第44話 自由を託して
任務の集合場所へ向かうと、すでにフィリスたちは集まっていた。
フィリスが装備の最終確認を行い、その傍らでソラトとヒヨリが何やら静かに言葉を交わしている。
ナギはセレンの姿を見つけると、ひらひらと軽く手を上げた。
「お、来た来た」
「おはよ」
セレンが短く返す。
いつも通りの淡々とした様子だった。
ナギはセレンの周囲をぐるりと見回す。
そして、不思議そうに少し首を傾げた。
「……あれ?」
「ん?」
「ナナセは? 一緒じゃないの?」
その名前が出た瞬間。
セレンの手が、装備を整えていたところでほんの少しだけ止まった。
「今日は置いてきた」
「え?」
ナギが目を丸くする。
「珍しくない? いつも連れていくのに」
「今日の任務、五部隊もいるでしょ」
セレンが淡々と答える。
それだけの言葉で、フィリスも察したように表情を引き締めた。
「……なるほどな」
「うん」
ソラトがセレンを静かに見やる。
「ナナセには理由、言ったの?」
「理由までは言ってない。」
「そっか」
ナギは少し考えるように黙り込んだ。
以前なら、任務に連れていかれるのが当たり前だった。
ナナセ自身も、使役妖精としてそれを当然のように受け入れていた。
だからこそ、今回、セレンが連れてこなかったことに、少しだけ意外な気持ちになる。
「でも、大丈夫かな」
ナギがぽつりと呟く。
セレンが視線を向ける。
「何が?」
「いや、ナナセって一人で留守番とか、あんまり慣れてなさそうじゃん」
「……」
セレンは少しだけ考えてから答えた。
「キサとルナには一言頼んである」
「なら大丈夫か」
ナギは納得したように頷いた。
「それに、セレンの部屋からなら勝手に庭園にも行けるしな」
フィリスが横から軽口を挟む。
「うん。一人でも、ちゃんと行けると思う」
「……なんか、随分自由にさせるようになったね」
フィリスが少しだけからかうように笑う。
セレンは一瞬だけ黙り込んだ。
それから、静かに視線を前方へと戻す。
「自由でいいと思うから」
「……」
フィリスはそれ以上、何も言わなかった。
ただ、どこか温かい眼差しで口元を緩める。
「そっか」
集合時刻となり、周囲の戦闘部隊の隊員たちが一斉に動き始める。
セレンももう一度、腰のナイフと装備を確認し直した。
その胸の奥には、出発直前に見たナナセの顔が鮮明に浮かんでいた。
少し戸惑い、不安そうに揺れていた瞳。
けれど最後には、セレンの言葉を信じて小さく頷いていた姿。
セレンは一度だけ、歩いてきた道を静かに振り返った。
そして――。
「行こう」
フィリスたちと共に、任務の地へと力強く歩き出した。




