第63話 妖精の疑問
ナナセはセレンの胸元で小さく身体を丸めながら、先ほど交わされた会話を静かに思い返していた。
ギルド隊長であるアスレイと、フィリスたちとの驚くほど近い距離感。
それに周囲の隊員たちが彼らに向ける敬意の視線を見れば、特別部隊が自分が思っていた以上の立場にあるのだと理解できた。
そんな場所に――。
どうして、自分が配属されたのだろう。
ナナセの意識はふと、セレンの元へ配属される直前の、あの日のことへと遡っていた。
◇
『ナナセ様の再配属先をご連絡します』
連絡妖精は、感情の篭もらない、無機質で事務的な声で告げた。
『特別部隊傘下、セレン様です』
『……特別部隊?』
『はい。特別に編成された精鋭部隊です。フィリス様を隊長とし、少人数で特殊任務を行っています』
ナナセは黙ってその言葉を聞いていた。
『なお、特別部隊側からは、現時点で使役妖精を必要としていない旨が伝えられています』
『……』
『そのため、通常の使役契約とは異なる形での配属となります。詳細については、配属後に担当者へ確認してください』
『……そうですか』
ナナセは、それ以上何も尋ねなかった。
必要ない、使役妖精に対してのその無慈悲な言葉にも、特に驚きや傷つきはなかった。
それに、必要とされていないからといって、何も危害を加えられないとは限らない。
どうせまた、別の形での苦痛が待っているだけなのだと、ただ冷めた諦めだけを抱いていた。
◇
「……」
ナナセはハッと我に返り、現在へと意識を戻した。
外套の小さな隙間から、もう一度外の様子を覗き見る。
目の前には、先ほどまで話していたアスレイの姿。
フィリスたちと親しげに言葉を交わすその人は、実に穏やかに笑っていた。
『思ったより大切にしてるな』
ふと、その言葉が脳裏に蘇る。
アスレイは、セレンに向けて確かにそう言っていた。
まるで、自分の存在や現状を、最初から知っているかのような言い方だった。
「……」
ナナセは小さく首を傾げる。
自分がここへ配属された経緯を、アスレイは知っているのだろうか。
そもそも――自分のことを知っているのだろうか。
アルカへ引き取られる前の、あの暗い過去のことまで。
かつて所属していた、あの五部隊でのことまで。
そこまで何もかも知った上で、セレンの元へ自分を配属したのだろうか。
分からない。
今の自分にはそれを確かめる術もなければ、直接アスレイに訊ねる理由もなかった。
ナナセはそっと外套の内側で身体を丸め直す。
やがて、セレンの足音が再び静かに動き出した。
規則正しい胸の鼓動と歩みの振動を全身で感じながら、ナナセはそっと目を閉じる。
答えの出ない静かな疑問だけが、胸の奥にそっと残されていた。




