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星を抱くひと  作者: 飴目
第3章

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第43話 留守番

それからしばらくして。

セレンは任務へ向かうための身支度を始めた。


黒い外套《がいとう》を羽織り、腰の装備やナイフの位置を一つひとつ確認する。

いつものように淡々とした、無駄のない動きだった。


ナナセは少し離れた場所で、その様子を静かに眺めていた。

普段なら自分も同行する。

だから、いつ声をかけられてもすぐ動けるように、ナナセも自分の身なりを整えて待機していた。


けれど、今日はセレンがすべての装備を整え終えても、ナナセへ声をかける気配がなかった。


「……?」


ナナセが不思議そうに見つめていると、セレンがふと顔を上げた。


身支度を整えている間、セレンの脳裏には今日の任務概要が浮かんでいた。

今日の任務は、複数の戦闘部隊による大規模な合同任務。

そして――その参加部隊の中には、あの第五部隊も含まれていた。

つまり、前契約者であるカネルもその場にいるということだ。


(……会うのか、ナナセも)


セレンの瞳の奥が一瞬だけ、冷たく鋭い光を帯びる。

昨日のナナセの話しを聞いた手前、カネルの前にナナセを連れ出す気には到底なれなかった。

けれど、その理由や自分の中に沸いた怒りをナナセへ明かすつもりもなかった。


「ナナセ」

「はい」

「今日は部屋で留守番してて」

「……え?」


ナナセは目を丸くした。


「一緒に行かないんですか……?」

「うん」

セレンは淡々と答える。

「今日は俺たちだけで行く」

「……」


ナナセは戸惑いを隠せないまま、セレンを見つめた。

どうして置いていくのか、理由を聞きたい。

けれど、そんなことを尋ねていい立場なのか分からない。


セレンはそんなナナセの固くなった様子を見て、ほんの少しだけ声音を柔らかく落とした。


「部屋は自由に使ってていいから」

「……はい」

「庭園に行ってもいいし、ダイニングに行ってもいい」

「……」

「何か困ったことがあったら、キサかルナを頼って」

「でも……」


ナナセが躊躇いがちに小さな口を開く。

「任務は……私……」

「大丈夫」

セレンは迷いなく、きっぱりと答えた。

「今日は俺たちだけで十分足りる」


ナナセは思わず俯いた。

自分はもう必要ないのではないか、足手まといだから置いていかれるのではないか。

胸の奥が、ぎゅっと小さく沈み込む。


そのかすかな陰りに気づいたのか、セレンは言葉を重ねた。

「ただの留守番」

「……」

「ナナセが何か悪いことをしたから、置いていくわけじゃないよ」

「……はい」

ナナセは噛みしめるように、ゆっくりと頷いた。


セレンはそれを見届けてから、外套の襟を整える。

「じゃあ、行ってくる」

「……いってらっしゃい」

「うん」

扉へと歩き出しかけて。

セレンはふと足を止め、一度だけ振り返った。


「ちゃんと、好きなことしててね」

「……」

ナナセは少し驚いたようにパチパチと瞬きをした。


「……分かりました」


セレンは小さく頷いた。

そして今度こそ、静かに部屋を出ていった。


カチャン、と扉が閉まる。


静まり返った部屋の中で、ナナセはしばらくの間、閉ざされた扉を見つめ続けていた。


留守番の本当の理由は分からない。

けれど、セレンに置いていかれた淋しさよりも。


『好きなことしてて』と言われたその言葉が、いつまでも温かく胸に残っていた。

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