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星を抱くひと  作者: 飴目
第2章

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第25話 甘い果実

ダイニングの静かな空気の中で、ナナセは窓からの光を浴びながらぼんやりと室内を眺めていた。


すると、厨房のほうから一人の男性がこちらへ向かって歩いてくる。

二人の席へ近づくと、セレンに向かって親しげに声をかけた。


「今日はだいぶ早起きじゃない?」


どうやら、このダイニングのオーナーらしい。

セレンは特に顔を上げることもなく、手元のテーブルを見つめたまま答えた。


「別に」


男はそんなセレンの塩対応にも手慣れた様子でくすりと笑うと、持っていたトレーから二人の前へ手際よく器を置いていく。


セレンの前には、湯気の立つ深煎りのコーヒー。

そしてナナセの前には、心地よい香りを漂わせる温かなハーブティーと、小さなガラス皿に盛られた数種類のフルーツ。


「……え」


ナナセは思わず目を丸くした。

自分たちはまだ何も注文していない。メニューを開くことすらしていなかったはずだ。


「どうぞ」


男は気品のある笑みを浮かべる。


「ここのオーナーのルナだよ。よろしくね」

「……ナ、ナナセです」


突然のことに戸惑いながらも、ナナセは慌てて小さく頭を下げた。


「うん、よろしく」

ルナは満足そうに頷くと、

「ごゆっくり」

とだけ言い残し、颯爽と厨房のほうへ戻っていった。


ナナセは目の前のガラス皿をじっと見つめる。

瑞々《みずみず》しい色とりどりの果物。どれも食べやすいように、一口サイズの大きさにカットされている。


「……」

不思議そうに果物を見つめていると、向かいからセレンの落ち着いた声が届いた。

「フルーツ好きなの?」

「……え?」

ナナセが顔を上げる。

セレンはコーヒーカップを手に取りながら、ナナセの前の皿へ視線を送っていた。


「『なんで知ってるんだろう』って顔してる」

「……はい」


ナナセは誤魔化さず、素直に頷いた。

セレンは可笑しそうに小さく笑う。


「ルナは、そういう男だからな」

「そういう……?」

「人の好みとか情報を、勝手に覚えてる」

「……」


ナナセはもう一度、瑞々しい皿へ視線を落とした。


「私、フルーツが好きだって……」

「たぶん知ってるんじゃない? どこかで聞いたか、見たか」

「……いつの間に」

「さあ。ルナは無駄に顔が広いからね」


セレンは特に深く追及する様子もなく、温かいコーヒーを静かに一口含んだ。


「食べていいよ」

「……はい。……いただきます」


ナナセはそういうと、恐る恐るフォークを手に取った。

綺麗に切られた果物をひとつ掬《すく》い、口へと運ぶ。

果汁が弾け、優しい甘さが広がる。

その美味しさに、ナナセの固かった目元が思わずふっと緩んだ。


セレンはその表情を見逃さなかったが、何も言わなかった。

ただ、自分のコーヒーをもう一口、静かに味わう。


静かな朝のダイニング。

ナナセの前には、ルナが自分のために用意してくれた食事。


それは何かを果たした対価でもない。

「好きだから」という、ただそれだけの理由で届けられたささやかな贈り物だった。


ナナセは胸の奥を温かいもので満たしながら、もうひとつ、フルーツを口に運んだ。

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