けれど――。

そこは、もし敵と対峙し、正面から自分の心臓を狙われたとき。

真っ先に攻撃をその身に受ける位置だった。


ナナセが何の迷いも抵抗もなく、最初から当然のようにそこへ入ったことを思い出し、セレンの背筋に冷や汗が伝う。


「……っ」

心臓がキュッと冷たく縮みあがる感覚に、セレンは小さく息を吐き出した。


「ナナセ」

「はい?」

「こっち」


セレンはそう言って、外套の『右側』を少し開いた。

「こっちに入って」


ナナセは一瞬、言葉の意味が分からないようにパチパチと瞬きをする。

それから、自分が今いる左側のポケットを見つめた。

「……?」

「右だ」

「……」


ナナセは困惑したようにセレンを見上げる。

「……できません」

「……なんで?」

「……」


ナナセは答えにくそうに静かに目を伏せた。

使役妖精としての本能。

主人を守るために、なんとなくそこから動いてはいけないような感覚がある。


「こちらの方が……」

「俺が無理だから」

セレンが遮った。

いつもより、ずっと低く強い声。


「これは指示。移動して」

「……っ」


ナナセがハッと目を見開く。

しばらく困惑と迷いに揺れていたが、やがてセレンの真剣な瞳に押されるように小さく頷いた。


「……はい」


ふわり、と小さな身体が宙に浮く。

左側のポケットから滑り出し、セレンの右側へと移動する。


小さな身体が、右側のポケットの中へと収まった。

セレンは静かに外套を元に戻す。


「……こっち」

「はい……」


ナナセはまだ理由が分からず、少し戸惑った様子でポケットの縁を掴んでいる。

セレンはそんな姿を確認すると、何も言わずにすっと前を向いた。


これでいい。

少なくとも――。


自分がこの命をかけてナナセを守るときに、最初にナナセが傷つくような場所には絶対に置かない。


それだけは、何があろうと譲るつもりがなかった。

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