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星を抱くひと  作者: 飴目
第3章

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第47話 警告

任務を終える頃、集合地点には再び各部隊が集まっていた。

「お疲れ様です」

「お疲れ」

互いに短く労いの言葉を交わしながら、それぞれの部隊が帰路につこうとしている。

特別部隊もまた、手際よく装備を片付け始めていた。


セレンが外套を羽織り、身支度を整えたその時。


「セレンさん、ですよね?」


背後から声をかけられ、セレンは静かに振り返った。

そこに立っていたのは、カネルだった。


「……何」


セレンの眼光は、氷のように冷たい。

カネルは一瞬だけその圧に怯んだものの、どこか歪んだ親切心を装うように言葉を続けた。


「ナナセのことなんですが」

セレンの瞳が、すっと細くなる。

「あの子、そちらに居ますよね?」

セレンは答えない。


カネルは構わず、差し出がましくも言葉を重ねた。


「でしたら、元契約者としていくつか伝えておいた方がいいと思いまして。あの子、食事はいらないですから。魔力の補給だけで十分に――」


「……」


「それと、支配薬なら少し強めに打った方がよく効きますから。弱い薬だと魔力に――」


最後まで言葉が紡がれることはなかった。


次の瞬間――。


ズドン、と重い衝撃音と共に、カネルの身体が地面へと叩きつけられた。


「っ……!?」


呼吸間すらない一瞬の出来事だった。

セレンが上から押しつぶすように乗しかかり、懐から引き抜いたナイフの冷たい刃先が、カネルの喉元へ深く突きつけられていた。


周囲の空気が、一瞬にして凍りつく。

少し離れた場所にいたフィリスたちも、息を呑んで脚を止めた。


カネルを見下ろすセレンの顔には、怒りすらほとんど浮かんでいなかった。

ただ、ぞっとするほど静かで、恐ろしいほどの殺気だけが渦巻いていた。


「……知ったような口を聞くな」


刃先が、かすかにカネルの皮膚へ食い込む。

カネルの息が止まり、顔色が急速に土気色へと変わっていく。


「セレン」


フィリスが制するように、低く呼びかけた。

けれど、セレンはカネルから一切視線を逸らさない。


「ナナセのことを、お前が語るな」


声のトーンはどこまでも静かだった。

だからこそ、余計に狂気を含んだ恐ろしさが漂っていた。


カネルは何かを言い返そうと喉を揺らした。

けれど、首筋に食い込む冷たい刃を前に、掠れた呼吸音すら立てることができない。


セレンはしばらくの間、虫ケラでも見るような目でカネルを見下ろしていた。


「……次は無いと思え」


それだけを冷酷に告げると、セレンはスッと身体を離して立ち上がった。

二度とカネルを振り返ることもなく、静かな動作でナイフを鞘へ収める。


「セレン……」

ナギが気遣うように声をかける。


「帰る」


短い返事。

セレンはそのまま、迷いのない足取りで歩き出した。

フィリスたちも互いに視線を交わし、慌ててその後に続く。


一人残されたカネルは、泥のついた地面に手をついたまま、しばらく動くことができなかった。

首筋に残る、あまりにも冷たく鋭い刃の感触。


そして――最後に自分を見下ろしていたセレンの目。


あれは、単なる脅しや警告などではなかった。

もし次にナナセへ爪を立てようとすれば、あるいは不躾な言葉を向けようとすれば。

本当に、自分の命の『次』はないのだと。

カネルは激しく震える指先で、自分の首筋をそっと触れた。


「……なんで……」


誰に向けた言葉なのか、自分自身でも分からなかった。


ただ――あの小さな使役妖精が、もう二度と自分の手の届く場所には戻ってこないことだけは。

痛烈な恐怖と共に、はっきりと理解させられていた。

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