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星を抱くひと  作者: 飴目
第2章

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第21話 来訪者

ナナセはソファの上で、ぼんやりと窓からの日差しを浴びていた。


膝の上に毛布を掛けたまま、窓から差し込む光の粒子を静かに眺めている。

久しぶりに味わう、何にも脅かされない穏やかな時間だった。


トントン。


「……!」


突然、部屋の扉が静かにノックされた。

ナナセの肩がびくりと跳ね上がる。

反射的に背筋がピンと伸び、身体が警戒で強張った。


「……」


セレンはまだ眠っているはずだ。

突然の来訪者にどう対応すればいいのか分からず、ナナセは固まったまま、ただドアを凝視する。


トントン。


もう一度、控えめなノック音。

ナナセの指先が、緊張で毛布の端をぎゅっと握りしめた。


そのとき――。


「……ん……」


奥の寝室から、がさがさと布団をのける物音が聞こえた。

しばらくして、ガチャリと扉が開く。


「……誰」


低く眠たげな声とともに、セレンが寝室から出てきた。

赤い髪が少し寝ぐせで乱れていて、歩くたびにふわふわと揺れている。

いつもの完璧できちんとした姿とは違い、あからさまに『寝起き』の無防備な姿だった。


ナナセは思わず目を丸くする。

セレンはナナセの視線に気づく風もなく、そのまま玄関の扉へ向かうと、何の警戒もなしに鍵を解除して扉を開けた。


「おはよう」

「……ああ」


そこに立っていたのは、キサだった。

セレンの眠そうな顔を見るなり、キサが可笑しそうに口元を緩める。


「寝てた?」

「休みだから」

「なるほどね」


キサは開いた扉の隙間から、さりげなく部屋の中を覗き込んだ。

それから、少しだけ声を落とす。

「ナナセ、もしかしてここにいる?」

「ああ……いるけど」

セレンは目をこすりながら、眠たげな声のまま答えた。


「……入れば」

「お邪魔するよ」


キサが静かに部屋の中へと足を踏み入れる。

そして――。


リビングのソファに座っているナナセの姿を見つけた。

大きめの毛布にすっぽりと包まれたまま、ちょこんと小さく座っている。


キサは一瞬、パチパチと目を瞬かせた。

「……あれ?」


ナナセはキサの視線を浴びて、少しだけ身体を小さく縮めた。

「……おはようございます」

「おはよう、ナナセ」


キサは温かく応えながら、ナナセとセレンの姿を交互に見比べる。

そして、もう一度毛布の中のナナセを見た。


「……随分、馴染んだね」

「……?」


ナナセは何のことか分からず、不思議そうに首を傾げた。

セレンはまだ眠そうに大きな欠伸を噛み殺しながら、キサの横を素通りしてキッチンのほうへ向かう。

「……何か用?」

「いや、ちょっとナナセの様子を見に来ただけ」

「……そう」


「……というか」

キサは再びナナセへ優しい目を向けた。


ぬくぬくとした毛布。

柔らかいソファ。

そして、警戒心が解けてすっかりこの空間に溶け込んでいるように見えるナナセ。


「昨日から、ずっとここにいた?」

「……はい」

「そっか」


キサの表情が、目元からふっと柔らかく緩んだ。

ナナセはそんなキサの温かい眼差しを受け止めながら、膝の上の毛布をそっと握り直した。


セレンは相変わらず寝ぼけた顔で、グラスに水を注いでいる。

けれど――ナナセが自分の部屋に当たり前のように存在していることを、特別視もせず、ただ自然に受け入れている。


その飾らない態度こそが、何よりもナナセの心を温かく溶かしていた。

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