第61話 呼ぶ理由
任務の拠点へ到着すると、少しずつ人が集まり始めていた。
今回の任務は規模が大きいらしく、普段の任務よりもはるかに多くのアルカの部隊員が行き交っている。
ナナセはいつものようにセレンの肩に乗り、少し緊張しながらその様子を眺めていた。
セレンは周囲の状況を確認してから、ふと自分の肩へと視線を向ける。
「ナナセ」
「はい」
「こっち、入れる?」
そう言って、セレンは着ている黒い外套の内側を指さした。
ナナセは少しだけ目を瞬く。けれど、断る理由もなかった。
「はい」
小さな身体をキュッと縮め、セレンの外套の内側へ滑り込む。
そこには妖精用の小さな内ポケットがあり、身体をすっぽり収めるには十分な広さがあった。
こういう位置に妖精が入ること自体は、決して珍しいことではない。
移動中の風や障害物から身を守るためであったり、戦闘時に主人の一番近くで待機するためであったり。
ただ、セレンが自分からそう言ってくれたのは、これが初めてだった。
ナナセはポケットの中から、ひょっこりと顔を覗かせる。
「……?」
セレンがその視線に気づき、首を傾げた。
「ん?」
「いえ……」
少し迷ってから、ナナセは小さく尋ねる。
「どうして今日は、こちらに……?」
「ああ」
セレンは少し考えてから、困ったように苦笑した。
「今日はアルカのギルド隊長とかもいるから」
「……え」
「さすがに、怖いと思うかなって」
ナナセはパチパチと目を丸くした。
「ギルド隊長……?」
「うん」
セレンは何でもないことのようにあっさりと答える。
「今回の任務、隊長たちの道中の護衛なんだよね」
「……」
ナナセはポケットの中から、そっと周囲を見渡した。
先ほどまでは、いつもの任務と大きく変わらない光景だと思っていた。
セレンに言われてよく観察してみれば、集まっている隊員たちの発する雰囲気がまるで違う。
普段の任務で見かけるような隊員だけではない。
回復班らしき制服を着た人達や、装備にも見覚えのないものが混じっている。
ナナセは、改めてセレンを見上げた。
「……特別部隊って」
「ん?」
「そんなに……上の部隊なんですか?」
「まあ、そうなのかな」
あまりにもあっさりした返事だった。
ナナセはもう一度、目を瞬かせた。
フィリスたちと訓練所で笑い合っていた姿。
ダイニングでルナと適当に軽口を叩き合っていた姿。
自室で酒を片手に、静かに本をめくっていた姿。
普段のセレンからは、そんな「雲の上の存在」のような立場が、あまりにも遠く感じられたのだ。
「……」
セレンは呆然とするナナセの様子を見て、くすりと笑った。
「そんなに驚かなくても」
「……だって」
ナナセは外套の縁を、小さな両手でぎゅっと掴む。
「いつも……普通にしているので」
「俺?」
「はい」
「別に、偉いとか思ってないし」
セレンはそう言って、外套の上からポケットのあたりをぽんと優しく撫でた。
「ナナセはいつも通りでいいよ」
「……はい」
伝わってくる手の大きさと温もりに、ナナセの緊張が少しだけほぐれていく。
けれど、セレンが自分の知らない場所では、アルカの上層と肩を並べて任務をするような人物なのだと、ナナセは今になってようやく実感し始めていた。




