第60話 出立
翌朝。朝の柔らかな光が部屋へ差し込む中、セレンは任務の準備を着々と進めていた。
その様子をソファから静かに眺めていたナナセに、セレンはふと思い出したように声をかけた。
「今日の任務、泊まりになるんだけど……どうする?」
セレンは今日も、当たり前のように自分に選ぶ権利を与えてくれる。
昨夜、セレンがくれたあの温かな言葉が胸に蘇る。
今までの、どうすればいいか分からず戸惑うばかりだった自分とは違っていた。
今のナナセの胸の中には、ひとつの確かな意思が芽生えていた。
ナナセは少しだけ考えたあと、セレンを見上げて小さく微笑んだ。
「大丈夫です。行きます」
「……分かった」
セレンも満足そうに小さく頷く。
その返事をしながら、ナナセは胸の奥で静かに膨らんでいた感情を、ほんの少しだけ自覚していた。
セレンのそばにいたい。
いつの間にか、自然とそんなふうに願うようになっていた。
任務だからとか、使役妖精だからとか、そういう義務や理由ではなく。
ただ――純粋に、セレンの隣にいたいのだ。
「じゃ、行こうか」
「はい」
二人は部屋を出る。
その先には、今日もアルカの長い廊下がどこまでも続いていた。
◇
集合場所へ向かうと、すでに仲間たちが集まっていた。
朝が早いせいか、ナギもソラトも少し眠たげに欠伸をしている。
「おはよー……」
「おはよう」
それぞれが適当に挨拶を交わす。
「おはようございます」
ナナセも小さく頭を下げると、慣れた動作でセレンの肩へとふわりと飛び乗った。
それを見たヒヨリが、嬉しそうに目を細めて笑う。
「今日はお留守番じゃないんだね」
「はい」
「よかったじゃん」
ヒヨリはナナセに笑いかけたあと、ニヤリとしてちらりとセレンを見た。
「セレンも寂しくないし」
「……」
セレンの目が、あからさまに細くなる。
「……だまれ」
「痛っ」
セレンがヒヨリの肩を軽く拳で突く。
「朝から何すんのさ!」
「うるさいからだ」
「絶対照れてるじゃん」
「照れてない」
「はいはい」
ナギが眠そうな顔のまま、可笑しそうに笑う。
「今日も朝から仲良しだねぇ」
「お前も黙れ」
「なんで俺まで?」
ソラトまで肩を揺らしてくすくす笑っている。
その賑やかなやり取りを、セレンの肩の上から眺めていたナナセは、小さく口元を緩めた。
こんな何気ない軽口の中に、当たり前のように自分が居る。
セレンの肩の上という、自分だけの居場所がある。
そのことが――ナナセには、すこし誇らしく、嬉しかった。




