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星を抱くひと  作者: 飴目
第3章

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第48話 帰路

先ほどの出来事から、帰路につく部隊の間には誰も口を開かない重苦しい沈黙が流れていた。


セレンは相変わらず先頭を歩いている。

いつものように淡々とした歩調。

けれど、その頑なに張られた背中には、まだ冷め切らない禍々しい殺気が残っていた。


しばらくして、フィリスがすっと並ぶように隣へ寄る。

「セレン」

「……」

「気をつけろよ」

静かで、しかし重みのある声だった。

「さすがに、あそこで殺してたら面倒なことになってた」


セレンは歩みを緩めない。

「分かってる」

「ならいいけどさ」


フィリスはそれ以上、深く責め立てることはしなかった。

今回のことが、セレンにとってどれほど危うく、一線を踏み越えかけたものだったのか。

それくらいは、側で見ているフィリスにも痛いほど分かっていた。

少し後ろを歩くナギたちも、押し黙ったまま二人のやり取りに聞き耳を立てている。


やがて、セレンが前を向いたまま、ぽつりと呟いた。


「……殺し損ねただけだ」


フィリスが横目で振り返る。


「……」


セレンの声には、冗談も誇張も一切含まれていなかった。

本気で、あの場でカネルの息の根を止めておけばよかったと思っているのだろう。


『次は無いと思え』


先ほどカネルへ叩きつけた言葉が、脳裏でそのまま自分のものとして反芻《はんすう》される。

セレンはそれ以上、口を開かなかった。


ナギも、ソラトも、ヒヨリも、誰もその発言に口を挟まなかった。

ただ、静かにセレンの後ろをついて歩く。


フィリスだけが一度だけ、セレンの横顔をじっと見つめた。

普段のセレンなら、任務中に何があろうと私情を持ち込まず、すぐに感情を切り捨てる男だ。


けれど今回は違った。

ナナセのことになると、どうしても抑えきれない怒りが、彼の理性を突き破ってしまうらしい。


フィリスは小さく、深い息を吐き出した。


「……まあ」


誰に聞かせるでもなく、呟くようにこぼす。


「怒るのも、無理ないか」


その言葉に、誰も返事をすることはなかった。

ただ――誰一人として、それを否定もしなかった。


◇


任務を終えて拠点へと戻る頃には、空はすっかり重たい夕暮れの茜色に染まっていた。

拠点のロビーの窓から差し込む光もすっかり薄れ、奥へ続く長い廊下には、少しずつ夜の冷たい気配が混ざり始めている。


セレンがフィリスたちと別れる前、ナギにふと肩を掴まれた。

「セレン」

「ん」

「ナナセに会う前に、それ、どうにかしろよ」

「……ああ、分かってる」

短い、素っ気ない返事。

ナギは疑わしそうにセレンの顔を覗き込む。

「本当に分かってる?」

「分かってる」

「ならいいけどさ」


ナギはそれ以上言わず、ソラトたちと一緒に自分たちの部屋の方へ歩いていった。

セレンはその背中を見送りながら、小さく息をつく。


そして、ほんの少しだけその場で足を止めて考えた。


今の自分の顔には、まだあの男を睨みつけたときの殺気が残っている気がした。

そのままの状態で部屋へ戻り、待っているナナセの顔を見る気には、どうしてもなれなかった。


「……少し、中庭にでも寄るか」


ぽつりと独り言のように呟くと、セレンは方向を変え、あの静まり返った中庭の方へと歩き出した。

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