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星を抱くひと  作者: 飴目
第2章

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第27話 木漏れ日の庭

食事を終えると、二人はダイニングをあとにした。

廊下をゆっくり歩きながら、セレンは何かを思い出したようにふと足を止める。


「……そうだ」

「?」


振り返ったセレンが、ナナセに向かってそっと手を差し伸ばした。


「おいで」


ナナセは少し驚きながらも、迷うことなくその大きな手を取る。


「……どこへ行くんですか?」

「ちょっとね」


それだけ言って、セレンはナナセの手を優しく引いて歩き出した。

しばらく静かな廊下を進んだあと、建物の一角にある小さな木製の扉を開ける。

その扉の先に広がっていた光景を目にして、ナナセは思わず足を止めた。


「……庭……?」


そこは、小さな庭園だった。

アルカの拠点の中心にはもっと広大な庭園があり、そのような庭園はそこにしかないものだと思い込んでいた。


けれど、ここはそれとは違っていた。規模はずっと小ぢんまりとしている。

中央には静かに水を湛《たた》える小さな噴水があり、その周囲を彩り豊かな草花が優しく囲んでいる。

その草花も、整えられているというよりは、思い思いに生い茂っている。

木々の間からはやわらかな朝陽が木漏れ日となって降り注ぎ、心地よい風が吹くたび、青々とした葉がさやさやと静かに揺れていた。


そして何より、誰もいない。

人の気配が、一切なかった。


「こんなところが……」

ナナセが感嘆の声を漏らしながら周囲を見渡す。

セレンはその様子を優しく見守りながら、庭園の奥へと歩を進めた。


「こっちのほうが部屋から近いしね」

庭園の端まで行くと、一本の屋根付きの渡り廊下が伸びていた。

その先は、セレンの部屋がある特別部隊の居住区画へとそのまま繋がっている。


「ここ、ほとんど誰も来ないからさ」

セレンが振り返る。

「良かったら使って」

「……私が、ですか?」

「うん」


ナナセは庭園をもう一度、愛おしむように見渡した。


規模は小さい。

けれど、どこまでも静かで。

刺さるような他人の視線も、嫌な気配もない。

木々の間から聞こえる鳥のさえずりと、風に揺れる葉の音だけが、優しく空間を満たしている。


「妖精なら、こういう場所のほうが好きかなと思って」

「……」


ナナセは目を少し見開いた。

セレンは特に気にした様子もなく、淡々と続ける。


「魔力の回復にも使えるんでしょ?」

「はい……自然の精霊がいれば、少しずつ……」

「じゃあ、ちょうどいい」


ナナセは庭の中へ、そっと愛おしそうに一歩を踏み出した。

足元の草が風にそよぎ、肌に触れる空気も、建物の中より少しだけ柔らかく温かい。


「……綺麗」

思わず、小さく呟きが漏れた。

セレンはその声を聞き逃さず、口元を少しだけ緩める。


「気に入った?」

ナナセは弾かれたように振り返った。

「……はい」

今度は、何の迷いもなくまっすぐに答えた。


「じゃあ、好きに使って」

セレンはそう告げると、渡り廊下のほうへ向かって歩き出す。


「俺は部屋に戻るけど」

「……はい」

数歩進んだところで、セレンはふと振り返った。

「疲れたら、いつでも戻っておいで」


ナナセはこっくりと頷いた。

「……分かりました」


セレンの背中が渡り廊下の奥へと消えていく。

その背中をずっと見送ってから、ナナセはゆっくりと美しい庭園へ視線を戻した。


そして――。


誰に見せるでもなく、ほんの少しだけ、幸せそうに口元を緩めた。

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